俺、シドウはある理由で目を覚ました。俺の体に密着しているロセはまだ眠っている。首を動かして時計を見ると、時間は午前三時ぐらいだ。起こすにも起きるのにも早い。というより今日は休日なので起こす理由がない。
俺が起きた理由は背中にある。ロセが抱きついているため確認しにくいが、誰かが飛びついてきたのだ。誰が飛びついてきたのかはわかりきっているので、俺は前からはロセ、後ろからはその誰かに抱きつかれたまま、再び眠りについた。
再び目を覚ましたのは午前八時ちょい前だ。誰かがドアをノックしたらしく、その音で目を覚ました。
『シドウさーん。朝食の時間でーす』
声からしてイッセーのようだ。俺は返事をしようと起き上がろうとするが、それよりも速く背中から抱きついていた誰かがドアの方へ飛び出した。
黒を基調としたパジャマを着たリリスだ。リリスはドアを勢いよく開けるとそのまま部屋を飛び出していった。相変わらず食い意地が凄まじいようだ。
「……ん。朝ですかぁ?」
ロセも目を覚ますが、寝ぼけているのか俺に抱きつくと再び眠ろうとしていた。女性とはいえロセは
まぁ、俺が力を出せば良いのだが、それをやるとロセに悪い気がしてなぁ……。
俺が決めかねていると、イッセーが「失礼しますよ」と言って部屋を覗いてきた。まぁ、角度的にロセは見えないと思うがな。
俺は左手を挙げ、起きていることだけは伝える。
「あの~、朝食が出来ましたけど」
「ああ、聞こえてる。リアスたちに先に食べててくれって伝えておいてくれないか?」
「わかりました。先に行ってますね」
イッセーはそう言うとドアを閉めて下に戻っていった。
ロセは起きる気配がない。二度寝、しかも熟睡しているため簡単には起きなさそうだ。
俺はロセの頬をつつく。プニプニして触り心地がいい。
ロセは「うぅん……」と小さく漏らすと少しだけ目を開いた。
「ロセ、おはよう」
「………………」
「おーい」
ロセに言葉をかけても全然反応しない。俺は再び頬をつつく。
「もうちょっと、右……」
俺は俺から見て右に少しだけ指をずらすと、その指をロセがくわえた!生暖かさとニュルニュルとした感覚が俺の指を包み込み理性を攻撃してくる!
「ロロロ、ロセ!?な、何を!?」
俺が慌てながらロセに訊く。ロセは俺の指を離すと笑顔でこう返してきた。
「えへへ……何と、なく♪」
寝ぼけているじゃ済まないぞ。俺の寝てる間に何があった。変な夢でも見たのか?
「とにかく、下に行くぞ。たぶん
「あと五分……」
と言いながら再び俺を抱き枕に寝ようとするロセ。
「その五分は過ぎたんだよ!飯がなくなる!リリスに食べられてしまう!」
若干キレながら俺が言うと、ロセは不機嫌そうな顔になったが最終的に俺を離して起き上がってくれた。
「今日の夜も寝れるんです。我慢します」
「はいはい」
俺は適当にロセの言葉に返事をして下に向かった。
遅れること数分。俺とロセはようやく食卓につけた。
今さらながら兵藤宅に住人が増えていることに気がついた。ヴァーリチームのルフェイと、京都のお姫様の
「シドウ殿!ご無事で何よりじゃ!」
九重が米粒を口元につけながら言ってくれた。俺は軽く右手を挙げて九重に答える。
「おかげさまで、姫も元気そうだな」
「うむ!九重は元気じゃよ!」
本当に元気一杯に返事をしてくれた。いやはやイッセーのハーレムが確実に出来上がっているな。
俺とロセは隣り合う席に座り食事に箸をつける。久々だから使えるかどうか心配だったが、問題なさそうだ。
食事を始めた俺にリアスが言う。
「シドウお兄様。サーゼクスお兄様が今日の午後三時頃に来てほしいとのことです」
「早速か……まぁ、善は急げっていうからな」
俺はそう言うと味噌汁をすする。若干冷めてしまっているが逆にちょうど良い温度になっていた。
味噌汁のお椀を置いて時間を確認する。現在時刻は八時十分ちょい過ぎ……時間はまだあるな。
俺が朝食を味わっていると何か違和感を感じた。献立は米と味噌汁と焼き
俺はわざと視線を外す。何かが動いた瞬間に視線を戻し、何かを確認する。
「あ………」
リリスがサラダを少しずつ俺の方に移していた。俺は笑顔でリリスを見る。
「……………」
「えと、うんと……」
「リリス?」
「ちゃんと食べます……」
「よろしい」
若干テンションを落としながらリリスはサラダを食べ始めた。野菜は旨いんだからちゃんと食べないとな。
「何か……本当に親子っすね」
イッセーが俺とリリスを見て言うと、ロセが笑みを浮かべた。
