シドウの進撃を止められる者は誰一人としていなかった。斬魔刀に比べてリーチの長い鎌を使ってくる死神たちを彼らの間合いに入る前に、人数関係なしに全て斬り殺すという、もはや死神たちも理解が出来ない方法で数百から数千人の死神を
シドウが進撃していまだ
シドウは振り返ることなく足を進めていった。ただ救うために…………。
ロスヴァイセは室内で独り怯えていた。先程から外が騒がしい。彼女は拘束されてから外の様子を探る手だてがない。それよえに現在シドウが死神相手に無双をしていることを、彼女か知るよしもなかった。
すると突然ドアが開いた。そこから現れたのは死神だったが、骸骨ではなく人間の顔をしており、男性ではなく女性のようだ。
「えっと、あなたを連れていきます」
死神のような気味の悪いオーラを放ってはいるがどことなく違う。 それどころか、誰かに似ている顔だった。
ロスヴァイセはその女性死神に訊いた。
「あなた、何者ですか?」
女性死神は魔法陣を操作しながらロスヴァイセに答えた。
「『ベル』です。えっと、『オルクス』様と人間の間に産まれたハーフ死神です」
ロスヴァイセは顔には出さなかったが驚愕していた。オルクスと人間のハーフ、つまり彼女は……。
ロスヴァイセはそれを確認するためにベルに訊いた。
「ベンニーアという名前に聞き覚えは?」
ベルはその名前を聞いて作業の手を止めた。
「ベンニーアは私の『妹』です。ベンニーアったら突然出ていったので心配していましたが、大丈夫そうですね」
ロスヴァイセは疑問に思った。ベンニーアが連絡を取り合っているだけかもしれないが、今の話だけでベンニーアは大丈夫そうとベルは言ったのだ。
「私たちが彼女に何もしていないとはわかりませんよね?」
ベルはそれを聞くと優しい笑みを見せた。
「あなたからは邪悪なものを感じません。だからですよ」
ベルがそう言うと同時にロスヴァイセは転移の光に包まれた。
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俺、シドウは神殿の奥に進みながらロセの気配を探っていた。最初は死神ばかりだったが、今はだいぶ減ったし、減らしている。少しは探しやすくなったが、見つからない。
ロセの気配が近くにないことを確認しながら突貫してきた死神どもに、歩みを止めずに片手で斬魔刀からオーラを飛ばして首をはねる。オーラを飛ばすと言っても広範囲にばらまかなければ、ただの剣撃と同じだ。スパスパ斬れる。
俺がそれを繰り返しながら進んでいくと、広い空間に出た。広いと言っても学校のグラウンド一個分ぐらいだがな。で、俺に敵意を向けてくる死神が十か。一人一人が今までの奴らとは桁違いのオーラを放っていた。つまり、こいつらは最上級死神……あの野郎はどこだ。
俺は一人一人を順に睨んでいきゼクロムを探していると、空間の俺とは反対側の位置に転移魔法陣が展開された。光が弾けそこにいたのは、女性と思われる死神と……。
「シドウさん!」
ロセだった。服を剥かれて裸にされている。
「テメェら……ロセに………何をしたぁぁぁぁぁ!」
俺の叫びと共に全身からオーラが放たれ、壁や天井、床にヒビを入れた。
そんな俺を見ながら笑い始める死神ども。
《な、言った通りだろ?グレモリーの奴は仲間思いすぎて、ちょっと何かあっただけでキレるってさ》
一番奥の死神が俺に言ってきた。ゼクロムはあいつか…。
《確かに、コウモリは短気だな。特にそこの男は》
《愛か。わからんわけではないが、くだらん》
俺は死神どもに飛び出そうとするがすぐに踏みとどまった。よく見たら死神どもの鎌の刃と柄の接合部に禍々しい宝玉が入れられている。あの宝玉、見覚えがある。俺にも一度埋め込まれたものだ。つまりそういうことか。
「テメェら、クリフォトにも通じてたのか」
俺が言うと死神の誰かが言った。
《ああ、これで貴様を殺せる》
その言葉を合図に構える死神ども。俺も斬魔刀を握り直した。
すると、ゼクロムが言った。
《さぁ、彼女の前で死にな!それがあいつとヤるときの最高のスパイスになる!》
ヤる?あいつと、ロセが?ふざけんなっ!
そのゼクロムの一言が、俺の最後まで耐えていた何かを破壊した。
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ゼクロムはシドウを挑発するように言った。言ってしまった。
今のシドウに挑発は厳禁である。
ヒトは怒れば判断能力が鈍る、そこをつけばここの最上級死神全員でシドウを殺れる。最悪、ベルに指示をしてロスヴァイセを人質にすれば良い。
ゼクロムはそう判断したのだが、それは誤りだ。今のシドウはドラゴンだ。彼を怒らせれば、彼の逆鱗に触れれば、彼は思考を捨て、本能で動き始める。どこまでも狂暴な力を振るい、敵を滅ぼすために………。
そんなことを知らない死神たちは動き出した。まず先頭の二人が一気にシドウに肉薄し、宝玉で強化された鎌を振り下ろした!
