グレモリー家の次男   作:EGO

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Extra life 37 何事も特訓が大事 ④

夕食を終えた俺たちは、寝る前に談笑をしていた。

俺がイッセーとサイラオーグに言う。

「俺と父様で散々『ゆるキャラ』言っているが、本来なら母様が管理しているんだぜ?」

「うむ、彼女はいわゆる目利きだ。埋もれているものを取り上げる商才に恵まれている。グレモリー領の片田舎、そこの住民しか口にしない珍しい作物や、原住民の作る工芸品などを都市部で流行させ、一大企業に仕立てあげてしまう。彼女によって救われた職人がどれほどいるか……」

本当、ただ怖いだけじゃないんだ。何だかんだで優しいし。

「それにしても、母様が若い頃はスゴかったらしいしな。俺はあんまり知らないが、バアル家最強の女性悪魔と呼ばれているぐらいだ」

「リアスの二つ名『紅髪(べにがみ)滅殺姫(ルイン・プリンセス)』はそこから来ているんだが、リアスはまだかわいいものだよ」

俺もそれを聞いたときは驚いたが、今の母さんからは想像できないな。

俺は一度咳払いをして、話を戻す。

「で、話は母様の商才だったな。リリティファ、ここらへんに特産品とかないか?珍しい感じだったら、なお良しなんだが」

俺が訊くと、リリティファは首をひねっていた。

「えーと……この先の川を下った先に、綺麗で珍しい柄の織物を織る村があります」

リリティファはそう言いながら遠くを指さした。なるほど、織物か。

「父様、どうしましょう。行ってみますか?」

「うむ、織物か。それは興味深い。明日にでも行ってみよう」

俺たちがそう結論を出すと、リリティファは困り顔になっていた。

「……ですが、最近、この辺り一帯に山賊が出没しまして………。その村をよう襲撃しているんです」

なるほど、山賊が村を襲撃とは、穏やかじゃないな。って、山賊?

「リリティファ。山賊って、あいつらか?」

俺が訊くと、リリティファは頷いた。

「はい。あのヒトたちと、その頭領さんがいます」

「その頭領に告白されたと……。やれやれ」

俺が手を頭にやりながら首を横に振っていると、父さんが言った。

「山岳パトロールの人手が足りないのか。ふむ、領主としては山賊のことを耳にした以上、捨て置けない。……どれ、ここはひとつ山賊退治といこう」

膝を叩いて立ち上がる父さん。それに続くようにサイラオーグも立ち上がった。

「さすがは叔父上。当主自ら不逞(ふてい)輩を退治とは……上級悪魔の鑑、感服するばかりです。僭越(せんえつ)ながらこのサイラオーグ、加勢しましょうぞ!」

「うむ、助かる。シドウとイッセーくんはどうするかね?」

父さんが俺たちに振ってきたが、答えは決まっている。

「俺は行きます。俺もグレモリー家の人間ですから」

「俺も行きます!三人を行かせて俺だけが行かないなんてできるわけないじゃないですか!」

そう宣言したイッセーに、俺が訊いてみる。

「で、本音は?」

「こんな美人の人魚さんを狙うなんて、許せません!」

それを横で聞いていたリリティファは、恥ずかしそうに顔を赤くしながらモジモジしていた。

「うむ、それでは共に山賊退治と参ろうではないか」

こうして、俺たちは山賊退治をさることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

険しい岩肌の山道を登る『バップルくん』と『ゴモりん』、『ゴモりんJr.』、そして『ゴモりんJr.2号』。

前の3つは俺たちが入っているわけだが、残りの1つにはイッセーが入っている。

そのイッセーが訊いてきた。

「あ、あの、なんで俺までこれを?」

「表向きはイッセーの正体を隠すためだ」

「では、裏向きは?」

そう返してきたイッセーに、俺は着ぐるみの下で笑みを浮かべた。

「イッセーにも俺たちの苦労を知ってほしいからだ」

「……ですよね」

ちなみに、イッセーの着ぐるみは特注品で、中で鎧を装着できる作りになっているそうだ。

俺たちが喋っていると、父さんが注意してきた。

「こらこら二人とも。我々の言葉は『ゴモゴモ』もしくは『ゴモモ』なのだよ?これを忘れてはいけない。いつだって、『ゆるキャラ』精神を忘れてはいけないのだ。我らは『ゆるキャラ』の精進のため、ここに来ているのだから。そうだね、サイラオーグ?」

「はい、おっしゃる通りです。今の俺たちはあくまで『ゆるキャラ』でしかないッ!」

気合い入りまくりのサイラオーグ。案外、山賊退治にノリノリなのかもしれない。

山道を進むこと30分程、物陰からぞろぞろと現れる者がいた。

「おいおいおい、止まれ止まれ」

いかにも山賊って格好の毛皮を着た物騒な男たちだ。見てみると、何人かは昨日吹っ飛ばしたやつのようだ。

山賊は忌々しそうに俺たちを睨んできた。この格好だからな、仕方ない。

俺が嘆息していると、山賊は吐き捨てるように口を開いた。

「ったく、ここはテーマパークじゃねぇんだぞ?なんでこんな山中にラクダが3匹とリンゴのお化けが歩いてんだよ」

だよな!返す言葉もない!山賊は高らかに宣言する!

