グレモリー家の次男   作:EGO

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Extra life 23 騎士と人魚と海賊 ①

修学旅行から帰って来てすぐのことだ。

「……暑い」

俺は独り、太陽照りつける白い砂浜に来ていた。

もちろん休暇というわけではなく、これも大事な仕事のためだ。

本来ならリアスたちが来るか、リアスたちについていくかなのだが、生憎にも、リアスたちは冥界に出没している『偽物退治』に出掛けてしまっており、俺しか手が空いていなかったのだ。てか、行った瞬間に連絡が来るとか何なんだよ!俺もその偽物ってのに興味あったのに!

何て思いつつ、俺はポツンと白い砂浜に突っ立っているわけだ。

日本は秋だっていうのに、こっちは夏だとか、寒暖差で体調崩すぜ、まったく。

「………はぁ」

俺は深いため息をしながら、仕事を開始するために移動した。

 

 

 

 

 

 

移動すること数分、砂浜から少し進んだ場所にある岩礁に到着した。

俺的には、砂浜よりも岩礁の方が好きだな。潮溜まりとかにいる魚を見たりするのが好きなんだ。

何てことを思いつつ、移動した場所に人影が確認できた。

上半身は人間と同じだが、下半身は魚のようになっている。つまり、俺の前にいるのは人魚というわけだ。

まぁ、魚に人間の手足が生えた人魚もいたりするから、そっちしか知らないやつもいるかもな。

「あんたが保護を求めているヒトだな?」

俺が訊くと、その人魚は緑色の長髪を指でいじりながら、恥ずかしそうに頷いた。

「は、はじめまして。リリティファ・ウェパルです」

かわいらしい声で自己紹介をしてくれたリリティファ。似たような名前の知り合いがいた気がするが、まぁ気にすることでもないだろう。

「俺はシドウ。シドウ・グレモリーだ。ウェパル家が存続してくれていて嬉しいよ」

俺はそう言いながら彼女に笑顔を見せる。

ウェパル家は元七十二柱(ななじゅうふたはしら)の一族だが、既に断絶してしまっていたのだが、こうして末裔が発見されたわけだ。

兄さんはこのようなケースがあれば、その末裔の保護、もしくは接触するように人間界に住む悪魔に呼び掛けており、それが人間界に住む悪魔の役目みたいなものになっている。

そんな大事な仕事を俺がやっているのかと言うと、俺がセラの、レヴィアタンの眷属だからだ。一応、セラは外交担当で海域にも精通している。なので、その末裔が海に住んでいるのであれば、セラ、もしくはソーナが動くのだが二人とも忙しい。ならば、リアスに頼もうとなったらしいが、彼女もちょうど出掛けた。で、レヴィアタン眷属の俺が暇をしていたから、それでは彼にとなったらしい。

「それじゃ、いくつか質問をさせてもらうぜ」

「はい」

リリティファの返事を聞いた俺は、マニュアルを片手に質問を始めた。

存続できなくなったあと、どうやってこれまで暮らしてきたのか。現悪魔業界をどう思うか。生活面での不満、不便はあるかなど、できるだけ細かく聞いていき、彼女もそれに真摯に答えてくれた。

「そんじゃ、最後だ。現在、不安に思っていることは?」

俺がそれを訊いた瞬間、リリティファの表情が曇った。これは、問題ありのようだ。

「何かあるなら言ってくれ。できる限りの対処をさせてもらう」

俺ができるだけ優しく言うと、リリティファは口を開いた。

「……え、えっと………実は……怖いヒトに脅されてまして………」

もじもじしながら、そう口にした。なるほど、脅されてるのか。

「怖いヒト?それはいったい……」

俺が訊こうとすると、俺たちの周辺に黒いモヤ、霧のようなものが発生した。

これは、魔力で発生させているのか。

霧からの魔力を感じたリリティファが「……いや」と震えだした。

周囲を警戒している俺の耳に、奇っ怪な音が聞こえてきた。

ゴゴゴゴゴゴ………。不気味にきしむ音が辺りに木霊しはじめた。

『見つけたぞ、ウェパルの人魚』

不気味な声と共に、霧の奥から大型の船が現れた。

見た感じだと、海賊船だ。ボロボロだから幽霊船にも見えるが、たいした違いはないだろう。

その海賊船は岩礁近くに停留した。

「我こそはキャプテン・グラッグ!」

船首に身を乗り出して吼えたのは海賊が着ていそうな服に身を包んだ、チョウチンアンコウのような顔をした怪人。左眼に眼帯をつけているが、本当に潰れているのかどうかはわからない。手にはサーベルを持っているようだ。

