これは、クリスマス直前の出来事だ。
俺、兵藤一誠を含めたオカルト研究部は、仕事の報酬としてもらったものを整理するために、冥界のグレモリー城に来ていたんだ。
その途中で、サイラオーグさんと、その『
『我がバアル領にも「ゆるキャラ」を推進したいという話でな。俺がスーツアクターとして手を挙げたのだ』
サイラオーグさんはその『ゆるキャラ』の着ぐるみに身を包んだままそう言った。
寸胴な着ぐるみで、頭はリンゴをを思わせるフォルム、そこにかわいらしい顔が加えられている。背中からは悪魔的な翼の格好だ。
そのせいで、最初はサイラオーグさんって、分からなかったんですよ?せめて喋ってから被り物をしてください。
俺が心のなかで呟いていると、サイラオーグさんは続けた。
『実は、今日はグレモリー領で行われるイベントにこの「バップルくん」が招待されているのだ』
イベント!それにバップルくん!
なるほど、だからサイラオーグさんはこの格好なんですね。本番前に着替えれば良いのでは?と訊くのは野暮だろう。
「キャラクター名の由来は、我が領の特産品のひとつであるリンゴを取り上げてみたのです」
クイーシャさんが説明してくれた。
バアルの特産品であるリンゴ(アップル)のキャラクターで『バップルくん』なのか、わかりやすい。
サイラオーグさんは強く頷く。
『次期当主として、公共事業を見据えていきたいのだ』
その一環として、次期当主がスーツアクターをしていると?
サイラオーグさんが少しわからなくなっていると、ロスヴァイセさんがリアスに訊いた。
「ふと疑問に感じたのですが、グレモリー領にも『ゆるキャラ』があたりするのですか?」
リアスは小さく笑うと、それに答えた。
「ええ、グレモリー領にも『ゆるキャラ』はいるは。で、その『ゆるキャラ』をメインとしたイベントが、もうすぐ行われるの。バアル領のバップルくんとコラボレーションすることになっていて、サイラオーグが今日ここに来たというわけなのよ」
リアスはそう言うけど、若干テンションが低い。『ゆるキャラ』に何かあるのかな?
サイラオーグさんは腕を組みながら言う。
『そのイベントに参加すれば、宣伝効果にも繋がり、我が領の特産品も注目を浴びるだろう。ぜひとも参加したい。今日は胸を借りるぞ、リアス』
被り物で表情はわからないが、とてつもない覇気を放っている!
リアスがサイラオーグさんに続いて言う。
「そのようなわけで、これからイベント会場に向かうわよ」
こうして俺たちは『バップルくん』と共にイベント会場に転移することになったのだった。
というわけでイベント会場。
俺たちは舞台袖に集まっていた。見た感じたでは、子供連れの親子を中心に、老若男女けっこうな数が集まって見える。
今回、俺たちの出番はないけど、俺たちの横には、
『………………』
無言で腕を組み、覇気を放っている『バップルくん』と、
『ゴモゴモ!』
「ひぃっ!」
『ゴモ!』
「ひぃぃぃぃっ!」
リアスにちょっかいを出しているグレモリー領の『ゆるキャラ』である『ゴモりん』と『ゴモりんJr.』が視界に映った。
『ゴモりん』はラクダを模したキャラクターだ。グレモリーはラクダに乗って召喚に応じると言われているため、そこからキャラクターを制作したらしい。
ちなみに、リアスが『ゴモりん』と『ゴモりんJr.』を怖がっている理由は、幼い頃にラクダをかまっていたら、手痛い逆襲を受けたらしく、それからラクダが苦手になってしまったそうだ。
シドウさん曰く、
『リアスの勉強がてら、ラクダの世話をしていたんだ。それで、俺がちょっと目を離したら、なんか大変なことになってた』
とのこと。それ以上詳しいことは教えてくれなかった。
それにしても、サイラオーグさん、緊張しているのかな?こうあうイベントとは縁のなさそうなヒトだし。『ゆるキャラ』が闘気が漏れているのは、なかなかの恐怖なんですけど………。
そんな俺をよそに、ステージ上の司会進行役のお姉さんがマイクでお客さんに促す。
『それではみんな!「ゴモりん」と「ゴモりんJr.」、「バップルくん」を呼んでみようか?みんなも大きな声で呼んであげてね!』
子供たちは満面の笑みで大声をあげる。
『『『『『ゴモりーんっ!』』』』』
『『『『『『ジュニアーっ!』』』』』
『『『『『』『バップルくーんっ!』』』』』
子供たちからの声援をうけた三人(?)は勢いよく袖から飛び出した!俺たちは見守るしかない。
舞台では慣れた様子で『ゴモりん』と『ゴモりんJr.』が子供たちと接していくが、『バップルくん』は若干戸惑っているようで、挙動がおかしい。
『あれれ?「バップルくん」、どうかしたのかな?調子が悪いのかな?』
と、司会のお姉さんにフォローされている始末だ!やっぱり生真面目なサイラオーグさんに『ゆるキャラ』のスーツアクターは無理だって!
