セラから映画出演の話を聞いてから1週間。
「シドウせんせぇぇぇぇいっ!離してくれださぁぁぁぁいっ!」
「おまえも男だろうが!根性見せろ!」
泣きながら抵抗するギャスパーを無理やり引きずって、俺たち(俺、朱乃、イリナ、ギャスパー)は人間界にある無人島に来ていた。セラから座標指定の連絡がきたので転移で即移動、即到着だったぜ。
「それにしても、ここ日本だよな?」
「ええ、そのはずですわ」
俺と朱乃はそんな会話をしながら周りを見渡した。島ではあるが、船がつけられそうな場所はなく、岩礁だらけ。砂浜はないな。山と森も険しそうだ。
「まさに絶海の孤島ってやつね!」
イリナは興味深そうにキョロキョロしているが、ここ、人間界だからね?
「うう……、あの時のトラウマが……」
ギャスパーは抵抗を止めたが若干やつれて見える。この島で何かあったのか?
「さて、セラはどこだ?」
俺がギャスパーを無視しながら周りを見渡す。
すると、こちらに近づいてくる気配を感じた。かなりの数だが、全員悪魔のものだ。って、いつからこんなにオーラの検知が得意になったんだ?
俺が復活してからの変化に首を傾げていると、森の中からセラとソーナたち、撮影スタッフと思われるヒトたちが出てきた。
「シドウ、それにみんなも待ってたわよ☆」
セラがいつも通りのテンションで横チョキしながら言ってきた。元気そうで何よりだ。
「待たせたな。ってわけでもないか。撮影はある程度進んでいると見える」
俺はソーナたちを見ながらそう言った。ソーナとその眷属たちが衣装と思われるものを着ており、少し疲れているように見える。
「そうなのよ☆ソーたんたちとのシーンを撮っていたの。もうすぐ終わりだけどね☆」
「早く終わってほしいです………」
『全くです』
いつも通りのテンションのセラと、テンション低めのソーナたち。
「どんなシーンを撮ればそこまで疲れるんだよ」
「ずっとお姉様との戦闘シーンです。匙と
セラとの戦闘!それは疲れるな。昔の俺でも逃げるのが精一杯だったのに、本気の戦闘とは……。
俺がソーナたちの頑張りに感服していると、監督と思われる男性が言ってきた。
「あなたがシドウさんですね。お話はセラフォルー様から聞いています。早速移動しましょう」
「ああ、わかった。で、最初は何をするんだ?」
俺が訊くと監督は続けた。
「念のために確認を。あなたはセラフォルー様とは別ルートでこの島に来たもう一人の主人公の役です。この島に眠る龍王に家族を殺された『復讐者』という設定で、ターゲットを追ってやってきたこの島でセラフォルー様と出会い、少しずつ惹かれていく。ここまでは理解できていますか?」
「台本は読んできたからその程度なら。で、朱乃たちは俺を止めようとする龍王の手下役、だったな?」
俺が後ろの3人に訊くとそれぞれが頷いた。
「私は龍王に仕える堕天使役でしたわね」
「私は龍王を倒そうとしたら逆に操られる天使役でした!」
「僕は段ボールヴァンパイアの役ですぅ。またああならないことを祈りますぅ」
朱乃とイリナはノリノリだが、ギャスパーは段ボール箱に隠れてそう漏らしていた。前に何があったんだろうか。
俺はギャスパーの言動に疑問を抱きつつ、スタッフに案内されて森の中を移動し始めた。
てなわけで、俺は島の上空に悪魔の翼を展開しながら待機していた。一応悪魔としての仕事なのでドラゴンの翼は自重させてもらった。
で、俺の格好ってのが某シティを守る弓野郎のまんまだ。まぁ、パーカーの色が黒いし、武器も弓じゃなくて用意されていた西洋剣だがな。それを鞘にいれて腰に帯刀している。
俺は呑気にそんなことを考えていると、耳にいれておいたインカムから指示がきた。
『シドウさん、それでは始めます』
指示がきたのでフードを深くかぶり、顔が見えないようにする。
『それでは、アクション!』
監督からの号令とともに翼を消し、重力に従って頭から落下していく。
風を切りながら落下していき、少しずつ地面が近づいていく。ある程度の高度まで落下すると、足をしたにして落下に備えて、そして、
ドォォォオオンッ!
