グレモリー家の次男   作:EGO

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Extra life 44 シドーとリリス はぐれ狩り

シドーが鈴の怒りを背負うと決めてから早くも3日。

シドーと鈴は夕飯の買い出しという理由で琴の目を盗み、『はぐれ悪魔』の情報を集めて回っていた。

「なかなか見つからないもんだな」

「うむ。役人は口が固いの」

今回は店先にいたヒトではなく、少し遠出をして妖怪の上役たちがいそうな場所に行ってみたのだが、誰も口を開いてくれない。子供一人とよそ者一人。そんな組み合わせなど、そもそも相手にされない。

「ちょっと休憩するか。琴から小遣いをもらったからそこの店に入ろう」

「そうするかの。ちと休憩じゃ」

二人は道にあった団子屋に入り、小遣いギリギリの量の団子を頼んだ。

「『はぐれ悪魔』の名前すらわからないのはキツイな。名前がわかれば挑発できるんだが……」

「挑発したとしても、その者を倒せるかはわからんじゃろう?シドー殿が負けるとは思ってはおらんがな」

鈴はそう言いながら、出された団子を一つ口に入れた。

「そう簡単には負けないさ。てか、負けたらキミとの約束をやぶっちまうだろうが」

シドーもそう言いながら団子を食べていく。

「さて、食い終わったら一旦帰るか。琴に心配されるし、リリスに怒られそうだ」

「そうじゃな。ついでに買い物も頼まれておるのじゃ、そろそろ帰らねば」

二人がそう決めて代金を支払い、店を出ると、大きめの屋敷に入っていく十数人の妖怪のを発見した。屋敷に入るだけなのにフル装備、明らかに何かを討伐しに行くような格好だ。

シドーと琴は頷き合い、その一団が屋敷から出てくるのを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待つこと数分。武装した妖怪の一団は出てくると、裏京都と人間界を繋ぐ鳥居の方向へと歩き始めた。

「あいつら、『はぐれ悪魔』を狩りにいくんじゃないか?あの装備と人数は普通じゃない」

「そうじゃろうな。私が狙う者かはわからぬが、尾行してみるかの」

「だな」

二人は妖怪の一団に聞こえないように話し合うと、バレないように彼らをつけ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、琴の屋敷。

「シドー………」

(えっと、どうすれば……)

シドーがいなくてさみしがっているリリスと、彼女を見ておろおろしている琴の姿があった。何か気が利くことをしてあげたいが、それが思い浮かばなかった。

「!」

リリスが何かを察したように立ち上がり、そのまま屋敷を出ようとする。琴は慌ててリリスの前に立って彼女を制した。

「リリスちゃん、どこに行くつもりですか?シドー様と鈴が帰ってくるまでお留守番ですよ」

「シドーと鈴、裏京都(ここ)出ようとしてる。それでも止める?」

「なっ!?」

リリスの言葉に琴は驚愕して、ほんの一瞬だが硬直してしまった。その隙にリリスは琴の横を通り抜けて屋敷を出ていってしまった。琴はハッとしてすぐにリリスを追いかけて走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリスと琴が屋敷を飛び出したとほぼ同じ頃。

