俺の回想シーンの撮影が完了したので、遺跡の奥で撮影していたセラたちと合流。それが出来たらここからの流れを確認して、ついに最終決戦の撮影となった。
俺は包帯を巻き直して大きな空間の入り口に待機する。セラと龍王役の匙との戦闘に割り込むところからだ。朱乃やソーナたちは先程セラに倒されたが、龍王の復活だけは成功した。ということらしい。
「そんな!間に合わなかったの!?」
セラは驚愕しながら復活した龍王を見る。龍王役の匙はいつかのアザゼルクエストの時に着ていたような黒い鎧を身につけ、右手には
その匙は高笑いすると言った。
「はっはっはっはっ!ようやくだ、ようやく眠りから覚めたぞ!長かった、実に長かった。これでようやく我が念願、世界の破滅を再開することができる」
匙もなかなかの名演っぷりだ。あいつ、教師を目指しているらしいが、死ぬ気で頑張れば俳優とかでもいけるんじゃないか?
俺が心中でそう思っていると、セラと匙は戦闘に突入した。セラの(加減した)魔力弾をヴリトラの様々な能力で打ち消していき、少しずつセラを追い詰めていき、ついにセラが壁際まで追い詰められた。セラがそれに気をとられた瞬間、匙はニヤリと笑って黒炎を放った!
よっしゃ!行くか!
俺は意気込みながら飛び出し、その黒炎を叩き斬った!
「あなたは!?」
「………………」
俺は無言で狂喜的な笑みを浮かべて龍王を睨んだ。
「貴様、何者だ?」
龍王の問いに俺は答える。
「覚えてもないだろうがな、おまえが暇潰しのように殺してきた奴らの生き残りだ」
俺がそう言うと、龍王は少し考えると口を開いた。
「あぁ、覚えていないな。我が眠りについたのは数百年も前のことだ。そんな前のこと、覚えているわけがないだろう?」
「あなた、まさかそんな長い間、ずっと独りで?」
後ろにいるセラが驚愕しながら訊いてきた。
「まあな。慣れれば楽だったさ」
俺は肩をすくめながらそう言うと、剣の切っ先を龍王に向けた。
龍王はわざとらしく息を吐くと、黒炎を纏わせた右手を向けてきた。
「だが、その旅もここで終わりだ」
龍王はそう言うやいなや、黒炎をこちらに放ってきた!
俺は右に転がり、セラは左に跳んでそれを避ける。
俺たちは態勢を整えると、俺は剣を握り直して龍王に突っ込み、セラは後方から魔力弾を放った!
龍王はセラに黒炎を放ち、俺にラインを鞭のようにして攻撃してきた!
セラは黒炎を凍らせたり、防壁で防いだりしてやり過ごし、俺は剣でラインを斬りながら左右に転がって避ける。そして、大上段から勢いをのせた一撃を龍王に放つ!
ギィィィンッ!
俺の剣と匙の
俺たちはそのまま押し合いになるが、少しずつ俺が押していく。
それを見た龍王は懐疑な表情を浮かべて言った。
「貴様にこんな力が?強いものは何も感じないが……」
俺は龍王に弾き飛ばされ地面を転がった。俺が態勢を戻したところで龍王は言葉を続ける。
「今まで力を抑えていた。いや、違う。この瞬間まで封印していたのか」
それを聞いた俺は笑みを浮かべ、龍王を見た。
「俺の全てを賭けた目的だ。テメェを殺せれば、死んだって構わねぇ……」
そう言った瞬間、俺は血を吐いた!
「こほっ!」
ビチャッ………!
嫌な音が響くが俺は龍王を睨む。
「数えるのがバカに思えるぐらいさまよってきたんだ。まだ……死ねんっ!」
覚悟を決めて立ち上がり、剣を握り直す。俺を見て蔑むように笑う龍王だが、そこに魔力弾が降り注いだ!攻撃が直撃した龍王は爆煙で見えなくなった。
見ると、セラが魔方陣を展開して龍王に向けていた。
「私のことも忘れないでくれないかしら。あなたの復讐とかはどうでもいいけど、龍王は止めないと」
俺はほんの一瞬だが考えて言葉を続ける。
「………勝手にしろ。俺はやりたいようにやる」
言い終わると同時に、龍王の方から莫大なオーラが放たれた!
「ッ!」
「キャッ!」
俺とセラはオーラで吹き飛ばされ、後方の壁に叩きつけられた!
素早く立ち上がって龍王を見ると、そこには
『さぁ、ここからだ。我に歯向かえし愚か者よ。ここで死ぬ!』
龍王は飛び出し、一瞬で俺との距離を詰めてきていた!
龍王は驚愕する俺に右ストレートを放ってくるが、咄嗟に身を屈めてそれを避け、剣を逆袈裟のように振って鎧を傷つける!
同時に後ろに転がり龍王から距離を取る。そこにセラからの攻撃が放たれ、牽制する。
攻撃が止むと同時に俺は飛び出し、鎧の胸部に全力の突きを放った!
