魔獣騒動から幾日か経った休日。
少し前にミリキャスが来たり、慰安旅行に行ったりしたが、特に語ることもないので割愛しよう。
話を戻してある休日。
俺を含めたオカ研は、兵藤宅の地下にある転移室に来ていた。どうやらここにお客さんが来るそうなのだ。
名前を聞いたときは懐かしさを感じてしまった。まぁ、何ヵ月か前に会ったことのある人物だ。
そう思い返していると、魔方陣が輝き、そこから赤い鳥居が出現し始めた。
やっぱり来るときは鳥居なんだな。向こうの連中らしいっちゃらしいが……。
俺が心の中でそんなことを考えているなか、鳥居から現れたのは……。
「久しぶりじゃな!八坂の娘、
元気よく登場したのは巫女服姿の金髪少女、九重姫だった。ピンと立った獣耳と、もふもふした尻尾を揺らしていた。
初めてあの
その九重姫のお付きと思われる、姫と同じく巫女服姿の
姫たちの到着を確認したイッセーが言った。
「よう、九重。ここじゃなんだから、上に行こうか」
「うむ!お邪魔させていただく!」
幸彦くんの時もそうだが、やっぱり子供は元気が一番だと、俺は思う。
そんなわけで、姫とその付き人をVIPルームまで案内する。着いた途端に付き人の二人は「ドロン!」と煙と共に去ってしまったが、京都でもそんな感じだったので、今さら気にしない。
VIPルームに到着後、リアスが改めて姫にあいさつをする。
「ごきげんよう、私はリアス・グレモリー。京都では私の眷属と、お兄様がお世話になりました」
リアスは初対面だったな。あの時、京都には来ていたが……。リアスだけじゃなくて、1、3年は全員初対面か。
リアスのあいさつに九重姫は丁寧に頭を下げて応えた。
「こちらこそ、お初にお目にかかります。九重と申します。今後とも何とぞよろしく頼みまする」
姫はあいさつを済ませると、リアスの全身をマジマジと見ていた。
リアスもそれに気がついて自分の体を確認しているが、俺から見てもいつも通りだと思うのだが……。
途端に姫は興奮した様子ではしゃぎ出した。
「おおっ、お噂以上に麗しいお方じゃ!さすがは正妻殿じゃな!」
確かに、兄の俺から見てもリアスは美人だと思うぜ?てか、今のセリフ、よく本人を前にして、どストレートに言えたな。
リアスは少し困惑しながら、九重姫に聞いた。
「大変光栄なお褒めの言葉だけれど、せ、正妻殿……?」
リアス的にはその呼び方が気になった様子だ。
姫は大いに頷き、続けた。
「うむ!イッセーの主様で想い人だと聞いておりまするぞ!となれば、私にとっては正妻殿ということになるのじゃ。母上にも正妻殿を立ててこそ、天龍の
姫がそこまで言いかけると、再び「ドロン!」と付き人の妖狐が現れて姫の口をふさいだ。
「九重様。それはまだ早すぎまするぞ!」
「まずは印象操作です!正妻殿とその兄上様、そして側室の方々と仲良くならねば『京の都・天龍御子千年計画』がパーでございます!」
姫もそれを聞いてうんうんと頷いていた。
「なぁ、何だ。その、何とか千年計画って?」
俺はわざと踏み込んで訊いてみると、付き人の二人は「「おほほほほ」」とわざとらしく誤魔化してから再び消えた。
何だろう、イッセーの近くにいると退屈しないというか、休みがないというか……。まぁ、今はいいや。
「とりあえず、姫様。お久しぶりです。京都ではお世話になりました」
「うむ、シドウ殿もお久しぶりじゃな!」
先程の話なぞなかったかのように応えてくる姫。
「ところで、イッセー。龍の社を建てたいそうじゃな?しかし、悪魔ゆえにその方法が知らぬと聞いた!しかし、皆のもの、安心せい!九尾の狐、
それが今回の名目か。姫が前からこっちに来たいと愚図っていたこと、そしてイッセーたちが「オーフィスのお社」を作りたいと思ったことで、今回の訪問が決まったわけだ。
姫もオーフィスを見ながら訊いてきた。
「イッセーではなく、そこの龍の女人の社を建てるのじゃな?」
オーフィスはそれを聞いて首をかしげているが、名乗られても面倒だ。立場上、オーフィスはここにいないことになっているんだし。イッセーだとボロを出しそうで怖い!
