「次はどいつだ?」
シドーの狂喜を感じさせる表情で敵を睨んだ。リリスは顔を引っ込めた。
周囲にいた邪龍がシドーに殺到し始めるが、彼はゆっくりと日本刀の柄に右手をかける。邪龍を十分引き付けたところで、抜刀し、一気に振り抜く。その瞬間、邪龍たちがピタリと止まった。シドーが納刀すると、邪龍たちが四散し、その返血でローブが赤黒く染め上がった。
タンニーンは違和感を覚えていた。シドーと彼の戦いかたはある意味で真逆だからだ。記憶を失っても戦闘になれば体が動くことがある。いわゆる『体が覚えている』というものだ。だが、一撃必殺を狙うものは彼があまりやらなかったことだ。タンニーンの確信が、疑問に戻りつつあった。本当にシドーが彼なのか、そう思えてしまうほど、シドーと彼の戦闘スタイルが違うのだ。
タンニーンがそう思っている間にも、シドーは敵を斬り伏せていっていた。ローブの男たちも、シドーから距離を取っているほどだ。そのおかげで、少しずつだがタンニーン側が優勢になりつつあった。
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俺、兵藤一誠は、邪龍(?)と戦っていた。けれど、どうも邪龍とは思えないんだ。なんかこう、言葉にはしにくいんだけど、そう思う。
D×Dのメンバーも邪龍と戦っている。全員余裕そうだ。
俺は修行や、あることの影響で、常に紅の鎧でいられるようになっている。おかげで、邪龍をパンチ一発で沈められる!
俺は邪龍を殴り飛ばし、次に向かおうとした時だ。何かがものすごいスピードで飛んで来た。俺は反射的にそれをキャッチしてしまったが、それは………。
「うっ……」
「イッセー!どうした……の?」
俺がうめき声を上げたことに、リアスが心配してくれたが、俺が持つものを見て顔色を悪くしていた。
飛んで来たのは、生首だ。顔面が内側にめり込み、無惨なことになっている。
俺は首を離し、息を整える。落ち着け……落ち着け、こんなもんで動揺してちゃダメだ!
俺は一度深呼吸をしてから、再び邪龍を相手し始めた。
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シドーはあるものと睨みあっていた。自分と同じ、黒いローブで身を包んだ女性だ。なかなか強いオーラを感じられる。
「仕方ありません。あなたの相手は私がします」
女性はそう言うとフードを取り払った。
キリッとした雰囲気を感じさせる黒髪を肩まで伸ばした女性だ。なかなかの美人だが、シドーにしてみれば、ヒトの区別は『敵か味方か』でしかない。年齢、性別は関係なく、平等にそれでのみ判断する。それが今の彼だ。
シドーは日本刀を女性に向ける。
「おまえは楽しませてくれるのか?さっきの奴は弱すぎる……」
シドーは肩をすくめながら言った。
「この宝玉による強化も
女性は魔方陣を無数に展開し、一気に魔力弾を撃ち放った!
シドーはそれを体さばきで避け、時には手で弾く。女性はその弾幕に紛れてシドーに接近し、右手にオーラを込めた。シドーはそれを察知して右手を握り、オーラを込めた。女性が右手を突き出した瞬間、シドーも右拳を撃ち出した!だが、シドーは一つ読み違えていた。彼女が狙ったのは打撃ではなく、ゼロ距離攻撃だったのだ。結果、シドーの拳は空を撃ち、女性の魔力弾がシドーの顔面に直撃したのだ。
女性は勝ち誇ったような顔をしていた。今の一撃は上級悪魔でも吹き飛ぶほどのオーラを込めた。いくら奴でも耐えられる訳がない。
彼女はそう思っていた。……だが。
「いや~、いい一撃だ。『わざと』貰ったが、軽く後悔してるぞ」
シドーは顔周りの煙を、手で払いながら言った。
女性の表情が固くなった。目の前の彼は自分の全力をノーガードで食らい、余裕そうなのである。そして、煙が晴れると同時に戦慄した。シドーの右頬が、黒い鱗に覆われているのだ。そして、口の奥歯から右犬歯くらいまでが、ドラゴンを思わせる鋭い牙となっていた。
「あなた、一体……?」
シドーは鱗を元に戻しながら言う。
「う~ん。それは自分でもわからんが……とりあえず」
シドーは右人差し指を女性に向けた。
「通りすがりのドラゴンだ。覚えておかなくていい」
女性は再び大量の魔方陣を展開した。魔力弾をドリル状に変形させ、貫通力を上げているようにも見える。
あれならば、自分の鱗も撃ち抜けると判断したのだろう。おそらく、あれがあるから自分を受け持ったのかもしれない。
シドーはそう思ったが、貼り付けたような笑みを浮かべ、こう言った。
「いい判断だ。計算ずくだな」
一瞬にして女性の目の前に移動、そして……
グシャッ!
