グレモリー家の次男   作:EGO

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Extra life 48 シドーとリリス 本格始動

シドーとリリスが田舎町にお世話になってから早くも1週間。

シドーはいつもの通りに仕事を手伝い、リリスもいつもの通りにシドーの仕事っぷりを見ていた。シドーを見るリリスの表情は退屈そうなものではなく、早く終わってくれないかと、楽しみにしているような表情だ。

シドーもシドーで、仕事を早く終わらせて、ようやく形になってきた剣術を練習したいと考えていた。

そのせいなのか、最近のシドーの仕事の効率が非常に良く、彼に仕事を頼んだヒトたちも満足してくれていた。

そして、今日の仕事も一段落させたシドーは、リリスを連れて例の岩場を訪れていた。

「フッ!フッ!」

細かく息を吐きながら素振りをするシドーと、大きめの岩を並べるリリス。シドーはリリスが岩を並べ終わったことを確認すると、日本刀を納刀してリリスに言った。

「リリス、頼む」

「わかった。いくよ?」

リリスがシドーに訊くと、彼は頷いて居合い抜きの構えをとった。

リリスはそれを確認すると、横に並べておいた岩を持ち上げた。そして、

「えい!」

リリスはかわいく声を出しながら岩をシドーに向けて投げ飛ばした!異常なまでの速度でシドーに向かって飛んでいった岩は、彼に当たる直前に両断されて彼を避けるように後方へと飛んでいった。

リリスはそれに構わず連続で投げ続け、シドーも素早く納刀すると再び岩を斬っていく。

岩を一つ斬る度に、どんなに岩が迫ってきていても必ず納刀して居合い抜きをする。

これがシドーの修行だった。居合い抜きの練習のためにリリスに手伝ってもらっているのだ。最初は間隔をあけて岩を投げていたリリスだったが、少しずつ間隔を縮めていき、現在では両手を使って連続で投げていた。

シドーもそれに合わせて速度が上がっていき、最近では時々見えない程の速度になることがあるぐらいだ。

どんなに岩を斬っても折れたり曲がったりしない日本刀もなかなかの物だと思うが、それは妖怪が鍛えた刀、無銘とはいえ、それがただの刀であるわけがない。

シドーはそれを知らないので、この刀と同じ種類のものはどれもこれほど斬れるものなのかと考え始めていた。

そんな事を考えながら飛んで来た全ての岩を斬り壊すと、ゆっくりと納刀した。シドーは息を吐いてリリスに言う。

「毎日ありがとうな。おかげでかなり上達してきた」

「うん!シドーと『遊ぶ』のも楽しい!」

リリスは笑顔でそう言うが、彼女的にはこれは遊びの一つらしい。シドーはそれを聞いて思わず苦笑していた。

二人は笑みを消すと周りを見渡した。先程から何かに見られている。そんな気がしてならなくなっていた。

二人が警戒し始めると、岩の影から一人の男性悪魔が現れた。フードのせいで顔は確認できないが、大柄であり、少し見える腕もかなりごつい。そして二人に当てられる殺気は本物だった。

シドーは素早くリリスの前に移動して構える。男性悪魔から感じる殺気は本物で、京都を出てすぐに会った者たちと似たようなローブを着ていた。

シドーがじっと睨んでいると、男性悪魔がリリスを指差しながら言う。

「そいつを渡せ。渡せば命は助けてやる」

シドーは男性悪魔から自分は見下されている。理由はわからないが、目の前にいるあいつはリリスを狙っていて、リリスを連れていくためになら俺を殺す気でもいる。

シドーはそう考えると男性悪魔に訊いた。

「あんた、何者だ?京都でも似たような格好の連中に会ったが、何が目的だ?」

男性悪魔はシドーの質問を鼻で笑うと彼に告げた。

「我々は『クリフォト』。今の悪魔を消し去り、真の悪魔を全世界、全勢力に知らしめる存在だ」

それを聞いたシドーは間抜けな表情になった。

ここまで恥ずかしいことを面と向かって言われるのは始めてだ。てか、言っていて本当に恥ずかしくないのか?

シドーはそう思っていたが、戦闘態勢は解かなかった。

『クリフォト』、ただその名前を語っただけでも万死に値する。奴らは鈴の父親の仇であり、奴らを全滅させないことには琴と鈴の元を再び訪ねることも出来ない。

シドーはゆっくりと右手を日本刀に添えた。それを見た男性悪魔は再び笑った。

「フンッ!貴様ごときの、そんななまくら刀で俺を斬ろうというのか?笑わせるなよ。ハハハハハハハッ!」

笑われたシドーは冷静だった。というよりも、挑発が低レベルすぎて気にならなかった。それよりも心配しているのは、あの町のことだ。奴らはおそらくあの町を知っている。一応、町に衛兵の駐屯所があったが、町長が言っていた、先月の『邪龍戦役』のせいで手練れの悪魔が多く殉死してしまったらしく、今あそこにいるのはそこまで練度が低い奴らばかりだ。攻められたら多分もたない。

シドーがそこまで考えると、男性悪魔が言った。

「あの町も今頃どうなっているかな?皆殺しか、焼け野原になっているか、行くのが楽しみだ」

その一言を聞いた瞬間、シドーは飛び出す!