シドーと鈴は森の中にいた。日が傾き始めて少しずつ辺りは暗くなり始めている。

彼らの視線の先には妖怪の一団。彼らは警戒しながら少しずつ森を進んでいく。

「シドー殿、彼らは何を探しておるのじゃ?」

「多分『はぐれ悪魔』の根城だ。もしかしたらもう見つけたのかもしれん」

二人がこそこそと話していると、妖怪の一団が足を止めた。二人はバレてしまっかとゾッとしたが、妖怪たちは二人に近づいてくる気配はない。

妖怪たちは周囲を警戒しながら何かを話すと、速度をあげて森の奥を目指し始めた。

鈴は慌てて追いかけようとするが、シドーに手で制されてすぐにしゃがみこんだ。

「どうしたのじゃ。このままでは見失ってしまうぞ」

「何かあったみたいだ。俺たちじゃない『誰か』を見つけたな。ゆっくりだ。ゆっくり行くぞ」

「う、うむ」

今まで見たことがないほど冷静なシドーに若干萎縮気味の鈴だったが、すぐに奥で起こっている異変を察した。

「ぎゃぁぁあああっ!」

「ぐぼっ!」

「や、止め、ぎゃぁっ!」

妖怪たちが向かった方向から断末魔が響き始めた。二人は頷き合い、そちらへと足を進めた。

彼らが見つけたのは廃墟となった日本風の屋敷だ。開け放たれた扉から、いまだに断末魔が聞こえてくる。

「当たりだったみたいだな。どうする?多分中の奴にはバレてるぞ」

「ここまで来たのじゃ。今さら引けぬ」

「了解。それじゃ行くか」

二人は頷き合い、開け放たれた屋敷の入り口を潜った。

中は思いの外綺麗であり、廊下に並べられたろうそくが視界を確保してくれていた。

シドーは鈴を後ろに下がらせ、ジリジリと屋敷の中を進んでいく。

長い廊下を進んでいくと曲がり角に差し掛かる。シドーはゆっくりと曲がり角の奥を覗きこむと、そこは、

「…………ッ!」

血の海だった。妖怪たちの内臓や斬られた手足、頭が廊下に散らばり、壁や床に大量の血痕を残していた。

シドーは鈴の目を手で覆い、小さめな声で言った。

「鈴、いいか。俺がいいって言うまで目を開けるなよ。わかったな?」

「うむ。何があったのじゃ?」

鈴に訊かれたシドーは、少し考えると口を開いた。

「肉の塊だ。さっきまで動いてた奴らのな」

「………ッ!」

鈴は体を強張らせたが、一つ頷いた。シドーは鈴を抱っこして回りが見えないようにした。そして、先程以上に警戒心を高めながらゆっくりと足を進めていく。

死体が転がる廊下の中間まで進むと、シドーは人影を発見した。

細身で黒髪の若い男性だ。その男性の手には一本の西洋剣が握られている。

シドーはその剣を見て得たいの知れない何かを感じた。体の底から『あれは危険だ』『これ以上近づくな』と警告が聞こえる。

シドーの頬を脂汗が伝っていくと、男性が口を開いた。

「あなたも私を討ちに?それにしたとしても、少し腰が引けていますね。これが怖いのですか?」

はぐれ悪魔の男性はそう言いながら剣の切っ先をシドーに向けた。シドーは心の内を探らせないように訊いた。

「あんたは?『クリフォト』に関係がある奴か」

「ええ、そうですね。彼らには何故か『ジャック』と呼ばれています。主を殺してから本名は捨てたので、かつて『カテレア・レヴィアタン』の右腕だった男性の名を借りました。その男性も主を見殺しにしたと聞いたので、今の私に合っていると思ったらしいのですよ」

シドーはそれを聞きながら考えていた。鈴を抱えたままでは戦えない。戦っても勝てるかわからない。ここは一旦引いて……。

シドーは一時撤退のために下がろうとすると、

「逃しませんよ?」

ジャックが瞬間的に距離を詰め、剣を振り下ろしてきていた!

シドーはとっさに右の(ふすま)に飛び込むように回避した。凄まじい音と共に襖をぶち抜き奥にあった部屋を転がるシドー。彼は態勢を整えて鈴に声をかけた。

「鈴、目を開けたらすぐに逃げろ。ちょっと計算違いだった」

「シドー殿!?何を言うのじゃ!あやつはそこまでの手練れなのか!?」

「ああ。かなりヤバイ奴だ」

シドーは鈴を降ろして後ろに隠すとジャックを睨んだ。

「話し合いは終わりましたか?それではいきますよ!」

ジャックは再び高速でシドーに詰め寄り、今度は突きを放ってきた!

背後に鈴がいる以上回避は出来ない。ならば!

シドーは両手でその剣を挟み込むようにして受け止めた!が、

ジュゥゥゥゥゥゥ……………!

