シドーがリリスを抱っこしながら森の上を飛ぶこと数分。シドーを追ってくる気配が消えることはないが、少しずつ距離を離すことはできている。だが、手負いのシドーはこれ以上の速度の維持ができなくなり始めていた。
そんな彼の目に大きめの湖が映る。彼はゆっくりとその湖のほとりに着地すると、リリスの頬をペチペチと叩いて起こした。
「リリス、ちょっとの間でいいからここら辺に隠れていてくれ。今度はちゃんと戻ってくる」
シドーがそう言うと、リリスは寝ぼけ眼のまま言葉を返した。
「大丈夫?シドー、ボロボロ……」
それを聞いたシドーは強がるように笑うとリリスの頭を優しく撫でた。
「次は負けないさ。次に負けるときは、多分死ぬときだ」
シドーはそう言いながらリリスを降ろして、続けた。
「とは言っても、このくらいじゃ死にはしないさ。それ以前に俺は『不死身』ってやつだからな」
「……うん」
強がるシドーを心配しながらもリリスは頷き、隠れられそうな場所を探して森の中に入っていった。
シドーはそれを確認するとドラゴンの翼を広げて再び飛び去った。
更に飛ぶこと数分。
彼の目に大きな屋敷が映った。遠目からでもわかるほどボロボロになっているが、しばらく隠れるだけであれば十分な大きさのものだ。
シドーはその屋敷の玄関前に着地すると、ゆっくりと玄関を開けた。玄関ホールは無人で、電気もきていないためとても暗い。所々に空いた壁の穴から入る微量の光でどうにか中のようすを探ることができた。
似たような場所で名前も知らない『はぐれ悪魔』と戦ったが、あれぐらいなら今のダメージでも対処できる。
シドーは鈴との出会いを思い出しながら玄関ホールに入ると玄関を閉めた。
玄関ホールの天井には蜘蛛の巣が張られたシャンデリアが吊るされている。ここの元主人はなかなか上の爵位だったようだ。
シドーは警戒しながらも屋敷の奥を目指した。
屋敷の廊下には無惨に朽ち果てた絵画や肖像画、彫刻品何てものもあるが、シドーは特に興味を示すことなく、ただ奥に進んでいく。
シドーが屋敷の最奥にある広い部屋に到着すると、同時に屋敷に入ってくる大量の気配を感じた。そして、何か気持ちの悪いものに包まれた感覚に襲われると、彼はゆっくりと息を吐き、その部屋の天井の中央にあるシャンデリアの上に隠れた。
シドーがシャンデリアに隠れること10分。
ついに彼が潜む部屋に5人の悪魔が入ってきた。5人しかいないが、部屋の外や違う部屋からも大量の悪魔の気配を感じ取れる。
シドーが潜む部屋を捜索していた悪魔たちが見切りをつけて出ていこうとした瞬間、シドーはシャンデリアから飛び降り、真下にいた悪魔の両腕、そして首を飛ばした!
「なっ!?」
悪魔たちは驚愕しながらもシドーに手を向けるが、すでに納刀を済ませた彼は抜刀!彼が放った斬撃で悪魔たちが突きだした手を全て切り落とした!
「ギァァァァッ!?」
「腕が!腕がぁぁぁぁぁ!?」
腕を落とされて床を転がり回る悪魔たちをシドーが冷たく見下ろしていると、
「何事だ!?」
「ここにいたのか!見つけたぞっ!」
部屋の入り口から再び悪魔たちが入り込んできた。
シドーは納刀すると部屋の奥に下がった。それを見た悪魔たちはそれぞれの得物を構え、ジリジリとシドーとの距離を測っていく。その間にも部屋の外から悪魔たちが入ってきており、手元にオーラを溜めている。
「だあぁぁぁぁっ!」
一人の悪魔が手に持った西洋剣でシドーに斬りかかってくるが、シドーは冷静にその軌道を見切って避けるとカウンターのように居合い斬りを放った!
悪魔が体を袈裟懸けに切り裂かれて崩れ落ちた瞬間、シドーに魔力弾が殺到した!
ドドドドドオオオオンッ!