シドウはそのまま鎌を受け入れるように何もしなかった。もはや回避は不可能であり、後方の死神たちはシドウの死を直感して笑みを浮かべた。が、シドウに攻撃した二人の死神の首が同時にとび、鎌が砕け散った。シドウは無傷であり、異常なまでの迫力に満ちた目でゼクロムを睨んだ。
室内の死神……残り九
《何っ!》
ゼクロムは狼狽えの声をあげると同時にシドウは歩き出した。異常なまでにゆっくりと進む彼に死神四人が同時に飛び出した。二人は正面、二人は背後からシドウに接近する。正面の死神は右と左から同時に鎌を振り、斬魔刀一本では受けきれないようにする。
シドウは正面の二人の右からの攻撃を斬魔刀で受け、左からの攻撃を左腕をドラゴン化されることで防ぐ。死神の鎌は魂を刈り取るが斬られなければ問題ない。防いでしまえばいいのだ。
背後の二人は鎌を動きを止めたシドウに背後からの攻撃が迫るが、それが当たる前に死神二人の頭を何かが鷲掴みにした。それに死神二人は驚愕するが、彼らの頭を鷲掴みにしたのはシドウが生やしたドラゴンの翼だった。シドウの翼には翼龍のように小さな手があり、それで二人の死神を捕らえたのだ。
正面から攻めた二人はどうにか押し切ろうと力を込めていくが、シドウは微動だにしない。この間にもシドウは翼に捕らえられた二人の頭を潰そうと力を込めていった。そして、正面の死神二人を同時に弾き飛ばすと、翼によりいっそう強く力を込めた。
グチャ………
何かが潰される音が広い室内に響き渡ると、シドウは二人を解放するようにゼクロムの方へ投げた。二人の最上級死神は頭がグチャグチャに潰された無惨な死体へと姿を変えていた。
ゼクロムがシドウに目を向けると、シドウは不気味な笑みを浮かべた。まるで『次はおまえだ』と言わんばかりに。
ゼクロムは恐怖から体を強張らせるると同時にシドウは消え、先程弾き飛ばした死神二人の首を落とした。
室内の死神……残り五
シドウは斬魔刀を右肩に担ぐと口を開いた。
「ロセ、待ってろ。すぐに助ける。すぐに終わらせる」
まるで今からが本番と言わんばかりのシドウの言葉に、残された死神五人は体を強張らせた。この状況では強張らせてしまったと言うべきかもしれない。
シドウは再び消えた。身構える死神たちだが、何も起こらなかった。死神たちは警戒しながら周囲を見回すと、シドウをすぐに発見した。ゼクロムの背後だ。
ゼクロムもそれに気がつくと鎌を振りながら振り向くが、すでにシドウは消えており、代わりに別の死神の首がとんだ。
室内の死神……残り四
死神たちはもはや勝負を諦めかけていた。最上級死神七人を瞬殺した目の前の悪魔に戦慄し始めていた。
シドウは次を誰にするか選ぶように一人一人を見始めた。その時、恐怖に支配されかけたゼクロムが叫んだ。
《ベル!次にあの男が動いたらその女を殺……》
ゼクロムが言い終わる前にシドウは消えていた。彼らはまさかと思いながらロスヴァイセの方を見る。
「殺す前に、テメェを殺す。死にたくなかったら動くな」
そう言いながらベルの首に斬魔刀を突きつけたシドウの姿があった。その言葉を受けたベルはへたりこみ、コクコクと頷くことしか出来なかった。
そんなシドウに一人の死神が飛びかかった。
シドウはその死神の鎌を斬魔刀で受けると、そのまま体ごと弾き飛ばした。
同時にシドウは理解した。あいつがこのベルと呼ばれた死神の父親だと。しかし、死神を生かしておく気はない。
シドウは弾き飛ばした死神を殺そうとするが、思いとどまった。あの最上級死神とこの女死神から感じるオーラはベンニーアによく似ている。もしかしたら、そういうことなのかもしれない。
シドウはそこまで考えると口を開いた。
「おまえら、ベンニーアの親族か?」
シドウの問いにベルは即頷き、最上級死神オルクスは俯いた。それが答えだった。ベンニーアの母がどこにいるかはわからないが……。
「そうか……ベンニーアは元気にやってるぞ」
シドウはそう言うと消え、オルクスとゼクロムとは別の死神を頭から一刀両断にした。
室内の死神……残り三
残った死神は、ゼクロム、オルクス、ベルだ。シドウはゼクロム『だけ』殺すつもりだが、向かってくるのなら全員殺すつもりだ。シドウは再びロスヴァイセに近づくと、彼女を拘束する鎖を斬って破壊。解放されたロスヴァイセに魔力で作った服を着せた。それが完了するとゼクロムを睨んだ。
「で、どうする?ゼクロム。すぐに死ぬか?それともじわじわ死ぬか?」