船の大きな帆には魔方陣が描かれている。あの魔方陣は確か……。

「フェルネウス家の紋様か。あっちも上級悪魔ってことか。リリティファ、あんたも苦労してるんだな」

「は、はい……」

フェルネウスは俺たち同様の元七十二柱に連なる悪魔だ。今日はその手のヒトに縁があるようだな。

にしても、怪物顔の悪魔に会うなんていつぶりだろうか。

俺がそんなことを考えていると、フェルネウスが下僕を引き連れて、堂々と物申してきた。

「ここが我がフェルネウス家の領域と知っての狼藉か!?反応からすると、我らと同じ悪魔だな?」

本当に俺の知名度は低いようだ。何だろな、知られてないってこういうときに面倒だ。

俺が悪魔とわかっても態度をあまり変えなかったが、部下の一言で表情を変えた。

「キャプテン!この魔力の質は上級悪魔のものですよ!」

それを聞いて俺の髪を見てくるフェルネウス。赤く光る目を細めた。

「うぬぬぬぬ。紅い髪………グレモリーか………。グレモリー家の者とお見受けする。これは失礼した。私はフェルネウス家のグラッグ・フェルネウス」

俺がグレモリー家の者と知った途端に態度が変わったが、俺も名乗らないとな。

「察しの通り、グレモリー家の次男、俺はシドウ・グレモリーだ」

グラッグはそこまで聞くと「フン」と鼻息をあげた。

「ふむ。なるほど。だが、そちらの人魚は私が捜索していた者なのだ。話し込んでいるなか申し訳ないが、引き渡してもらえぬだろうか。今日こそはその者を我が眷属に迎えようと思うのだ。ぐふふふふ」

名乗っていないとはいえ、こちとらレヴィアタン眷属だってのに、堂々としているもんだな。にしても、下品な笑い声だ。渡したら絶対にろくなことにならない。

「………怖いです」

リリティファは俺の背後に隠れた。どんだけ脅されたんだよ。

俺はリリティファを庇いながらグラッグに言う。

「フェルネウス家は語学に秀でていると聞いていたが、何事にも例外ってのはあるんだな。何で俺に仕事が回ってきたか、何となく理解できたぜ」

俺はそう言うとわざとらしく息を吐いた。

こんなやつにリリティファの保護を任せられるかっての。

にしても、こんなところで仕事はやれているのか?近くの島民相手に契約してまわっているのかもしれんな。もしくは、海賊らしく剥奪とかをしているのか………。

俺の先程の言葉が(かん)に障ったのか、怒り心頭なグラッグが歯をむき出しにした。

「言わせておけば……!他人(ひと)様の縄張りに土足で踏み込んでその態度とは……!」

あー、もう面倒くさい!こうなったら、名乗ってやろうかな!あんまり、セラの名前で解決はしたくないんだけど、早く帰って何か冷たいもの食べたい!

俺がそう思慮していると、取り巻きの下僕悪魔がグラッグに言った。

「キャプテン!あの方、グレモリー家でも謎が多いシドウ・グレモリーですよ!あの、ルシファー様の劇にも出てくるものの、影が薄い、あの方です!」

「…………」

俺はその下僕悪魔の言葉にショックを受け、無言で口の端を引きつかせた。『謎が多い』とか『影が薄い』とか言うなよ!結構気にしてるんだからよ!

「そして、『乳龍帝&スイッチ姫と七人の愉快な仲間たち+α』の『+α』ッス!」

なんか大変なことになってるぅぅぅ!?なんだその長ったらしい呼び名は!『七人』がリアスの眷属で『+α』が俺とイリナか!?てか『+α』で片付けられたっ!

グラッグはそれを聞いてうんざりした態度になりながら言う。

「その脇役が私の獲物を横取りしようというわけか」

カッチーン!いい加減頭きた!こいつらをぶん殴ってでもリリティファを連れていくぞ!

