「シドウ!召集がかかったわよ!」
パン食い競争の勝利の報酬として膝枕をさせてもらっていた俺はセラの言葉で目を覚ました。
「あ、ああ。ありがとうな」
まだ若干気分が悪いが、それを我慢して起き上がるとふらつく足取りで集合場所に向かう。
何か各陣営の応援席がピリついているんだが、俺が寝てる間に何があった?
はい、到着。回りには足が速そうな選手ばかりだ。ひとつだけ言えることがある。たぶん今回は勝てない。
「おい見ろ、シドウだ。あいつ、もう復活したのか?」
「総督ですらまだ回復しきっていないというのに、化け物か……!」
堕天使が小声で言うそれを聞いて、俺はうなだれながら膝に両手をついて、肩で呼吸していた。そんな俺にどこからか心配の声がかけられた。
「シドウさん、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ?」
俺は顔をあげて確認すると、声の主はイッセーだった。
「まぁ、大丈夫……かな」
なんて強がってみだが、あと三時間ぐらいゆっくりしてないとまた倒れる気がする。
何てことを思っているうちに競技はスタート。今回は中盤なため初見殺しの謎トラップには引っ掛からなそうだ。まぁ、全部が全部あんな競技だったらやってなれなくなる。
その後、何事もなく進行していき、ついに俺の順番となってしまった。どうやら、イッセーとも同じなようだ。
『位置につて、よーい……ドン!』
てなわけで、ダッシュ!やべ、吐きそう……。
突然動いたせいなのか、吐き気に襲われた俺は大きく減速、最下位になってしまった。ダメージが大きすぎる!
『おーっと!パン食い競争では「唯一のゴール者」のシドウ・グレモリー選手が出遅れたぁぁっ!これは先程のダメージが残っているのかぁ?』
実況が俺を煽ってくるが、マジでそれどころじゃない……。
って、唯一のゴール者?あれからゴールしたやついないのかよ……!俺が頑張った意味は!?
俺は懸命に足を動かし、封筒のある場所にたどり着く。
他の選手は動き回ってはいるが、どうやら答えにはたどり着けてないようだ。
それを確認しながら封筒を拾い上げようとするが、前屈みになっただけで吐き気がすごい。これは、本当にヤバイです……。
俺は他の選手とではなく、吐き気と戦いながら封筒を開けて中の紙を確認する。
「うっ……!」
紙を確認したと同時に吐き気に襲われる俺。それをどうにか抑えて改めて確認する。
『銀髪の女性』紙にはそう書かれていた。
………銀髪の女性か。だったら義姉さん……はどこにいるんだ?とりあえず、一刻も早く休みたい。
俺は義姉さんを探してキョロキョロしているが、全然見つからない。若干視界がぼやけて遠くまで確認できないな……。
そんな俺の視界に銀髪の女性が映った。そうだ、あいつもそうだったな。
『おーっと、ここで兵藤一誠選手がぶっちぎりでゴールしたぞぉぉぉっ!』
そうか、イッセーが。ここまで来たら俺も頑張らないと……!
「すぅぅぅぅぅ……ふぅぅぅぅぅ……」
俺は一旦大きく深呼吸をして、一気にその女性に向かって走り出す!
テントの前まで移動して、その銀髪女性、ロスヴァイセに手を差し出す。
「ロスヴァイセ、すまないが、ちょっと付き合ってくれ……」
「わ、私ですか!?……わ、わかりました」
彼女驚きながらもは俺の手を掴んでくれた。これでよし……あとは……。
ロスヴァイセの腕を引き、そのままゴールに向かって走り出すが他の選手に少しだけリードされてるな。
「ロスヴァイセ、すまん」
「え?」
前もってロスヴァイセに謝ってから彼女の体をお姫様抱っこの要領で抱き上げる。
「え!え!?」
ロスヴァイセは驚愕しているが、俺は足を踏ん張ってダッシュの態勢に入る。
『シドウ・グレモリー選手、銀髪女性をお姫様抱っこしたぞ!これは何事だ!』
実況には構わずに俺はスタートして、一気に加速。その勢いのままゴールに向かう。
途中で強烈な吐き気に襲われるが、懸命に耐えてゴールに突っ込む!
『シドウ・グレモリー選手、二着でゴールだぁぁぁ!このレースは悪魔が一位と二位を独占したぞぉぉぉ!』
「ロスヴァイセ、ありがとうな」
「は、はい……」
実況が盛り上がっているなかで、俺は精一杯の笑顔でロスヴァイセに礼を言った。ロスヴァイセが顔を赤くしながらも返答してくれたところで、俺は再び意識を失った………。
-------------------
俺、イッセーは無事にゴールすることが出来た。ちなみにお題は『シスコン』だ。なのでサーゼクス様にお願いすることでスピードゴール出来たわけだ。
この事実は墓の中まで持っていく覚悟を決めたところで
シドウさんがロスヴァイセさんを抱っこしてゴールに突っ込んできた!
『シドウ・グレモリー選手、二着でゴールだぁぁぁ!このレースは悪魔が一位と二位を独占したぞぉぉぉ!』
実況がそう叫ぶが、やった!俺とシドウさんとでトップを独占だ!
「やりましたね!シドウさ……」
「きゃ!」
俺の言葉を遮ったのはロスヴァイセさんだ。シドウさんが仰向けに倒れてしまったようで、ロスヴァイセさんがシドウさんに覆い被さるようになっていた。
サーゼクス様が言う。
「シドウ、無理させすぎかな?ちょうどお昼休憩だ。担架を頼んでくるから待っててくれ」
「わ、わかりました!」
俺とサーゼクス様で話し終えるとシドウさんに目を向ける。
「シドウさん……」
ロスヴァイセさんが顔を真っ赤にさせながら動かないでいた。むしろくっついているような……?これじゃシドウさんを動かせない……。
「あの~、ロスヴァイセさん?」
「…………」
俺が声をかけても無反応だ。本当にどうしよう……。
迷っている俺の横を通りすぎる人影が、魔法少女の格好をした女性、レヴィアタン様だ!
「ロスヴァイセちゃん!いつまでくっついてるつもりよ!」
「え?あ!す、すみません!」
ロスヴァイセさんは慌ててシドウさんから離れた。さすが魔王様、凄まじい迫力です!
「もう、ロスヴァイセちゃんばっかりズルいんだから!」
本音が漏れてますよ!シドウさんを早く運びたいとかじゃなくて、早くくっつきたいってことですか!?部長から仲が良いってことは聞いてるけど、ここまでなんですか!?
その後、無事にシドウさんは運ばれてしばらく戦線離脱。俺たちもお昼休憩になったのだった。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。