タンニーンが飛ぶこと数分、その不届き者たちの姿を捉えた。一人は黒いドレスを着た少女だ。その少女はドラゴンアップルを頬張っている。もう一人は左手には鞘に納まった日本刀、黒いローブを身にまとい、フードを被っている男性だ。彼はドラゴンアップルを口にはせず、少女の様子を見ているだけだ。タンニーンは二人のすぐそばに着地する。
着地の振動が木々を揺らすが、二人は動じた様子もなく、タンニーンの方を見た。タイニーンは内心驚いていた。黒いドレスの少女からは、龍神オーフィスと同じオーラを感じたからだ。だが同時に理解した。彼女が兵藤一誠たちが言っていたもう一人のオーフィス、リリスだと。なぜリリスがここにいるかは別として、タンニーンは黒いローブの男への警戒を最大にした。男からはドラゴンのオーラを感じ取れる。だが、どのドラゴンなのか、それがわからない。元とはいえ龍王の自分でもわからないドラゴンだ。彼が、おそらく先日通達された謎のドラゴン、ブラックなのだろうと考えた。警戒して当然だろう。
タンニーンが訊く。
「貴様ら、何をしにここに来た。ここが俺の領土なことは知っているはずだ」
リリスは食べるのを止め、ブラックの後ろに隠れた。だが、ドラゴンアップルを手に持っていた。そんなリリスを見て、ブラックは笑みを浮かべると口を開いた。
「いや~、スマン。俺もこの子も、まともに字が読めないもんでね」
声を聞いたタンニーンは疑問に思った。ブラックの声はどこかで聞きた覚えがある。そう感じたからだ。
タイニーンは続けて質問する。
「それで、何をしにここへ来たのだ」
ブラックはリリスを見ながら言った。
「この子が腹減ったってうるさくてね。食い物探して歩いてたらここについた」
タンニーンは質問を続ける。
「ここにいたドラゴンはどうした」
ブラックは頬を掻きながら言った。
「いや~、何か俺たちを見たら逃げて行った」
タンニーンとブラックはそこで会話を止める。
タンニーンは考えていた。ここに兵藤一誠らを呼ぶことは決定事項だ。問題はどうやって取り押さえるか、彼からは少なくとも龍王並みのオーラを感じ取れる。ならば自分も本気にならなくては負けてしまう。だが、ここで本気を出せば森を焼き付くしてしまうことになる。そうなれば、ドラゴンたちの未来を奪ってしまう。それは彼の望むことではない。
ブラックは考えていた。あの木の実、食っておけばよかったかな~、と。
二人は動かずに睨みあっている。
「とにかく貴様。フードをとったらどうだ」
タンニーンはブラックを指差しながら言う。ブラックは「それもそうだな」と返してフードに手をかけ、フードをとる。
ブラックの顔を見た瞬間、タンニーンは驚愕した。紅と黒が入り乱れた髪に、右頬には酷い火傷の跡があるが、整った顔立ち、右目が
「貴様、名前は!?」
タンニーンは驚きながらブラックに訊いた。ブラックは少し考えた後に口を開いた。
「それは俺が聞きたいことだ。何も覚えてないんでね。この子からは『シドー』って呼ばれてる」
タンニーンの疑問が確信に変わり、少しだけ笑みを浮かべた。
「それではシドーとやら、一緒に来てはもらえないか」
シドーはあごに手をやり考えていた。
このドラゴンは多分良い奴だ。
よくわからない集団はリリスを狙って前に滞在していた古い屋敷や古いビルにも攻めてきた。そこに来た
シドーがタンニーンを信頼した理由は、単純にそれだけである。
シドーはリリスを見た。とうのリリスは首をかしげているが……。
シドーはため息を吐き、タンニーンに答えた。
「しばらく滞在させてもらうか。休憩といこう、リリス、いいか?」
「うん」
リリスは頷いた。そのリリスの頭をシドーが撫でる。
「じゃ、決まりだな」
「うん」
二人とも笑顔になっていた。
タンニーンは思った。見ただけではこの二人は親子みたいだなと。
「飛べるか?ここからは距離があるぞ」
「ご心配どうも。だが、問題ない」
シドーは背中から黒いドラゴンの翼を生やした。
「ほう、立派な翼だ」
「
シドーがそう言うとリリスが背中に張りついた。すると、シドーは何かに気がついたようだ。
「あ、そうだ。あんた名前は?聞いてなかった」
「そうだったな。俺はタンニーンだ。よろしく頼む、シドーよ」
タイニーンの声音はどこか切なげだった。
「そうか、よろしく頼む。タンニーン」
シドーの返答を聞いてタイニーンは翼を広げた。
「ああ、では行くぞ」
タイニーンは羽ばたき上空へ向かった。
「リリス、しっかり掴まっとけよ」
「うん」
リリスがギュッと掴まったことを確認して、タンニーンを追って上空へ向かった。
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