目を覚ました俺、シドウのは上体を起こして周りを確認する。
設備を見た感じだと救護テントのようだが、また気絶したんで担ぎ込まれたか?
「シドウ、起きたかしら」
と、言いながら入ってきたのはセラだ。手に何か持っているようだが……。
「ああ、何とかな」
右手を挙げてそう答えると、セラは何かを差し出してきた。差し出してきたのは何かの箱だ。てか、バスケット?
「なぁ、なんだこれ」
俺が訊くとセラはドヤ顔しながら言ってきた。
「私手作りのお弁当よ☆」
…………くそ、今日は厄日だ!絶対にそうに違いない!
俺が固まっているとセラはお弁当箱を開けて中を見せてくる。中身はサンドイッチ三切れとおかずがぎっしりと詰まっている。パッと見た感じは普通だ。そう、『見た感じは』。なぜかセラは形はキレイなのに味が壊滅的という謎の料理を作ることができるのだ。ソーナもそうでないことを祈る。
「ほら、食べて食べて☆」
「アッハイ」
セラから割り箸を受け取りおかずを観察する。見た感じだは唐揚げと卵焼きだ。
「………………」
セラはじっと俺を見つめてくる。早く味の感想を聞きたいんだろう。
いくしか、ないよな……。
俺は意を決して唐揚げを口に放り込んで噛み締める!
………あれ、旨い!いつもだったら苦味とかわけのわからない味が口に広がることがあるんだが、これはまともだ。
「なかなか旨い」
「本当!じゃあ、次は卵焼きね☆」
セラは上機嫌になりながらそう言ってくる。唐揚げが大丈夫なら、そっちも大丈夫なはずだ。
卵焼きをつまみ上げ、口に放り込んで噛み締める。
うん、旨い。今回は当たりだったようだな。
「こっちもいけるぞ。味付けを変えたのか?」
「ふふ、そんなところよ」
へ~、俺がいない間にセラも成長していたのか、良かった……。
てなわけど、今まで手をつけていなかったサンドイッチを一気に食べる。
うん、こっちも旨い。セラはいつの間にか料理が上手くなったようだな。いや~良かった。さすがに毎食あれは辛いからな。
などと思いつつ、最後のサンドイッチを噛み締めた瞬間、俺の口の中に広がったのは……辛さとしょっぱさ、そして痛みだった!吐き出そうにもサンドイッチはすでに喉の奥で手遅れだ。飲み込むしかない……!
くっそ、な、なんだこれ!?何でサンドイッチの一枚だけがこんな味なんだよ!?
俺は様々なダメージに耐えながらセラに訊く。
「セラ、中身は何だ?」
「………訊かないほうが良いわ」
セラはそう答えるとこう付け加えた。
「いちおう、グレイフィアのメニュー通りに作ったはずなんだけど……手を加えすぎたかしら?」
それ、メニュー通りって言わない!自己流って言うの!
俺は腹を押さえながらセラに言う。
「手を加えすぎだ。メニュー通りに作ってくれ、本当にぃぃぃぃ!」
急に腹が痛くなってきた!何なんだよ!俺が何をしたっていうんだよ!
「セラ、すまん。手洗いに行ってくる!」
俺はそう言った瞬間にスタート、トイレに駆け込んだ!
し、死ぬかと思った。今日は殺人料理を食ってばっかりだな。
そんなことを考えながらトボトボ歩いて時計を確認する。午後の部まではあと十五分程か。やれやれ、ひどい目にあった。
そんなことを考えている俺の目に、パンが並べられたトレイが置かれた机が映った。
『ご自由にお取りください』
机にはそう書かれた札が一緒に乗っていた。見た感じだと支給品か何かなのかもしれない。
セラには悪いがお口直しでもさせてもらおう。
パンを手に取り、念のため確認。パッと見は普通のパン。割って中を見てみても何もない。臭いも大丈夫そうだ。うん、食べても大丈夫だな。
手に取ったパンを口に持っていき、そして噛みちぎる。
何回か咀嚼して飲み込む。味も問題なし。
そのまま一個を食べきると、次のものに手を伸ばす。
セラの件があるので再び確認して、大丈夫……だよな?
一度ペロッと舐めてみる。臭みとかはない。うん、大丈夫。
二個目のパンを一口噛んだ瞬間、俺の口と鼻に再びあれが襲いかかった!これは、例の殺人パン!?
片ひざをつき、素早く口に含んだパンを吐き出すが、口の中が気持ち悪い……。
「はっはっ!引っ掛かったな、リッパー!」
突然聞こえた第三者の声、見ると少し顔色が悪いアザゼルが満面の笑みを向けてきていた。
「テメェか……!何してやがるんだよっ!」
「実行委員会の連中がな、そのパンの処理は後で決めるからとりあえず、ここに並べておこうってことになったんだ。それに俺がその札を置いて、いくつか普通のパンを紛れ込ませておいたのさ!」
「不正もいいとこじゃねぇかよ!そこまでして勝ちたいか」
「ああ、勝ちたいね」
アザゼルはそう言うと踵を返してどこかに逃げようとする。あの野郎ぉぉ、逃がすか!
俺は自分が落とした殺人パンを持ち立ち上がるとアザゼルに叫んだ!
「アザゼルッ!」
「あ?」
「死ねぇぇぇぇぇっ!」
アザゼルが振り向いた瞬間に俺はありったけの力を込めてパンを投てき。それは吸い込まれるようにアザゼルの口に入った!
「むごっ!?」
アザゼルが驚いている隙に一気に接近、そして……。
「チェストォォォォォォッ!」
パンを押し込み、無理やりアザゼルの口を閉じさせる!
「ぐっ……ごぼ……」
アザゼルは涙目になりながらも仰向けに倒れこみ、俺も倒れこんだ。
「テメェも道連れだ……」
そう言い残して俺は再び意識を失った。
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