俺、イッセー、父さん、サイラオーグ四人は、『ゆるキャラ』修行のために山に来ていた。
転移の光が止み、俺たちの目に飛び込んできたのは雄大な大自然だ。緑いっぱいの木々と山々、山の麓には湖が見える。いい場所だ。
俺の横に立つ『バップルくん』ことサイラオーグは、それを見て感嘆の声を漏らした。
「……なるほど、いい山だ。木々もきらめいている」
「確かに、生き生きとしているな」
俺も続いてそう漏らしたが、
「お二人とも、せめて着ぐるみを脱いでから言ってください……」
イッセーが半目になりながら、俺たちに言ってきた。
確かに、俺もサイラオーグも着ぐるみを脱いでいない。『ゆるキャラ』二人が山を見て感動しているのは、端からみたらシュールな光景だろう。
「おいおい、イッセー。せっかく『ゆるキャラ』修行に来ているんだから、脱いだら意味がないだろ?」
俺が言うとサイラオーグが頷き、そしてイッセーに言った。
「兵藤一誠!話はここまでにしてさっそく始めるぞ!まずはあの山の頂上を目指すッ!」
「え、ええええええええ!?山登りからですか!?」
仰天するイッセー。だが、当たり前だろう。サイラオーグが言った山というのは、見た感じだと富士山以上に高そうなのだから。それをまともな装備なしでいきなり登る。さすがはサイラオーグ、なかなかスパルタだ。
「登ってこそ見えるものがある。まずはそこからだッ!」
サイラオーグはそう告げると、山に向かって走り出した。
「あ、ちょっと!待ってくださいよぉぉぉぉぉぉっ!」
何だかんだ言いながらそれに続くイッセー。意外とイッセーもやる気なのかもしれない。
「ふむ、では私たちはここでキャンプの準備をしていよう」
「わかりました」
俺たち親子は、父さんがどこからか取り出したテントを組み立て始めたのだった。もちろん、着ぐるみを着たままで………。
それから数分後。
「こんなものですかね?」
「ああ、なかなか良い出来だ」
無事にテントを完成させた俺たち。あとは、飯の用意かな?
俺がそう思っていると、父さんが話を切り出した。
「リアスの眷属のロスヴァイセに告白したそうだね」
………やっぱりその話題だよな。俺とセラが恋人なのは知っているから、そのせいだろう。
「はい。少し前に告白を……」
俺が改まって言うと、父さんが俺の肩に手を置いた。
「そうか。しっかり責任を取ってあげなさい。そして、セラフォルーちゃんもしっかり幸せにすること」
父さんは父さんなりに、セラとロスヴァイセを心配しているようだ。だが、無駄な心配だ。
「当たり前です。俺は二人とも幸せにしますよ。できなかったら、グレモリー家の恥ですから」
俺がそう告げると、父さんは震え始めた。
「……シドウにも父親になるのか。これで、グレモリー家、シトリー家は安泰だな!」
そう言って俺を抱きしめてくる父さん。
確かに、俺とセラに子供ができたら、その子は多分シトリー家の次期次期当主(俺たちでいうミリキャスポジション)になるだろうし、ロスヴァイセとの間に子供ができたら、その子はミリキャスの次の当主になるだろうからな。
そこまで考えて思ったのだが、なんか恥ずかしいというか、シュールというか……。
俺と父さんは『ゴモりん』の格好のままだ。そんな俺たちがハグしているのだから、それはシュールな光景だろう。
父さんは俺から離れて湖を指さした。
「ちょうどあの湖に『リリティファ』さんが住んでいるんだが、魚を獲るついでにあいさつをしてきたらどうだい?」
なに!リリティファがこの近くに住んでいるのか!それはあいさつに行かなくては!あのヒトも俺の命の恩人だ!
「はい!行ってきます!」
「その前に、着ぐるみは脱いでいきなさい。その格好で行ったらリリティファさんに失礼だ」
「それもそうですね」
俺はそう返して、着ぐるみを脱ぐと大きめのザルを持って、湖を目指して走り出した。
走ること10分程。ようやく湖に到着した。なぜここまで早いのかと言うと、途中から飛びました。
いやー、やっぱり生身が一番だ。空気がうまい!
俺が湖のほとりで深呼吸していると、湖から何かが顔を出した。
顔を出したのは緑色の長い緑色の髪の誰かだ。その誰かは、俺の様子をうかがうようにじっと俺のことを見てきていた。なんか、見られているのは気持ち悪いな。
「いい加減、出てきたらどうだ!」
俺が呼び掛けると、その誰かが湖から出てきた。
「久しぶりだな、リリティファ」
「は、はい。お久しぶりです。その節はお世話になりました」
その誰かの正体であるリリティファは、俺を見て丁寧にあいさつをしてくれた。
「元気そうで何よりだ。で、こっちに来てからはどうだ?」
俺が訊いてみると、リリティファは笑顔で言った。
「はい!のんびりと暮らさせていただいています。もうあんなヒトはいませんから」
あのヒトって、あの海賊か。名前は覚えていないが、まぁ、ムカつくやつだったよ。
俺が少し前のことを思い出していると、リリティファが俺の左腕を見て、首をかしげていた。
「あの、左腕に違和感があるのですが、何かあったのですか?」
「まぁ、少し前の戦いで吹き飛んでな……」
俺はそう言いながら左袖をまくり、肘まで露出させる。そこがちょうど、生身と義手の接合部だ。
「そ、そんなことが………」
「ああ、今のこれは義手だ」
「お体を大事になさってくださいね」
リリティファさんが心配そうに言ってくれた。本当、もう少し体は大事にしようかな?