俺がオーフィスを見る姫の視界に入り込むようにしてから言う。
「ああ、あの
『は、はい!』
とっさにオーフィスのことをフィスって紹介しちまったが、問題ないだろうか。
俺は姫に聞こえないように、イッセーに小声で言った。
「姫が滞在している間は、オーフィスをフィスって呼んでくれ。変なところでボロを出すなよ?」
「わ、わかりました!」
「何を話しておるのじゃ?」
俺とイッセーが、二人だけで喋っていることを不信に思ったのか、そう訊いてくるが、
「いや、その、シドウさんと、お社をどこに建てようかって話してたんだ!」
「ああ、確か屋上にスペースがあったから、そこでいいだろ」
俺たちがそう言うと、姫は頷いた。
「そうかの?それでは、場所を見せていただこう!」
こうして、俺たちは屋上に移動した。
リアスの話だと、夏休み前に改築を行い、兵藤宅をここまでの大きさにしたそうだが、おかげで部屋が余りまくっている。実際、俺の両脇の部屋は空きで、半分物置状態になっているほどだ。
で、そんな兵藤宅の屋上は空中庭園となっており、花壇だとや小さい野菜畑がある。お茶をするためのスペースもあり、休日になると必ずと言える程、誰かがいる。実際、誰かを探しているときにここに来れば、だいたいいる。
その屋上の少し空いたスペース。そこにお社を建てるつもりなので、姫とそこを確認していた。
「どうかな?」
イッセーが訊くと、姫はにんまりと笑ってピースサインをした。
「うむ!まぁ、これぐらいの空きがあるのなら小さな社は建てられるじゃろう!よし!祀る者もわかり、場所も把握したところでさっそく工具と材料じゃな!」
姫が二回手を叩くと、「ドロン!」と煙と共に妖狐が出現して、姫に木箱を渡した。
光沢があり、なかなか綺麗な模様と雰囲気の木箱だ。姫が中を確認するように箱を開けると、中にはノミやカンナ、木槌、ノコギリといった大工道具が数種類入っていた。
「これは我が都に伝わる由緒ある工具じゃ。これを用いて材料を切って削って社を建てようぞ!」
なるほど、これで作業するんだな。だが……。
「姫、これはちょっと、悪魔が持つには神聖な物過ぎるというか、これで作業するには、辛いと言うか……」
俺が申し訳なく言うと、姫は少し当惑気味になった。
「なんと。そこまで思考が至っておらなんだ……。うーん、私は持てるのじゃが……そういえば、我が同胞でもこれらを持てる者は限られておったな」
姫はそう言って軽く持ち上げているが、悪魔の俺たちには無理だと思うぞ?俺が魔力を全開にして中和したとしても、数分使えるかどうかだ。
てか、こういう時のアドバイザー、アザゼルはどこに行った!今日1日1回も見ていないし、連絡もつかんぞ。
「朱乃、アザゼルがどこにいるかわかるか?」
俺が訊いてみると、朱乃は大きく溜め息をついた。
「アザゼル先生なら『第316回堕天使幹部
呆れ口調の朱乃。316回って、和平が結ばれる前からやっていたみたいだな。まさか、あのコカビエルも!?
「これらの工具について、以前の同僚に訊いてみます。私の故郷には神事の工具について詳しい部署もありましたから」
ロスヴァイセはそう言うと、小型の連絡魔方陣を展開させていた。
さすがはヴァルキリー、誰よりも神事を間近で見てきたであろうことはある!
ロスヴァイセは二三やり取りをすると、魔方陣を消して、俺たちに言ってきた。
「元同僚に専用の術式を教えてもらいました。軍手にその術をかければ、これはの工具ぐらいなら1日手にしても平気になるようです」
それを聞いた俺は、笑顔でロスヴァイセに例を言う。
「ありがとうな、ロスヴァイセ。おかげで工具は問題なしだ」
「こ、これぐらいなら、当然です!」
若干頬を赤くしているのは気にしたらダメなことかな?
「シドウ殿も女性にはお優しいのですな。セラフォルー殿と仲が良いことも頷けるのじゃ」
俺とロスヴァイセのやり取りを見て、姫がそう言ってきたのだが、
「セラと何かあったのか?」
「いやなに、あの後、セラフォルー殿は京都を観光していったのじゃが、行き先々で『次はシドウと~』と言っておったとそうですぞ」
「なるほど、まぁ、話は後で訊こう。姫、次は何だ?」
「うむ!では次は材料じゃ!木材を調達に行くぞ!」
『おー!』
俺を含めた何人かのノリが良いメンバー(イッセー、アーシア、イリナ、ゼノヴィア)が姫に合わせて声を出した。たまにはこういうのもありだろう。
こうして、俺たちは手分けして材料調達をすることになった。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。