白銀と黒の鎧を纏ったヴァーリ。漆黒の鎧を纏ったシドウ。二人は兜越しに睨みあい、そして、同時に動き出した。
シドウとヴァーリが同時に消え、遥か上空で戦闘に突入した!
シドウの斬撃とヴァーリの打撃、二つがぶつかり合い、空間を激しく振動させた。
アザゼルに言われた三つのルール。その内の二つの、『殺すな』と『全力でやれ』は二人とも意識しているが、『フィールドを壊すな』に関しては守る気がなくなっていた。
空中で戦っている二人は、飛行に使う神経すら戦闘に使い、落下しながら戦闘していた。二人は同時に同じ事を考え始めていた。
アザゼルが用意してくれたこの空間は『狭い』。消耗し、若干反応が悪くなってきている体が『邪魔』。自分達を縛る全てが邪魔でしかない。二人はそう思えるほど、激しく激突していた!
数十回という攻防を一瞬にして展開した二人だったが、地面に着地すると同時に、ヴァーリの放った拳をシドウが左手で弾き、その隙にシドウが放たれた上段からの斬撃を、ヴァーリが両手をクロスすることで真っ正面から受け止める。
そこで一瞬、動きが止まるが、ヴァーリの鎧がシドウの斬魔刀を完全に防いでいた。しかし、パワーはシドウの方が上のようで、そのまま押し込まれてヴァーリは片膝をつく。
シドウはそのまま斬魔刀を右に振り、ヴァーリの両手が弾くことで、態勢を崩した。シドウは態勢を崩したヴァーリに蹴りを決めて、吹き飛ばした!
吹き飛ばされたヴァーリは態勢を整えると、空中で急停止。シドウに向かって無限にも思えるほどの魔力弾を放った!
シドウはヴァーリに向かって突貫。迫り来る魔力弾を片っ端から斬り裂き、速度を緩めることなく接近していった。
ヴァーリは焦らず、十二本の翼の半分から先を分裂させ、
シドウはついに前進を止め、防御に専念し始めた。
ヴァーリは
すると突然、シドウが消えた!
ヴァーリでも視認できず、シドウを見失うが、同時にシドウを囲んでいた
シドウは再び同じ場所に現れ、真・斬魔刀を右肩に担いだ。
兜で隠れて見えないが、シドウは笑っている。ヴァーリにはそう思えた。
シドウは再び駆け出し、ヴァーリに接近する。ヴァーリは残った
再び二人は激突し、火花を散らした。シドウは時には拳を、蹴りを放つことで攻撃のペースを変え、ヴァーリも自爆覚悟で
シドウは魔力弾を時には弾き、時には消しながらヴァーリへの攻撃の手を緩めることはなかった。ヴァーリがシドウに渾身の右ストレートを放つと、シドウが消え、拳が空を切った。
ヴァーリは驚愕しながらも周囲を見回し、気配を探ろうとする。その瞬間、残った全ての
ヴァーリが肩で息をしていると、シドウが目の前に現れ、左拳で顔面を殴り抜いた!
フィールドに快音が響き渡り、ヴァーリは吹き飛ばされた。
ヴァーリは数百メートル飛ばされ、地面を何度もバウンドすることでようやく止まった。ヴァーリはふらつく足を懸命に踏ん張り、立ち上がると同時に兜が砕け散った。ヴァーリは素の顔でシドウを睨み、考えを巡らせていた。
何をしたかはわからないが、彼は気配を感じさせずに自分と、十二体の
彼はそう考えていると、シドウが兜を解除した。ヴァーリは驚きながらもシドウを見ると、彼は笑みを浮かべた。ヴァーリは、なぜシドウが笑みを浮かべたのか、その理由をすぐに理解した。
ヴァーリは両足を踏ん張り、腹部と胸部に意識を集中させる。同時に鎧が変形し、何かの発射口が出現していた。
シドウはそれを見ると左足を引き、真・斬魔刀を両手で握り直し、左脇に構えると、オーラを集中させていった。
ヴァーリの発射口にゆっくりと、莫大な魔力が収束し、シドウを刀にも、それと同等なまでのオーラが収束していった。
二人がオーラを最大まで溜め終えると、同時に相手に向かってそれを放った!
