シドウさんとイリナは兵藤宅に戻ると、俺、兵藤一誠を含めた、リアスたちとソーナ元会長と眷属、デュリオ、シスター・グリゼルダさんのD×D駒王町チームをVIPルームに集合させた。アザゼル先生にも無理を言って来てもらったようだ。ロスヴァイセさんとリリスがいないのが気になるが、それをシドウさんに訊くことが出来ない。
「………………」
シドウさんは無言で異常なまでのオーラを放っていた。たぶん抑えているんだろうけど、それでも寒気がするほどに濃密なオーラだ。
「シドウ。何があった」
沈黙を破ったのはアザゼル先生だった。シドウさんに単刀直入に訊くと、シドウさんは口を開いた。
「……ロセとリリスが拐われた。実行犯は最上級死神『ゼクロム』。つまり、冥府の野郎どもだ」
「……ッ!ハーデスの野郎、動き出したのかっ!」
アザゼル先生は怒気を込めながら吐き捨てるように言った。ハーデスって、あの骸骨神様か。
俺がそれを思い出していると、シドウさんが言った。
「……アザゼル、ひとつ訊く」
「何だ」
「………『冥府を滅ぼしても』問題ないよな」
『…っ!?』
俺たちはシドウさんの一言に驚愕した!だって冥府って嫌いだけど大事なもんだって以前アザゼル先生から聞いたのに、それを滅ぼすって!ハーフとはいえ死神のベンニーアだっているのに……。
「シドウ……自分が何を言っているのか、わかってんのか!?」
アザゼル先生が驚愕しながらもシドウさんに訊いた。シドウさんは無言で頷き、こう返した。
「ベンニーアには悪いが、俺は冥府を滅ぼす。誰が何と言おうと、敵であるなら消すだけだ」
シドウさんは異常なまでに冷たい声音で言った。本当にシドウさんなのか疑うぞ。
俺がそう思ったと同時にあることを思い出した。
シドウさんは俺みたいに悪魔でドラゴンだ。昔の、つまりシドウさんが『純血悪魔』だったころなら反応が違ったかもしれないけど、今はドラゴンだ。
冥府のヒトたちはシドウさんの触れてはならない領域、つまり『逆鱗』に触れてしまった。
「セラフォルーからは何て言われている?」
アザゼル先生はシドウさんを少しでも落ち着かせようとセラフォルー様の名前を出したが、シドウさんの返答は……。
「政治的には動くそうだ。あまり期待はしてない」
本当にシドウさんなのか?シドウさんのセラフォルー様への信頼は絶対なのに、期待はしてないって……。
アザゼル先生は続ける。
「冥府を滅ぼすと言っても、おまえ一人でやるつもりか?」
「ああ、おまえらには迷惑をかけるつもりはない。全て終わったら、ロセとリリスの保護だけはしてくれ。それだけしてくれれば、俺を『はぐれ』として処刑してくれても構わない」
……ッ!シドウさん、そんな覚悟で事を起こそうとしているのか。
リアスが少し声を荒げて言った。
「お兄様!冗談も大概に……」
「リアス、悪いが冗談は言ってない」
「……お兄様」
リアスはシドウさんの言葉を受けてショックを受けているようだ。俺だってそうだよ。何で……。
「何で一人でやろうとするんですか!」
俺は思わず叫んでしまったが、シドウさんは冷静だった。
「俺が防げなかったからだ。俺が護ってやれなかったからだ」
俺が何か言い返そうとすると、アザゼル先生とシドウさんの耳元に連絡用の魔法陣が展開された。二人は魔法陣からの言葉をを聞くと表情を険しくさせた。
「そうか……向こうがその気なら、
シドウさんは不敵に笑うと立ち上がり部屋を出ようと歩き出した。
俺はアザゼル先生に訊く。
「アザゼル先生、一体何が?」
アザゼル先生は苦虫を噛んだような表情で言った。
「ハーデスの野郎、悪魔と堕天使上層部に宣戦布告をしてきたようだ。オーフィスの力を使って、冥界も自分の管理下に置くとな。ゼウスたちにも通告なし、つまりハーデスの野郎の独断だ」
宣戦布告ってことは、まさか!
「冥府と戦争になるんですか!?」
「そうなるだろうな。おまえら、スマン。前に戦争は起こらないって言ったのによ、テロだのこれだの、本当におまえらには迷惑かける」
アザゼル先生は俺たちに申し訳なさそうに言ってきた。けど、これなら俺たちも動ける!