『バップルくん』が動かないなか、『ゴモりん』と『ゴモりんJr.』は軽快な反応をお客さんに見せていた。そうとう場数を踏んでいるように見える。
その後、いちおう問題なくイベントは進んでいき、子供たちとの触れあいタイムとなった。
『ゴモゴモ』
「『ゴモりん』かわいいっ!」
『ゴモりん』に抱きついた女の子の一言で、『ゴモりんJr.』がわざとらしくショックを受けた様子で、四つん這いになりながら軽く地面を叩いていた。すると、
「僕は『ジュニア』の方が好き!」
男の子がそう言いながら『ゴモりんJr.』に抱きつくと、
『ゴモモ!』
『ゴモりんJr.』は嬉しそうに男の子を抱きしめ返していた。
『ゴモりん』と『ゴモりんJr.』は子供たちと楽しそうに戯れているのだが、
『………………』
『バップルくん』は立ち振る舞いもせず、無言で腕を組んで妙な迫力を放っていた!
サイラオーグさん!やっぱりあなたには無理ですって!あなたの闘気は視認できるレベルなんですから、体から漏れる白い発光現象は『ゆるキャラ』にあってはならないものですよ!
『バップルくん』の近寄りがたいオーラについに子供が……、
「う、うええええええええんっ!」
泣き出してしまった!子供ってこういうのに敏感だから、余計に怖がってしまったのかもしれない!
「このリンゴ、なんだか怖いよぉぉおおおっ!」
連鎖的に『バップルくん』の周りにいた子供たちが泣いてしまう。
こうなってしまったら、もう収拾がつかなくなる。
俺がそう思った矢先、
『ゴモモ!』
子供たちの泣き声を遮るように『ゴモりんJr.』が大声をあげた!ステージ上の視線を一身に受ける『ゴモりんJr.』は、腕を腰に当て、胸を張るようなポーズを取っていた!
先ほど泣いていた子供たちも静かになり、『ゴモりんJr.』を見ているほどだ。
『ゴモりんJr.』はそれを確認すると『道を開けてくれ』と言わんばかりに、手首を横にクイクイっとするジェスチャーをした。
子供たち、司会のお姉さん、『ゴモりん』、『バップルくん』がステージの端に集まったことを確認して、『ゴモりんJr.』は舞台袖ギリギリまで移動して、右手を挙げた。
舞台袖の俺たちも注目していると『ゴモりんJr.』は走り出し、そして!
『ゴモーッ!』
手なしロンダートをした!確か『ブランディ』って言うんだよな!前にシドウさんが言ってた!それより今の、着ぐるみとは思えないキレのよさだった!
俺たちが驚愕していると、そのまま続けて、
『ゴモモーッ!』
前方宙返り!ステージの反対側まで来たことを確認すると振り向き、再び助走をつけて、
『ゴモモモーッ!』
バク宙で締めた!しかも、バク宙で少しだけ前に進んでいる!?
『ゴモッ!』
そしてポーズを決める『ゴモりんJr.』。ステージは静寂に包まれるが、
「ジュニア、すごーい!」
「ジュニア!」
「すごいすごい!」
先ほど泣いていた子供たちも笑顔になり、『ゴモりんJr.』に飛び付いていた。
『ゴモモ……!』
複数人の子供にくっつかれ、そのまま倒れる『ゴモりんJr.』。子供たちは笑顔になったが、
『……………ッ!』
『バップルくん』がショックを受けた様子で、その場で固まってしまっていた。
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