トライヘキサとの最終決戦。
瀕死だったシドウはグレンデルに体の大半を差し出すことで戦線に復帰。そして、トライヘキサを拘束、神々からの総攻撃を受け、そのまま運命を共にした。
………はずだった。
神々の攻撃を直撃したトライヘキサは肉体と魂は瞬時に消滅した。
だが、トライヘキサが盾になったことで、シドウの肉体だけは完全に消滅してしまったが、魂は、その大半を消滅するだけで完全消滅だけは免れていた。グレンデルに体を差し出したことで手に入れていた魂レベルのしぶとさが幸いしたのかもしれない。
病院でシドウを待っていたリリスは、何かを察したかのようにそこを飛び出し、リゼヴィムが使っていた転移魔方陣を見よう見まねで展開すると、人間界にジャンプした。
リリスは悪魔たちのオーラを探って素早く日本近海の無人島に移動した。そして見たのが、偶然にもシドウとトライヘキサの最期の瞬間だった。
それを見たリリスは反射的に動いた。トライヘキサへの攻撃の余波でオーラの関知ができなくなっている隙に、シドウの魂を回収、そして、近くにあった『チェスの駒』と『ボロボロのお守り』もついでに持つと、次元の狭間へ行くために拳で宙に穴を開け、そこに飛び込んだのだ。
そして、幸運にもそこを通りすがったグレートレッドの背にのったのだった。
この時にリリスとグレートレッドがどのようなやり取りをしたのかは二人しか知らないが、シドウの魂をリリスのオーラで保護し、グレートレッドの体へと移したのだった。
この時、リリスはシドウを助けたいが一心で行動していたため気がついていなかったが、既にシドウの魂とグレンデルの魂が完全に混ざりあっていたのだ。
それから10日が経ったが、リリスはじっとグレートレッドの背中に三角座りしていた。
そんな彼女にグレートレッドが訊く。
『おまえさん、いつまでいるつもりだ?』
「目を覚ますまで」
『いつになるかもわからないのにか?』
リリスはコクリと頷いて、繭のようになっているシドウが埋まっている場所を見つめていた。
すると………。
グシャッ!
「!」
左腕が繭から突き出され、そこから裸の男性が出てきた。
紅と黒が入り交じった髪の毛。右眼は
『早いな。いや、少し早すぎる気がするが……』
右頬には火傷の痕のように
男性はキョロキョロと回りを見渡し、次に確認するように自分の体を見た。
拳を握ったり開いたり、足を上げたり下げたりなどしていると、バランスを崩したのか倒れ、グレートレッドの背中に尻餅をついた。
「?」
男性は首をかしげながら立ち上がり、リリスを見た。
「…………?」
何かを言おうと口を開くが、言葉が出てこず、再び首をかしげる。
「?」
リリスも同じように首をかしげて男性に近づいた。
「シドー、大丈夫?」
「?」
それを聞いた男性は何を言われているのかわからないような表情をして、リリスを見るだけだ。
「大丈夫?」
リリスは少しだけゆっくり言うと、男性は絞り出すように答えた。
「それ……俺の………名前?」
「…………え?」
『……俺は知らんぞ』
男性の質問に無表情ながら驚くリリスと、他人事のグレートレッドだが、男性は続けた。
「俺……シドー……か。わかった」
シドーは勝手に納得して頷くと、微笑を浮かべた。
「うん、シドーであってる」
『それ、あってるのか?』
「大丈夫」
リリスとグレートレッドで話を進めていると、
「シドー、シドー。シドー……?」
何か違和感を感じながら、シドーが自分の名前を反復していた。
リリスがシドーに言った。
「シドーはシドー。だから大丈夫」
「わかった……」
シドーはとりあえず頷くと、ふと視線を上に向けた。
「………………」
「?」
上を見ながら無言で無邪気なまでの笑みを浮かべるシドーを見て、リリスは疑問符を浮かべて彼の視線を追う。すると、そこには………。
「……キレイ………」
シドーが呟くようにそう漏らした。
彼の視界には無限に広がる次元の狭間特有の色の空。万華鏡のように常に色が変わり、様々な輝きを放っている空が映っていた。
「キレイ?」
「ああ………」
シドーはなぜそう思ったのかはわからない。だが、彼はこの次元の狭間の光景を目に焼きつけていた。
「………………」
無言で空を見るシドーにリリスが訊いた。
「シドー、リリス、わかる?」
リリスからしてみれば念のための確認なのだが、シドーは視線をリリスに戻すと再び首をかしげた。
「リリス………?」
シドーは確認するように言ったのだが、リリスはそれを聞いて少しだけショックを受けた表情になった。
グレートレッドがリリスに告げた。
『魂を削られすぎたな。そいつはおまえの知る男ではなくなっているぞ』
「………うん」
リリスがうつむきながら頷くと、シドーがリリスの頭を撫でた。
「………大丈夫?」
「うん」
シドーとリリスはそれだけやり取りをすると、お互い黙りこんだ。シドーはリリスを撫でるのだけは止めなかったが……。
『で、おまえさんたちはいつまでここにいるつもりだ?その男が回復したのなら、もう降りてほしいんだが』
そんな2人にグレートレッドが訊くと、シドーが答えた。
「降りる?それで、どこ行く?俺、何も知らない」
シドーがわかる限りの言葉を使って訊くと、リリスが『チェスの駒』と『ボロボロのお守り』を差し出した。
「これ、シドーの」
シドーはその2つを受け取りながら、確認するように訊いた。
「これ、俺の?」
「うん」
リリスが頷いたことを確認すると、シドーはマジマジと2つを見るとリリスに言った。
「なら、これ、何なのか知りたい」
「うん」
シドーの言葉にリリスが頷くと、グレートレッドが言った。
『なら行ってこい。行動は早めがいいぞ』
それを聞いたシドーは頷き、手に持っていた2つをリリスに渡した。
「リリスが持ってて。俺だと、なくす」
「うん」
リリスはそれらを受け取り、ドレスのポケットにしまった。
それを確認したグレートレッドは、目を輝かせて2人の前に小さな穴を開けた。
『ほら、行ってこい』
「それじゃ」
「じゃ」
グレートレッドの親切に2人は軽く右手を挙げながら返すと、その穴を潜り『シドウが死んだ場所』へと向かったのだった。
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