シドーとリリスは温泉から上がり、上機嫌になっていた。だが、そんな彼らの前に巨大な影が落下してきたのだ。
落下と同時に舞い上がった雪がその何かを隠すが、シドーが左手に持つ日本刀を鞘に入れたまま大きく振り、吹き飛ばす。
視界が回復し、彼らの目に飛び込んできたのは、ドラゴンだった。タンニーンほどではないが、巨大なドラゴンだ。
シドーは近づき、話しかける。
「大丈夫か?何があった?」
どこか他人事のシドーに、そのドラゴンは言う。
「て、敵だ!おまえらを狙っているらしい!タンニーン様が抑えてくれている。今のうちに逃げろ!」
ドラゴンは急かすように言っているが、シドーは大して気にした様子はなく、タンニーンがいると思われる場所を見ていた。
タンニーンは彼らにとっては恩人だ。そんな彼を助けないのは、どうも嫌な感じがする。
シドーはそう思っていた。
「リリス、行くぞ」
「うん」
シドーの言葉を受け、リリスが背中に飛び付く。そんな二人を見て、ドラゴンは叫んだ。
「そうだ、それでいい!早く逃げるんだ!」
ボロボロになってまでそれを言いに来てくれたことは嬉しいが、彼らが目指す場所は違う。
「そこのドラゴン、動くなよ。助けを呼んでくる」
シドーはそう言うと、ローブを羽織り、ドラゴンに背を向けて黒い翼を展開した。
「ま、待て!話を聞いていなかったのか!?」
「聞いてたさ。おまえも敵にやられても来てくれたんだろ?だったら、俺も命賭けなきゃ」
シドーはそう言うと、飛び上がろうとするが、その前にドラゴンが質問する。
「おまえ、なぜだ?見ず知らずのモノのために、なぜそこまで?」
シドーは振り返らずに言った。
「俺の恩人は何としても助けたい。何でかそう思う」
シドーの瞳には強い覚悟の色が映っていた。
「そういうわけだから、行ってくる」
シドーはそう言うと、飛び出していった。
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俺、兵藤一誠は、オカ研の部室にいた。リアスや朱乃さん、ゼノヴィア、ソーナ前会長含め、その眷属もここにいる。だが、部室のメンバーの表情は険しい。
アザゼルが口を開く。
「現在、タンニーンの領土にクリフォトが攻め込んだでいる。そして、タンニーンが劣勢なようだ」
俺たちは驚愕した!タンニーンのおっさんの強さは誰よりも知ってる。おっさんが負けてるなんて、信じられない!それよりも、何でおっさんの領土を?
「冥界にいる、サイラオーグ、シーグヴァイラはもう動き出している。おまえらもすぐに向かってくれ」
『はい!』
アザゼル先生の言葉にすぐさま返事をして、俺たちは転移魔方陣に向かった!
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タンニーンは突如現れた悪魔の軍団と戦っていた。どこから入り込んだのかわからないが、おそらくこいつらの狙いはリリスだ。それだけはわかっていた。
タンニーンは火炎を吐き、五人を一気に消し炭にする。
だが、敵の増援が大量に転移してきていた。
近辺に住むドラゴンも加勢してくれているが、どういうわけか相手の方が優勢になっているのだ。
そして、明らかに動きが違う者たちが確認できた。その者たちは黒いローブに身を包み、フードを深く被っているため顔は見えない。だが強さは本物のようで、一人でドラゴン数体を圧倒していた。
タンニーンには見覚えがあった。自分もレーティングゲームに参加していた身だ。彼らはその時に見たのだ。不正を行ったレーティングゲームのトップランカーたち、そのほとんどは捕らえられているが、眷属が逃げ切ったという情報もきている。おそらく彼らは、その眷属なのだろう。おそらくは
そいつらを抑えないことには押し切られてしまう。タンニーンがそう思った矢先、黒いローブの男が一人、タンニーンに近づき、言った。
「タンニーン殿。このままここを破壊し尽くしても良いのですが、リリスを渡してはくれませんか?彼女を渡してくれれば、私たちは撤収します」
感情を感じさせない声で男は言った。心が壊れているのか、それとも操られているのかはわからないが、彼の言葉を鵜呑みにするほどタンニーンもバカではない。
「リリスとやらはここにいない!場所を間違えたな!」
タンニーンはそう言いながら男に火炎を吐いた。男はそれを鮮やかに避け、タンニーンを見た。
「では、山狩りといきましょうか」
男が指を鳴らすと、大量の転移魔方陣が展開された。そこから現れたのはドラゴンの群れ、一体一体の目が虚ろで禍々しいオーラを放っている。タンニーンは彼らに見覚えがあった。つい最近まで談笑していたドラゴンたちだ。
タンニーンは怒りをあらわにしながら言った。
「貴様ら!そいつらに何をした!」
「リゼヴィム様は聖杯で邪龍を量産した。だが我々にはそれが出来ない。ならば、ただのドラゴンを邪龍にしてしまえばいい。そう思ったんですよ」
「おのれっ!」
タンニーンは男に向かっていくが、男が一瞬にして姿を消し、タンニーンの背中を殴り付けた!