「ここは『ビルーバ一家』の縄張りだ!死にたくなかったら、おとなしく身ぐるみを置いていけや!」

「身ぐるみか。これは着ぐるみだが、それでもいいのか?」

サイラオーグが着ぐるみ姿でそう返した。

こめかみに青筋を立てて山賊は激怒した。

「んなこたぁ見りゃわかるんだよッ!いいから、殺されたくなかったら脱げって……」

眼前の『バップルくん』が高速で踏み込み、拳を放った!同時に、激怒していた山賊が遥か後方に吹っ飛んだ!

「ぐぎゃああああっ!」

山賊は悲鳴をあげて後ろの岩に叩きつけられる。

サイラオーグは着ぐるみの手元に闘気を発生させていた。ただ殴っただけではなく、闘気をまとわせて殴ったようだ。

そのサイラオーグが叫んだ!

「欲しければ力ずくで来いッ!俺の着ぐるみは無闇に渡せるほど安くはないッ!」

この場で闘気を全身に纏い突き進む『バップルくん』を止められるのは、多分、本気の俺とイッセーだけだろう。

 

 

4人で襲いかかる山賊を蹴散らしながら進むこと数分。

岩肌の山腹に大きな砦が現れた。外には大量の山賊が待ち構えている。

山賊の1人が、一際大きく粗暴そうな男に告げた。

「か、頭っ!あれです!あれがリンゴとラクダです!」

一歩前に出てきた山賊のボスと思われる男が、目を細目ながら言ってきた。

「こいつらの冗談かと思ったが、本当にリンゴとラクダじゃねぇか。どうなってんだ、こりゃ………。イベント会場と間違えて登山してきたにしちゃ趣味が悪すぎだ!」

言われてみればそうだな!リンゴとラクダが山賊退治って、なかなかカオスだ!

『バップルくん』が一歩前に出る。

「おい、貴様が頭目か?」

不敵に笑む山賊のボス。

「ああ、だとしたらなんだ?」

「近くの村を襲っているそうだな?そのような不逞の輩、万死に値する。バアル領『ゆるキャラ』代表『バップルくん』として貴様らを成敗してくれようッ!」

『バップルくん』の宣言に山賊たちが大笑いをあげた。

山賊のボスは巨大な斧を片手に息を吐く。

「おいおいおい、聞いたか、おまえら?『ゆるキャラ』様が俺たちを成敗だってよ?ったく、こんな山の上までそんな格好で来やがってよ。どんな理由かは知らねぇが、ハンパな力量は命を縮めるぜぇッ!やれぇ、野郎共ッ!」

『オオオオオォォォォォォッ!』

山賊たちの叫声をあげて突っ込んできた!

「三人とも、ちょっと本気でいかせてもらう。なんかムカついてきた!」

「シドウさんの本気って、あれですか!?その格好で!?」

イッセーは驚愕していたが、サイラオーグと父さんは頷いた。

「さすが、シドウ様。どんな相手にも全力で応じる。まさに俺が目指すものです!」

「ああ、シドウの全力、私に見せてくれ!」

「はいっ!」

俺は着ぐるみのまま、瞑目して集中する。体を少しずつ滅びで包み込み、そして……。

『いくぜっ!』

『ゴモりんJr.』の着ぐるみを吹き飛ばすように脱ぎ捨てる!

「な、なんだ!?」

俺の突然の変化に、山賊のリーダーは仰天していたが、すぐに持ち直して部下に指示を出した。

「おまえら!あいつは俺が()る!取り巻きを殺れ!」

 

『上等だ!』

こうして、俺と山賊リーダーは戦うことになった。

 

 

 

 

 

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シドウさんが山賊のリーダーと戦い始めたと同時に、俺、兵藤一誠とサイラオーグさん、リアスのお父さんで残った山賊の相手をしているんだけど……。

「『バップルくんチョップ』!『バップルくんキック』!」

サイラオーグさんが無双の勢いで山賊を蹴散らしていた。

俺も鎧を装着して山賊と戦うんだけど、

「ゴモっ!ゴモっ!」

と鳴きながら戦うようにしている。これもあの美人な人魚さんのためだ!もうあんなマグロに人間の手足が生えた謎生物なんて思い出したくない!