「ウッ………」
「だが無意味だ」
女性の腹部にパンチを決めた。だが、割りと力を込めたのか、腹に風穴が空いてしまった。女性は腹部に突き刺さったシドーの右手を掴み、力を入れた。まるで、それが命綱かのように離すまいとしていた。
「わ、私は………あのヒトのために……」
女性はそう言い残すと大量の血を吐き、息絶えた。
シドーは手を引き抜き、女性を落下させた。残りのローブで身を包んだ者たちはいなくなり、邪龍も消え失せていた。
シドーは血まみれの右手を見て言葉を漏らした。
「汚ねぇな……」
自分でやっておきながら言っているという自覚は、彼にはない。
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俺、兵藤一誠とD×Dのメンバーは、邪龍の撤退を確認したので、タンニーンのおっさんの所を目指し、移動していた。今回の話を聞くためだ。
しばらく歩くとタンニーンのおっさんを確認できた。少し怪我をしているが、大丈夫そうだ。
「おっさん!大丈夫だったか!」
俺は手を振りながら声をかける。タンニーンのおっさんはこちらに笑みを返してくれた。
「兵藤一誠、昇格式以来だな。すまんな、面倒をかけてしまったようだ」
「大丈夫だって!おっさんは俺の先生なんだし、恩返しはしないと」
俺は笑顔でそう返す。
タンニーンのおっさんは頷くと、俺の後ろに目を向けた。
「リアス姫、ソーナ姫、サイラオーグ殿、シーグヴァイラ姫、貴殿たちにも迷惑をかけた」
タンニーンのおっさんは申し訳なさそうに頭を下げる。
リアスたちも「気にしないでください」と口を揃えて言っていた。
すると、アザゼル先生(一段落してから呼んだ)が前に出る。
「タンニーン、どうしてここが狙われたかわかるか?」
俺たちが疑問に思っていたことだ。タンニーンのおっさんは最上級悪魔だ。そんなおっさんを狙うって、デメリットしか思い浮かばない。
「理由か……」
タンニーンのおっさんは思い当たることがありそうだが、言いよどんでいた。
「おっさん、頼む。教えてくれ」
俺が頭を下げると、タンニーンのおっさんが口を開いた。
「奴らがここに来た理由、それは」
「俺たちがいるからだ」
タンニーンのおっさんの声を遮って、第三者の声が聞こえた。黒いローブでフードを深く被り、左手には日本刀を持った男性。ってこいつは!?
俺たちが構えると、黒ローブの男性こと『ブラック』は肩をすくめるだけで構える気を見せなかった。俺たちなんかいつでも殺れるってか!なんかムカつくぜ。
アザゼル先生がブラックに言う。
「おまえがブラックか、俺はアザゼルだ。よろしく頼む」
ブラックは頷きながら言った。
「アザゼルか。どっかで聞き覚えがある気が……」
ブラックはそんな事を言っているが、ブラックの声、聞き覚えがあるような。
アザゼル先生が続ける。
「『俺たちがいるから』と言ったが、どういう意味だ」
ブラックはタンニーンのおっさんの方を見た。タンニーンのおっさんが頷くと、一度息を吐いてから言った。
「俺たちってよりは、この子って言った方がいいかな?」
ブラックがそう言うと、ローブがモゾモゾと動き、何かが出てきた。黒いドレスを着た女の子だ。
「赤龍帝、久しい」
「リ、リリス!?」
リリスだ!クリフォトのねらいの一つで、もう一人のオーフィスだ。何であの子がここに?
「リリスの知り合いだったのか。いや~すまんな。前に会ったときは睨みつけちゃって」
ブラックは頬を掻きながら言った。案外フレンドリー?
