ロセとリリスから解放されたのは午後二時四十五分。いい加減出発しないと遅刻してしまう。
俺は急いで体から水分を飛ばすと脱衣場に用意していた服を着る。
一応魔王領に行くのでしっかりとした服装で行くか迷ったが、その手の服は全部グレモリー城だ。今日はついでにそちらにも寄って取りに行くつもりだ。
そんなわけで場所は転移室。俺が魔法陣の中央に立ちそのまま操作。ロセとリリスが見送りに来てくれていた。
「それじゃ、行ってくる。リリスを頼むぞ」
「はい。任せてください」
「リリスも、ロセと一緒にいろよ」
「うん」
俺は二人にそれを確認すると魔法陣を起動、魔王領に転移した。
光が弾けるともうそこは魔王領だ。到着した瞬間に俺に飛びついてくるヒトがいた。
「シドウ!」
「おっと」
俺はそのヒトを抱き止め、時計回りに回りながら勢いを殺す。
「セラ、久しぶり……でもないか」
「私からしてみれば久しぶりよ」
セラは俺のことを抱きしめながらそう言った。考えてみると最後に会ったのは………昨日じゃね?
「さて、兄さんは?」
セラは一旦離れ、俺の手をとった。
「こっちよ。ついてきて」
そう言いながら進み始めるセラ。俺も手を引かれて歩きだした。
移動することさらに数分。ようやく部屋に到着した。
俺は部屋に入り兄さんと対面するように席に座る。セラは俺の横に座ったが、こういうときは兄さんの横ではないのだろうか。
兄さんは特に気にせずに笑顔で口を開いた。
「さてシドウ。調子はどうだい?」
「うん?問題ないが……何でだ?」
「キミのことを心配するのは当然だよ」
今は『ルシファー』ではなく『グレモリー』として話してるのか。
「体調は問題ないが、何か大変」
俺が言うと兄さんとセラは首を傾げてきた。セラが訊いてくる。
「シドウ、大変って?」
「リリスに突然『パパ』呼びされたんだぞ?混乱もするさ」
「「……大変ね(だね)」」
二人は同情するように言ってくれた。本当に大変なんだぜ?
「……ってパパ!?シドウ、どういうことよ!」
セラはそう言いながら俺の回転椅子を回し、彼女が俺の正面にくるようにした。
「……どうも何も、みんなして俺とリリスが『親子』みたいって言うから、リリスが本気になった」
俺がそう返すとセラは俯きながらプルプルと震え出す。そして顔を上げて俺を見た。すごい覚悟に満ちた表情だ。
「シドウがパパなら、ママは私よ!ロスヴァイセちゃんにはあげないわ!」
二人とも子供が欲しいようだ。俺、大丈夫かな?
「詳しい話は後だ。いい加減本題に入ってくれないか」
俺が回転椅子を戻しながら兄さんに言うと、兄さんの表情が真剣なものになった。
「シドウ、キミの駒についてだが……アザゼルが送ってくれたデータを元にアジュカと話し合った結果、それは純粋な
「純粋なものでも変異でもないって、じゃあ俺のは何なんだ?」
俺が聞き返すと兄さんはこう答えた。
「グレートレッドに二度も取り込まれた影響で変化した
兄さんはそこまで言うとやさしい笑みを浮かべた。
「キミはシドウで、セラフォルーの
俺は俺で、セラの
俺は若干照れながら兄さんに訊く。
「そう言ってくれるのはありがたいが、話は他にもあるんだろ?」
兄さんは頷き、再び口を開いた。
「シドウ。キミにあることを頼みたいんだ」
「それは任務か?」
兄さんはそれを訊くと少しだけ困ったような表情になった。
「任務とも取れるが、取れないとも言える」
よくわからないが、こういう時は訊いておくのがベストだな。
「詳しく頼む」
俺がそう言うと兄さんは頷き、話を続けた。
「キミがリゼヴィムに捕らえられる前、つまりアグレアス奪還作戦の前に話し合っていたことがあるんだ」
俺がアグレアスでリゼヴィムの手駒にされていたときにか、知らなくて当然だな。
「僕たちはD×Dに継ぐ新たな組織を設立しようと思っている。対テロではなくそれを未然に防ぐ組織、人間界で言うところの『CIA』や『MI6』のような秘密情報局をね」
へー、スゴいことになってたんだな。俺はどこか他人事だったが、なぜそれを俺に話すのか疑問に思った。だが、そう思った矢先にわかった。
「俺に所属してもらいたいと?」
兄さんは無言で頷いた。俺って危険なことばっかりしてるな。
セラが俺の手を握りながら言う。
「無理にとは言わないわ。もうシドウは十分頑張ったんだから、他の誰かに任せてもいいのよ?」
セラは辞退してもらいたいような声音で俺に言った。確かに俺はクリフォトとの戦闘で左腕と体をダメにした(今は治ってるがな)。セラやロセに心配をかけたくはないが、俺はかなりのバカだからな。
「確かに俺は色々やってきて色々失ったが、せめて俺や、リアスたちの子供が平和に暮らせるようにしてやりたい」
俺はセラを見つめながら言った。セラは一瞬だけ悲しそうな表情になったがすぐに笑みを浮かべた。
「やっぱりシドウは受けちゃうわよね。わかってたわ」
兄さんは頭を下げてきた。
「すまない。キミにばかり押し付けてしまって」
「兄さん、顔を上げてくれ。魔王なんだから簡単に頭下げんなよ」
兄さんは顔を上げてまっすぐ俺を見てきた。
「組織名は『
「
俺が言うと第三者の声が聞こえてきた。
「テロ対策チーム『
そんなことを言いながら入室してきたのはアジュカ様だ。ファルビウム様はまたサボってんのか?