室内に激しい爆発音が響いたが、部屋に音ほどの被害はなく、軽く天井ご吹き飛ばされただけだった。
悪魔が自慢げに言い放つ。
「極限までオーラを圧縮させた一撃だ。そう簡単にはオーラの検出がされない暗殺用の技だが、威力は十分だ。聞いていない、いや、完全に消し飛んだようだな。おまえら撤退するぞ。『D×D』の連中が結界に気づくころだ」
『はい』
悪魔たちが部屋を出ていこうと踵を返した瞬間、二人の悪魔の頭部が何かに鷲掴みにされた!
「な、なんだ!?」
「放せ!放せぇぇぇぇっ!」
掴まれた二人は暴れるが、「グチャ」と音がなった瞬間、糸の切れた人形のように動かなくなった。二人がその何かから解放されると、その二人の頭部が握り潰されていた。
『……ッ!?』
悪魔たちは戦慄しながらその何かを見ると、冷たい声音が部屋に響いた。
「ったく、うるせぇな」
そこにはドラゴンの翼を生やした無傷のシドーが立っていた。彼はとっさにドラゴンの翼を盾代わりにして攻撃を凌いだのだ。
彼が無傷であることに驚愕しながらも悪魔たちは構え直す。それを見たシドーは不敵な笑みを浮かべた。
「フッ……!テメェら、俺を殺しに来たんだろ?良いだろう、皆殺しだっ!」
シドーはそう宣言すると、悪魔たちの方へと飛び出すと、水平に抜刀一閃した!
前列にいた悪魔たちの首を飛ばすと、シドーはドラゴンの両翼を使って5人の悪魔をまとめて殴った!
グシャ……!
壁に激突と同時に、悪魔たちの体が潰された嫌な音が部屋に響いた。
シドーは悪魔たちが放った斬撃を華麗に避けて、視界から消え失せた!
そして、あの砦で行ったように超高速のまま敵を切り刻んでいく!
肉が裂ける音と時々固いものを切る音が響き、その音が鳴る度に悪魔が崩れ落ちていった。初めは大量にいた悪魔たちは確実に数を減らしていった。
シドーは超高速になっている間、まともに視界が確保できていない。何を斬っているかもわからないまま斬っているため、時には倒れる前の死体をさらに切り刻むこともあった。
それを知らない悪魔たちはシドーが死体さえも切り刻むイカれた怪物のように思った。そんな怪物を相手にしている自分達の無力さを痛感するしかなかった。
数分後。
シドーは独り、血の海になった部屋の中央に立っていた。もはや原型を留めているのは最初に斬った悪魔だけだ。シドーはその悪魔の死体の懐を探り、何かを探す。そして、見つけた。
前に京都で拾い、そして冥界に来る切っ掛けになった魔方陣が描かれた紙切れ。もう一枚大きめの紙があるが、半分以上血で赤く染まっているため読むことは出来ない。それ以前にシドーは字が読めない。
シドーがその紙をどうするか考えていると、屋敷に近づいてくる複数の気配を感じた。悪魔だけではなく、妖怪でもない違う気配を放つ何かも一緒に来ている。さすがにこれ以上は無理だ。
シドーは字が書かれた紙を死体の懐にいれると気配を殺しながら天井の穴から脱出した。
シドーが安全を確認しようと下を覗いたと同時に屋敷から複数人の男女が出てきた。
シドーは彼らを見た途端に無意識に笑みを浮かべていた。特に眼鏡をかけた短い黒い髪の悪魔の少女を視線で追ってしまう。
誰かはわからないが、なぜか敵ではない。
シドーはそう思いながら翼を展開して静かに上空へと飛び立った。
飛ぶこと数分。
シドーは例の湖の畔に着地した。
「リリス、リリス!どこだ!」
シドーが呼ぶと森の奥から何かが接近してきた。だが、シドーは避けようとはせず、受け止めようと両手を広げた。そして、
「シドー!」
リリスがシドーな胸に飛び込んできた。シドーはしっかりとリリスを受け止めると何回か頭を撫で、魔方陣の書かれた魔方陣を取り出した。
「リリス、これ使ってみようぜ。またどっかに行けるかもしれない」
「うん!」
シドーが無事とわかってテンションが高くなっているリリスは即答で頷くと、シドーはリリスを一旦降ろして紙切れを取り出した。
そして魔方陣に触れた瞬間、二人を眩い光が包み込んだのである。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。