俺、シドウはまたセラフォルー記念病院に入院していた。まぁ、あそこまで暴れたら俺も限界なわけで全身の筋肉が痛いしそれプラスでハーデスに魂を持っていかれたので体もダルい。俺はその程度なのだが、リリスは大丈夫だろうか。あれから目を覚まさないと聞いたのだが……。ここに入院させるのにもゴリ押したと言っていたしなぁ。
俺がそんな事を思っていると病室の扉が開いた。まぁ、誰かはだいたいわかる。
「シドウさん!また来ました!」
笑顔で登場したのはロセだ。彼女はほぼ毎日お見舞いに来ている。話し合っているかのようにセラと交互に来ていた。果物食わせてくれたりあれから何があったのか話してくれたりで退屈はしなかったよ。
あれから冥府は閉鎖となり、あの場にいたほとんどの死神は拘束されたこと。冥府が管理していたサマエルは悪魔と堕天使が中心となって管理することになったとのこと。それは良いのだが、まだ何人かの最上級死神が発見されておらず、クリフォトから渡されたと思われる宝玉の数もあっていないなんてことも言われた。
最上級死神は俺が冥府で殺した九人(十人を相手にしたがオルクスは牢獄送り)だけではなかったようだ。
その動向は気になるが、今だけは……。
「シドウさん、どうぞ」
ロセがいつの間にか剥いていたリンゴを爪楊枝でさして差し出してきた。俺は手を出して受け取ろうとするとロセはリンゴを引っ込めた。いや、食わせなさいよ。
「あ~ん」
………はいはい、またですね。
「はいどうも」
俺はすばやくリンゴを食べてロセを見た。いつの間にか彼女は真剣な顔になっていた。
「どうかしたか?」
「はい……リリスちゃんについてです」
「リリス何かあったのか!」
俺は嫌な予感がした。ハーデスとの戦いであの子にはかなり無茶をさせてしまった。オーフィスに限りなく近いにしても、有限であれば死んでしまう。リリスに何かあったら!
俺がそんな事を考えいるとロセが言った。
「アザゼル先生は、もう目を覚ましてもおかしくないって言っていたんですけど、何かが足りないとも言っていました」
何かが足りない。オーラか何かだとしたら、それを返せばどうにかなるのか?
「俺は明日になったら退院して大丈夫だって言われてるからな。明日には俺も戻れる」
「わかりました。では、私はこれで」
「おう、サンキューな。明日も頼む」
「お任せください!」
ロセはそう言うと退室した。明日、行動開始かな。
俺がそう決めて寝ようとすると再び扉が開いた。またか……。
「シドウ!来たわよ☆」
よこチョキをしながら扉の前でポーズを決めるセラ。今さらだが……。
「病院では静かにな」
「うっ……はぁい」
若干狼狽えながらも返事をするセラ。わかってくれたなら良いんだが、これは前にも言った気がするんだかな。
「ところで、何か話でも?」
俺が訊くと、セラは途端に笑顔になり話を始めた。
「そうそう!シドウ、どうするの?」
あれ、何か頼まれ事なんてあったっけ?
「どうするって何を?」
俺がそう返すとセラは笑顔のままこう返した。
「忘れたの?映画よ映画!どうするの?リアスちゃんたち?それとも、わ・た・し?」
まるで誘惑するように言ってくるセラだが、思いっきり殴ってやろうかな。今訊くことなのかそれは!
「退院したら答えを教えてやるよ」
「そう、じゃあ待ってるわね」
セラはそう言うと退室しようと歩き出した。ってマジでそれだけを訊きに来たのかよ!