「ぐっ!」

シドーの手のひらから焼け焦げるような音と共に煙が出始めた。

それを見たジャックが口を開く。

「この剣は龍殺し(ドラゴンスレイヤー)と呼ばれるものです。正確にはそれの(もど)きですが、威力は十分です」

シドーは痛みに耐えながら鈴に叫んだ。

「鈴、早く行け!ここは俺が引き受ける!」

「シドー殿……死んではならぬぞ!」

鈴はそう言うと屋敷の外を目指して走り出した。

シドーは鈴の逃走を確認すると、肺一杯に空気を吸い込んだ。

「おや?何をするつもりです?」

ジャックは龍殺し(ドラゴンスレイヤー)が通じたことで若干ながら余裕が生まれていた。だが、次の瞬間、彼はそれを後悔することとなった。

シドーは肺一杯に吸い込んだ空気を一気に吐き出した!その瞬間、吐き出した空気に炎が点火し、火炎放射のごとくジャックを炎が包み込んだのだ!

「何ッ!?」

ジャックは一瞬驚愕し、その瞬間に炎に包まれて後ろに下がった。剣は離していないが、シドーの手からは離れた。

シドーは炎に包まれるジャックと、煙を出す自分の両手を見た。いまだに激痛が走っている。

「ハッ!」

ジャックは気合一閃とともに剣を水平に凪ぎ、炎を振り払った。顔を中心に重度の火傷をおっているが、その瞳には怒りと憎しみの色が強い。

「とっさに炎を吐くとは、さすがは薄汚いドラゴンです。これだからドラゴンは好きになれない」

ジャックはそう言いながら剣を握り直し、シドーの視界から消えた!

シドーは直感的に屈むと、彼の頭の上を刃が通りすぎていく!ジャックは彼の左に移動して剣を横凪ぎに振ったのだ!

シドーは右に転がり距離をとり、素早く意識を戦闘一色に染め上げた。思考がクリアになり、ジャックのまばたき一つ見逃さぬように彼を注視していた。

「これは楽しめそうですね」

ジャックはそう言うと醜悪なまでの笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴は独り、森を走っていた。早く助けを呼びに行かなければ、早くしなければシドーが殺されてしまう!

鈴は焦りながら走り、枝で皮膚が切れていることも気にせずに一心不乱に走り続けた。すると、彼女の前から二つの人影が現れた。

「鈴!」

「鈴、シドーは?」

琴とリリスだ。鈴は二人を見つけるとすぐに駆け寄り、そして告げた。

「シドー殿がこの先で戦っておる!じゃが、じゃがこのままでは……っ!」

焦る鈴に琴は事の重大さを知り、リリスもシドーが危険であることを知り、急いで駆け出した。

「リリスちゃん!待ってください!鈴、あなたはここにいなさい!今度は言うことを聞きなさい!わかりましたね!」

琴は語気を強めてそう釘を刺すと、リリスを追って駆け出した。

シドーを危険な目に会わせたのは元はといえば自分だ。自分が復讐なんてバカなことを考えなければ、こんなことには!

鈴も急いで二人を追いかけた。シドーを助けるために、自分の復讐(たたかい)を終わらせるために……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガッ!」

「はぁ……はぁ……。なかなか頑張りましたね」

屋敷では至るところから壁に背を預けるように倒れるシドーと、彼を冷たく見下ろすジャックがいた。

シドーは油断していた訳ではない。だが龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の能力が彼のペースを完全に崩していた。

