俺、シドウはハーデスを睨んだ。奴から奪い返したリリスのオーラと奪い取った死神どもの残留思念、それを使った新たな鎧。鎧に魂を持っていかれそうだが、歯を食い縛ってそれに耐える。
ハーデスは狼狽えながらも俺に言ってきた。
《何なのだ!何だというのだ!》
俺は兜の下で笑みを浮かべながら言った。
『気持ち一つで何とかなるもんだ。俺の中の駒が助けれくれたのかもな……』
俺は刀身の色が変化した斬魔刀、『斬魔刀・冥』の切っ先をハーデスに向けた。
『この力で遊ばせてもらおう』
と言うと同時に俺は飛び出してハーデスの後ろを取る。ハーデスは見切れていないし関知も出来ていない!
斬魔刀・冥を振り下ろしてハーデスの左腕を飛ばした。速すぎて自分でも反応しきれなかった。今の一撃で頭を砕こうと思っていたのに……。
ハーデスは驚愕しながらも飛び退き、先ほど落とした鎌を回収して構えた。
《コウモリが!冥府の神を舐めるなぁぁ!》
ハーデスが叫ぶとオーラが膨れ上がった。すごい量のオーラだが、弱く感じるな。
俺は再び飛び出してハーデスの正面から斬魔刀・冥を上段から振り下ろす。ハーデスは今まで通り鎌の柄で受けるが、斬魔刀・冥の刃が食い込み、柄にヒビを入れた。
《バカな!?》
『さっきと同じだと思うな』
俺は少しずつ力を入れていくと火花を散った。少しずつヒビは大きくなっていき、もう少しで鎌を折れそうだ。
ハーデスが鎌に集中している隙に腹部に膝蹴りを入れて怯ませる。はずだったのだが、加減を間違えたのかハーデスは吹っ飛んでいき壁に激突した。
俺は自分のパワーに驚きながらも斬魔刀・冥にオーラを込めた。深緑と蒼が入り交じったオーラが薄く刀身を包み込む。それを確認したら駆け出してハーデスまでの距離を詰める。
自分では少しだけ遅めにしているのだが、ハーデスは反応できていなかった。俺は斬魔刀・冥を右から凪ぎはらってハーデスに打ち込む。ハーデスは咄嗟に鎌の柄で受けるが、ついに柄を突破して刃がハーデスに到達した。ハーデスは体を捻って避けるが、刃は掠めていた。
ハーデスは飛び退くが、途端に膝をついた。驚愕しながらも俺のことを睨んできた。
《貴様、まさか!?》
『死神の力に感謝だな。ハーデス、テメェの魂を削った』
《おのれ!》
ハーデスは俺に突っ込んでくるが、俺はゆっくりと左手を前に出して念じた。すると、俺の体から粒子のようなものが部屋中に撒かれてそれが床に付着するとハーデスを妨害するように大量の刃となった!ハーデスはそれを避けるように跳躍するが、粒子は天井にも付着していたようで蒼い刃が飛び出してきた。
ハーデスは回避を諦めて破壊していくが、破壊された分がすぐさま生え変わり終わりが見えない。ハーデスは破壊も諦めて俺に向かってきた。床と天井から刃が伸びるが自分に当たりそうなものだけを破壊して減速なしで俺に突っ込んでくる。
俺はハーデスが振り下ろしてきた鎌を左腕の籠手で受け止めると挑発するように言った。
『終わりか?つまらないなぁ』
《コウモリ風情がぁぁぁ!》
ハーデスは俺を押しきろうと鎌に力を込めてくるが、俺はそのまま左腕で競り合っていく。籠手から火花が散るが、損傷しているわけでもなさそうだ。
俺は左腕でハーデスを押し返すと、左腕をそのままハーデスに向けた。先程の粒子がハーデスを包み込んで拘束する。俺は粒子を操作して拘束されたハーデスを壁や床に叩きつけていく。ハーデスが叩きつけられた壁や床には大きなヒビが入り、もうこの部屋がもたなそうだ。
俺はハーデスを天井に叩きつけると最後に床にめり込む勢いで叩きつけて拘束を解除した。強力ではあるが、消耗が半端じゃない。このままだと持たないな。
『次の一撃、テメェへの
俺は斬魔刀・冥を上段に構え、オーラを解放する。同時に死神どもの残留思念が解き放たれて斬魔刀・冥に憑いていった。鎧は漆黒一色のものに戻ったが、斬魔刀・冥から自分でも恐ろしく感じるほどのオーラが迸り始めた。オーラは神殿の天井を破壊してさらに伸びていく。
途端に焦りだしたハーデスが俺に言う。
《ま、待て!わかっているのか!?私は冥府の神だぞ!?私が死ねば死者の霊が暴走を……》
ここまで来て命乞いとは、情けねぇ。
俺は兜を解除してハーデスを心底軽蔑した目で見た。
「テメェらの敗因はたった一つ……たった一つの単純な答えだ」
《……ッ!》
ハーデスは逃げようとするが、魂を削られた影響で足が動いていない。逃がすわけねぇだろ?理由はたった一つ……。
