俺、シドウが冥府を陥落させてすぐのことだ。
教員復帰まであと2ヶ月、暇な俺は相変わらずリリスと戯れていた。
リアスたちは学校だ。もうすぐ夏休みらしいが、大学部と高等部では若干タイミングがずれるかもしれないから、出掛けるかどうかは何とも言えんな。
「パパ……?」
「………………」
俺の部屋のソファー(よくロセが来るので先日買ったもの)に座る俺は、俺の膝に対面するように座るリリスの頬を無言で引っ張る。これが案外伸びるもので、楽しいのだが、
「にぃー!」
強く引っ張りすぎたのか、リリスが若干涙目になっていた。それに気がついた俺は手を離す。
「あはは、ゴメンゴメン。やり過ぎた」
「むぅー!」
俺が平謝りすると、リリスが頬を膨らませながらかわいく睨んできた。プレッシャーとかを感じないから迫力に欠ける。
俺がそう思いながら頭を撫でると、リリスがやり返すように俺を頬を引っ張ってきた。それだけでなく、上下左右にも動かしてきた。
まぁ、そこまで痛くないから問題ないがな。
俺は頬を引っ張られながら笑みを浮かべて、リリスの頭を撫でる。いやはや、一体何回リリスの頭を撫でたんだろうか。
俺がそんな事を考えていると、隣にオーフィスが座ってきた。問答無用で部屋に入ってきたが、今さら気にすることでもないか。
リリスはオーフィスの登場を特に気にすることはなく、黙々と俺の頬を引っ張ってきていた。
オーフィスはじっと俺を見てきているのだが、何かあったのだろうか?
「おーふぃふ、どうかしたのふぁ?」
俺が訊くと、オーフィスは一つ頷いて口を開いた。
「リリス、我と同じ。だったら、シドーは我の『パパ』?」
………そうくるかぁ。確かにリリスはオーフィスの半身みたいなもんだけどさ。
「おーふぃふはおーふぃふだりょ?おーふぃふの『おとうはん』はイッセーじゃないか?」
リリスに絶えず頬を引っ張られているためろくに言葉を発することができないのだが、伝わっただろうか。
オーフィスは首を傾げながら俺に訊いてきた。
「イッセーが我の『パパ』?そもそも、パパって何?」
なかなか難しい質問だな。父親とは、か。遺伝子どうこうの話をすると、ある意味俺の父親はグレートレッドみたいになってしまうし、難しい話をしてもオーフィスが理解できるかどうか……。
俺が考えていると、リリスが手を離してオーフィスに言った。
「パパはパパ。優しくしてくれて、守ってくれるヒトのこと!」
リリスはそう言うと笑みを浮かべながら俺に抱きついてきた。守ってくれるってのはわかるが、俺って優しいのか?あんまり実感がない。
オーフィスはリリスの言葉を聞いて考えこんでしまった。多分、今言われた条件をイッセーに当てはめているのだろう。
オーフィスはしばらく考えると頷いた。
「わかった。多分、イッセーは『パパ』」
俺がとりあえず解決したと安心していると、続けてオーフィスが訊いてきた。
「『ママ』は?」
「………そっちも?」
俺が聞き返すとオーフィスは頷いて俺をじっと見てきた。
「『パパ』の条件を女性に当てはめてみればいいんじゃないか?そうしたら多分見つかるぞ」
苦し紛れに言うと、オーフィスは再び考えこんでしまった。その間に、リリスに先程の反撃を行う。まぁ、また頬を引っ張るだけだがな。それにリリスも反撃をしてきた。
「ふにぃー」
「グググ……」
俺とリリスはお互い譲らずに頬を引っ張りあっていると、オーフィスが言った。
「たくさんいてわからない。誰が『ママ』?」
『たくさん』と言うのは多分旧オカ研の女子グループのことだろう。リアスや朱乃、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、ロセは……どうなんだろな?
俺はリリスの手を退けると、悩むオーフィスに言う。
「別に一人じゃなくても良いんだぜ?リリスだって、ロセとセラのことを『ママ』って呼んでるしな。なぁ?リリス?」
「うん」
俺とリリスの二人して頷きあうと、オーフィスも頷いた。
「じゃあ、そうする」
頷いたオーフィスの表情はどこか嬉しそうなものだった。微妙な変化だが、リリスと一緒にいたおかげなのかわかった。
俺はふと壁にかけてある時計を見る。そろそろイッセーたちが部活動をする時間だが、まだ部外者の俺が行くには早いか。
「さて、どうするか。イッセーたちに会いに行にはまだ早い。が、やることがない。何かやりたいことはあるか?」
俺が二人に訊くと、二人とも首を傾げてきた。予想通りのリアクションではあるけどな。
「じゃ、何かイッセーの部屋から借りてくるか。トランプぐらいならあるかもしれん」
俺がそう言って立ち上がると、俺の部屋の扉が開いた。そこからは黒い和服を若干着くずした女性。俺と同様に一日を暇に生きている同類が入ってきた。
「黒歌、どうかしたか?」
俺の部屋に顔を出した女性、黒歌に俺が訊くと彼女はイタズラっぽく笑った。
「いやね、お互い暇してると思ったからゲームを持ってきたのにゃ。トランプがいいかにゃ?ウノがいいかにゃ?それともわた……」
「………おまえはイッセーラブじゃなかったか?」
黒歌が言い切る前にそう言うと、彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべるだけだった。
「それもそうなんだけどね。彼、いくら誘惑しても乗ってくれないの」
「発散したいんならヴァーリにでも頼め。イッセーが言ってたぞ。『最近俺の部屋に来て、一緒にエロビデオを見てる』ってな。あのバトルマニア、もしかしたらもしかするぞ?」
俺がそう告げると、黒歌は真剣に悩みだした。
「そうなのかにゃ?それなら押せばいけちゃう?でもなぁ、今さらヴァーリを狙うのも……」
黒歌はブツブツと何かを言っていたが、「まぁ、いいにゃ」と言うと、トランプとウノを俺たちに差し出してきた。
「とりあえず、どっちにするかにゃ?暇なことには変わりないし」
「そうだな。俺はトランプが良いかな。リリスとオーフィスは?」
「リリスはシドーと一緒が良い!」
「我もそっちが良い」
「決まりだな。黒歌、トランプをよこせ。シャッフルは俺がやってやるよ。不正はしないなら安心してくれ」
「なら、任せるにゃ」
黒歌はそう言うと俺にトランプを渡してきた。
その後、俺たち四人でトランプでババ抜きをしたのだが、オーフィスのポーカーフェイスを見破れず、黒歌は気の流れを読んである程度のカードの予測し、リリスは素直ながら持ち前の勘の良さで立ち回っていき、何もない俺は連続で敗北を重ねていった。
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