アジュカ様は椅子に腰を掛けると言葉を続けた。
「発足自体は、一、二年後を予定している。まだ戦後復興で忙しいからね。もっとも最終手段をやっていたらもっとかかっていただろうがね」
それを止めたのが俺なんだがな。一回死んだけど。
俺は話をある程度聞くと、今度はこっちから質問する。
「他の勧誘予定メンバーは?」
「イッセーくんやヴァーリくんをはじめとした
兄さんはサラッと言ったが、なかなか大変じゃね?確か見つかってない
「……俺に見つけてこいと?」
俺が訊くと兄さんは首を横に振った。
「まさか、そこまでキミに頼りきるわけないだろ。人材確保はこっちが動くよ」
俺は息を撫で下ろした。世界を回って
「で、その組織のリーダーは誰にするんだ?またデュリオか?それともアザゼル?」
俺が訊くとアジュカ様が答えた。
「いや、俺たちは兵藤一誠くんに期待している。デュリオくんやアザゼル、シドウくんにも期待はしているが、少なくともデュリオくんとキミはやらないだろう?」
「ああ」
俺が即答で返すとセラから「もう……」と言われた。俺は上に立つより下である程度自由に動ける方が好きだ。
「まぁ、影からサポートくらいはするさ」
「お願いするよ」
アジュカ様はこう返すと、俺をじっくりと見てきた。
「トライヘキサ迎撃のおり、俺はキミたちとは別れてある人物と会っていた。その人物がキミを見て言ったよ。『シドウ・グレモリーか。いつか会ってみたいものだ』とね。彼はキミが帰ってくると直感していたようだ」
怖っ!なんかヤバイやつに目をつけられてるな。
「あ、そうだ。一つ言い忘れていたよ」
兄さんが何かを思い出したように言った。
「キミを『おっぱいドラゴン』か『マジカル☆レヴィアたん』の『劇場版』に出したいんだが、どっちがいい?」
スゲェ真面目な顔して何言ってるんだ。てか劇場版ってどっちもなかなか人気なんだな~。
「あ~、考えとく」
俺が適当に返すとセラが首根っこを掴んできた。
「何で迷うのよ!私と共演するの!」
キレ気味に言うセラだが、力は抜いてくれているためあまり苦しくはない。
「とりあえず、城に戻んないと。服とか多々諸々を
俺がそう言うとセラは手に力をいれてきた。
「『とりあえず』じゃないわよ!どうするの?私?それともリアスちゃん?」
なかなかの究極クエスチョンだな。兄さんがスゴい見てくる。ここでセラって言っても問題はないのだろうが後が怖い。
「だから、考えとく」
「むー!」
セラは頬を膨らませながら手を離してくれた。やれやれだよ。
その後何とか解放された俺はグレモリー城に転移した。父さん、母さんと少し喋り(兵藤夫妻の話だ)終えると、俺は自室に戻ろうとする。その矢先俺に駆け寄ってくる少年がいた。
「シドウお兄様!お久しぶりです!」
「ミリキャス!久しぶりだな!背、伸びたんじゃないか?パーティーの時に見つけられなくて悪かったな」
「大丈夫です。僕もお父様とお母様と一緒に楽しめましたから」
「それは良かった」
俺はそう言いながらミリキャスの頭を撫でる。それを見たグレイフィア義姉さんが言う。
「親子と言われても納得してしまう方がいそうですね」
「まぁ、親戚だしな」
「えへへ~♪」
ミリキャスがリラックスし始めたな。何か頭を撫でるのが得意になり始めている気がする。
「では、お荷物を。大変でしたよ、一度は遺品のとして回収したのですから」
「ははは、はぁ……」
『遺品』と言われると本当に一度死んだんだなって思える。
溜め息を吐いた俺に義姉さんが言う。
「申し訳ありません。とんだご無礼を」
「いや良いって、死んだってことは変わらないんだし」
「はい」
若干義姉さんが冷たい。なぜだ?よく見ると俺の手とミリキャスに視線が行っているような……。ミリキャスを撫で回したいのかな?
「じゃあ、俺はこれで。ミリキャス、またな」
「はい!シドウお兄様!」
「義姉さんもまたそのうちに」
「はい。お待ちしております」
俺は再び転移魔法陣に乗り、人間界に帰還した。
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『サーゼクス、通信越しだがいいか?』
「アザゼルか、どうかしたのか?シドウには例の件、話をしたぞ」
『ああ、それは良いんだが。クリフォトについてだ』
「クリフォト……彼らは壊滅したのだろう?」
『壊滅はさせた。だが疑問が残ってたんだよ』
「疑問か……無いこともないな」
『で、調べてみたらビンゴだ』
「ビンゴ?いったい何がわかったんだ?」
『クリフォトにリゼヴィムの居場所を教え、コキュートスへの裏ルートを教えた野郎だ』
「……!そうか。だが予想通りではあっただろう?」
『ああ、あの
「その情報、どこから」
『クリフォトが宝玉を作ってた機械からだ。まず間違いねぇ』
「そうか、やはり……」
『設立前で悪いが、シドウの
「まったく、シドウに休暇をあげてやりたいのに……」
『まったくだよ。だが、はっきり言ってまだ情報が足りない。集まったら武力を振るう前に止めるぞ』
「ああ、そうだな」
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