リアスたちが魔法使いとの契約のために忙しくしているある日の深夜。
寝ていた俺は、何か気配を感じて目を覚ました。
悪魔でも寝つく時間に、兵藤宅から出ていく気配が2つ、いや、3つか。
リアスたちはもう寝ているだろうし、兵藤夫妻も寝ている。出ていく可能性があるとしたら、あいつらか!
俺は素早くベッドから降り、魔力で服を寝巻き姿から動きやすいものに変える。夜中なので、全体的に黒い感じにしたが、いつものことか。
そんな事を思いつつ、部屋の窓から気配を殺して、兵藤宅から出ていったやつらの追跡に動き出した。
消えてしまいそうな気配を懸命に探って追跡すること数分。俺は町外れの廃墟に行き着いた。はぐれ悪魔がいそうな怪しい雰囲気の場所だ。旧魔王派にいたときの拠点を思い出す。
ここら辺であいつらの気配が消えたんだが、つはり中って事なのか?
抜き足差し足で廃墟に入る。所々から漏れる月明かりで明るいが、奥の方は真っ暗だ。
警戒しながらゆっくり進むこと数分。前方に両開きの扉が現れた。
うーん、ここまで扉みたいなものはなかったし、かといって曲がり角みたいなものもなかった。本当にあいつらはここにいるのか?
扉の前に立ち、中の様子を探ろうと隙間を探す。しかし、扉は完全に閉まっているようで、隙間が見つからないし、中からの音も聞こえない。
俺が帰ろうか悩んでいると、誰かが廃墟に入ってくる気配を感じた。
戦闘をするにしても、この町にいる以上、何かの関係者なことは間違いない。そんなヒト相手に、セラの眷属として問題を起こすわけにもいかない。
そこで俺は考えた。戦闘がダメなら、隠れればいいと。
俺はとっさに天井まで跳び、そこに張りついた。結構キツいけど、頑張るしかないかな。
気配を殺してその誰かを待つ。
「黒歌さん、うまく撒けましたかね?」
「いいにゃ!いいにゃ!バレてもどうにかなるにゃ!」
「我、これが、最近の楽しみ」
なんて、
俺が先ほどから言っている『あいつら』は彼女たちのことである。
てか、黒歌、バレてもどうにかなるって、イッセーならともかく、俺はそこまで甘くないぞ?
とりあえず、後で3人を説教するとして、どうするか。こいつらが誰かとここで接触しているのなら、その相手は確かめておかないといけない。
俺が天井で踏ん張りながら考えていると、黒歌が例の扉の前に立ち、身を寄せた。
「芋」
突然、黒歌がそんな事を言うと、扉が重々しい音をたてながらゆっくりと開いていく。
『芋』の一言で開く扉って、どうなんだろうか。
俺が呆れていると、三人はその扉の奥へと進んでいった。
三人が扉の奥に消え、再び扉が閉まったところで、俺は飛び降り、扉を確認する。
相変わらず完璧に閉まってやがるな。黒歌のやつ、一体誰に『芋』なんて言ったんだ?
俺は黒歌がしたように扉に身を寄せてみる。すると、中から声が聞こえてきた。
『合い言葉、山』
……えっと、合い言葉だろ?それって、まさか……。
俺は迷いながらも、その言葉を言う。
「芋?」
『………よし、入りたまえ』
しばらくの間があったが、開けてくれるようだ。
再び重々しい音と共に開く扉。俺は警戒しながらその奥を見ると、そこは、本で見た、古めの日本家屋のような風景が広がっていた。俺がいるのがいわゆる土間ってところで、一段高いところが居間ってやつだったか?で、その居間にいるのが………。
「にゃはははは……。撒くどころか、先回りされてたみたいにゃ」
「本当にすみません」
「にんにん」
俺を見て苦笑する黒歌、素直に謝ってくるルフェイ、謎のポーズをするオーフィス。そして、
「まさか、あなたが噂に聞くシドウ殿でござるか?貴殿も『修行』のために、ここに来たのでござるか?」
謎の白い服と頭巾を被った誰か。声的には男だと思うが、なんだ『ござる』って。
「俺はシドウだが、あんたは?」
俺が名乗りながら訊くと、その男性は、頭巾を取りながら白い翼を展開した。ま、待て、白い翼だと!?
