イベントが終わり、楽屋に戻ってきた俺、兵藤一誠を含めたオカ研と、三人の『ゆるキャラ』たち。
戻ってきて早々に、サイラオーグさんは椅子に腰掛けて深くうなだれていた。
「………なんということだ。子供に嫌われてしまうとは……俺は『ゆるキャラ』失格だッ!」
相当ショックを受けているようだ。顔を両手ど覆い、見たことがないほど落ち込んでいる。きっと、畑違いってやつだと思うんですけど。
「きっと、気合いが入りすぎて闘気があふれ出してしまっただけですって」
「そうよ、気にする必要はないわ。場数を踏めば要領も得られるでしょうし。って、何も次期当主がやらなくてもいいのよ?」
俺とリアスが励ますが、サイラオーグさんは深く息を吐いた。
「それでも俺は……己の鍛練の甘さを恨めしく思うばかりだ」
根っからの真面目なヒトだから、いつも以上に張り切っていたのだろう。
『ゴモゴモ』
『ゴモモ』
『ゴモりん』と『ゴモりんJr.』がサイラオーグさんの肩に手を置き、励ましていた。
「……俺を慰めてくれるというのか、ゴモりん。……いや、あなた方は、まさか!?」
サイラオーグさんが何かを察して勢いよく立ち上がった。
『ゴモりん』が頭部を脱ぎ出した。そこに現れたのは。
「ごきげんよう、皆さん。私です」
紅髪のダンディな男性!
「お、おおおおおおと、お父様っ!?」
仰天するリアス!当然だろう!『ゴモりん』の中からお父さんが出てきたのだから!
リアスのお父さんが言う。
「ちなみに、『ゴモりんJr.』は……』
『ゴモモっ』
そう言って『ゴモりんJr.』から現れたのは、
「俺だ」
紅髪の若い男性!
「お兄様!?」
「シドウさんっ!?」
リアスはさらに仰天した様子だ。ロスヴァイセさんも『今日は仕事だから行けない』と言っていたシドウさんが『ゴモりんJr.』の中から現れたのはだから!
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そんなわけで『ゴモりんJr.』の中から現れた俺、シドウは、汗を拭い、軽く息を整えていた。
「お兄様、大丈夫ですか?」
そんな俺にリアスが訊いてきた。
「ああ、大丈夫だ」
と、言ったものの、本当は辛い。
だって、着ぐるみで『ブランディ』だぞ!?『前方宙返り』だぞ!?『バグ宙』だぞ!?しかもそれで前進だぞ!J○Eのあの人じゃあるまいし、死ぬ!本当に死ぬかと思った!
何てことを心の中で思っていると、リアスがに俺たちに言ってきた。
「お父様にお兄様も!どうしてこのようなことをっ!?」
「落ち着きなさい、リアス。これも公務の一環なのだ。当主だって着ぐるみを着ることもある」
父さんがそう返したが、それはないと思う。当主がそんなことするわけないって!
リアスはそれを聞いて、今度は俺を見てきた。
「俺は、サイラオーグが困ってるって聞いたんでね。恩返しを込めて助けてやろうってな」
「『恩返し』ですか?」
俺の発言を聞いていたサイラオーグが訊いてきた。
「ああ。アウロス学園でグレンデルから助けてもらったからな。その恩返し」
「あの時の、ですか?」
「そう、あの時」
俺たちがそこまで話すと、父さんが咳払いをした。
「さて、サイラオーグ。『ゆるキャラ』の基本は己を殺すことなのだよ。キャラに徹して他者に触れあうことこそが行動原理となる」
「さすが叔父上。叔父上には敵いませぬな」
サイラオーグはそう漏らすと、拳を震わせて始めた。
「しかし、このままでは今後『ゆるキャラ』のイベントには出られんッ!他者が許しても俺がそれを許さないのだッ!このままでいいのか!?否ッ!己を研磨してこそ俺ッ!己を虐げて高めることこそサイラオーグ・バアルなのだッ!」
サイラオーグは心底悔しがっていた。すると、不意にイッセーを視線を送った。
「兵藤一誠、頼みがある」
「え?あ、はい!」
イッセーも少し驚きながらも返事をすると、サイラオーグはイッセーの肩をつかんだ。
「俺と山籠りをしてはくれないだろうか?山でおまえと共に『ゆるキャラ』を高めていきたい……ッ!」
山!なんで急に!?
俺が横で驚いていると、イッセーが訊いた。
「や、山籠りですか?い、いやー、俺、山籠りは何度かしたことありますけど、『ゆるキャラ』の修行はしたことないなぁ……」
少し消極的なイッセーだが、そこに父さんが追撃を加えた。
「うむ。では、サイラオーグ、私が付き添おうではないか」
だったら、
「俺も行こうかな。こっちは命を救われてるんだ。こんぐらいで恩返しは終わらないぜ」
「叔父上!?シドウ様!?し、しかし……」
俺たちからの申し出に若干遠慮するサイラオーグ。すると、父さんが笑みを見せた。
「遠慮するものではないよ、サイラオーグ。ここは叔父の私と、従兄弟のシドウに任せなさい。グレモリーのことなら何でも知っている。『ゆるキャラ』修行に最適な山に案内しよう。兵藤一誠くんもついでに来なさい」
父さんの言葉でサイラオーグは覚悟を決め、イッセーも巻き込まれる形で参加することになった。
「それでは、父さん。座標をお願いします。転移魔方陣は俺が展開しますので」
「うん、任せたよ」
てなわけで、転移魔方陣を展開する。
俺が準備を整えているうちに、サイラオーグがイッセーを捕まえていた。
今にも転移しそうな俺と父さんに、リアスが言ってきた。
「お父様、お兄様!きっと、お母様が激怒されますわ!」
………そ、それは、怖いな!けど、けど、今は!
「男として、通したい義理なんだ!俺は引かない!いや、引けないっ!」
俺は強がってそう宣言したが、横では父さんが震えていた!が、振り切るようにリアスに手を振った!
「……行こう、三人とも!」
「「わかりました!」」
「こうなったらどこまでも付き合いますよ!くそッ!」
俺とサイラオーグはやる気十分に、イッセーはやけくそ気味にそう返事をした。
それの確認ができたところで、転移魔方陣を起動。俺たちは転移の光に包まれていった。
こうして、俺たちは『ゆるキャラ』修行のため、山籠りをすることになった。
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