ガキィィィンッ!
金属が砕け散る音が遺跡に響き渡った。俺の剣の刃が砕け散ったのだ。
ヤバイ、マジで砕けやがった!さすがに無理をしすぎたか。
俺が呑気にそう思った瞬間、俺の顔面に龍王のジャブがヒットし、ノーガードの腹部に強烈なストレートが放たれた!
俺は吹っ飛び、再び壁に激突する。さすがに痛い、てか熱い!ヴリトラの炎は伊達じゃないな!
俺は立ち上がろうとするが、体に力が入らない。見ると、腹部にラインが繋がっていた。これで俺の力を吸っているようだ。
斬ろうにも剣がないし、そもそもただの剣じゃこれは斬れないだろうな。
俺がそう判断すると、俺を囲むように黒炎が展開された!これは
『弱き復讐者よ、そこで大人しく女の死を見ているがいい!』
龍王はそう言うとセラに攻撃をし始めた!黒炎に囲まれてよく見てないが、結構匙が押しているのか?多分セラはやられる演技をしているのだと思うが………。
てか、これはどうすればいいんだ。これは、あれか、あれを使えってことだよな。
黒炎に囲まれているなかで、俺はあることを思っていた。セラと初めて会った時のことを、セラのことをセラと呼ぶようになった日のことを。そして、セラを守ると誓った日のことを。
ならば、やることは簡単だ。俺の全力をもって、龍王を倒す!
覚悟を決めた俺は、黒炎の結界の中で空間に穴を開ける。そして、そこから一本の剣を、俺の本来の剣を取り出し、その勢いのまま水平に凪ぎ払う!
その一振りで結界は壊され、セラと匙の視線を集中させた。俺が握っているのは深緑色の刀身の西洋剣、真・斬魔だ。それに伴って右手に漆黒の籠手が装着される。顔を隠していた包帯は焼けて素顔があらわになる。
「復讐のためだけに生きてきたのに、最後の最後で気づかされるなんてな………」
俺は笑みを浮かべてそう言うと、龍王に切っ先を向ける。
「龍王よ。ここで永遠に眠れ……」
『舐めるなっ!死に損ないがっ!』
俺はそう告げると走りだし、龍王との距離を詰めていく。龍王も答えるかのように俺に向けて駆け出し、そして、
「ハァァァァァッ!」
『だぁぁぁぁぁっ!』
龍王のラインを斬り払い、右ストレートにカウンターのように放った水平斬りで腹部を一閃する!
勢いを殺すように滑り、そして、ゆっくりと真・斬魔刀を背中に背負う。同時に龍王は倒れ、動かなくなった。
刃を魔力で覆ったからから死にはしないが、多分動けないほどのダメージはあるだろう。
俺も片ひざをつき、息を荒くした。
「ちょっと、大丈夫!?」
セラが慌てて俺に駆け寄ってくるが、俺は血を吐いた。
「さすがに死ぬかもな……。だが、やつを殺せたのなら、十分だ……」
死にかけながらそう言うと、セラが肩を貸してくれた。ゆっくりと立ち上がらせ、ゆっくりと遺跡の外を目指す。
俺は懐疑な表情を浮かべてセラを見る。
「おまえ、何で俺を気にかけてくれんだよ………。もう死にかけてんだぞ………」
俺が言うと、セラは真剣な表情でこう返してきた。
「何となくだけど、あなたは死なせたくないって思ったの。本当に何となくだけどね」
セラはそう言うと微笑んだ。セラらしい笑顔だと、俺は思った。
「ったく、物好きなやつだな……」
「それでもよ。別にいいでしょ?」
それから、俺たちはしばらく黙って歩いていたが、遺跡の出口が目前に迫ったとき、セラが言ってきた。
「それで、どこか行きたい場所はある?連れていってあげるけど」
俺が行きたい場所か……。
本来ならここまで俺は生きていない。龍王と相討ちになるはずだったからだ。だが、こうして生きているのだから………。
「おまえとなら、どこでもいいさ………」
俺はそう言って微笑んだ。今のは俺の本音だ。セラとなら、どこでも楽しいだろう。
「そう。なら、行きましゃう。行けるところまで、行けるうちに………」
「ああ………」
俺とセラはそう言うと同時に遺跡の出口を潜り抜け、そこからどこかを目指して歩きだした…………。
こうして映画撮影は無事に終了し、後日公開となった。
一応プレミア上映会に参加したが、演技している自分って恥ずかしすぎる!と思いながらずっと見させてもらっていた。
それと、本当に俺のことは知られていなかったようで、エンドロールで俺の名前が出たときに、観客が軽くどよめいた。
まぁ、『グレモリー』は兄さんとリアスが有名すぎるからな、仕方のないことだ。
そう自分に言い聞かせて、その日はセラとロセとリリスに慰めてもらった俺なのだった。
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