俺、シドウはのんびり……させてほしかった。
セラと兄さんが主催と思われるパーティー『シドウの帰還を祝う会』。名前から察するに、俺が主役な訳なのだが、いかんせん、こんなのに出るのは久しぶりすぎる。
若い頃は任務で飛び回り、ちょっと前は教師として人間界で活動、さっきまで記憶喪失で旅していた。
パーティーなんて縁がねぇにも程があるよ!まぁ、嬉しいけどさ!
そんな俺には構わず、歌が歌われ、誰かがダンスを踊っていた。
いやはや、元気そうで何よりだよ。
俺はそんなダンスを見ながら椅子に座り、食事に手を出していたんだが、なかなか旨いな。ふと見ると、タキシードに身を包んだイッセーとドレス姿のリアスがダンスを踊って(踊らされて)いた。なかなか上手ではある。まぁ、心配はしてなかったけどさ。
セラが俺に近づいてくる。
「シドウ、楽しんでる?」
「ああ、見てる分には退屈しない」
「ふふ、ならよかった」
セラは俺の横に座り、真剣な声音で言った。
「本当に無事で良かった………毎回心配かけすぎよ」
「ごめんな。だが、最終手段は使わせたくなかったんだ。そこは、わかってくれ」
「わかってるわよ」
セラは頷いた。実際、最終手段は使わせたくなかった。各勢力のトップ陣がトライヘキサもろとも隔離空間に転移して、倒せるまで戦い続ける。
なんてこと、兄さんやセラにはさせたくなかったし、やったらリアスとソーナが泣く。だからやらせたくなかったのだが、結果的に泣かせちまったかな?
「シドウ、ちょっと来て」
セラは立ち上がり、俺に手を伸ばした。俺はその手を取るが、一瞬にして後悔した。セラがイタズラを思い付いたような表情になっていたのだ。
「ふふ、しっかりリードしてね♪」
「はは、マジか。頑張らないと」
俺はセラに引っ張られるまま、ホールの中央、つまり、ダンス会場へと足を進めた。
数分後、ダンスが無事に終わり、俺はバルコニーに出て休憩していた。
いや~、緊張した。もう踊りたくないね。
俺がそんな事を考えていると、俺の横に立つ人影が。俺が目を動かして確認すると、兄さんだった。
「シドウ、楽しんでるかい?」
「俺よりも父さんとか、アザゼルが楽しんでる風に見えるがな」
「確かに」
久々の兄弟の会話だが、話題に困るな。
「シドウ、お父様とお母様には話したんだか、キミの記憶を移すように指示をした人物、『ベルゼブル』は死亡した」
唐突に話始めたが、割りと重要な話だった。
「実行した者たちも、既に亡くなっていることも確認できた」
「そうか………言いそびれたな」
「言いそびれた?一体何をだい?」
俺の一言に兄さんが反応し、訊いてきた。俺が言いたかったことはただ一つ。
「こっちに送ってくれて『ありがとう』ってな。何だかんだでこっちに来てから楽しいことばっかりだったし」
兄さんは少し驚くと、笑みを浮かべた。
「キミに余計な事をしてしまった。彼はそう言っていたが、その言葉を聞かせてあげたかったよ」
「死んじまったんなら仕方ない。俺は今まで通りやっていくさ」
「キミらしい答えだ。あ、そうだ」
兄さんは何かを思い出したように口を開いた。
「シドウ。キミを超越者と認定した。なったから何かあるという訳ではないが、心に留めておいてくれ」
超越者……つまり、俺は兄さんとアジュカ様と同列ってことか。
「そのうちイッセーとヴァーリもなるんだろ?」
「はは、わかってたかい?」
「未来の義弟とそのライバルだぞ?そのくらいわかる」
「それもそうだね」
兄さんはそう言うと、ホールへ戻っていった。
グレモリー家男子の三人が超越者とは、恐ろしいな。
俺は体が冷えきらないうちにホールへと戻った。
次に声をかけてきたのは、黒髪の二十代男性と女性だ。
「レンとユリヤじゃねぇか!ひっさしぶりだな!」
俺が久々の再開に喜ぶと、レンに睨まれた。
「シドウさん、俺たちがどんだけ心配したと思ってんだ?」
「そうです、そうです!何かやるなら一言告げてください!いきなりやられても動揺するだけです!」
二人とも手厳しいことで……。
「そ~だよ~。びっくりしたんだから~」
「やれやれ、今回はルテアに同意する」
俺の後ろには、白髪ダンディーな男性アシャと、金髪タレ目の少女ルテアがいた。アシャは腕を組み、ルテアは苦笑していた。
「おまえらも来てたのか。声かけてくれれば良かったのに」
俺が言うと、アシャが答える。
「しようとはしたさ、マスターと躍りに行ってしまったのでな」
あ~、なるほど。それじゃ無理だな。
俺は周りを確認するが、キアガラとゼイメファ、ベヒーモスがいない。
「ちなみに、ここにいない連中は、セラの仕事を手伝って倒れた者と、興味のないのどちらかだ」
アシャが俺に教えてくれたが、仕事を手伝ったのは、キアガラとゼイメファで、興味のないのはベヒーモスだろう。
あいつらも大変だな。
俺がここにいる全員に言う。
「まぁ、楽しんでけよ。ヒトのこと言えた義理じゃないけどな」
「もう楽しんでるさ。色々と食べさせてもらったし」
「はい!シドウさんのダンスも見れましたし!」
「有名演奏家の曲も聞けた」
「の~んびり、ま~ったり出来たからいいよ~」
レン、ユリヤ、アシャ、ルテアの順で言った。
四人はそれを言うと、別れていった。
あいつらにも悪いことしちまったかな?