「それだけを訊きに来たのか?」
俺ご確認のために訊くと、セラは頷いた。
「ちょっとしたことでもシドウに会えれば良いのよ。シドウも嬉しいでしょ?」
確かに嬉しいけどさ、それとこれは違うだろ。
「まぁ、うん」
「だったら万事OKよ」
セラはそう言うと今度こそ退室していこうとしたが、再び俺は呼び止める。
「なぁ、あのベルってハーフ死神はどうなったんだ?」
「気になる?」
若干不機嫌になりながらセラは訊き返してきた。
「まぁ、ある意味冥府で好き勝手できたのは、あいつがある程度避難をさせてくれたおかげだし……オルクスを捕らえられたのも、ある意味彼女のおかげとも言えなくはないだろ?」
「まぁ、彼女は最初からやる気がなかったようだし、オルクスからの話だと彼女はそもそも計画にも反対していたみたいよ。オルクス含めた最上級死神たちは全員やる気だったみたいだけどね。それを見れば……ある程度減刑はされるんじゃない?」
「減刑か。スマンな、いらん時間取らせて」
「大丈夫よ。シドウとのんびりできてよかったわ」
セラはそう言うと俺の頬にキスをしてから退室した。彼女が退室したことを確認して、俺はキスをされた頬を撫でるとベッドに体を預けた。
とりあえず、寝よう。何か疲れた。
俺は例の如くベッドに体を預けると瞼を閉じた。
てなわけで翌日。ついに俺は退院となったのだが、ロセとセラ(セラは都合上見送りだけ)に待ってもらってリリスの病室に来ていた。彼女はベッドに横たわって深い眠りについていた。俺はリリスの頬に手を添える。いつかに触れたが、その時に比べると冷たいな。
二人を部屋の前で待たせているんだが、さて、どうしたものか。一応考えはあるんだが、どうしてそれを思いついたのかわからん。逆にそれしか思いつかなかったんだよな。それじゃ、ダメもとでやりますかね。
今から俺がやるのは、いわゆる逆転の発想ってやつだ。リリスはキスでオーラをくれたのなら、その逆も行けるはず。
俺は覚悟を決めてリリスに顔を近づける。な、なんか緊張するんだが……ここまで来たらやるしかねぇ!
俺は戦闘でもないのに異様に集中していた。そしてついに俺とリリスの唇が触れた。柔らかいな……って違う!俺はロリコンじゃねぇ!
俺がそう思うと同時にごっそりオーラを持っていかれた感覚が襲いかかった!なかなか厳しいな……。
俺が軽くふらついていると、胸に何かが飛び付いてきた。だが、この状況なら誰が飛び付いてきたのかはわかりきっている。
「パパ!」
そう言いながら俺の胸に顔を擦り付けてくる女の子。リリスだ。
ついに『シドー』が取れましたか、まぁいいや。
俺はリリスの頭を撫でて顔を見合わせた。リリスは笑みを浮かべて俺を見てきていた。俺は全然力が入らないが、嬉しい苦痛という事で受け入れる。
俺とリリスがじゃれていると扉が開いた。
「シドウ!大丈夫!?」
「シドウさん!何かすごい音が……」
二人が心配して入ってきてくれたようだが、俺とリリスを見て固まっていた。リリスはロセに気がつくと走り寄っていき、彼女の胸に飛びこんだ。リリスが俺とオーフィス以外にも抱きつくにいくとは、珍しいな。
リリスはロセに抱きついて言った言葉が俺たちに混乱をもたらした。
「ロセ……『ママ』?」
「「「っ!?」」」
ロセにママと来ましたか……。いや、毎日一緒に(俺を挟んで)寝ているから懐いてはいるのか?だからって、ママかぁ。
ロセは固まっていたが持ち直してリリスの頭を撫でた。なぜか勝ち誇ったような表情で……。
それを見たセラがリリスに言った。
「リリスちゃん!私は?」
リリスはロセから離れて俺の足にくっつきながら首をかしげて考えているようだった。セラとロセは緊張の面持ちで答えを待っていた。そして、リリスは口を開いた。
「セラ……姉?」
「ちょっと待ってくれ、それだと色々おかしなことになる」
俺が即答で訂正を求めるとリリスは再び考え始めた。
だってセラが『姉』だと俺とロセが大変なことになるぞ。
「じゃあ、セラおば……」
「リリスちゃん?」
リリスが何を言おうとしたかはわかる。セラがそれを言わせないこともわかっていた。だからそんな殺気を出すな!リリスが怖がる!てか怖がってる!
リリスは俺に隠れながらぼそりと言った。
「セラママで……」
「よろしい」
セラはそう言いながらリリスを撫でた。最初は怖がっていたが、慣れたのか怖くないとわかったのかそれを受けいれていた。
その後、ドクターを読んで事情を説明して俺とリリスは退院することになった。病院の転移室で俺たちは喋っていた。
「さて、シドウ。映画はどうするの?」
それか、まぁ答えは決まってる。
「どっちもはダメか?セラの映画には『シドウ』として。イッセーの映画には『ブラック』として、みたいな感じで」
俺がそう言うとセラは頷いた。
「なるほど、その手があったわね。サーゼクスちゃんと確認しないと、それじゃあ、両方の方向でいきましょう」
「ああ、頼む」
俺は頷くと転移魔法陣の中央に移動する。
「セラ、またな。映画撮影で会おう」
「ええ、待ってるわよ」
俺は笑みを浮かべて右手を上げると転移の光に包まれた。
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