シドウは冷たい笑みをゼクロムに向けた。ゼクロムの目は完全に戦意を失ったものになっており、ガタガタと震えていた。見ていて悲惨である。シドウは弱者をいじめる趣味はないが、今だけはと自分に言い聞かせてゼクロムの前に移動した。
「答えがないなら、俺が決めるぜ?」
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私、ロスヴァイセはシドウさんがベルさんとオルクスさんを殺そうとするなら止めようと思った。けれどシドウさんはゼクロムだけを殺すつもりのようなので止めずにただ見ていることにしました。
シドウさんはドラゴンの翼を展開して、その腕でゼクロムの両腕を掴み上げると振り向かずに言いました。
「ロセ、ちょっと向こうむいててくれ」
「は、はい?」
「いいから、いいから」
「はい」
私は首を横に向けた。横にいたベルさんはまだガタガタと震えていました。シドウさんの強さを見せられたら嫌でもああなると思いますよ。本当に味方で、恋人で良かったです。
私がそんなことを考えていると。
「この腕も~げろ♪」
とても上機嫌な声音のシドウさんの一言と共に嫌な音が響きました。
ブチブチブチッ!
《ああああぁぁぁぁぁぁ!やめろ!やめてくれぇぇぇぇぇ!》
シ、シドウさん!?何をしているんですか!?
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俺、シドウはスッとしていた。ゼクロムは(精神的に)殺したから二度と俺たちの前には現れないだろう。まぁ、だるまになれば来るも来ないもないがな。
俺はロセの前に移動して話しかけた。
「ロセ、ゴメン」
「大丈夫です。シドウさんが来てくれましたから……」
若干声音が暗い。何かされたようだ。だが、今は……。
「転移魔法陣を展開する。俺はリリスを助けに行くからロセは先に帰っていてくれ」
俺はそう言うと魔法陣を展開しようとするが、ロセがそれを止めた。
俺はロセを見る。彼女の瞳は覚悟に満ちたものだった。
「最後まで一緒に行きます。この先にリリスちゃんがいるんですよね?」
「いるが、危険だぞ」
「今さらですよ」
ロセはそう返すと不敵な笑みを浮かべた。
こうなるとロセは曲がらないからな。
俺はあっさりと折れ、頷いた。
「ああ、わかったよ……。俺の彼女はみんなワガママだな」
俺が後半は聞こえないように言ったはずなんだが、ロセが迫力に満ちた笑みを浮かべながら俺を見てきた。
「何か?」
「いや、何でもない」
俺たちはそう言うと奥へと続く廊下を確認した。
そんな俺たちに話しかけてくる死神が一人。
《待て、貴様。なぜ私を殺さない》
ベルとかいう死神に肩を貸されたオルクスだ。まぁ、疑問に思うよな。
俺を頬を掻きながら言った。
「ベンニーアには世話になってるし、あいつの家族を殺すほど落ちぶれちゃいない」
《それだけでか!私はあいつのことなど!》
オルクスは興奮しながら言ってくるが、俺はあくまで冷静に言った。
「愛していないか?俺はそうは思わないが」
《……なぜだ》
「そこの女死神、ベルだったな。そいつを脅したら飛び出してきただろうが。娘だろ?」
《それは……》
明らかに狼狽えたオルクスに俺は言う。
「子を思わない親はいないってことさ。それで命を助けられたついでに頼まれてくれ」
《何だ?》
案外素直に聞いてくれそうだな。助かるぜ。
「ここにいる死神以外を全員逃がせ。ハーデスが死んだらどうなるかわからん」
俺がそう言うとオルクスは声を荒げた。
《貴様、ハーデス様を!》
「ああ、殺す。だからおまえらは逃げろ」
《敵に情けなど……!》
いまだに抵抗するオルクスをベルが止める。
「お父様、彼に従いましょう。私たちでは勝てません。お母様を逃がさないと」
《ベル!貴様、ハーデス様を裏切るつもりか!》
「はっきり言うと私だってベンニーアについていきたかったんですよ!ここは嫌いです!」
《なっ!?》
オルクスはかなり驚いているが、このままだと喧嘩になりそうだな。
「あ~、とりあえず任せたぞ」
「お父様のバカ!」
《父親にバカとは何だ!》
仲良いのは結構だが、こいつら聞いてるのかな。まぁ、聞いてなくても俺は
俺は二人から視線を外し、ロセに目で合図を送ると奥を目指して走り出した。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。