リアスとサイラオーグのゲームが終わってすぐのことだ。
ある日の放課後、オカ研に珍しいお客さんが来ていた。
「は、はじめまして!俺、
頭を下げて、元気よくあいさつをしてくれた幸彦くん。そう、珍しいお客さんというのは彼のことだ。
「ええ、ソーナから話は聞いているわ」
朗らかに対応するリアス。すると、イッセーが俺に訊いてきた。
「今、会長の本名を言いましたよね?それって、俺たちのことを知っているってことですか?」
悪魔のことは一般生徒は知らない。ソーナも『
俺はひとつ頷いて、イッセーに返した。
「幸彦くんは、霊剣、神剣の
「初等部にもその手の関係者がいるんですね」
「まぁ、探せばいるもんだぜ?俺もざっくりとしか知らないが……」
ざっくりと、と言ったのには訳があるんだ。俺が基本的にはその手の『異能関係者』とは極力関わらないでいる。
その理由ってのは、ここはあくまでも『リアス』の縄張りだからだ。俺はそこにいる『客分』に近い。ここで何かをする人たちは、基本的にリアスに相談することが多く、会う機会がないからだ。
一応、名前ぐらいは把握しているが、そこまで重要じゃないって思っているのも大きい。
「火照幸彦くん、ソーナから聞いた話だと、いわゆる『デビュー』がしたくてここを訪ねてきたのよね?」
リアスからの問いに、幸彦くんは頷いた。
「俺の家、十二歳になると、通過儀礼として実戦をするんです。その実戦の相手というのが異形の者……八日市だったり、悪魔だったりするんです。兄や姉も俺と同じ歳の頃にはその儀礼をやったんですけど、なぜかうちの両親は俺の番になって消極的になりまして………。俺だけはやらないって言いだして………!」
歳の割に口調が丁寧だと思ったが、その言葉にはかなりの怒気を感じることが出来る。これは、相当溜まってるな。
「で、幸彦くんの兄と姉は神職か何かになっていると?」
俺が訊くと、幸彦くんは頷いた。
「はい。兄も姉も立派に働いております。ただ……」
そこまで言うと、不満顔で口を尖らせる幸彦くん。
「俺、末っ子なので家からも『世間様にご迷惑をかけなければ好き勝手に生きていいよ』とほっぽり出させまして………。通過儀礼もお金がかかるからやらないと言われたんです………。俺の時だけどうでもいいって、酷いと思いませんか?いくら上の兄姉が優秀だからって……酷いっス!」
言葉使いが年相応な感じになってきたな。
だが、俺もいきなり『好きに生きろ』なんて言われたら混乱するだろうな。まぁ、本当に好きに生きてるんだが……。
なんてことを思っていると、幸彦くんが持ってきた竹刀袋が目についた。
「幸彦くん、その竹刀袋は?」
「あ、これですか?」
幸彦くんは、そう言いながら、竹刀袋を取り払った。
その中に入っていたのは一本の刀剣だ。なんとなく古代の刀剣っぽい感じがするが、ひとつ気になることがあった。
あの剣からは、異様なオーラを放っていた。そう、聖剣とか、聖槍とかに近い、悪魔的には絶対に食らいたくないタイプのオーラだ。
「これは神霊剣『
なるほど、日本製の聖剣か。嫌なオーラを感じたわけだ。
「なるほど、聖剣サムライボーイだな」
「それ、日本語が変よ、ゼノヴィア」
「おサムライさんを見るのは初めてです!」
ゼノヴィアがよくわからない言葉を使い、それにイリナがツッコミ、アーシアは感動していた。外国育ちのアーシアには新鮮かもな。ところで、なんだ、聖剣サムライボーイって。
「日本の聖剣といえば、
「ええ、そうですわね」
俺と朱乃副部長がなんてことを言っていると、幸彦くんが言った。
「叢雲ですか?噂だと、何かの事件に巻き込まれて真っ二つに折れたらしいです。修復するために関係者が奔走しているそうっス」
折れた!?マジでか!エクスカリバーもそうだが、伝説の聖剣って、案外簡単に折れるものなのか!?
俺は内心の同様を隠して、幸彦くに訊いた。
「十束剣も有名だが、そんな物をキミに持たせてよかったのか?」
「はい。なんでも『悪用したり、盗まれなきゃ問題なし』って父母に言われました。仮にそうなっても自己責任なので、命懸けでどうにかしろってことみたいです」
なんか自由な一族なんだ!結構大事な物だよな!もっと厳重に保管した方がいいんじゃないのか!?
心の中でそうツッコミを入れていると、ロスヴァイセがリアスに訊いた。
「結局、火照幸彦くんの依頼である『通過儀礼』はどうするのですか?」
ナイスだロスヴァイセ。かなり脱線してしまっていた。いい加減依頼を訊かないとな。てか、依頼ってことは何かしらの対価をもらうってことだよな。小学生から何かもらうってのも酷なものだ。
「お礼ならうちの霊剣やらで良かったら差し上げますよ。さすがに十束剣はあげられませんけど」
なんて軽く言った幸彦くん!そんなあっさりと霊剣をあげていいのか!?
