グレモリー家の次男   作:EGO

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Extra life 45 シドーとリリス 約束

シドーたちが『ジャック』を討伐してから2日。

あの戦いからシドーは眠り続けていた。ジャックが使用していた龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の剣によるダメージ。それがヒト型ドラゴンであるシドーに想像以上のダメージを与えていたのだ。

琴が治癒や解呪を専門とする妖怪に頼み、最悪の事態だけは回避できたが、シドーはまだ目を覚まさない。

「シドー……」

リリスは眠るシドーを心配そうに見つめている。彼女はなぜあの時動かなかったのか、自分に問い続けていた。

あの時自分が反応していればシドーはこうならなかった。どうして動かなかったのか。

リリスが何度めかの自問をしながら俯いていると、突然その頭を撫でられた。

「!」

リリスが驚きながら顔をあげると、シドーが手を伸ばしゆっくりと頭を撫でていたのだ。

シドーはエミを浮かべながらリリスに言った。

「心配かけたな。俺は大丈夫だ」

シドーはそう言うと、痛む体に鞭を打って体を起こした。

「シドー!」

「いだだだだだだだっ!」

リリスが喜びながらシドーに飛び付いたが、再びの激痛にシドーは表情を歪めた。

「?」

リリスはそんなシドーの顔を疑問符を浮かべながら見上げた。シドーはリリスを安心させるように言った。

「大丈夫だ、もう回復した。琴と鈴は?」

シドーが訊くと、リリスは彼の手を取り部屋を出ていこうとする。シドーは立ち上がるとそのままリリスに引っ張られる形で琴と鈴のいる居間を目指して歩きだした。

 

 

 

 