俺はそう思いながら、再び移動した。
俺はリアスたちに話しかける。
「おまえら、教えてくれても良かったんじゃないか?」
俺が言うと、リアスが苦笑した。
「サーゼクスお兄様から『シドウには内緒の方向で』と言われていまして……」
「じゃあ、しょうがないか」
リアスの言葉に一応納得したが、兄さんとセラが決めたことなんだろうな。あの二人らしいよ。
「そうだ。リリスは?そっちについていったが」
「リリスちゃんは今、ヴァーリチームの同伴で、別室でオーフィスちゃんと会っていますわ」
朱乃が教えてくれたが、そっか……会ってるのか。
「食いしん坊の二人が出てこないのは誉めるべきかな?」
俺が言うと、リアスが返した。
「別室にも食事は用意してあります。ヴァーリチームにも振る舞わなければなりませんので」
グレモリー家の料理人、過労で倒れない?大丈夫なのか?
俺はそんな疑問を口に出さずに飲み込んだ。言ってしまうと、その料理人をバカにしていると思われそうだからだ。
「イッセー、リアス、また踊ってくればどうだ?」
話している間に次の曲が始まったので、ノリで言ってみると
「そうですね……イッセー、行くわよ!」
「え!?また行くんですか!?」
「あらあら、次は私ですわよ。ねぇ?イッセーくん」
「次は私ですぅぅぅ!」
「お、イッセーと踊れるのか?ならば私も!」
「天使のダンス、見せてあげちゃう!」
「負けてられない……イッセー先輩とは私が」
「私を忘れないでくださいな!」
リアス眷属と自分の眷属に押され、奥に連れていかれた。ギャスパーもヴァレリーと踊ることになり、木場は『トスカ』という名前の、聖剣計画のもう一人の生き残りの少女と踊ろうとしていた。
俺は柱に隠れていた人物に声をかける。
「何やってんの、ロセ」
「し、シドウさん」
ロセだ。綺麗な銀色のドレスに身を包んでいた。なのに柱の影に隠れていた。恥ずかしがっているのか。
俺はロセに手を伸ばす。
「Shall We Dance?」
キザっぽく英語で言ってみたが、スゲェ恥ずかしい!
「Sure,I'd love to」
ロセは顔を真っ赤にしながら律儀に英語で返すと、俺の手を取った。
俺が笑みを浮かべると、ロセも笑顔を見せてくれた。
俺とロセは二人でホール中央へと向かい、踊り出した。
俺とロセのダンス(なぜかイッセーたちが出てこず、二人だけの独壇場になっていた)が終わると、ようやくパーティーもお開きとなり、一部のヒトは二次会へと向かっていった。俺はグレモリー城の自室でのんびりさせてもらっているがな。久々の我が家は何か安心する。
俺はベッドに身を投げ、ボケッと天井を見ていると、ドアが開けてセラが入ってきた。
「お邪魔するわね」
「いらっしゃいっと。で、どうかしたか?」
俺が体を起こすと、セラが俺の横に座った。
「どうだった?シドウの帰還を祝う会は」
「久しぶりに楽しめたよ。いい刺激になった」
「それは良かった」
「………………………」
「………………………」
俺とセラは黙りこんでしまった。わ、話題が見つからない。俺が困っていると、セラが沈黙を破った。
「ベルゼブルの話、サーゼクスちゃんから聞いた?」
「ああ、聞いた。もう亡くなってるだろ?」
「ええ、最後に話したのが、アザゼルとサーゼクスちゃんだったんですって」
「二人の前で死んだのか。まぁ、気にしてても仕方ないがな」
「そうね。どうであれ、シドウはシドウですもの」
「ああ、俺は俺さ。体はダメになったが」
俺は右親指を胸に突きつける。
「
セラは黙って俺のことを見つめてきた。俺も言葉を続けず、セラを見つめ返す。
ゆっくりと顔を近づけ、唇を重ね、そして、俺たちは体を重ねた。
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