タンニーンは勢いのまま地面に叩きつれられた。
男はタンニーンを見下ろしながら言う。
「邪龍への仕方は簡単です。邪悪の結晶を体内に入れればいい。埋め込むもよし。食べ物に混ぜて食べさせるもよし。色々な手があります。事実私も……」
男は袖をまくり、腕を見せる。
「埋め込んでいますので」
腕には禍々しい光を放つ宝玉が埋め込まれていた。
タンニーンは驚愕しながらも、口を開いた。
「その結晶、どうやって作ったというのだ!」
男は肩をすくめ、言った。
「それは教えられません」
男はそう言うと、拳を構え、タンニーンに肉薄した。
タンニーンは避けるが、余波で彼の後ろにあった岩が砕け散った。明らかにただの悪魔としての力を越えている一撃だ。
そうこうしている間にも、邪龍とされてしまったドラゴンが暴れ始めていた。昨日までの友人ということもあり、ドラゴンたちは防戦一方となっていた。
このままでは押し負けてしまう。
タンニーンの脳裏に、『敗北』の二文字が浮かび始めた時だ。
何かを斬る音が聞こえてきた。一回や二回ではない、数十回にもわたる斬撃音。それが少しずつタンニーンの方へ近づいていた。
一際大きな斬撃音と同時に現れたのは、男と同じ黒いローブに身を包んだ男性だ。紅と黒が入り乱れた髪に、日本刀を持っている。タンニーンにはもう誰かはわかっていた。シドーだ。
タンニーンは怒気を孕みながらシドーに言った。
「貴様、なぜ来た!」
シドーは笑みを浮かべて言った。
「おまえは恩人だ、恩人は助けないと。なぁ?リリス」
「うん」
返事と共にシドーのローブの中からひょっこりと顔を出したのはリリスだ。リリスは二人羽織の後ろの人のように、シドーの顔の後ろから頭を出していた。なかなかシュールな光景である。
「いるではありませんか。では、リリスをいただきましょうか」
男はそう言うと消え、シドーの正面に現れた。男は素早く右拳を引き、勢いのまま撃ち出した!シドーはそれを真っ正直から受けてしまうが、怯みもしない。
「なかなか固いですね」
男は怯まずに、シドーの顔面を狙って拳を撃ち出した!
シドーは嘆息すると、右手でそれを受け止め、そのまま軽く力を込める。。
男の手から何かにヒビが入る音が出始め、表情も苦痛に耐えるようなものになっていた。
「攻撃ってのはこうするんだよ」
シドーはそう言うと、左手に持っていた日本刀を上に投げ、左手を引く。オーラが溜まり、筋肉が膨張する。
「覚えとけ」
シドーの一言と同時に右手を離し、左拳を撃ち出した!拳は男の顔面を捉え、めり込んだ。『グチャッ』と嫌な音が響き渡り、男の頭だけが遥か彼方に飛んでいった!
残された体は力を失い、地面に落下する。シドーは左手をスナップすると、落下してきた日本刀をキャッチした。
「次はどいつだ?」
シドーは狂喜を感じさせる表情で敵を睨んだ。
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