「脇役言うな!こちとら必死に頑張っているんじゃい!」

俺が怒気を込めながら言うと、グラッグが叫んだ!

「そのウェパル家の者は私が先に目をつけたのだ!」

「知ったことか!リリティファは連れていく!俺が何としてでも守る!」

俺とグラッグが睨み合っている時だ。

ザッパーン!と、海が大きく水柱を立てた!何事だよ!って、何かが飛び出してきてる!?これ以上問題を増やさないでくれ!

海中から飛び出してきた何かは、空中で何回転もしてから岩礁に降り立った。

現れたのは頭に王冠、手には三叉の矛を持った、ふんどし姿のヒゲオヤジ!

「海で喧嘩はいかぁぁぁぁぁんっっ!」

この一帯に響き渡るほどの大声を張り上げた!くそっ!耳が、耳がぁぁぁぁぁっ!

「何者だ!」

グラッグが指を突きつけると、ふんどしヒゲオヤジは手に持った矛を器用にくるくると回して豪快に笑った!

「ふははははははははっ!天にゼウス、冥府にハーデス!誰が呼んだか、海の帝王!そう!我こそはぁぁぁぁぁっ!海を愛し、海に愛された男ぉぉぉぉぉぉっ!海の守り神、ポセイドォォォォォォォォンッ!」

『ポセイドン!?』

そう名乗った男以外の、この場にいる全員が驚愕の声を発した。

「ポ、ポセイドン様!?ど、どうして、ここへ!?」

「ふははははははははっ!海は我が領域!各神話体系を相手にテロ活動が頻繁になる昨今!パトロールは当然なのだぁぁぁぁあああっ!」

「神自ら!?」

俺が驚きながらもそう返すと、ポセイドン様は少し怒気を込めながら俺たちに言ってきた!

「神だって、安全パトロールぐらいする!偶然ここを通りかかったら、悪魔同士のいざこざを発見したのだぁぁぁっ!仲間内で喧嘩なぞ、いかん!いかんぞぉッ!」

そう言いながら矛を振りかざすポセイドン。元気な爺さんだな……。

俺が苦笑していると、ポセイドン様は話を続けた。

「よくわからないが、そちらの人魚を巡って喧嘩をはじめたのだな?よぉぉぉぉぉしっ!それなら悪魔らしくゲームで勝負をつけたらいいではないかぁぁぁぁぁいっ!」

「「ゲーム!?」」

俺とグラッグはその提案を受けて驚愕した!

グラッグは突然言われたからだろうが、俺は独りでやるからだ。この爺さん、人数数えてんのか!?

「あの~、俺、独り何ですけど……」

俺が言うと、ポセイドン様は豪快に笑って俺の頭を撫でてきた。

「細かいことはいいではないか!貴様ならやれるやれる!勝負はこのポセイドォォォォォォォォンが見届け人として仲介してやろうどはないかぁぁぁぁっ!いざ、尋常にゲームで人魚をゲットしろぉぉぉぉっ!ふははははははははっ!」

くそっ!休日ぐらいのんびりしたかったのによ!どうしてこう、俺と女性が二人になると問題にぶち当たるのか。

「キャ、キャプテン!とんでもないことになってきましたよ!どうするんですか!?」

向こうも混乱しているようだ。この状況なら仕方ないか……。

「うぬぬぬぬ……!ポセイドン様まで登場されては引くにも引けんし、引く気もないのだが……!よーし!」

向こうは覚悟が決まったようだ。

「グレモリー家の脇役!そのウェパル家の娘をどちらが手に入れるか勝負といこうではないかっ!」

やれやれ……ここまで来たら引けないか、まぁ、こっちも引く気はないが。

「上等だ!脇役、舐めんなよっ!」

俺は右拳をグラッグに突き出しながら宣言した!

「………私、どうなるんでしょうか?」

俺の後ろから不安そうな声が聞こえてきたので、俺は振り向いて笑みを浮かべ、リリティファにだけ聞こえるように言った。

「安心しろ。あんたは俺が守るし、あんなやつに負けねぇよ」

こうして、俺とグラッグの一戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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