俺がそう思った矢先、アザゼル先生が言った。
「俺たちも動る。って思ったろ?だが、ハーデスの野郎、ロスヴァイセを人質にすると同時に俺たちがオーフィスをかくまっていることを暴露するつもりのようだ。それを阻止するには『あること』をするように提案してきたらしい」
「あること、ですか?」
俺が聞き返すとアザゼル先生は言った。
「『シドウ・グレモリーを引き渡せ』だとさ。あいつらリリスだけじゃ足りないってわかってやがるな。シドウに送られてるオーラも欲しいんだろうよ。だが、あいつら墓穴を掘ったな。今のシドウを一人で呼び出したら手加減なし、被害お構いなしで暴れるぞ。言い方が悪いが、今のシドウは『血に餓えた獣』だ。そんなあいつにエサが自分から喰われに来たんだ。俺たちが割り込む前に終わる可能性もある」
アザゼル先生は不適な笑みを浮かべて出口を見た。シドウさんは俺たちが喋っている間に行ってしまったようだ。
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ロスヴァイセは目を覚ました。どうして気を失っていたのか、彼女は覚えていない。
《よっ目を覚ましたようだな》
背後から誰かがロスヴァイセに声をかけた。彼女は振り向こうとするが、手足が鎖で繋がれているようで動くことが出来なかった。
声の主はロスヴァイセの視界に入るように回り込んできた。
「あなたは?」
ロスヴァイセはその誰かに訊いた。男性と思われるそのヒトは顔は整っており、髪は黒い。だが、異様なまでに不気味なオーラを醸し出していた。
ロスヴァイセが顔見知りかどうか、思考を巡らせているとその誰かが言った。
《俺か?俺はゼクロム。最上級死神だ。よろしく、ロセちゃん》
そう言うと笑顔を向けるゼクロム。そのゼクロムにロスヴァイセは言った。
「どうして私の名前を!」
《どうしてって、シドウ・グレモリーがそう呼んでいたからな》
ロスヴァイセは考えていた。それを知っているということはシドウとつい最近会ったということだ。
《それにしても、いい体してるな。ちょっと調べたらあんた、ヴァルキリーだったんだな。そりゃ良い体にもなるわ》
ゼクロムは彼女の全身を舐めるように見た。ロスヴァイセは誘われるように視線を下に向けた。
「なっ!?」
彼女は服を着ていなかった。それだけで取り乱し、体を揺らす。
《ハーデス様に言われてるから手は出さないがな。見ている分には何にも言われないだろ》
体を隠そうにも手足は拘束されていて出来ない。体を動かしているだけになってしまう。
《おお、そんなに胸を揺らしちゃって、もしかして誘ってんの?》
「……っ」
彼女は動くことを止め、ゼクロムを睨んだ。ゼクロムは近づくと、彼女の白い胸を鷲掴みにした。
「ひゃっ!」
《お?良い声してんじゃん。そうこなくちゃ》
ゼクロムは味を占めたように何度も彼女の胸を責める。時には乱暴に揉みしだき、時には彼女のピンク色の乳首をつまむ。
「んっ!んっ!」
口を固く結び声を抑えるロスヴァイセにゼクロムは言った。
《もうすぐシドウ・グレモリーが来る。それを冥府の死神全員でおもてなしするんだ。それで、おまえを犯すのはあいつを殺してからだ。あ、半殺しにして目の前であんたをヤるってのもいいかもしれねぇ。ところであんた処女か?あいつのお古なのはちっょとなぁ。だが、魔王の眷属から寝取るってのも乙かもしれない》
そう言うとゼクロムはロスヴァイセの胸を離した。
「この外道!」
ロスヴァイセが息を荒くしながら吐き捨てるように言うと、ゼクロムは笑った。
《強がる女は好きだぜ。その女が折れるところを見ることもな。おまえは楽しませてくれそうだ》
ゼクロムはそう言うと体を骸骨にし、部屋を出ていった。
「シドウさん………」
彼女は静かに涙を流した。理由はゼクロムに屈辱を与えられたからか。それとも……。
「死なないでください……」
自分のせいで再びシドウを危険に飛び込ませてしまった罪悪感からか……。
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冥府でシドウ迎撃の準備を始める死神たち。最上級死神も参加して確実にシドウを倒し、ハーデスに引き渡そうとしていた。
しかし、彼らは知らない。今のシドウが『超越者』であることを。
彼らは知らない。今のシドウが『邪龍』であることを。
彼らは知らない。超越者の『逆鱗』に触れていることを。
彼らは知らない。これから起こる蹂躙という名の『大量虐殺』を。
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