リアスはその返事をうけて、あごに手をやりながら、首を少し傾けていた。
「うーん、お礼はきっちりといただくつもりだけれど、肝心のその通過儀礼とやらをどつやって果たそうか少し考えないといけないわね」
確かに、異形の者との戦闘が通過儀礼ってことは、ここにいる誰かと幸彦くんが戦うってことだ。だが……。
「リアスたちの誰かと言っても、幸彦くんには荷が重いな。多分だが、実戦初めてだろ?」
俺が訊くと、幸彦くんは素直に頷いた。それを見てオカ研は皆して困り顔になる。
仕方がないことだろう。俺含めてリアスたちは修羅場を潜りすぎなのだ。一人一人が強すぎる。失礼たが、幸彦くんでは相手にならない。
「………アーシアに頼むか?」
俺が迷いながらアーシアに視線を向ける。
「はぅぅっ!わ、私が聖剣使いの方のお相手を、ですか!?」
仰天するアーシア。彼女には悪いが、本当にそれしか思い浮かばなかった。
ゼノヴィアがうんうんと頷きながらアーシアの肩に手を置いた。
「アーシア、これも若い剣士のためだ。私たちが相手ではあの子も自信を失うだろう。年上としての力の見せどころだ。なに、フリをすればいいだけだと思うぞ」
「確かにアーシアさんとなら、良い通過儀礼になるかもしれないわね!ああ、アーシアさんの自己犠牲の精神は
「ああ!任せておけ!」
何故かやる気のゼノヴィアとイリナ。言われたらアーシアはハラハラと当惑しながら涙目になっていた。な、なんかかわいそうになってきた!
「俺が全力で手加減してやるってのは?」
俺が助け船を出したが、リアスがそれを制してきた。
「これは私たちへの依頼です。お兄様にもお手伝いを頼むと思いますが、出来るだけ私たちだけで何とか……」
リアスがそこまで言った瞬間、部室の扉が開け放たれた!
「話は聞いたぜ!俺に任せておけ!」
意気揚々と登場したのは白衣姿のアザゼルだ。見たことがないほど輝いた顔をしていた。てか、俺でも気配が探れなかったぞ!気配遮断能力が高まっているな!
アザゼルはずかずかと部室に入ると、力強く言ってきた。
「俺にいい考えがある!」
「「「却下」」」
半眼の俺、リアス、朱乃副部長が異口同音で即否定した。こいつが何かするといいことが起こらない!てか、関わった俺たちが痛い目にしかあわない!
「どうせ、また酷いものでも作ったんじゃないですか?」
イッセーが溜め息をつきながら、そう訊いた。アザゼルはその言葉を待っていたかのような表情になると、何かを取り出した。
「見ろ!これぞ『アザゼルクエスト』の企画書だ!悪魔サイドのゲームフィールド技術を使って、ロールプレイングな空間を制作中なんだよ!悪魔の技術者も嬉々として参加していてな。サーゼクス経由でアジュカ・ベルゼブブ側の関係者から技術提供もしてもらっている!」
イッセーはその企画書を受け取り、パラパラと読み進めていっていた。
今の説明を聞いた感じだと、プレイヤーがレーティングゲームの空間を使用して、冒険するってことか?体験型のロールプレイングゲームってことか。楽しそうだが、アザゼルが関わっている以上、絶対にろくなことにならないだろう。
てか、兄さんもしれっと協力しないでくれよ!俺たちに被害がくるんだからよ!
アザゼルは企画書をもうひとつ取り出して幸彦くんに差し出した。幸彦くんはその中を見て、顔を明るくさせている!ヤバイ!食いついてしまった!
「わっ!いいですね、これ!すっごい楽しそう!魔物とも戦えるんですよね?」
「もちろんだ!仲間と共に旅をして、悪の龍王を倒す体験型RPGだからな!」
「俺!これで通過儀礼を果たしたいと思います!皆さん!どうか、これに参加させてください!」
すっごい輝いた表情してやがる。純粋無垢な眼で企画書を読みまくっているし、これはやるしかない感じかな?
アザゼルが幸彦くんの肩に手を置いて訊く。
「では、少年!後日、このゲームをプレイということでいいかな?」
「はい!お願いします!」
「よし!仲間にしたい三人分の職業をこの企画書から選んでくれ!こっちで手配するからな!」
「はい!うわー、仲間かー!戦士に魔法使いに僧侶に……」
ハハハ………はぁ………。また企画書を読み始めちゃったよ。話が勝手に進んでいるような。ま、いいか。やらなきゃダメなんだし、こうなったら!
「てなわけで、イッセー。おまえが中心になれ」
「ええ、イッセー。任せたわ」
俺とリアスはそう言って、同時に溜め息をついた。イッセーを生け贄にして、俺たちは助かろうってこんたんだ!
「ええええっ!?マジっスか!またですか!?」
俺たちの言葉にはイッセーは仰天しているが、もうお約束みたいなもんだろ?
こうして、アザゼルが開発したというゲームに、イッセーは強制参加となったのだった。
多分、これで俺が参加することはないはずだ!がんばれ、イッセー!
後日、俺がそのゲームに参加することになることを、その時の俺は、知るよしもなかった。
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