俺、シドウは転移用の魔法陣を使い冥界に来ていた。冥府に行くためには魔王領の専用魔法陣を使わないといけないからだ。
俺がその専用魔法陣のある部屋に向かっていると、その部屋の前にセラが立っていた。俺は一度足を止め、セラと対峙した。
「シドウ、本当に行くのね。罠なのは間違いないわ」
セラは心配の言葉を言ってくれるが、何となく俺が止まらないこともわかりきっているようだ。
「ああ、ロセとリリスは俺が助ける」
「いくらなんでも無謀よ。冥府の死神とハーデスを相手取ることになるのよ?」
「それでもだ。最悪ロセとリリスだけは助ける」
「シドウ!何でよ……どうして?あなたの命はひとつしかないのよ?死んじゃったら、今度こそ終わりなのよ!」
セラは俺の両肩を掴み、顔を近づけてきた。
「私たちがどうにかするから、今は………」
俺はセラの後頭部に手を添えて、コツンと額を合わせた。
「セラ、ありがとう。だけど、俺は、あいつらを俺が助けてやりたいって思ってる」
「でも!」
食い下がってくるセラに俺は本心をぶつける。
「俺は前世みたいに家族を失いたくないんだよっ!あの時はダメだった。だが、今ならこの手はあいつらに届く!だから、行かせてくれ!冥府の野郎共を殺さないと、頭がどうにかなっちまうっ!」
俺がそう吐き捨てると、セラは俺をやさしく抱き締めてきた。そして俺を落ち着かせるように頭をやさしく撫でながら言った。
「シドウ、やっぱりあなたはバカね。一度決めたら絶対に引かない。私にはそれを止められないけど、せめて、約束して?」
セラはそう言うと俺から一歩離れ、俺の目を見てこう言った。
「あなたとロスヴァイセちゃん、リリスちゃんの三人で絶対に生きて帰って来て。いいわね」
俺のわがままでしかないのに、セラは聞いてくれた。本当に俺はバカで迷惑かけっぱなしだな。
「ああ、任せろ」
俺はそう言うと同時にセラの頭を荒っぽく撫でる。
「こういう時はキスじゃないの?」
セラがボサボサになった髪を抑えながら不満げに言ってくるが、そうなのか?
「そういうもんか?だったら……」
改めてセラの唇に俺の唇を重ねる。今さらだが、何か落ち着いた。
俺たちはゆっくりと唇を離すと微笑みあった。
「行ってくる。今度はちゃんと帰ってくるよ」
「ええ、いってらっしゃい」
俺はセラの言葉を受けて部屋に入った。
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シドウを見送ったセラフォルーに、サーゼクスが近づき話しかけた。
「セラフォルー、やはりダメだったか」
「ええ、シドウは止まらないわね。まぁ、サーゼクスちゃんならわかってたんじゃない?」
「確かにね。これでもシドウの兄だから」
サーゼクスとセラフォルーは彼が入っていった部屋を見る。今頃シドウは出発したころだろうと二人は思った。
「私たちは私たちに出来ることをしましょう。最悪の場合、救出に動かないといけないから」
「ああ、どちらにしてもハーデスは消滅させる」
サーゼクスは静かながら圧倒的なオーラを滲ませながら言った。
「ええ、誰を敵に回したか、教えてあげましょう」
セラフォルーは同じようにオーラを滲ませながら言うと、二人同時に歩き出した。
シドウたちを救うために、敵を滅ぼすために。
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俺、シドウは冥府に降り立った。どこまでも続く荒野、生物が生存不可能なこの冥府でただひとつだけあるギリシャ風の神殿。俺はその真ん前に転移してきた。
到着と同時に俺を囲む死神ども。はっきり言ってうざい。
俺が死神どもを睨んでいると、宙に映像が映し出された。死神どもはその映像に対して膝まずいた。
『ファファファ、本当に独りで来るとはな。コウモリよ、そこは評価してやろう』
なんて事を言いながら映像に出てきたのは冥府の神、ハーデスだ。今回の事件の元凶。
「ハーデス、最初で最後の通告だ。ロスヴァイセとあの子を返せ」
俺はオーラを放ちながらハーデスに言うと、奴は笑うだけだった。
『ファファファ、コウモリ風情が、私を脅すのか?まぁよい。返してほしければ、奪ってみよ。悪魔とはそのような生物であろう?ロスヴァイセというコウモリもどきには手を出さぬように言いつけてあるが、オーフィスはどうかの?さぁ、諸君!そこのコウモリを我の元に連れてこい!褒美は弾むぞ!』
ハーデスの言葉を受け、死神どもから殺気と戦意が迸り始めた。
俺は斬魔刀を取り出すと両手で持ち、右足を引くと右脇に構える。
『
ハーデスの合図と共に死神どもが殺到してくるが、俺は斬魔刀を右から左に一気に振り抜いた。そこから放たれたオーラは死神どもを消し飛ばし、斬り裂いていった!
死神どもの断末魔の叫びが響き渡り、その不快な音が俺の耳を刺激した。ハーデスの映像はいつの間にか途切れていた。
今の一撃で少なくとも百は削れたな。
俺が再び攻撃に入ろうとすると、少し鎌の装飾が凝った死神どもが突っ込んできた。数は百はいる。装飾とオーラの質を見る限りおそらく中級死神。だが、数は問題じゃない。
俺は中級死神の群れに向かって斬魔刀を振り下ろして極大のオーラを飛ばす。何体かは避けるが、俺はすばやく斬魔刀を右手だけで持ち、左手で魔法陣を展開すると砲撃を放ち、避けた死神を撃ち落としていく。
その隙に俺の背後に回った死神がいたが、振り向かずに斬魔刀を自分の顔の横を通過させるようにして突き刺す。絶命を確認すると斬魔刀を引き抜く。
俺は斬魔刀を右肩に担ぎ直して神殿に向けて歩を進める。俺を止めようと死神どもが壁になるが、斬魔刀を軽く振ってオーラを飛ばして全て消し飛ばす。
俺はゆっくりと進み、死神どもの殺しながら神殿の入り口に続く階段を昇り始める。
階段を昇るなかでも死神どもが襲ってくるが、宙に魔法陣を数十個展開すると、一気に魔力弾を放って全て撃ち落としていく。牽制で考えた術が致命傷になるとは、死神とはずいぶん脆いな。
入り口に到着すると扉は固く閉ざされていたが、俺は斬魔刀で滅多斬りにする。扉は微動だにしなかったが、俺が左手で軽く押すと扉はガラガラと音をたてながら崩れ落ちた。これで中に入れる。
俺はそのまま扉の残骸を蹴り飛ばし、向かってくる死神を蹴散らしながら神殿の中に入っていった。
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