北海道から飛んでいくこと数時間後の真夜中。
シドーとリリスは京都に来ていた。京都というよりもその近くの山に着陸しただけであるのだが、
「シドー、ここどこ?」
「………さぁ?」
シドーとその背中に張り付いているリリスは困っていた。着陸したはいいが、完全に迷子になっているのだ。
町が見えたのでその近くの山に着陸したのだが、初めて来た土地のよく分からない場所にいるのだ。町がどちらの方角がわからず、適当に歩き回って現在に至っている。
「とりあえず、あっちだな」
シドーは適当な方向を指さして歩き始めた。先程からそのようにして歩き回っているため、余計にわけのわからない方向に進んでしまっている。それを知るよしもない2人なのだが、彼らの耳に悲鳴が聞こえてきた。
「キャァァァァッ!」
「………近いな」
「うん」
シドーは声の主のいる方向を大体で予測し、駆け出した。
「あれ?」
「だろうな」
走ること数秒、山中にある廃工場のような場所の前に到着した。そこには、
「こ、来ないでぇぇぇぇぇっ!」
先程から聞こえてくる悲鳴の主と思われる黄色い髪の巫女服を着た女の子と、
『おとなしく俺の腹に収まりやがれ!』
その女の子を追いかける上半身は人間の男性、下半身は蛇という異形の姿が確認できた。
「………………」
シドーは無言でその異形を見ていた。なぜか見覚えがあった。正確にはあのように成り果てた自分に近い何かを見た覚えがあるのだ。
それを考えていっこうに動かないシドーに、リリスは言った。
「シドー、どうする?」
その声にシドーはハッとして、その異形と女の子の間に割り込んだ。
『あん?誰だテメェ?』
シドーは異形から訊かれたが、答えることはなく、ゆっくりとリリスを降ろした。
「リリス、その子を頼む」
「うん」
無視されたことにキレながら、異形は叫んだ。
『テメェ!俺の獲物を横取りしようって腹か!だったらテメェらも喰ってやるよ!』
異形は蛇の体でとぐろを巻くようにして力を溜め始める。
シドーは目を閉じ、ゆっくりと息を吐き出した。そして意識を戦闘一色に変えていく。無駄な感情はいらない、目の前の敵を排除する。ただその目的のために全てを費やす。
シドーがゆっくりと目をあけると、その瞳は銀色へと変わっていた。
同時に異形が飛び出し、シドーに拳を放つが、
ゴッ!
カウンターで放たれたシドーの拳が顔面を捉えた。
『いてえな!畜生が!』
異形は多少のダメージを受けながら、再びシドーに拳を放っていくが、シドーは時には避け、時には腕でガード、受け流していく。
そして隙を見つけるたびに拳を異形に撃ち込んでいった。
『はぁ………はぁ…………』
「………………」
数分後。肩で息をするボロボロの異形と、無傷のシドーが睨みあっていた。
2人の実力差は圧倒的であり、油断さえしなければシドーは負けることはないだろう。
『こんにゃろがぁぁぁぁっ!』
異形がやけくそで放った蛇の尻尾を、シドーはがっしりと掴んで受け止め、そのままジャイアントスイングのように振り回した。
『アアァァァァァッ!?』
自分よりも小さい奴に振り回される。異形は予想だにしなかったこの状況に混乱していた。
そのうちに異形は投げ飛ばされ、廃工場の壁をぶち抜いて中へと入ってしまった。
シドーはゆっくりと異形を追って廃工場の中に入ると、
「…………ッ!」
中の光景を見て絶句した。中には人間のものと思われる
腕や足、もしくはその骨と思われるものが大量に転がっていた。
おそらく、あの怪物が喰ったものだろう。
シドーはそう判断すると、その異形を睨むように視線を戻すが、その異形がどこにもいない。正確には『暗すぎて何も見えない』。今のシドーはドラゴンである。暗闇に目が慣れるまで少しではあるが時間がかかるのだ。
異形で開けた穴と天井に開いた無数の穴から漏れる月明かりだけが今のシドーの頼みの綱になっていた。が、シドーは奥へと進んでいく。
『ギャハッ!テメェ、自分が追い詰められているって自覚あるのか?あるわけねぇか!あっても死んじまったら意味ねぇけどな!』
異形の声が反響して、音で正確な位置を掴むことすらままならないが、シドーは廃工場のちょうど中央に陣取った。
『いいぜ!なぶり殺しにしてやるよ!俺様をここまで痛めつけてくれたんだからな!』
異形の叫びを無視して、シドーはゆっくりと瞑目した。
視覚が十分に使えないのなら最初から頼らない。視覚以外の五感を研ぎ澄まし、異形の出方をうかがう。
月が雲に隠れ、廃工場内は完全な暗闇に包まれた。
同時に異形が動きだし、シドーの背後に迫っていった!
シドーは回避も防御もするそぶりは見せず、ただ直立しているだけだ。
『死ねぇぇぇぇぇぇッ!』
グシャッ!
月が雲から顔を出すと同時に、肉が裂かれる音が廃工場に響き渡った。次に聞こえたのは、
『え?』
異形の間抜けな声だった。
なぜ目の前にいる男が逆さになって見えるのだ。そう思った矢先、異形は理解した。自分の首が飛ばされていることを。どうやってかはわからないが、それだけは理解できた。
シドーがやったことは簡単だ。異形がシドーに食らいつこうとした瞬間、オーラを込めた上段回し蹴りが異形の首に目掛けて放ち、そのまま首を飛びしたのだ。
異形はそれを理解できないまま首を飛ばされたのだ。
異形のゆっくりと崩れ落ちた体は痙攣を起こし、頭は驚愕の表情のまま固まっていた。
シドーは冷たい目でそれらを
外に出たシドーは、リリスとその後ろでプルプル震えている女の子が無事なことにホッと息を吐いた。
シドーは2人に近づきながら女の子に訊く。
「で、キミはなんでこんなところに1人でいたんだ?」
「………………」
そう訊かれた女の子はうつむいて黙りこんでしまった。シドーはどうするか首をひねり、リリスはその2人を見て首をかしげていた。
「ま、いいか。リリス、行くぞ」
「うん」
答えてくれないのなら訊いてみても意味はない。ならば、先に進んでしまおう。
シドーは早々に割り切ると町を目指すことにした。その町がどこにあるのかはわからないが、歩いていればそのうち到着する。それがシドーの考えだった。
リリスをおんぶして足を進めようとするシドーに、その女の子が言った。
「ま、待ってくれ!」
「「?」」
シドーとリリスは同時に振り向くとそこにいたのは、
「わ、私は
頭から狐的な耳を生やした先程の女の子、鈴だった。
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