修学旅行に行く少し前のことだ。
俺、シドウとソーナは、ゼイメファに呼ばれてセラの執務室に来ていた。
「セラ、オフなのはいいが、自重してくれ」
俺が呆れ気味にそう言ったのには訳がある。セラが人間界の魔法少女のアニメにハマってあるのは知っていたし、今に始まったことではないのだが……。
「やだやだやだぁぁぁっ!何としても行きたいのよぉぉぉぉっ!」
「お姉様、わがままを言わないで下さい」
「マスター、お二人もこう言っているんですから……」
「嫌だぁぁぁっ!」
こんな感じなのである。何でもそのアニメの実写化に伴ってオーディションが行われるそうなのだが、セラはそれに行きたいらしい。
オフだからいいのではとも思ったが、現在セラは
それが俺たちの意見なのだが………。
「オーディションに行かせてくれなかったらもう仕事しないぃぃぃっ!」
「「「ッ!?」」」
セラの言葉に俺たち三人は部屋の隅に集まり、小さめの声で話し合う。
「どうする?このままいったらマジで仕事しなくなるぞ」
「それはわかっていますが、下手にお姉様とそのはぐれ魔法使いを接触させると、それはそれで大変なことになります」
「しかし、マスターに職務放棄をさせるわけにはいきません」
「はぁ……どうするかね」
俺が大きめの溜め息を吐くとセラが俺たちに叫んできた。
「もう書類選考は通っているのよ!」
「「「………はぁ!?」」」
三人して少し理解するのに時間がかかったが、同時に間抜けな声をあげた。セラのやつ、ここまで用意周到なのかよ!
ゼイメファが言う。
「こうなったら、ソーナ姫。あなたもそのオーディションに参加してください。そうすれば近くでマスターを守れます!」
何か血迷い始めたゼイメファ。俺もそれでいいような気がしてきたよ。
「ソーナ、頼めるか?てか、頼む」
「………わかりました。私一人では限界がありますから、私の眷属と、リアスたちにもお願いさせてもらいます」
「本当に!ありがとうソーたん!そう言うと思ってソーたんと、ソーたんのところの子達の分、リアスちゃんたちの分の書類も送ってあるのよ!」
「これは、無理ですね。逝くところまで逝ってしまいましょう」
「ソーナ、字が違う気がするぞ」
「そうですかね………」
ソーナは完全に諦めムードだ。めっちゃ雰囲気が暗くなっている。まぁ、こうなったセラには俺でも勝てないからな。
「あ!そうだった!」
セラはそう言うと部屋の奥に消えていった。
俺たちが首を傾げていると、セラは何かを持って戻ってきた。
セラは何かの衣装を俺たちに見せてきた。
「これがソーたんの衣装よ!私と色違いのお揃いなの!」
それを聞いた瞬間、ソーナが両膝をつき、両手で顔を覆いながらプルプル震え始めた。
「シ、シドウ様……わ、私は……」
声も震えている辺り、かなりのダメージのようだ。これは重症だな。
俺はソーナの肩に手を置きながら言う。
「がんばれ。リアスたちも巻き込まれてるんだ。被害者はおまえだけじゃないさ」
ソーナはコクリと頷き、その衣装を受け取った。
「それじゃ、移動するか」
俺が立ち上がり部屋を出ようとすると、セラが俺の手を引いてきた。
「まだ何かあるのか?」
セラは満面の笑みを浮かべながらもう一つの衣装を見せてきた。今度は黒色に腕や袖、裾に青いラインの入ったロングコート?
「こっちはシドウの分よ!オーディションは主役のヒロインだけじゃなくて、その相手つまり『ヒーロー役』のオーディションも同時なの!」
俺はそれを聞いて冷や汗をかき始めた。セラが『ヒロイン』でその『ヒーロー役』。
そこまで考えると、俺は祈りながら訊いてみた。
「………つまり、俺も?」
「うん!」
即答で答えたセラの目に星マークが見えた。すごいご機嫌そうだ。
「お二人とも、頑張ってください!」
ゼイメファはそう言うと足早に退室していった。同時に俺は両ひざをついた。
「嘘だ………嘘だこんなことぉぉぉっ!」
俺は叫びながら土下座をするようにうずくまった。
もうこれ以外、何も言えない。
「…………と、いうわけなんだ。リアス、頼む」
「リアス、お願い。私たちと一緒にオーディションに参加してちょうだい………私は耐えられないわ。けれど、あなたとなら、きっと……」
兵藤宅のVIPルームで、俺とソーナはリアスたちに頭を下げていた。
俺たちは緊張しながらリアスの答えを待っていると、リアスは大きく息を吐いた。
「お兄様、ソーナも顔をあげて。わかりました。私もオーディションに参加するわ」
「本当か!ありがとう、本当にありがとう!」
「……リアス。ありがとう……」
俺は心のそこからの感謝をリアスに送り、ソーナも目元をうるうるさせながらリアスに礼を言っていた。
「百合百合だわ!ソーたんとリアスちゃんの百合百合だわ☆」
セラにはいい加減、本当に自重してほしい。
そんなことを思っているとイッセーが訊いてきた。
「………で、俺たちもですか?聞いた感じだとその『ヒーロー役』ってのもやるんですよね?」
「ああ。俺と木場、イッセー、匙。この四人はそっちに参加だ」
そう答えると、三人が大きく狼狽えた。
「俺たちが参加する意味ってあるんですか!?」
「悪魔になってから、本当に退屈しないね……」
「俺も……何で?」
三人がそれぞれリアクションをしているが、すでに決まったことだ。
「セラのこれは今に始まったことじゃないからな……本当にすまん」
俺は改めて三人に頭を下げた。
「シドウさん。わかりました!俺たちも俺たちなりに頑張ってみます!」
イッセーが胸を『ドン』と叩きながらそう宣言してくれた。本当に頼もしいやつだ。
「イッセーくんだけにやらせられないね。僕も参加させていただきます」
木場がイッセーに続いて言ってくれた。
「こうなったらやけくそです!行けるところまで行ってやりますよ!」
匙も答えてくた。
俺は顔を上げて笑顔を作ると三人に言う。
「おまえら、本当にありがとうな」
こうして、俺たちは『魔法少女ミルキー』の『ヒーロー役』のオーディションに参加することになったのだった。
②に続く…………。
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