「ふふ、シドウさんがお父さんなら、お母さんは……」
ロセにもそういう願望があるようだ。悪魔は出生率が低いから頑張らないと。
そうこう話している内に俺たちは朝食を食べ終え、自由時間という名のトレーニングタイムとなった。
兄さんがリアスたちに用意したトレーニングフィールド。時々俺も一人で使っていたが、今回はロセと使わせてもらっていた。別のメンバーは遠くで模擬戦をしており、時々爆音が聞こえてくる。
黒いジャージ姿の俺はそれをBGMにちょいと難しい本を読みながら右手を前に出す。魔法陣が一瞬展開されるがすぐに消えてしまった。
「シドウさん。北欧の術はイメージよりも計算です。悪魔の魔法とはまったくと言って良いほど違うのですから、昔習ったことは忘れてください」
白いジャージ姿のロセがアドバイスをくれた。イメージよりも計算。なかなか難しいもんだ。
「うむ。習うより慣れろ理論が好きな俺には難しいかもな」
「一度慣れれば簡単ですから、ある意味その理論は間違っていないですよ?」
「あ、はい」
俺は再び本を見返し右手を前に出す。
これがこうで、こっちはこれで、そこはそうで、こんな感じか?
俺は手元に集中して魔法陣を展開する。前よりは形になってはいるが、ロセと比べたらまだまだ
俺は何かアドバイスをもらおうとロセを見る。
「そうですね。まだ計算が大雑把すぎです。もう少し丁寧に慎重にやってみてください」
「あいよ」
俺は本をじっくりと細部まで見る。先程と比べて長めに時間を使ってから魔法陣を展開する。
最初に比べればキレイなもんだが、まだだな。
「飲み込みが速くて助かります。これならすぐに習得できそうですね」
ロセはそう言ってくれたが、俺の合格ラインにはまだ遠い。
俺は一旦腰を下ろして
ロセが訊いてくる。
「シドウさん。どうして急に北欧の術を?」
俺は本を閉じロセをまっすぐ見た。ロセは少し頬を赤くするが、俺は構わずに言う。
「言ったろ?滅びがないなら他で補うって」
「それは聞きましたけど、だったら悪魔の魔法を高めればいいのでは?」
続けて訊いてきたロセに俺は言う。
「忘れた?俺って悪魔的には魔力量が少ない部類に入るんだぜ?」
ロセはそれを聞いて納得したように頷いた。
「だから、魔力量が少なくても安定した火力が出る北欧のものを……」
「正解だ。それに」
「それに?」
俺は笑みを作りロセを見つめた。
「プロフェッショナルな元ヴァルキリーもいるからな」
ロセはそれを聞いて一瞬照れたが、咳払いをすると笑みを浮かべて俺を見つめ返してきた。
「はい!お任せください!」
俺はロセの返事を聞くと立ち上がり右手を前に向ける。
再び魔法陣が展開されるがまだまだ
「ロセ、撃ってみていいか?」
「はい、その先には誰もいないはずです」
許可をもらった俺は魔法陣を動かし、オーラを撃ち出した。
野球ボール程の大きさのそれは異常なまでにゆっくりと進んでいき、かなりの距離を飛んでいくと急に
ドゴォォォォォォン!!
「「!?」」
想像以上の爆発が起こり、俺とロセを煙が包み込んだ。
「ゲホッ!ゲホッ!ロセ、無事か?」
「ケホッ!ケホッ!だ、大丈夫です」
二人してむせていたが、お互いの無事を確認すると同時に煙が晴れた。
見た感じフィールドにダメージはないが、リアスたちが巻き込まれていないことを祈る。
俺は自分の右手を見る。
「まさか、ここまで火力が出るとは……」
ロセがあごに手をやると真剣な顔で言った。
「この魔法陣ならここまでの火力は出ないはず……シドウさんのオーラが高すぎるのかもしれません。慣れれば加減出来ると思いますが、まだ実戦では使わないことをおすすめします」
「使わないよ。こんな危険なもの使ったら仲間が巻き込まれるわ」
俺たちが確認していると連絡用の魔法陣が二つ展開された。
『お兄様!何ですか今のは!』
『シドウ様!ビックリさせないでください!』
リアスとレイヴェルが怒鳴ってきた。
「あ~、スマン。一言言っておけば良かったな。そっちは怪我とかしてないか?」
俺が訊くと二人は頷いた。
『怪我はしていませんが模擬戦が止まってしまいました』
『こちらもですわ!次からは気をつけてくださいな!』
二人とも厳しいことで。俺はふと腕時計を確認する。午後一時ちょい前、そろそろ準備しないとな。
「二人とも、俺はそろそろ抜ける。やりすぎないように、やらせすぎないように。わかったか?」
『『言われなくてもわかっています!』』
二人は同時に怒鳴ると連絡用の魔法陣が消えた。怒らせちまったかな?