「おまえさん、顔を見せてくれないか?」
アザゼル先生が言う。確かに気になることだ。するとタンニーンのおっさんが言った。
「彼の顔を見る前に、心の準備をしておけ」
俺たちはどういう訳なのかわからないが、ブラックはそうこう言っている内にフードを取り払ってしまった。
紅と黒が入り交じった髪に、右目が
「シドウさん?」
ロスヴァイセさんが言った。そう、ブラックの素顔は、トライヘキサと共に消滅してしまったと思われていた、リアスのお兄さん、シドウ・グレモリーさんと瓜二つだったのだ。
ロスヴァイセがゆっくりと歩み寄ろうとする。
シドウさんはロスヴァイセさんに気がついているはずなのにタンニーンのおっさんの方を見た。
「それじゃ、タンニーン。世話になったな。俺たちは出発する」
ロスヴァイセさんはそれを聞いて歩みを止めてしまった。シドウさんは踵を返して歩き出してしまう。
アザゼル先生が慌てて呼び止める。
「おい待て!何か言うことはないのかよ!」
シドウさんは振り向いてから首をかしげ、疑問符を浮かべていた。
「『初対面』の奴に、何か言うことがあるのか?」
俺たちは動けなくなってしまった。ま、待ってくれよ。俺たちが初対面?そんなわけ……
「そんなわけないじゃないですか!わからないんですか?私です!ロスヴァイセです!」
ロスヴァイセさんが悲痛な叫びをあげていた。目には涙が溜まっている。
シドウさん(?)は立ち止まり、振り向いた。
「ロスヴァイセ?………ロスヴァイセ……」
ロスヴァイセさんの名前を繰り返し、記憶を探っているようだ。だが
「すまん、わからないな」
「…………………」
ロスヴァイセさんは泣き出しそうになっていた。俺はブラックに何か言ってやろうと思い、目を戻すと、ブラックが消えた!?もう行っちまったのか思うと、ロスヴァイセさんの方から気配が。見ると、ブラックがロスヴァイセさんの前に移動していた!
ブラックはロスヴァイセさんの涙を、右手の人差し指で拭き取っていた。
「…………あれ?」
ブラック自身も目を丸くしていた。自分が何をしているのかわかっていないようだ。ロスヴァイセさんも驚いているが、やさしくブラックの手を握った。
「ありがとうございます」
「お、おう」
やっぱりあのヒトはシドウさんだ。でなきゃ、あんなことしない。
アザゼル先生が言う。
「おまえ、名前は?」
ブラックが口を開く。
「俺はシドー……らしいが、ちょっと違う気がするんだよな」
『シドー』って、もはや自白してるじゃないですか!
アザゼル先生が続ける。
「それじゃあ、シドー、リリス。うちに来ないか?」
アザゼル先生には、何か考えがあるみたいだ。てか、俺たちもシドーさんには来てもらいたい!
シドーさんは少し考えると、表情を険しくさせながら言った。
「俺たちといるとあいつらに狙われることになるが、それでもいいのか?」
シドーさんはシドーさんなりに俺たちを心配してくれているようだ。
アザゼル先生が不敵に笑んだ。
「俺たちに喧嘩売ったらどうなるか、教えてやる良い機会だ」
シドーさんは少し悩んでいると、リリスが言った。
「シドー、シドー。わたし、いきたい」
シドーさんはリリスの言葉を受けて、小さく微笑んだ。
「わかった、世話になるかな」
「よし、決まりだ。早速出発しよう」
アザゼル先生が急かすように言った。
シドーさんの背中にリリスが飛び付き、ロスヴァイセさんは手を握ったままだ。
シドーさんは気にした様子もなく、アザゼル先生についていった。
「タンニーンのおっさん!また来る!」
「ああ、今は……」
タンニーンのおっさんはシドーさんの事を見つめていた。
「わかってるよ。シドーさんの記憶をどうにかして戻さないと」
「俺では無理だった。後は任せる」
「任せといてくれ!」
俺はサムズアップでタンニーンのおっさんに答える。そんだ、ロスヴァイセさんのためにも、セラフォルー様のためにも、リアスのためにも、シドーさんの記憶を取り戻す!
俺たちは、クリフォトの壊滅とは別の目的も達成するため、動き出した。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。