俺は生身でハーデスに打ち込んでいく。ハーデスは俺が復活したことに驚愕していたが、落ち着きを取り戻して攻撃に対処してきていた。
ハーデスの一撃を食らえば、俺は死ぬ。こっちはハーデスの鎧を突破しないといけないし、急所は頭ぐらいしかない。なかなか不利な勝負だか、やるしかない。
俺が右手一本で突きを放つと、ハーデスは鎌の柄でそれを反らして刃を振り下ろしてきた!
俺は左手で魔法陣を展開してゼロ距離でカウンター気味に魔力弾を放った!それはハーデスの顔面に直撃して数メートル吹き飛ばした。鎧を着ていても衝撃は殺せないはず、多少のダメージはあるだろう。ハーデスは首を振ると俺を睨んできた。
《コウモリ風情が》
俺はハーデスを睨み返しながら考えていた。死神どもの残留思念を使って鎧を保っているってことは、持続時間は長く、出力は俺のと大して変わらない。さらに俺の魂を削ったから多少パワーが上がっているかもしれないのか。
俺はそこまで考えるとあることに気がついた。ハーデスに埋め込まれている宝玉にはリリスのオーラが込められている。その宝玉がどこにあるかはわからないが、そこをつければリリスのオーラが取り返せるかもしれない。そうすればまた鎧を形成出来る!考えはまとまったが、宝玉はどこだ?
俺はハーデスを見ながら集中する。リリスのオーラを感じ取れればそこ一点をつく!
そんなことをしている間にハーデスが接近してきた。ハーデスの上段からの振り下ろしを斬魔刀の腹で防ぐが、すさまじい力で押し込まれて再び膝をついた。近くに来たことでオーラを関知しやすくなったがまだ探りきれないな。
俺は鎌を押し返そうとするが鎧付きでもダメだったものを生身で押し返すのは無理がある。少しずつ鎌の刃が斬魔刀を削り始めていた。俺が歯を食い縛って耐えていると、ハーデスを魔力弾が襲った!ハーデスが怯み、一瞬力が抜けたところで押し返すと後ろに転がり距離を取る。
魔力弾を放ったのはロセだ。彼女はリリスの壁になるように立って魔法陣を展開していた。相変わらず無理をする奴だな。まぁ、助かったけど。俺はロセにサムズアップに送るとハーデスに視線を戻す。ハーデスはロセのことを睨んでいた。
次に何をするかはわかりきっている。ロセを狙うつもりなんだろうが、やらせるか!
俺は飛び出してハーデスに斬りかかった。ハーデスは鎌を振り防いでくるが、俺は一撃離脱のヒットアンドアウェイ戦法で攻めていく。そして、この間にも宝玉の位置を探る。少しずつだが場所はわかってきたぞ。
俺は再び突貫してつばぜり合いに持ち込もうとするが、ハーデスは俺の斬魔刀を左腕で受け止めた。刃は籠手を突破することなく火花を散らした。リリスの力と死神数千人のオーラはここまで硬いものなのか。
俺は競り合いを諦めて離れようとするが、その前にハーデスは鎌を横凪ぎに振ってきた!俺は深く腰を落として鎌を避ける。鎌を振り抜かせたところで俺は立ち上がる勢いをつけて斬魔刀を振り上げる!その一撃は鎧の胸部に傷をつけたが、本体には届かない。
ハーデスは鎧の傷をお構いなしに鎌を上段から振り下ろしてくるが、俺は体を半身にすることで避ける。鎌は俺の体ギリギリを通って床を砕いた。ハーデスは鎌を戻そうとするが、俺は軽く跳躍して鎌の柄に乗ると、そのまま斬魔刀を凪ぎ払って鎧の胸部を傷つけた。ハーデスは鎌を振り上げて俺を高く上に飛ばす。俺は空中で態勢を立て直して落下、兜割りのように斬魔刀を振り下ろそうと構えた。ハーデスも鎌を水平にしてそれを受けようとするが、そこに魔力弾が放たれてハーデスを攻撃する。ロセからの援護攻撃だ。ナイスタイミングすぎて笑えてくるよ。
ハーデスは怯んで防御の態勢を崩す。そこに俺の斬魔刀が振り下ろされた!その一撃ハーデスの兜を砕いて素顔を見えるようにする。まぁ、兜も素顔も骸骨だけどな。
ハーデスは飛び退いて俺とロセを睨んだ。オーラからは怒りを感じられる。
《貴様ら!よくも我が鎧を!》
「鎧を形成するには大量の魂が必要みたいだからな。俺みたいに一度壊されると修復できないだろ?」
俺は挑発するように言うとハーデスは叫んだ。
《それが何だというのだ!貴様らの魂を使って再び完全なものとしてくれる!》
やはり刈り取った魂を使えば直せるのか。鎧の一部が砕けたからリリスのオーラを完璧に関知出来るようになったぞ。やはり、胸部か。
俺は宝玉の位置を確かめると次の段階に移る。俺は斬魔刀を右手に持ち直してその切っ先をハーデスに向けると円を描く。円は魔法陣となり光を放つが、先程よりも弱く、今にも消えてしまいそうだ。俺は魔法陣に斬魔刀と右手を突っ込む。閃光が放たれて斬魔刀が真・斬魔刀になり、右手には漆黒の鎧が装着された。次に左腕も突っ込み籠手を装着すると魔法陣が光を失って消滅した。オーラ残量ではこれが精一杯か。
俺は真・斬魔刀を両手に持ち、ハーデスに突貫した。突撃の勢いのまま突きを放った。ハーデスはそれを体を時計回りに半回転させるようにして避け、俺の背中を斬ろうとしてきた。俺は跳躍してそれを避けると魔法陣を展開、大量の魔力弾を放つ。ハーデスは鎌を回してそれを防ぐと俺に斬りかかってきた。
空中で俺たちは激突して落下しながら斬りあった。俺の上段からの攻撃をハーデスが防ぎ、ハーデスからの凪ぎ払いを真・斬魔刀を垂直にたてて弾き返す。その勢いで真・斬魔刀を凪ぎはらってハーデスに攻撃するが鎌に止められた。
同時に俺とハーデスは着地してつばぜり合いになり、真・斬魔刀と鎌が火花を散らした。そのまま力比べになるが少しずつ俺が押し負けてきていた。ここまで全力でやっているんだが、さすがは神だ。強い!