若干八つ当たりのように山賊を倒していると、リアスのお父さんがおっしゃった。

「うむ、さすがはイッセーくんとサイラオーグゴモ。戦闘のなかにも『ゆるキャラ』スピリットを盛り込む余裕、カメラがあったら……」

『父様、これどうぞ』

リアスのお父さんの言葉を遮るように現れたのは、『紅いゴモりんJr.』だった!その『紅いゴモりんJr.』はカメラをリアスのお父さんに手渡している!

「おお、シドウか!これは助かる!」

やっぱりシドウさんですよね!って、なんで『ゴモりんJr.』!?

俺が仰天していると、シドウさんが言ってきた。

『滅びを纏っているんだから、その形を変えればいいんだよ。今の俺は「滅びのゴモりん」だ!』

と、謎のポーズを決めながらそう言うシドウさん。このヒトもサーゼクス様に負けないぐらいフリーダムですよ!てか、『滅びのゴモりん』って、それ『ゆるキャラ』の名前じゃないですよね!?

俺が心のなかで突っ込みをいれていると、ある疑問が浮かんだ。

「シドウさん、山賊のリーダーはどうしたんですか?」

俺が訊くと、シドウさんは砦の方を指さした。その先に視線を送ると、そこには……。

「ラ、ラクダ、怖い………」

何かに怯えている様子のリーダーの姿が!シドウさんは倒すよりも先に心を折りましたか!

『そんなわけだから、俺もこれからこっちに………』

「これはどういうことでしょうね、あなた、それにシドウ?」

シドウさんの言葉を遮るように現れたのは……。

「ヴェネラナ!?」

『か、母様!?』

そう、リアスのお母さんだ!

怒りに満ちたご様子で黒いオーラをにじみ出している!

その後ろにはリアスの姿が!嘆息して首を横に振っていた。

すると、リアスのお父さんがハッとしたように、片言でリアスのお母さんに言った。

「………ボクハ、『ゴモりん』ゴモ。コンニチハ」

それを聞いたリアスのお母さんが迫力のある雰囲気を放ちながら、目を厳しく細めた。

「それは、領主のお仕事をほっぽり出してまで演じなければならないものなのでしょうか?息子と甥っ子を連れ出すなんて……。ねえ、あなた。いま吹き飛ぶのと、あとで吹き飛ぶのとで、どちらがお好みかしら?」

低く冷たい声音だ。吸血鬼の城でのシドウさんか、それ以上だと、俺は感じた。それよりも、シドウさんには何も言わないんですね。

俺が気になったので見てみると、シドウさんが元に戻り、ガタガタと小さく震えていた!これは言う意味ないですね!お母さんの恐怖が体に刻み込まれているよ!

つまり、シドウさんが怯えている!グレンデル相手でも余裕だったシドウさんが、怯えているのだ!実際、俺も怖いんだけどね!

『ゴモりん』はふいに頭部を脱いで、その場に正座した。

「申し訳なかった。これにも深い事情があるのだよ、ヴェネラナ」

わずか1分で当主様が折れた!グレモリー男子は奥さんに弱すぎるよ!シドウさんはどうなるのかな?

俺がそんなことを気にしていると、山賊の誰かが言った。

「何かよくわからねぇが、チャンスだ!ボスの仇を獲るぞ!」

『オオオオオォォォォォォッ!』

またやる気になった山賊たちだったが、

「………お黙りなさい」

リアスのお母さんは、山賊冷たい視線を投げかけて、手元から膨大な魔力を解き放ち、山賊もろともこの山の一帯を黒いオーラで覆い尽くしてしまった!

『ギャァァァアアアアアッ!』

悲鳴をあげて吹っ飛んでいく山賊たち!奥にいたボスもついでに空高く吹き飛ばされていった!

この日、山賊一味は謎の着ぐるみ集団と女性悪魔によって山の一部ごと吹き飛ばされたという。

 

 

 

 

 

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そんなこんなで、母さんに連行された俺たちは、半日に及ぶ説教を受けることになった。

『ゆるキャラ』のプロデュースは母さんがすることになり、これにて一件落着だ。

余談だが、リリティファが紹介してくれた織物も母さんに見出されて領土全域に広まっていった。

リリティファもその織物の宣伝ガールとして抜擢され、グレモリー領土で人気者となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




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