ライザー立ち直り作戦を開始するために俺たちはフェニックス城を訪れていた。規模としてはグレモリー城と同じくらい、つまりとてつもなくデカイ。
フェニックスの涙で稼いでいるだけはあるな。
城門が重い音を立てながら開いていき、俺たちは中へ進んだ。
庭園を抜けて居住区に出る。その扉の前にはドレス姿のレイヴェル嬢と使用人数人が待っていた。
「ごきげんよう、ようこそフェニックス家へ」
あいさつをしてくるレイヴェル嬢に俺たちは礼を返す。
「ごきげんよう、出迎えありがとな」
「ごきげんよう、レイヴェル。確か、ライザーはこの区画に住んでいたわよね?」
リアスが訊くが、どうやら来たことがあるようだ。また俺が任務に出たあとに来たことがあるのかもしれない。
何て考えているうちにリアスたちは奥に進み始めた。俺も遅れないように後に続く。
にしても本当に広い家だ。豪華なシャンデリアとか絵画とか像とか、グレモリー城にひけを取らない。
「これはリアス様。お久しゅうございます。それと、久しいな、赤龍帝」
第三者の声。探してみると階段の上に顔を半分を仮面で隠した女性が立っていた。うん、誰?
その女性は俺に視線を向けると首を傾げた。
「リアス様、そちらの方は?」
「この人は……」
「俺はシドウ・グレモリー、リアスの兄だ」
リアスの言葉を遮って名乗る。すると彼女も名乗ってきた。
「これは失礼いたしました。リアス様のお兄様でしたか。私はライザー様の
本当に俺の知名度って低いんだな。兄さんとリアスが有名すぎて俺が埋もれてるのかな?任務の都合上、十年近く表舞台に立つこともなかったから仕方ないか。
「主はこちらです。ついてきてください」
イザベラの先導で進むこと十分。この城、本当に広いな。初見で迷ったらキツいかも……。
何てことを考えていると、ライザーがいると思われる部屋の前に到着。部屋の扉には火の鳥を模したと思われるレリーフが刻まれている。
レイヴェル嬢が扉をノックする。
「お兄様、お客様ですわよ?」
……反応がないな、この時間から寝てるのか?と、思っていると中から声が聞こえてきた。
『……レイヴェルか。今日は誰とも会いたくない。嫌な夢を見たんだ……。とてもそういう気分じゃない』
なかなか重症のようだ。だが、レイヴェル嬢は慣れているのか気を取り直して言った。
「リアス様ですわ」
レイヴェルの発言から一拍開けて中から何かを落とす音が聞こえた。何か飲んでいたのかもしれない。
『リ、リアスだと……?』
明らかに狼狽えているライザー。俺たちは予想外の客ってわけだ。俺に関してはライザーが知っているかもわからないが……。
リアスは扉の前に立ち、中にいるライザーに言った。
「ライザー。私よ」
『……今さら何をしに来た、リアス?俺を笑いに来たのか?それとも赤龍帝との仲睦まじい話を聞かせに来たのか?』
通常のトーンがわからないから何とも言えないが、低いように思える。恨めしいとも思っている声音だ。
「少し、お話をしましょう。顔を見せてちょうだい」
リアスがそう言うが、ライザーの返答は……。
『断る!振った男に何を言うというんだ!それに、俺はあの時のことを思い出したもない!』
開ける気配なし。仕方ないな……。
俺はライザーには聞こえないように小声で全員に言った。
「早速いこうか、戦争での知恵」
「戦争での知恵……交渉術ですか?」
レイヴェル嬢が訊いてくるが、俺は首を横に振る。
「いや、それはその担当がすることだ。俺は行動担当だったからな」
「それでは何をするつもりですか?」
「扉を開ける方法は様々だ。中にいる奴が開ける気がないのなら……」
俺は扉を正面に捉えながら後ろに下がり、右足首を回して準備をする。捻挫とかしたくないんでね。
俺を見て察したのかリアスがライザーに告げた。
「ライザー!扉から離れて!」
『な、何を言っている。外で何をしているんだ?』
「開かない扉はない!いくぜ!」
俺は駆け出しその勢いのまま……。
「開けゴマってな!」
扉に蹴りを放ち、開け放……。
「ブギャァァァァ!」
勢いよく開かれた扉に弾かれて吹っ飛ぶライザー。フェニックスだから死にはしないと思う。
「いきなり何をする!」
鼻血を出しながら俺を睨むライザー。うん、だいぶキレてるな。
俺が蹴破った扉からレイヴェル嬢とリアス、イッセーが入ってきた。
「シドウ様、何をしているんですか!」
「お兄様、この扉は誰が直すのですか?」
「シドウさん、これはいくらなんでも……」
怒るレイヴェル嬢、威圧してくるリアス、若干引いているイッセーが俺に言ってきた。その反応、予想通りだ。
「まあまあ、入れたんだから……」
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!」
俺の言葉を遮って情けない声が部屋に響いた。声の主はライザーであり、イッセーを見て
俺はむしろ安いベッドのほうが寝やすいんだよな。十年間硬いベッドで寝てたから柔らかすぎると変な感じするんだよ。
俺はそんな事を思いながらライザーに近づいていく。
「ライザー、ほら出てこい。おまえは完全に包囲されているぞ」
「貴様、ふざけているのか!?それよりも何者だ!」
そう言いながらベッドから顔を出して俺を見てくるライザー。さっきまでとは違って元気に睨んできた。
「俺か?俺はシドウ・グレモリー。リアスの兄だ」
それを聞いたライザーは驚愕しながら言ってきた。
「シドウ・グレモリー……まさかあのシドウ・グレモリーですか!?」
あれ、知ってる感じ?ここまで来たら全員知らない方が俺も割り切れたのにな。
「俺のこと……」
「失礼しました!まさかあなたとは知らずに!」
急に改まって礼をしてくるライザー。そんなライザーに訊く。
「俺のこと知ってるのか?」
「はい!ここに呼んだ領民には戦争を経験した者も多く、彼らからお話を聞いたものでして。『現レヴィアタン様をお助けするために単身コカビエルに挑んだ男』だと」
うん、全部あってる。そっか、あの作戦の生き残りがフェニックス領にいるのか。たぶん、そいつはリアス関連でこうなったから話したって感じなのかな?
「しかし、リアスから長らく行方不明と聞いていたのですが……」
ほうほう、気になるのか……だったら!
「聞きたかったらとりあえず着替えて俺たちについてこい。詳しくはそこで話してやるよ。コカビエルの一件もな」
「本当ですか、少々お待ち下さい!着替えてまいります!」
ライザーはそう言うと奥に消えていった。よし、計算通りだ。
ドヤ顔する俺にリアスが訊いてくる。
「お兄様、これも作戦ですか?」
「ああ、何かに興味を示したらそれを利用する。こっちに優位に動くように誘導したんだ」
俺はそう言うとイッセーに訊く。
「イッセー、連絡は出来てるんだよな?」
「はい、バッチリです!」
「ならオッケーだ。よし、では始めようか。ライザー立ち直り作戦を……」
『はい!』
俺の言葉に全員が返したところでライザーが戻ってきた。
「シドウ様、早速参りましょう!」
ライザーはさっきまでの恨めしさを一切感じない程元気になっていた。これは案外すぐに立ち直らせることが出来そうだ。
俺たちはライザー立ち直り作戦を次の段階に進めるために移動を開始した。
③に続く………。
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