俺は押し負けそうになるが咄嗟にハーデスの腹部に蹴りを放った。硬い感覚が俺の足を襲うが、一瞬ハーデスの力が抜けた。その隙に押し返して距離を取る。宝玉は胸部にある。そこをつくにはどうすれば……。
俺はあることを思い付いた。後で説教されるのは間違いないが、これしかないな。
俺は真・斬魔刀を右手だけで持つと走り出してハーデスに接近する。ハーデスは横凪ぎに鎌を振ってオーラを飛ばしてくるが、俺は飛び込み前転のようにそれを避けて一気に懐に飛び込んだ。ハーデスはすばやく鎌を戻すと振り下ろしてきた。
俺はそれを左腕の籠手で受ける!火花を散らしながら籠手は鎌を受け止めてくれていた。
《何!?》
俺は真・斬魔刀を握り直して切っ先をハーデスの胸部に向けた。
「はぁぁぁっ!」
俺は気合い一閃で突きを放った!その一撃は吸い込まれるように鎧の胸部へと向かっていき、鎧を貫いた!
《ぐぁぁぁぁ!》
ハーデスが鎌を落とした隙に左手でも斬魔刀を握り、さらに深々と突き刺すと切っ先が何かに当たったような感覚があった。その瞬間、ハーデスの鎧から光が溢れだし、俺を包み込んだ。
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ロスヴァイセはシドウを見守っていた。ハーデスから放たれたオーラを咄嗟にしゃがんで避け、視線をシドウに戻すと彼女は驚愕した。
ハーデスの鎧から溢れだした光がシドウを包み込んでいたのだ。だが、その光は見覚えがあった。シドウが鎧を纏うときに放つ光、まさにその光だったのだ。しかし、問題が起きた。ハーデスの鎧から溢れでたのは光だけではなく、死神たちの残留思念も飛びだしたのだ。ハーデスの鎧は解除されたが、飛び出した残留思念はシドウにとり憑くように張りついていった。シドウは苦悶の表情となるとハーデスは飛び退いて笑った。
《宝玉に封じられたオーフィスのオーラを狙ったのだろうが、残念だったな。我が
「がぁぁぁぁぁぁ!」
苦しむシドウにロスヴァイセは近づこうとするが、死神の残念思念が彼女にも襲いかかりそれを止めた。
「シドウさん!」
彼の名を叫ぶロスヴァイセにハーデスは言った。
《このままいけばコウモリは我が手駒となる。そうなれば、貴様を真っ先に……》
殺させてやろうと続けようとしたハーデスの言葉を、様々な人物の声が入り交じった声で遮られた。
『俺は二度と家族を傷つけない……』
シドウだ。死神の残留思念に憑かれながらも彼は言葉を続けていった。
『せっかくこの手が届いたんだ、二度と離してたくない……』
シドウがそう言うと強烈な閃光が彼から放たれた。その光に憑いた死神たちが少しずつ押し返されていく。
『俺の力は敵を殺すためにある。その力で俺は、家族を守るの誓った!』
光は強くなっていき死神の残留思念を金縛りのように拘束していった。
『ロセをセラをリリスを、未来を守るために戦う』
死神たちの残留思念がシドウを囲むように円を描くと、シドウは斬魔刀を天に向けた。
『それが俺の使命だ!』
シドウは宣言すると宙に円を描いた。円は魔法陣へと変わり光を放つ。光は鎧となり、脚甲となった。そして鎧と脚甲、籠手に死神たちの残留思念がとり憑いていった。漆黒の鎧に蒼の様相が加わり、不気味ながらも力強い輝きを放つ。
シドウに鎧が装着されると同時に禍々しくも美しい光が室内を包み込んだ。ロスヴァイセは咄嗟に手で目を防ぐが、ハーデスは狼狽えながら声を出した。
《ありえないっ!死神を、我が
「はぁ!」
シドウの気合い一閃と共に光が弾け、そこにいたのは……。
「ハーデス、これで終わらせる」
鋭角が目立つ形状へと変わった漆黒と蒼の鎧を纏ったシドウだった。両手首から蒼い刃が外側に伸び、真・斬魔刀にも蒼の様相が加わっており妖しい輝きを放っていた。
シドウが放つ妖しくも美しいオーラはまるで死を体現しているようであり、今の彼は、まさに死を従えているようだった。
「……第四の騎士」
ロスヴァイセはシドウを見て、そう言葉を漏らした。
『
第四の騎士となったシドウはハーデスを睨む。
「
シドウはそう言うと、漆黒と蒼の龍を模した兜を装着した。
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