シドーはそのまま押し切られ、ついに倒れてしまったのだ。

「私にも目的がありましてね。邪魔はしないでいただきたい」

ジャックはシドーに止めを刺そうと剣を大上段に構えると、

「シドー!」

「シドー様!」

リリスと琴が現れた。するとジャックがリリスを見て笑みを浮かべた。

「ようやく見つけた。我らが祈願の成就にこれで一歩近づける」

ジャックは一人で訳のわからないことを言っていると、

「シドー殿、無事か!」

鈴まで現れた。シドーは驚いて目を見開いていると、ジャックが言った。

「あなた方は邪魔です。死んでもらいましょう!」

ジャックは改めてシドーに止めを刺そうとすると、琴が狐火を連続で飛ばしてジャックを牽制した。

ジャックは屋敷の中を器用に動いてそれを全て避けて見せた。

妖狐(ようこ)の狐火ですか。当たらなければ問題ありませんね」

ジャックは琴が放つ狐火を巧みに避けながら肉薄し、剣の柄頭で腹部を殴り、彼女を悶絶させた。

「カハッ!」

そして琴に斬りかかるために剣を持ち直すと、今度は鈴が狐火を放った!が、あっさり片手で揉み消された。

琴が床に崩れ落ち、むせている間に、ジャックは標的を鈴に変えた。リリスは彼の持つ剣のオーラに怯えて動けていない。

ジャックが鈴に歩み寄ろうとすると、彼の足に誰かがしがみついた。

「あの子には、手を出させませんっ!」

琴が息を絶え絶えにしながらジャックの足にしがみつき、彼を睨みつけた。

ジャックは振りほどこうと足を暴れさせるが、琴が離れる気配はない。

シドーもふらつきながら立ち上がるが、足がいうことを聞かずまともに動くことが出来ていない。

ジャックはまずは琴を始末しようと切っ先を向けた。

「邪魔なんですよ。私の邪魔をするものは全て………!」

ジャックが琴に止めを刺そうとした瞬間、

「琴に、私の『母上』に手を出すなぁぁぁぁぁぁぁっ!」

鈴が先程よりも数倍強力な狐火を放った!その一撃は屋敷の床や天井も焦がしていき、ジャックにまっすぐ向かっていった!

ジャックは琴がしがみついているため回避することが出来ず、持っていた剣でそれを切り払った!

鈴はその一撃で疲弊しきってしまい、床に倒れてしまった。

「鈴!」

琴が鈴を心配して力を抜いた瞬間に振りほどくと、

「だぁぁああああっ!」

シドーがタックルをかまして再び襖を突き破った。

「はぁ………はぁ………」

「もう限界でしょうに。無理はお体に悪いですよ?」

ジャックがわざとらしく言ってもシドーは無視して睨み付ける。だが、今のシドーに逆転の手がない。シドーが策を考えていると、

「シドー様!」

琴が力を振り絞って何かを投げ渡した。シドーは焼けた両手でそれをキャッチすると、それを見た。

それは鞘に収まった『日本刀』だった。おそらくジャックに返り討ちにあった妖怪の誰かが持っていたものかもしれないが、シドーの手には妙にしっくりきた。まるで『自分は刀で戦っていた』ような感覚が今の彼にはあった。

「刀があっても私には勝てません!」

ジャックが袈裟懸けに斬りかかってくると、シドーは一気に踏み込むようにして抜刀一閃した!

ズバッ………!

二人がすれ違うように斬りあうと、先にシドーが膝をついた。ジャックは笑みを浮かべたシドーを見るように振り向くと、

グチャ………。

鈍い音と共にジャックの上半身と下半身が静かにズレ落ちた。

シドーはゆっくりと立ち上がると日本刀で空を斬り、刃を汚した血を飛ばした。日本刀を鞘に修めると琴と鈴の方を見た。

「鈴!鈴!しっかり!」

「大丈夫じゃよ。ちと疲れただけじゃ」

シドーが二人が無事だとわかりホッとしていると、

「本部、姫が見つかった…………京都だ。今は京都にいる」

シドーはその声に驚愕しながら振り向くと、ジャックが連絡用の魔方陣を展開してどこかに連絡をしているところだった!

シドーは急いで抜刀、ジャックを斬り殺した。が、魔方陣が消える瞬間、

『京都か、任務ご苦労だった』

そんな音声が届いた。同時にシドーは覚悟した。これは始まりなのだと。これからこいつらが襲ってくることを。

そしてシドーは決めた。すぐにでも京都を出発することを。この親子を巻き込むわけにはいかない。

だが、シドーの意識はそこで途切れ、倒れてしまった。

「シドー!」

「シドー殿!」

「シドー様!大丈夫ですか!」

三人はシドーに駆け寄り、急いで裏京都へと運ぶために行動をはじめた。琴がシドーを乱暴に担ぎ、リリスと鈴で道を確保するために枝を折っていく。シドーは知らぬ間に裏京都へと逆戻りしてしまったのだ。

シドー復活から5日。

シドーの戦いが、再び始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 




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