シドウが冥府を落としてから二ヶ月がたった。一時的にギリシャ神話勢力との間に誤解があったが、それもセラフォルーたちとギリシャ神話の主神ゼウスの協力で収まり、その当事者であるシドウは……。
「え~、長々と話すのは嫌いなので単刀直入に言わせてもらう。急にいなくなって悪かった!」
頭を下げていた。
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俺、兵藤一誠の高校最後の夏休みも終わり、二学期に突入した。夏休みの間にサーゼクス様から
校長先生の話が終わると、進行役の先生が言った。
『こんなタイミングですが、新任の教師が来ることになりました』
その一言で三竦み関係者以外の生徒がざわつき始めた。
俺の後ろに並んでいる丸刈り頭の友人、松田が若干興奮気味に訊いてくる。
「イッセー、新任教師だってさ!美人かな?」
松田には悪いが、新任の教師と言われていたが、美人ではないぞ。
「そもそも女性だって言われてないだろが……まぁ、美人だったらいいけどさ」
俺はぼそりと本音を漏らしたが、美人教師だったら大喜びだぜ。けど、今回だけはこっちの方が嬉しい。
『では、お願いします』
進行役の先生の一言でその新任教師が壇上に上がる。
短い紅髪だが、左前髪が白くなっており、理由を知らない人から見たらゼノヴィアみたいにメッシュをいれているように見られるだろう。実際は魂を削られた影響だって本人とアザゼル先生が言っていた。
その新任教師を見た瞬間、松田が驚きながら肩を叩いてきた。
「イ、イッセー?ま、まさか……あの人って」
まぁ、驚くよな。壇上に上がったのは、今年の始めに急に消えたあの人なんだから。
壇上に上がった新任教師が言う。
「え~、長々と話すのは嫌いなので単刀直入に言わせてもらう。急にいなくなって悪かった!」
そう言うと頭を下げる新任教師さん。こういう時は最初に名乗るもんだと思いますよ?
新任教師さんは頭を上げて笑みを浮かべた。
「初めまして、もしくは久しぶりだな諸君!シドウ・グレモリーだ。またよろしく頼む」
シドウさんが言い終わると同時に盛大な拍手が送られた。それを受けたシドウさんも満更でもない表情になっていた。
駒王学園第二学期初日、シドウさんが再び駒王学園教師に復帰したのだ。
始業式が終了して俺たちは三年B組に戻ってきて席に座って談笑していた。
去年から同じクラスの眼鏡女子、桐生が言う。
「いや~、シドウ先生戻ってきてたのね。最近ロスヴァイセちゃんがニコニコしてると思ったら、そういうことだったの」
俺たちオカ研のことを見ながら言ってくる桐生。彼女は悪魔のことを知っている数少ない生徒だ。悪魔は命懸けで何かをすることも知っていた桐生は、シドウさんがいなくなった理由をある程度察していたようで俺たちにシドウさんの話題を振ることがなかった。だが、彼女もシドウさんを心配していたのだろう。
「俺たちも驚いたんだぜ?急に帰って来て『また教師としてよろしく!』なんて言ってきたんだから」
若干の嘘を含めた俺の言葉に眼鏡男子の元浜が言った。
「でもさ、シドウ先生イメチェンしたのかな?白いメッシュ入れてさ。まぁ、似合ってたけど」
その一言に反応したのはゼノヴィアだ。少し不安そうな表情で俺に訊いてきた。
「イッセー、今さらだが私は似合っているか?」
「何言ってんだよ。似合ってるに決まってるだろ」
ゼノヴィアは照れながらもぼそりと呟いた。
「そうか。似合ってるか」
「はい!ゼノヴィアさんは綺麗ですよ!」
「うんうん。ゼノヴィアはこうでなくっちゃって思うわ!」
アーシアとイリナも俺に賛同してくれた。すると急にゼノヴィアが立ち上がった。
「やはり持つべきものは友だな!二人とも!」
「はい!」
「うん!」
教会三人娘はそう言うと抱きつきあい、グルグル回り始めた。
「……何で白なのかしらね?」
「それは、あれだろ。紅い中に白があると何か、こう、かっこよくね?」
俺たちが喋っている間に話題が進んでいたようで、桐生の疑問に松田が返すとそのまま二人で話はじめてしまった。この二人、何か仲良くなってる気がする。
俺たちが駄弁っていると教室の扉が開いた。
「さて、HRを始めますよ。席に戻ってください」
このクラスの担任、ロスヴァイセさんだ。シドウさんが戻ってきてから明るい声音に戻っていた。トライヘキサ戦の後は本当に弱りきっていたからな……。
シドウさん、本当に戻ってきて良かったです!
