ある休日。
「………で、どうかしたのか?」
俺は兵藤宅のVIPルームで少し混乱していた。この部屋に集合しているリアスたちもそんな感じだ。それは当たり前だろう。現在俺たちの前には、
「まあまあ、シドウ。たまには意味もなく、お忍びで来てもいいじゃないか」
私服姿で笑顔を浮かべている兄さんがいるのだ。「仕事は?」という疑問もあったが、俺たちが言わなくても後でどうなるかわかっているので言わないでおく。
俺は心中でそう思っていると、リアスが訊いた。
「来てくださることはよろしいのですが、どういったご用件で?」
兄さんは朱乃が淹れた紅茶に口をつけると、質問に答えた。
「シドウとリアスの眷属とイッセーくんの眷属のみんなに頼みがあるんだ」
ほうほう、俺とリアスたちに頼みか。それってまさか……。
俺がある程度の答えを予測すると、兄さんは当然のように言った。
「うん、映画に出てもらいたいんだ」
ですよねー。確かにそんな話はあったけどさ!
俺は少し前のことを思い出しながら訊いた。
「その話は覚えているが、木場や小猫はわかる。二人は出ているからな。で、問題は、リアスの眷属みんなってことは、ロセもか?」
「うん、そうだね」
「わ、私もですか!?」
ロセは驚愕しながら自分を指差していた。突然のことで予想していなかったのかもしれない。
「ま、大丈夫だろ。何かあったらどうにかすればいい」
俺は適当にそう言うと、ロセが若干萎縮気味に言ってきた。
「だ、大丈夫なのでしょうか?私、初めてですし……」
兄さんがその言葉を聞いてロセに言った。
「それでは言葉を変えよう。キミが受けないと、シドウがセラフォルー以外の見ず知らずの女優とキスシーンをすることになるかもしれない。それでもいいのかい?」
「嫌です!セラフォルーさんはともかく、それ以外のヒトはダメです!」
ロセは即答でそう言うと俺に抱きついてきた!地味に胸が当たっているんですけど!?てか、そんなに許せませんか!?
俺がロセの反応に固まっていると、兄さんは笑んだ。
「シドウも大切にされているね。というよりも意外と初々しいね」
大切にされているっていうか、若干依存されているというか、なかなか微妙な感じだけどな。初々しいというところは認めざるを得ない。一応セラとは経験したんだがな……。
俺はそう思いながら苦笑した。するとリアスが訊いた。
「それで、サーゼクスお兄様。撮影はいつからになるのですか?」
その質問は当たり前だろう。リアスたちは学生、ロセみたいなことを言うが、勉強は大事だ。
「で、いつなんだ?」
俺が催促すると、兄さんは言った。
「もうすぐリアスたちもイッセーくんたちも夏休みだったはずだから、それからになるかな」
なるほど、夏休みに入ってからか。今は7月中旬だから、
「割りとすぐだな。俺はいいが、リアスたちは?」
「私は構いませんわ。みんなはどうかしら?」
『大丈夫です』
俺たちの返答を聞いて兄さんは頷いた。
「よし、詳しい日程は決まりしだい連絡する。覚えておいてくれ」
『はい』
「了解っと。今回は台本はなしか。まぁ、当たり前か」
「詳しくはこれからだからね。楽しみにしていてくれ」
兄さんはそう言うと立ち上がり、腕時計を確認しながら笑みを浮かべた。
「さて、僕は戻るよ。仕事の休憩時間に来ているからね。そろそろ戻らないと……」
「……そろそろ戻らないと、何ですか?」
突然VIPルームの入り口から聞こえた馴染みのある第三者の声。全員がそちらを向くと、そこには、
「義姉さん、来てたのか。言ってくれれば良かったのに」
グレイフィア義姉さんがいた。気配を感じなかったんだけど、そこは義姉さんだからということで納得した。
俺はハッとして兄さんに視線を戻す。すると、
「グ、グレイフィア、来ていたのか。それよりもいつの間に……」
若干腰が引けて、冷や汗をかいている兄さん。どうやら兄さんも気がつかなかったようだ。兄さんも大変だな。
俺が呑気にそう思っていると、義姉さんが容赦なく兄さんにアイアンクローを決めていた!
「グ、グレイフィア!ま、まだ休憩時間内のはずなんだけど!?」
「サーゼクス、あなたの時計、時間ずれているわよ。休憩時間は10分前に終わっているわ」
それを聞いた兄さんはアイアンクローをされながらも部屋の時計を確認すると、ハッとしていた。
「な!?本当だ!いつずれたんだ!?」
「あなたが乱暴に扱うからでしょう!」
義姉さんはそう言いながら兄さんを引きずっていく。その間にも兄さんの言い訳が続くが、義姉さんには届いていないようだ。
「では、皆様。ご迷惑をおかけしました」
兄さんを捕まえながら一礼してくる義姉さん。やはり、グレモリー家は女性誌が強いというか、何というか……。
俺が嘆息すると、義姉さんが転移魔方陣を展開した。転移の光に消えそうな兄さんが最後に言ってくる。
「では、皆!例の件、頼んだよっ!」
「ああ、任せろ!」
俺がサムズアップで答えると、兄さんは不器用ながら笑みを浮かべると、義姉さんも若干呆れた様子ではあるが笑みを浮かべていた。それが見えた瞬間、二人は転移の光に消えていった。
なんだかんだで仲がいい二人だ。まぁ、俺が命懸けで亡命させたのだから、ああでないと困るがな。
「とりあえず、今の話、忘れるなよ?いつくるかわかったもんじゃないからな」
『はい』
こうして今日は解散となり、各々の休日を楽しみ始めたのだった。
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