「で、何でわかったんだ?」
俺が興味本意で訊くと、リリティファは俺の右腕と左腕を交互に見て、こう続けた。
「その、なんと言いますか。少し左腕がガッシリして見えたので……」
あ~、なるほど。この義手にはいろいろと仕込んであるから、少しゴツいのかもしれない。
「さて、あいさつはこのぐらいにして、魚を獲りたいんだが、いいか?」
「はい!お手伝いします!」
「そうか、それじゃ、頼む」
こうして、俺は魔力でウェットスーツに着替え、リリティファと共に食材確保のために湖に入っていったのだった。
「大漁だな!」
「はい!」
数時間かけて、ザルいっぱいに魚を獲った俺とリリティファ。
材料があるのはいいが、料理をするには調味料とかもないとダメだよな。
「リリティファ、調味料か何かを貸してくれないか?」
「はい、今取ってきます!」
リリティファはそう言って、湖に潜っていった。湖の中に住んでいるのか、それともほとりに家があるのか。
俺が首をかしげていると、ここに近づいてくる気配が複数。
「何者だ?ここは山賊『ビルーバ一家』の縄張りだ。殺されたくなかったら、身ぐるみとその食料を置いていけ」
山賊か……。この手の輩はどこにでもいるもんなのか?
俺が溜め息をついていると、リリティファが戻ってきた。
「シドウさん、お待たせしました!」
調味料が入っていると思われる箱を持っている。だが、タイミングが悪かったな。
「あ、あなた方は!」
リリティファはどうやら知っているようだ。だが、いつかの海賊の時ほど怯えている様子はない。
「リリティファ、誰だこいつら」
俺はリリティファに訊きながらその山賊を指さした。
「えと、最近私に告白してくるヒトの部下さんです」
「……告白って、またか」
俺が呆れていると、山賊が言ってきた。
「えーい!貴様ら!俺たちを無視するな!」
「黙ってろッ!」
俺はそう言いながら大剣を生成して、オーラを飛ばした!
「ちょっ!?」
『ギャァァァアアアアアッ!』
その一撃をくらった山賊たちは、吹っ飛んでいき、空の彼方でキラリと光った。気がした。
「これにて一件落着だな」
俺が大剣を消しながらそう言うと、リリティファが訊いてきた。
「ところで、シドウさんはどうしてここに来たのですか?」
「………あ!」
リリティファに言われて思い出した!父さんたちが待っているんだった!
「リリティファ!この際止まってられねぇ!ちょっとそのザルを持ってくれ!」
「え?あ、はい」
リリティファはそう言うと、調味料が入った箱と、大量の魚が入ったザルを持った。
それを確認した俺は、リリティファをお姫様抱っこの要領で抱き上げる。
「よし、それじゃ、準備はいいか?」
「え?あの、まさか………?」
「OKだな。よし、行くぜ!」
「え、ええええええええ!?」
リリティファの叫びを聞きながら、俺は翼を出してキャンプまで急いで戻ったのだった!
数分後。
割りと全力で飛んだため、案外早く戻ってくることができた。
「シドウ、お帰り。こっちの準備はできているよ」
そう言って迎え入れてくれる父さん。奥には疲れた様子のイッセーと、なぜかびしょ濡れのサイラオーグが椅子に座って休憩していた。2人共、戻ってきていたのか。いやはや、向こうで遊びすぎた。
「リリティファさんもお久しぶりです」
「お、お久しぶりです。当主様?」
リリティファは疑問形で父さんに訊いた。父さんはまだ着ぐるみ姿だからだろう。
「ああ。私だよ。さて、イッセーくん、サイラオーグ。シドウも戻ってきたところで、食事の準備を始めよう。リリティファさんも食べていきなさい」
「は、はい。いただきます……」
少し当惑しながら、リリティファは返事をした。
俺がリリティファをここまで連れてきた理由は、さっきの山賊のせいだ。あの海賊との一件のせいか、少し過保護な部分があるのかもしれない。つまり、リリティファが心配なのだ。
あいつらがいなかったら連れてこなかった、なんてことはなく。食材獲りに協力してくれて、調味料をくれたんだから、どっちにしろ連れてこない選択肢はなかったがな。
こうして、俺たち5人は、少し遅めの、キャンプとは思えないほど豪華な夕食をとることになった。
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