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俺、シドウは、オカルト研究部の部室に来ていた。一応副顧問だったのだが、今は副顧問補佐って感じかな?その副顧問はロセなのでやることはあまりないんだがね。
アーシア部長を中心に色々と話し合っていくと休憩になったのか、新部員のベンニーアが俺に近づいてきた。彼女は俺に申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「シドウさん。こんなタイミングになっちまいやしたが、あっしの親父と姉が迷惑をおかけしやした」
「気にすんな。俺も悪かったな、冥府を封鎖するまで追い込んじゃって」
ベンニーアは頭を上げると首を横に振った。
「いえ、全部ハーデスと親父たちがやらかしたこと、シドウさんは悪くねぇですよ」
そう言ってれると助かる。今さら反省も後悔もしてないけどな。
「そうか。まぁ、おまえの親父と姉は生かしてあるから、縁があれば会えるだろ」
「姉ならともかく、親父には会いたくねぇです」
「ははっ!それはまた厳しいな」
俺はわざとらしく笑ってから真剣な顔でベンニーアを見た。
「だかな、ベンニーア。たまには会ってやれ。あいつにも何か言いたいことがあるだろうからな」
「……わかりやした。失礼しやす」
ベンニーアはそう言うと会議に戻った。
部活としては問題なしなのだか、それにしても……。
「イッセー。おまえ、俺がいない間に成長したのかと思えば……」
「すいません……」
イッセーは相変わらず契約が取れていない。魔法使い契約はルフェイとやったそうだが、こっちはまだまだなようだ。仮にも上級悪魔なんだからちゃんとしてほしいもんだ。本来ならここはリアスの縄張りなのでイッセーは活動しにくいと思うところだが、眷属は一生眷属なのでそこは問題ないそうだ。イッセーの眷属がやるには少々面倒だがな。
それにしても、平和っていいなぁ~。
俺はそんな事を思いながらロセが淹れてくれた紅茶を飲む。リアスと朱乃が卒業してからはレイヴェルが給仕係になったそうなのだが、俺にはロセが淹れてくれた。なかなか旨い。
俺がそれを言おうとした矢先に俺とアザゼルの耳元に連絡用の魔法陣が展開された。………なるほど、仕事か。
俺とアザゼルは目で合図を送って頷きあった。
「おまえら、すまねぇが急用が出来た。シドウを連れていくが、すぐに戻ってくるから心配すんなよ」
アザゼルは立ち上がり、足早に退室していった。
「ロセ、旨かったぞ。また淹れてくれ」
俺も立ち上がり退室しようとするとロセが腕を引いてきた。
「どうかしたか?」
俺がそう言いながら振り向くと同時に俺たちの唇が触れた。すぐに離れたロセは少し恥ずかしそうに言ってきた。
「無事に帰ってきてくださいね?」
「ああ、任せろ」
俺はサムズアップをロセに送るとアザゼルを追って退室した。
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リアスたちは微笑んでいた。何人かは微笑むと言うよりはニヤニヤしているという方が正しいかもしれないが。
微笑みながらリアスが言う。
「ロスヴァイセ?ずいぶん大胆になったんじゃないの?」
「い、いえ!そ、そんなことは!」
即答で否定するロスヴァイセだが、顔は真っ赤である。
「あら?私、知ってるのよ?あなたお兄様と……」
「あー!あー!リアスさん!言わないでぇぇぇぇ!」
リアスが何かを言おうとすると、ロスヴァイセが叫びながらリアスの口を手でふさいだ。