「琴、鈴。シドー起きた」

「心配かけたな」

二人がそんなことを言いながら居間に入ると、

「シドー様!」

「シドー殿!」

居間でお茶を飲んでいた琴と鈴の二人が、同時にシドーに視線を向けて、彼に近づいた。

二人はそのまま、シドーに異常がないかを確認するようにペチペチと叩いたり、優しく触りはじめた。

「あ~、二人とも?」

「腕は大丈夫そうですね」

「足も大丈夫そうじゃ」

「二人とも、良いか!?」

「「はいっ!?」」

語気を強めてシドーが言うと、二人は一旦離れて再び居間に腰を降ろした。シドーとリリスも二人と対面する位置に座り、シドーが口を開いた。

「まず、あの『はぐれ悪魔』はどうなった。死んだか?」

シドーの質問に琴が答える。

「はい。私たちが帰って来てすぐに妖怪の討伐隊の増援が送られて、あそこで『はぐれ悪魔』の死亡を確認したそうです」

「それで、奴が最後に言っていた言葉の意味は?」

シドーが質問を続けると、琴は言い淀んだ。今までだいたいのことをすぐに答えてくれた琴が言い淀んだことに、シドーとリリスは首をかしげた。

「琴、教えてくれ。あいつは何をした」

シドーの二度目の質問を受けて、琴が重い口を開いた。

「どうやら、彼はリリスちゃんを探していたようです。その子が何者かはわかりませんが、『クリフォト』はリリスちゃんを狙っています」

それを聞いたシドーはすぐに決心して、琴と鈴に告げた。

「二人とも世話になった。俺とリリスは出ていく。これ以上迷惑をかけたくない」

シドーがそう告げると鈴が言った。

「やはり、行くのだな。シドー殿はもう行ってしまうのだな……」

寂しそうな声音ではあるが、鈴はシドーがそう言うことがわかっていたのかもしれない。

琴が鈴に続く。

「シドー様、危険です。リリスちゃんを連れている以上、彼らはあなた方を狙うはずです」

「だろうな。だが、俺がリリスを守る」

「次は死んでしまうかもしれませんよ?」

「俺は案外タフだからな。そう簡単には死なないさ」

琴はシドーには引く気がないことを確認すると、次はリリスに訊いた。

「リリスちゃんも、良いのね?これからとても危ない目にあうかもしれないけれど、シドー様と旅を続けるのね?」

リリスは無言で頷いて琴をじっと見つめた。

すると琴は大きく息をはいて、優しい笑みを浮かべた。

「やっぱりダメですね。私にはお二人を止める力はありません。申し訳ありません、意地悪なことを訊いてしまって……」

その一言でシドーとリリスは理解した。琴は自分達のことを心配してくれているからこそ訊いてきたのだと。本当はここに残って欲しいと思っていることを。

証拠に、シドーとリリスの目には、琴の表情が少し悲しげに見えていた。

「一つ良いか?」

黙って話を聞いていた鈴が口を開き、リリスに訊いた。

「リリス殿はどうしてシドー殿と旅をしておるのじゃ?」

鈴の素朴な疑問だが、シドーもその答えを聞こうと思いリリスの答えを待った。

すると、リリスが少しだけ笑みを浮かべると口を開いた。

「リリス、昔シドーに悪いことした。でもシドー、リリスのこと怒らなかった。優しくしてくれた。だから、シドーと旅してる」

リリスはそう言うと、優しくシドーの『左腕』を撫でた。

シドーがシドウだった頃、彼女の一撃でもげてしまった腕だ。だが、シドウはそれを許してリリスに接していた。それが今のシドーが生きている理由にも繋がっているのだ。

シドーはリリスの答えを聞いて彼女の頭を優しく撫でた。

よくわからないが、彼女は命の恩人であることに変わりはない。ならば、彼女は守らなければならない。

シドーは改めて覚悟を決めると、琴に訊いた。

「琴、あの時俺に投げ渡してきた刀。あれはどこにある」

「少々お待ち下さい」

琴は一言告げてから立ち上がり、奥の部屋に消えていった。彼女は1分も経たないうちに戻ってくると、日本刀をシドーに差し出した。

「こちらです。念のためにと持ち帰っておいて正解でした」

「ありがとう」

シドーは礼を言うとその日本刀を左手で持ち、立ち上がった。

「リリス、行くぞ。あいつらは近くに来てるかもしれん」

「うん」

二人はそれだけを言うと屋敷の出入口へと歩き始め、琴と鈴の二人もそれに続いた。

四人は屋敷から鳥居までの道中喋ることはなく、黙って歩いていた。空気が悪く思えるほどの雰囲気が四人の間にあった。

そして、裏京都の出口である鳥居の前に到着すると、シドーとリリスは振り向き、琴と鈴と改めて対面した。

「二人とも、世話なった!この恩は忘れない!いつか必ず、また来る!だから元気でいろよ!本当に今までありがとう!」

シドーはそう言うと深々と二人に礼をした。

「ありがとー!」

リリスもシドーを真似して深く礼をした。

「待ってますから、いつでも来て下さい!出来れば、お守りを作ったヒトや、あなたの大切なヒトたちと一緒に……」

「うむ『母上』の言うとおりじゃ!私もいつでも待っておる!じゃから必ずまた来るのじゃ!これは約束じゃからな!」

シドーは鈴が琴のことを『母上』と呼んだことに嬉しさを感じながら顔をあげると、二人に背中を向けた。するとその背中にリリスが飛び付いた。

シドーはそれを確認すると鳥居を潜り抜け、裏京都を去った。

 

 

 

 

 

 

 

鳥居の前に取り残された琴と鈴の背後から、誰かが近づいてきた。

「琴、ここにいたのか。どうかしたのか?ここ最近見かけなかったのじゃが」

声に反応して琴が振り向くと、そこには九本の尻尾を生やした狐の妖怪がいた。

八坂(やさか)様!?も、申し訳ございません!すぐに貯まった仕事を………」

琴が言うと、京都の妖怪の頭領である八坂は優しく笑った。

「よいよい。琴が信じた者が我らを脅威から救ってくれた。仕事はその者を見つけただけで十分じゃよ」

「さ、左様ですか!」

「本当じゃ。鈴も『母』を大事にしないといけんよ?」

「わかっておりまする!そうでなければ九重(くのう)に顔を見せられぬからの!」

鈴が胸を張りながらそう宣言すると、八坂は笑んだ。

「ふふ、娘の幼なじみがいつまにやら娘よりも成長していそうじゃな」

「私は嬉しいです。鈴が私のことを……」

琴がそう漏らすと八坂がイタズラっぽい笑みを浮かべて言った。

「で、どこが良かったのじゃ?」

「ふぇ!?」

「『ふぇ!?』ではない。惚れたのじゃろう?その者に」

「いえ、あの、それは、その………」

琴が消え入りそうな声を出しながらモゾモゾしていると、

「母上、私は妹でも弟でも構わぬぞ?」

鈴からの追撃を受けて、

「………キュ~~~」

頭から煙を出しながら倒れた。それを見た八坂は爆笑し、鈴は苦笑いながら母の介抱をはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、京都の外れの山中。シドーとリリスが歩いていると、

『停まれ!』

どこからともなく発せられた声が森に響いた。同時に二人を囲むように数十の転移魔方陣が展開され、そこから悪魔や魔物が現れた。

「その娘が必要でな。渡してもらおうか」

シドーはその言葉に返すことはなく、ゆっくりと日本刀に右手をかけた。

「それが答えか。ならば、死ね!」

その言葉を合図にシドーに悪魔の魔力弾と魔物が殺到した!

シドーは抜刀すると力任せに日本刀を振り、敵に斬りかかっていった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

大量の肉塊と血が辺り一面の木々を赤黒く染め、シドーの体も返り血で赤黒くなっていた。

「シドー、大丈夫?」

リリスはそう言いながら中が空洞になっている大木から顔をだした。

「ああ、大丈夫だ。だが、もう少し考えてやろう。これじゃあ消耗しすぎる」

シドーは刃についた血を飛ばしすと、ゆっくりと納刀して顔についた血を乱暴に拭った。

すると、リリスが何かを発見してシドーに差し出した。

「シドー、こんなのあった」

「ん?なんだこれ?」

リリスが差し出したのは魔方陣が描かれた紙だ。シドーが調べるために紙を受け取り、魔方陣に触れた瞬間、カッと魔方陣が輝きはじめ、二人を包み込んだ!

「「ッ!?」

シドーはとっさにリリスを脇に抱えると同時に光が弾けた。

光が止むと、そこには二人の姿はなく。紙に描かれていた魔方陣も消えていた。

 

 

 

 

 

 

 




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