俺はロセに向き直り口を開いた。
「ロセもありがとな。練習時間を削ってまで付き合ってくれて」
俺がお礼を言うと、ロセは首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。なんならお昼も作りますよ?」
ロセの料理か……食ったことないな。
「ありがたいが、いいのか?」
「はい。リアスさんたちにも言ってあります」
ロセは最初からそのつもりだったようだ。
「それじゃ、お願いしますかね」
「はい!お任せください!」
ロセは笑顔で自分の胸を『ドン!』と叩いた。
俺とロセは転移魔法陣を展開して元の空間に戻った。
ロセ特製の北欧の伝統料理。何かジャガイモが多かった気がするが、なかなか旨かった。どこから聞きつけたのかリリスとオーフィスも参戦して食っていたが、その表情は満足げなものだった。
ロセの料理を平らげると軽く汗を流すために大浴場に向かったのだが……。
「どうですか?」
「あ、ああ。ちょうどいい」
ロセに背中を流してもらっていた。拒否権なんてやさしいものはない、強制というやつだ。
胸が当たっているのはわざとだろう。てかわざと意外考えられない!
「シドー、まだ?」
リリスは湯船の中を縦横無尽に泳ぎ回っていた。
「リリスちゃん、泳いじゃダメですよ」
「え~」
タンニーンの世話になっていたときに温泉に入ったが、俺は止めなかったからな。あの時は記憶がなかったか行儀も何もなかったんだ。
リリスは少し減速したが構わずに泳いでいた。オーフィスはイッセーたちとまた昼飯を食っていることだろう。
「はい、完了です」
ロセはお湯で俺についた泡を落とすと湯船に向かった。
ロセが湯船に浸かったことを確認してから俺も湯船に移動する。
俺は若干ロセから遠くに入浴したらロセの方から近づいてきた。リリスも器用にターンして俺の方にくる。右にはロセ、膝の上にはリリスという形になった。
「リリスちゃん、ズルいです」
「~♪」
ロセが若干嫉妬の目で見ながら言った言葉を、リリスは聞いていたのかは別として上機嫌になっていた。
「シドウさん!」
「はい!?」
ロセが突然俺を呼び、俺もそれに反射的に反応してロセの方を見る。
ロセは俺の両方の頬に手を添えるとそのままキスをしてきた!?それもただのキスではなく舌を絡ませる
「ん!?」
「……ん………ふ……」
「シドー、真っ赤」
俺は固まり、ロセはとろけ、リリスはじっと見てきていた。
俺とロセがゆっくりと唇を離すと俺たちを繋ぐように糸が伸びた。
「な、ななな、何しやがる!」
「ふふ、久しぶりです♪」
「リリスも!リリスも!」
俺が慌てているとロセは満面の笑みを作りながら頬に手をやり、リリスはねだってきた。
俺が抵抗しているとリリスは右手人差し指を自分に、左手人差し指を俺に向けた。
「えっと、リリスのここと、シドーのそこを、こう?」
と言いながらリリスはガッツリと俺の頭を掴み、唇を奪ってきた!
俺がいない間に世間の常識が変わったのかな?俺はそう思い始めたがこれだけは言える。俺にロリコン趣味はない!
だが、リリスが俺にキスをしたと同時に大量の何かが俺に流れ込んできた。これはオーラか何かか?
リリスは唇を離すと笑みを浮かべた。
「リリスちゃんまで!?シドウさん!リリスちゃんは娘じゃなかったんですか!?」
ロセは何か変なことを口走り始めたが、俺は即否定する。
「娘って言った覚えはないぞ!」
「シドーパパ♪」
俺が否定するとリリスが抱きしめてきた。パパって言い方誰から学んだ?………イリナか!あの中で父親のことをパパって呼ぶのはイリナだけだ!
俺はそう確信したが、とりあえず……。
「もう勘弁してくれぇぇぇぇぇ!」
俺の叫びが浴室に響き渡った。
現在時刻…午後二時三十分。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。