ロスヴァイセもヒトだ。リリスの影響も強いかもしれないが、子供を欲しいと思って当然だろう。事実、シドウも子供が欲しいと思っている節がある。リアスが言おうとしたことはそういうことである。
リアスはロスヴァイセの手から逃れると言った。
「まぁ、止めはしないわよ。私だって……」
リアスはそう言うと意味深な笑みを浮かべてイッセーを見ると、ロスヴァイセの耳にだけ届くように言った。
「子供は欲しいからね」
「~~~~~~っ!」
ロスヴァイセは声にならない声を出した。シドウがいれば何かフォローをするのだろうが、彼はいないのでツッコミをいれる者もいない。
こうして悪魔たちの夜は更けていった。
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俺、シドウは冥界の森にある廃墟にきていた。グレモリー城ほどではないにしろ、なかなかの大きさの西洋式の屋敷だ。
俺は耳元の通信機に電源を入れる。
「到着した。指示をくれ」
俺が言うとすぐに返答が来た。
『シドウ、いい?設立前の
「わかってるよ、セラ。イッセーたちの準備が終わるまでは……この世界は俺が護る」
俺はそう言うと斬魔刀を取り出して右手に持った。斬魔刀はハーデスとの戦闘で死神の残留思念を一時的に取り込んだ影響なのか鎧なしでも真・斬魔刀の形状になっており、握った右手には漆黒の籠手が装着された。
俺がそれを確認して真・斬魔刀を握り直していると通信機から音声が続いた。
『俺が護るって、おまえな。俺やサーゼクスを忘れんなよ』
アザゼルが若干呆れながらそう言った。それに他の声が続く。
『そうだよ、シドウ。キミは頑張り過ぎなのだから、たまには僕たちを頼ってくれ』
「わかってるよ、兄さん。まぁ、少なくとも一年だけはやらせてもらう」
『サーゼクスちゃんもアザゼルも、シドウが止まるわけないでしょ?それじゃ、作戦を始めましょうか』
「了解」
俺は返事を言うと同時に扉を蹴りとばして中に入った。入口を入るとすぐに大きな玄関ホールに出た。明かりがなくホールは暗闇に包まれていた。俺は堂々とホールの中央に移動する。同時に俺に向けられる怒りや憎しみを孕んだ殺気、どうやらビンゴだったようだ。屋敷のいたるところから死神が現れた。
俺は真・斬魔刀を右肩に担ぎながら挑発するように不敵に笑みを作る。
「死神残党ご一行、相手にとって不足はない。行くぜ!」
俺は大量の死神どもに突っ込んでいった。
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これが、グレモリー家次男、シドウ・グレモリーの半生である。
彼の戦いは終わらない。
彼の第二の人生は終わらない。
彼の大切なものを護る物語は、始まったばかりだ。
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「シドーパパ、お仕事どうだった?」
「うん?いつもの通りだったけど」
「そう?」
「ああ、どうかしたか?」
「パパ、妹ってどんなの?」
「あ~、そのうち出来るだろうから楽しみにしてな」
「うん!楽しみにしてる!」
「やれやれ、リリスらしいな」
「リリスちゃん!妹なら私が!」
『いいえ!リリスちゃんの妹は私が産むの!ね?シドウ』
「………やれやれ」
これにて完結、続きはない!
最後の会話はメタルギアソリッ○のラストシーンのイメージです。
これからは幕間の物語をやっていくので、のんびりとお待ちください。