「テメェらは俺を怒らせた……」
俺はそう言うと同時に斬魔刀・冥を振り下ろした。斬魔刀・冥から漆黒、深緑、蒼が入り交じったオーラが放たれて、神殿を破壊しながらハーデスに直撃した。オーラはそれで止まることはなく、神殿の壁をぶち抜いて遥か彼方まであらゆるものを消し飛ばしながら進んでいった。
オーラが止むとそこには何もなかった。神殿の俺よりも前の部分が完全に消し飛び、地平線の彼方まで地面が抉られていた。オーラが直撃したものには深緑と蒼が混ざった不気味なものが付着して粒子を放っていた。体に悪そうだ。
死神どもの残留思念が再び鎧に憑いてきた。その影響で鎧の色が元に戻る。だが、使う機会はもうないかもな。俺はロセとリリスを見る。ロセが俺にサムズアップをしてきたので俺もサムズアップを返して鎧を解除した。その瞬間、体が鉄のように重くなり俺は膝をついてしまった。ヤバイ、マジで動かない。
ロセがリリスをおぶって俺に走り寄ってきた。
「シドウさん!大丈夫ですか!」
「ちょっとキツいかも。肩貸してくれ」
「どうぞ」
俺はロセの肩を借りて立ち上がると、俺たちに接近してくる死神の気配を感じた。数は一つだけ、感じたことがある気配だ。
「えっと、誰かさん!いますか?」
そう言いながら部屋に飛び込んできたのはベンニーアの姉に当たる死神、ベルだ。元気そうで何より。てか『誰かさん』って俺のことか?
「あ~、俺は無事だぞ。ハーデスは消し飛ばしたけど」
ベルはこっちを確認すると歩み寄ってきた。一戦交える気かと思ったが、そうではないようだ。
ベルはどことなく晴れ晴れとした表情で言う。
「誰かさん、えと、みんな逃がしましたよ。後は好きにしてください!」
「俺はシドウだ。好きにしてくれって、全部終わったぞ。てか、おまえの父親はどうした」
ベルが答えようとすると部屋に入ってくるもう一つの影が見えた。……って、あれは!?
「シドウ!無事?」
「セラ!?こんなところで何やってんだよ!待てよ、ここに来てるのって……」
「ええ、サーゼクスちゃんとリアスちゃんたちも来てるわよ。死神の残党を捕縛してくれてるわ」
セラは笑顔でそう言った。何だ、あいつら来てたのか。
セラは俺に肩を貸してくれながら訊いてきた。
「ハーデスはどうなったの?」
「さぁ、死体も残らずに消し飛ばしたからな。わからん」
「そう」
セラは別に驚くことはなかった。まぁ、死体すら残さないのは今に始まったことじゃない。
「えと、私はどうすれば?」
ベルはおろおろしながら訊いてきた。少なくともオルクスは牢獄行きになるだろう。彼女は……どうなるんだろうか。
俺は真剣な顔でベルに言う。
「とりあえず、一緒に来い。詳しい判断はセラたちとゼウスに任せる」
「……はい」
ベルは若干頬を赤くしているのだが、セラとロセが睨んできているし、何でだ?
俺は二人を気にしながらベルに訊く。
「ところで、おまえの父親はどうなったんだ?」
「えと、黒髪に金メッシュのおじさんに連れていかれました。そのおじさんは『詳しく話してもらおうか』と言ってましたよ?」
黒髪に金メッシュって、アザゼルか?まぁ、捕まったんならいいや。
「とりあえず帰るぞ。リリスも心配だし、早く寝たい」
「わかってるわよ」
「それでは、行きましょうか」
「えと、私も行きます……」
俺はセラとロセ、あとなぜかベルに連れられて冥府を脱出した。
後で聞いた話では死神はほとんど抵抗してこなかったそうだ。彼ら曰く『死神以上の死神がいる』だそうだ。そいつの影に怯えて抵抗を諦めたらしい。
「ところでシドウ」
「どうかしたか?」
セラは俺の髪の毛に手を伸ばした。左前髪を引っ張っているようだ。
「髪の毛、白いわよ?」
「何!?」
髪の長さの問題で俺からは見えないが、白いメッシュが入ってるのか!?
ロセが笑みを浮かべて言ってきた。
「大丈夫です。似合ってますよ」
セラがそれに続いて言ってきた。
「シドウは髪色がよく変わるわね」
ベルが続いた。
「えと、良いと思いますよ?」
しれっと紛れ込むベルだが、二人はそれをとがめようとはしなかった。もう仲良くなったのか?よくわからん。
俺は自分の髪とセラたちの仲睦まじい様子に困惑しながらも転移魔法陣に移動した。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。