グレモリー家の次男   作:EGO

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Extra life 39 シドーとリリス 出発

シドーとリリスは次元の狭間から飛び出したのは良かったが、

「ッ!?」

「あ……」

飛び出した先は空中。そんなことを知るよしもなかった2人はもちろん落下することになる。

2人が知ることはないだろうが、これはグレートレッドの親切という名のイタズラである。グレートレッドは彼らを『元いた場所』に送り返したのだ。リリスがシドーの魂を持って飛び込んだ場所、それは日本近海の空中ということになる。つまり、そういうことだ。

不幸中の幸いと言うべきなのは、まだ下が海だということだろう。万が一に落下しても、ある程度のダメージはあるだろうが命は助かる。

シドーはそれを考えることはできなかったが、とっさにリリスを脇に抱え、背中から黒いドラゴンの翼を展開した。

「ッ!?」

「おー」

シドーは自分で展開した翼に驚愕していたが、リリスは落ち着いた様子でシドーのされるがままになっていた。

シドーは慣れない様子で翼を動かし、空中を右往左往しながら近くの無人島に着地した。

無事着地したシドーはリリスを下ろし、自分の背中を見た。

「ッ!」

シドーは目覚めて何度目かの驚愕を顔に出していた。

自分が何なのか、自分が誰なのかもわからないのに、今度は自分に『わけのわからない何か』が背中に生えているのだ。驚かないわけがない。

リリスはペチペチとシドーの翼を軽く叩いていると、シドーが訊いた。

「リリス、なにこれ?」

「つばさ」

「つばさ………?」

「うん」

シドーが首をかしげていると、背中から翼が消えた。

「ッ!」

ビクッと体を震わせて驚くシドーを見て、リリスは若干おかしそうに笑みを浮かべた。

そこまでして、2人は周囲を確認した。

10日経ってもトライヘキサの影響で厚い雲に覆われている空、激しい波を立てる海、そして、

「何か、浮いてる?」

「うん」

海に浮いている様々な何か。シドーは知らないが、彼らがこの時見ていたのは、量産型邪龍の死骸や、回収仕切れていない連合軍の戦死者たちだ。

リリスは波打ち際にトコトコと走り寄ると、そこから何かを引っ張りあげた。

「?」

シドーがそのリリスに近づき、その何かを確認すると、それはシドーと体格の似た誰かの亡骸だった。

リリスはその亡骸を指さすと、シドーに指示を出した。

「シドー、このヒトの服着て」

「なんで?」

シドーはそれを不思議に思った。

突然リリスが何かを引っ張ってきて、その何かが着ているものを自分に着ろと言ったのだ。

リリスがシドーに指示をした理由は簡単だ。今のシドーは全裸である。そう、全裸である。

グレートレッドの力を使い肉体は再生させた。が、着ていた服はいくらなんでも無理だ。イッセーの場合は代わりに鎧を装着していたので問題なかったが、シドーにはその代わりになる物が何もない。

これはリリスなりの気遣いだ。彼女的には『前はそうだったから』言っているだけではあるが、逆に言ってしまえば、シドーがシドウだった頃に全裸で会っていれば、こんなことは言わなかったのかもしれない。

一応言うが、シドウにそんな性癖はない。

シドーはそのリリスの気遣いを最初は理解できなかったが、命の恩人であるリリスの言うことなので素直に従うことにした。

その誰かの服を脱がし、着ていくのだが……。

「?」

「シドー、なにそれ」

シドーは、なぜかズボンを上半身に、黒いインナーを下半身に着ようとして動けなくなっていた。

そんなシドーにリリスが言う。

「多分、それ違う」

「じゃあ、こう?」

シドーは上下を逆にして、今度こそ正しくそれらを着た。

黒いズボンに黒い長袖のインナー。それがシドーの格好である。

シドーはちゃんと着ることができているか確認しながら、リリスを見た。

リリスはとりあえず頷き、シドーに言った。

「似合ってる」

「それ、どういう、意味?」

「わかんない」

リリスの言葉は聞いたことがある言葉を特に意味も知らずに言ってあることが多い。今の言葉も、リゼヴィムがシドウにレプリカの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を取り付けた際に言ったものだ。

それを知らないがシドーと、意味はよく分からないリリスが首をかしげて話しているのだが、突然リリスがゴソゴソとポケットを探り始めた。

そこから『チェスの駒』と『ボロボロのお守り』を取り出すと、シドーに手渡す。

「今のシドーなら、なくさない」

「うん」

シドーはそれを受け取ると、ズボンのポケットに半ば無理やり押し込んだ。

「シドー、どこ行く?」

リリスはシドーに直球に訊いた。当のシドーは首をかしげている。その表情は『何言っているんだこいつ』と言わんばかりのものである。

そんな表情をしていることを知らないシドーと、その表情を知らないリリスは問題ないが、下手したら喧嘩になりそうな表情である。

「それで、どこ行く?」

シドーはあごに手をやってしばらく考えると、リリスに言った。

「まず、この海の……向こうを目指す」

そう言って水平線を指さすシドーに、リリスは頷いた。

すると、リリスはシドーの後ろに回って背中に飛び付いた。

「?」

疑問符を浮かべながら振り向き、リリスを見るシドーだが、リリスは何食わぬ顔でシドーに言った。

「ここ、リリスの場所。シドー、約束」

「わかっ……た」

「うん」

それを聞いたシドーは頷き、背中に意識を集中する。

バッ!とドラゴンの翼を展開し、それをゆっくりと動かして上昇。ある程度の高度に達すると、再びゆっくりと動かして前進を始め、海の彼方を目指して飛び出した。

彼らが向かうその方角には、日本で最も大きい都道府県がある。

2人はそこである戦いに巻き込まれることを、知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

2人が出発した数十分後。

2人がいた場所に連合軍の戦後処理班が到着。波打ち際にいた全裸の戦死者を回収し、彼を手厚く供養した。

 

 

 

 

 

 

 

 




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