「拙者はメタトロンでござる」
「……………は?」
思わず声に出してしまったが、本当に『は?』だよ!メタトロンって、セラフの1人じゃねぇか!
「あ~、メタトロン?これはミカエル様は知っているんだよな?」
若干当惑しながらそう訊いた。だって、メタトロンはセラフだ。ミカエルやガブリエルほどではないにしろ、大事な立場にいる。つまり、俺や義姉さんがここで変なことをしているようなものだ。
俺の心配をよそに、メタトロンは言った。
「うむ、ミカエル様からもしっかり励むように、と言われておりまする」
「何やってんだよ、おまえらも、あいつも……」
俺が呆れながらそう漏らすと、黒歌が訊いてきた。
「まあまあ、せっかく来たんだからやっていけば?」
「やる?何を?」
俺が聞き返すと、黒歌は真剣な顔でこう言ってきた。
「『忍術』にゃ」
「………は?」
「『は?』じゃないわよ。その顔、信じていないわね!」
俺は心の中で後悔していた。これは、明らかに面倒なものだ。このままだと、賽銭箱を作ったときのように徹夜することになる。
俺が断ろうとした矢先に、俺の背後から気配を感じた。ふっくりと振り向いてみると、
「おやおや、騒がしいと思えば、また弟子志願かの?」
そこにいたのは和服を着た初老の男性。手にはコンビニ袋をぶら下げている。
メタトロンがその男性を見て、姿勢を正した。
「その通りでございます、マスター。黒歌殿がお連れしたのでござる」
「いや、待て。俺は……」
「ほう、弟子志願とな」
俺の言葉を遮った男性は、あごに手をやりながら若干当惑していた。
「とりあえず、お上がりください。お話はそれからです」
「アッハイ」
勢いのまま、俺は居間に上がることになってしまった。
…………早く帰りたい。
俺がそんな事を思っていることを知らない男性は、自己紹介を始める。
「はじめまして。私は伊賀流忍術を伝える者、
ここで返さなかったら、スゴイ・シツレイなのは明白だ。返さないとな。
「ドーモ、
やる気のなさが
「って、イガリュウ?忍者にも派閥があるんですか?」
帰りたい気持ちを抑えながら、頭を上げて俺が訊くと、丹紋さんは頷いた。
「ええ、私たち伊賀者は、お金による契約を重視した忍です。1人の君主に付き従う甲賀流とは逆ですね」
「アッハイ」
いきなり『イガ』だの『コウガ』だの言われてもわからん。いちおう聞いておくけどさ……。
それにしても、リアスも連れてくれば良かったかな?あいつ、確かこんなの好きだったはずだろ。京都でスゴいはしゃいだって朱乃から聞いたぞ。
セラとのデートでも京都を回ったが、あのときは問題が起こって中断しちゃったし、今度はしっかりやりたいもんだ。
「ところでシドウ殿は、いかにしてここに来たのでござるか?」
丹紋さんとの話が落ち着いたところで、メタトロンが訊いてきた。
「そこの3人を追いかけてきたんだ。途中で気配が消えたんだが、あとはだいたいで追跡した」
俺がそう言うと、黒歌が苦笑した。
「つけられてることは途中でわかったんだけどねぇ。まさか、ここまで追ってくるとは思わなかったにゃ」
本当、あそこで諦めておけば良かったよ。
丹紋さんが言う。
「黒歌殿を尾行とは、なかなかやりますな」
なんか、認められている!?忍者に認められるのは、良いことなのか?
「シドウ殿、せっかくいらっしゃったのです。少しやってみませんか?」
丹紋さんが意外とフレンドリーだ。案外、この人の弟子は多いのかもしれない。
「まぁ、せっかく来たので、やらせていただきます」
こうして、俺は、何だかんだで丹紋さんの弟子になったのだった。
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