一瞬で男性悪魔との距離を詰めたシドーは、抜刀するとその勢いのまま下段から垂直に日本刀を振り上げた!

「…………え?」

男性悪魔は間抜けな声を出したが、シドーは構わずに背を向けて納刀した。同時に男性悪魔の体は両断され、内臓が重力に従って地面に落ちた。

「リリス、町に戻るぞっ!なんかヤバそうだっ!」

「うんっ!」

シドーは返事を聞くと翼を展開、リリスがその背に素早く飛び乗ると、シドーは翼を動かして高速で飛び出して町を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛ぶこと数十秒。彼らの目に飛び込んできたのは燃える町と懸命に戦う衛兵たちだった。上から見てもわかるほど衛兵側が劣勢であり、かなり攻めこまれている。

シドーは急降下しながら抜刀、勢いのまま一人を斬り伏せた!

「あなたは!?」

急にシドーが現れたことに驚愕する衛兵だったが、シドーはリリスを降ろして、彼らに言った。

「驚いている場合か!戦えるのはテメェらしかいねぇんだ!死んでも護れっ!」

『はいっ!』

シドーの号令で少しではあるが士気が戻った衛兵たちと共にシドーは飛び出し、クリフォトの悪魔たちと戦闘を開始した!

する違い様に居合い斬りで首を刈り、素早く納刀して次は袈裟懸けに斬り伏せる。

「後ろががら空きだぁぁぁぁぁっ!」

そう叫びながらシドーに斧を振り下ろしてくる巨漢の悪魔だったが、

「はぁぁああああっ!」

衛兵の悪魔が放った槍の突きが脇に突き刺さり、激痛で少しだけ振り下ろすのが遅れた。

シドーは体を半身にして斧を避けると、日本刀を振り上げ、顔面を縦に両断した。

彼は日本刀を振り、刃についた血を飛ばすと残った敵の悪魔に切っ先を向けた。

「次はどいつだ?」

敵を睨むシドーの瞳は冷たい色を宿しており、敵を殺すまで止まらないことは間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。血の海になってしまった町の大通り。クリフォトが放った火のせいで多くの建物が焼けてしまったが、全滅させた後に到着した増援が処理をしてくれていた。

シドーはリリスを連れて町長焼けてしまった町長の屋敷の前に来ていた。町長は焼けた町を見ながら言う。

「ようやく戦争が終わったと思ったら、やはり平和とは難しいものですね」

町長は自分よりも町民の心配をしていた。今回の戦いでほとんどの建物が焼けてしまった。これから復興させるにしても少し時間がかかってしまう。

憂いの表情を浮かべる町長にシドーは言った。

「諦めるなよ?頑張ればそのうち平和になるさ。綺麗事だと思うかもしれないが、手を取り合える日がくるさ。何百年後も先になるかもしれないがな」

シドーはそう言うと笑い、話を続けた。

「町長、俺たちはここを出ることにする。あいつらはこの子が狙いらしいからな。ここにいるとまた奴らが来る可能性がある」

「私としては止めたいのですが、町民たちを危険に晒すわけにもいきません。ですので、わかりました。また彼らが来たときは彼らに頼るとしましょう」

町長はそう言うとある場所に視線を向けた。シドーもそれを追うように視線を向けると、そこには、

「ありがとうございます、サイラオーグ様」

「いえ、これも仕事です」

町民に囲まれるがたいのいい紫色の瞳をした男性とその他数人、

「ありがとう、シーグヴァイラの姉ちゃん!」

「しばらくはここの警護につきます。次に来ても安心してください」

眼鏡をかけたキツい印象を受ける女性とその他数人がいた。

「町長、彼らは?」

シドーが訊くと、町長が答えた。

「『D×D』と呼ばれる対テロチームだそうです。しばらくは彼らが守って下さるそうです。安心して旅を続けてください」

シドーはそれを聞いて安心した表情をしながら頷いた。

「リリス、行くぞ」

「うん」

リリスは頷くと町長に一度礼をした。それをしてからシドーの背に飛び付き、彼に掴まった。それを確認したシドーは町長に告げた。

「町長、また会おう。いつになるかはわからないが、そのうち会えるだろ」

「ええ、また会いましょう」

シドーは軽く頭を下げ、町長を深く頭を下げた。

シドーは顔をあげると町長に背を向けて、『D×D』がいる方向とは別の町の入り口に向かい、そこから町を出た。

リリスがシドーに訊く。

「シドー、これからどうするの?」

シドーはいつもの通りにリリスに返した。

「『チェスの駒』と『お守り』をくれた人物を探すことは変わらないが、目的が一つ増えたな」

「増えた?」

首を傾げて聞き返してくるリリスに、シドーは不敵に笑みながら答えた。

「『クリフォト』を全滅させる。そうでもしないと旅が安心して続けられそうにないからな」

「わかった」

リリスは頷くとシドーの背中に顔を埋めた。シドーは優しく笑むと紫色の空を見上げた。

こうして、シドーは本格的に『クリフォト殲滅』のために動きだしたのだった。そして、動きだしたことで本当の自分を探す近道をすることにもなったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 




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