「
『『『
シドウから放たれた漆黒と深緑色が入り交じった絶対の一撃。
ヴァーリから放たれた漆黒と白銀が入り交じった極限の一撃。
その二つが正面から激闘し、漆黒と白銀と深緑色が入り交じった波動が、フィールドを包み込んだ…………。
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俺、シドウは正座をさせられていた。横ではヴァーリも正座をさせられている。正座をさせているのは俺たちを鬼の形相で睨んでいるアザゼルだ。リリスは部屋の回転椅子に座って遊んでいた。
「で、何か言うことはあるか?まず、シドウ」
訊いてくるアザゼルに、俺は真剣な顔でアザゼルに言う。
「男の真剣勝負に手加減はダメだと思った」
アザゼルはこめかみに青筋を浮かべていた。
「で、ヴァーリは?」
ヴァーリも真剣な顔で言った。
「あの勝負で手加減出来ると思うか?」
ヴァーリは逆にアザゼルに質問していたが、俺とヴァーリの意見はだいたい一致していた。それを聞いたアザゼルは大きく息を吐くと、俺たちを交互に睨んだ。
「手加減したら失礼だってのはわかるぜ?だが、あそこまでやらなくでも良いだろ!」
アザゼルが怒っている理由は簡単だ。
まず、フィールドが完全に壊れた。次に俺は額に包帯を巻いているし、左腕を三角巾と固定具で止めている。ヴァーリも服の下は包帯だらけで、顔にも包帯を巻いている。
アザゼルの提示したルールのうち『フィールドを壊すな』を破り、『殺すな』を破りかけた。まぁ、怒られるよな。
アザゼルは再び大きく息を吐いた。
「おかげでいいデータは取れたぜ?だが、まぁ、代償が大きかった」
「なら良かった。じゃ、俺は帰るぜ?ヴァーリはどうする?アーシアに見てもらうか?」
ヴァーリはしばらく考えると、口を開いた。
「そうさせてもらおう。あいつらを呼んでくるが、俺たちは兵藤宅に直接転移する。向こうで会おう」
あいつらってのはヴァーリチームだろうな。
ヴァーリはそう言うと立ち上がり、歩きだすが、若干足取りがおぼつかない。足が痺れたのかな?
俺も立ち上がり、椅子に座り直した。そんな俺にアザゼルが言う。
「話は終わってなかったんだが、まぁいい。おまえのデータ、見るか?」
そう訊いてきたアザゼルに、俺は返す。
「いや、イッセーたちと一緒に聞く。言いに行くんだろ?」
「ああ、そのつもりだ。それじゃ、データをサーゼクスたちに送るから、ちょっと待っててくれ」
アザゼルはそう言うと、パソコンのようなものを操作し始めた。その隙にリリスが俺の膝の上に座る。
「シドー、これ邪魔」
リリスはそう言いながら三角巾を引っ張っていた。
「まぁ、我慢してくれ」
俺はそう言いながらリリスの頭を撫でてやる。
「む~♪」
機嫌がいいのか悪いのか、それがよく分からない声をリリスは発していた。
「よし、完了だ。行くぞ、お二人さん」
「了解っと」
アザゼルはそう言うと、先に歩き出した。俺は一旦リリスを膝から下ろすと立ち上がり、背中に張り付かせると、アザゼルの後ろについて歩き出す。
「いや~、ようやく帰れる」
「オーフィスに会える?」
「ああ、会えるだろ」
「やった!」
俺の言葉で喜びの声を上げるリリス。最近、リリスの感情の起伏が大きくなってるな。
俺はそんなことを思いながら、転移室に移動した。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。