激しい激突音とともに島の岩礁地帯に軽くクレーターになるぐらいの勢いで降り立った!片ひざと片腕をつくような態勢、いわゆる『スーパーヒーロー着地』だ。若干膝が痛い……。
俺は痛みに構わず立ち上がり、ゆっくりと島を見渡した。
「………ここか」
ぼそりと呟くようにそう言うと、そのまま島の中央に向かって歩きだした。
『カット!』
監督の号令で足を止め、次の言葉を待つ。
『よし!オッケイ!』
一発でいいのか!?こう、何回もやってようやくって感じを想像していたんだが……。
俺が心の中で驚愕しているとセラが言った。
「シドウ、なかなか上手じゃないの!びっくりしたわ!」
テンション高めに言ってくるセラ。まぁ、演技ってのは得意だな。
「10年間自分を偽ってきたんだ。誰かを演じるくらい簡単さ」
いつかの潜入任務のことを思い出しながらそう言うと、セラは苦笑した。
「あはは、何事も経験って言うのかしら?でも、上手なことに変わりないわ」
「そうか、ありがとうな」
俺たちが喋っていると監督からの指示がとんできた。
『では次のシーンに移ります!移動しますのでついてきてください!』
そんじゃ、次行きますか!
てなわけで、移動完了。俺の映画初戦闘シーンだ。で、相手は、
「シドウ様、よろしくお願いします」
「ああ、頼む。って、
「そうですね」
ソーナの『
それは置いておいて、台本には『敵幹部との戦闘』とセリフがちょろっとだけ書いてあった。多分戦闘はアドリブなんだと思う。
彼女の
で、相手はもう一人。
「またこんな役回りなんですね………」
段ボール箱に隠れたギャスパーだ。出て来てバロールモードになればいいのに。なんでならないんだろうか。
今回の撮影は、俺VS真羅、ギャスパー。というハンデマッチ。まぁ、問題ないか。
俺たちはそれぞれ所定の位置に移動し、得物に手をかける。俺は腰に帯刀している西洋剣に右手をかけ、真羅は長刀を持ち、ギャスパーは段ボール箱に入っている。
まぁ、即戦闘ってわけでもないんだがな。
『アクションッ!』
監督の号令で演技を始める。
まずは真羅のセリフだ。
「あなたですか、我らが主に牙を向いているという者は」
とても冷たい声音で言ってきた。なかなかいい演技するじゃん。
真羅の演技に感心しながら俺が答える。
「ああ、おまえらに用はない。斬られたくないのなら………退け……!」
俺はそう言いながら抜刀して真羅に斬りかかる!もちろん真羅にも受けれるように加減をしてやっているから、ちゃんと止めてくれるはずだ。万が一当たっても、刃が潰れているから怪我はしないはずだ。多分だけどな!
俺の剣と真羅の長刀がぶつかり合い、そのままつばぜり合いになる!
どうにか加減して互角に競り合っているように見せる。これがまた難しい!
俺が真羅を押しきって少し下がらせると、勢いのまま斬りかかっていく!すると、
「『
真羅の前に盾になるように鏡が発生した!俺は構わずに鏡を叩き壊すが、
バリーンッ!!
鏡が砕け散る音ともに衝撃が放たれ、後方に吹き飛ばされた!そのまま勢いよく後ろにあった岩に激突する。
今のが彼女の
真羅が言う。
「その程度の力で我らの主に勝とうとでも?はっきり言って無理ですよ」
ここら辺のセリフも書いてあったな。まぁ、こうなるようにしたわけだけど。
俺はわざとらしくふらつきながら立ち上がり、切っ先を真羅に向けた。
「まだだ……。この程度、あの時の苦しみに比べれば、軽い!」
それを見た真羅がギャスパーに言う。
「やれやれ、執念とはここまでヒトを愚かにするのですね。段ボールヴァンパイア、決めてしまいましょう」
真羅が振り向いた瞬間、
「ギァァァアアアアッ!?」
『ギー!ギー!』
ギャスパーが入った段ボールが怪鳥に連れ去られた瞬間だった!え!?これは台本にないっていうか、聞いてない!
俺が表情に出さないように困惑していると、真羅が続けた。
「どうやら、彼も仕事のようです。まぁ、良いでしょう。あなたは私一人で倒します!」
真羅はそう言いながら突っ込んできた!
「俺も負けるわけにはいかねぇんだよっ!」
俺と飛び出し、一気に間合いを詰めていく!そして、
ザンッ!
俺と真羅がすれ違う瞬間、お互いが放ったの一撃が交差した。
「ぐっ……!」
俺はうめき声を上げながら膝をつく。あいつ、まじで一撃入れてきたんだけど!?
少しイラつく俺の背後で真羅が言った。
「私もまだまだ、甘い、ですね………」
彼女はそう言うと崩れ落ち、動かなくなった。俺はふらつきながら立ち上がり、剣を納刀して先に進んでいく。
ギャスパー、おまえのことは忘れない。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。