ロスヴァイセのトライヘキサ束縛用術式が発動し、それから発せられた光がトライヘキサを包み込んだ。
連合軍の誰もが固唾を飲んで結果を待っている。
光が止むと、そこにはトライヘキサがいた。だが、全く動かず、微動だにしない。
「よしっ!成功だっ!」
アザゼルがガッツポーズを取った。連合軍の各所からも「やったぞ!」「成功したんだ!」と声が上がっている。
後は、量産型邪龍と偽赤龍帝を全滅させ、トライヘキサに全火力を集中するだけだ。
イッセーとヴァーリも、それぞれがそれぞれの仕事を果たし、アポプスとアジ・ダハーカを撃破していた。
そこからの行動は速かった。
それぞれが量産型邪龍を、偽赤龍帝を蹴散らしていったのだ。全員の限界が近いなか、誰一人として弱音は吐かなかった。
そして、残ったのはトライヘキサだけとなった。
各勢力トップ陣がトライヘキサを囲むように構え、オーラを溜めていく。
「いいか、おそらく一発勝負だ。ありったけをぶつけろっ!」
アザゼルが言うと、
「わかっているさ、ここで終わらせる!」
「早くシドウを探さないといけないしね!」
「言われなくてもわかっとるわい!」
「おまえに言われたくないわ!」
などの、様々な返事が返ってきたが、全員が集中し、オーラを高めていた。
アザゼルは後ろにいるD×Dに声をかける。
「万が一もあり得るからな、おまえらもありったけを溜めといてくれ。俺たちでも削りきれない時は、おまえらも撃ち込むんだ。わかったな!」
『はいっ!』
彼らは返事を返すと、すぐさま準備に取りかかった。
伝説の邪龍と戦い、限界を越えているはずのイッセーとヴァーリも、最後の一撃を溜め始める。
アザゼルはそれを確認して、叫ぶ!
「よしっ!撃てぇぇぇぇぇ!」
アザゼルの叫びと共に、異常なまでのオーラが収束された攻撃が、トライヘキサに殺到した。
ドゴオオオオオオォォォォォォォォッ!
空間を振動させる規模の波状攻撃が、トライヘキサを襲った!
様々なオーラが合わさり、トライヘキサを破壊していった!
攻撃が止み、トップ陣は肩で息をする者も多いが、念のためと再びオーラを溜めていく。
煙が晴れ、そこには………。
「ま、マジかよ……」
アザゼルは目元をひきつらせながら、絞り出すように言った。
そこにはトライヘキサがいた。だが、尻尾や左翼、右腕の下腕部が完全に吹き飛び、トライヘキサはピクピクと痙攣を起こしていた。
「おまえらっ!撃てっ!」
アザゼルの叫びにD×Dの面々が頷き、集中砲火を浴びせていく!
彼らの力は神には遠く及ばない。それでも、弱った獣へのダメ押しには十分すぎるものだ。
再びの攻撃を関知したトライヘキサは、束縛用の術式を左腕部分だけ強引に破壊し、その左腕を前に突き出しオーラを放った!
トライヘキサの力に全員が戦慄するが、放たれたその一撃は、今までとは比較にならないほど、弱いものだった。弱いと言っても、D×Dの攻撃を相殺するには十分ではあったが……。
だが、そのトライヘキサを見て、全員の士気が上がったのも事実だ。今まで誰からの攻撃を受け付けなかったトライヘキサが、弱っている。それだけでも、まだ戦える。
トップ陣のオーラのチャージが終わろうとした瞬間、バリンッ!という音と共に、束縛用の術式が破壊された!
トップ陣が狼狽えた隙に、トライヘキサはその場を飛び退こうとした、その時、海中から、何かが飛び出したのだ。
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俺、負けたのか……。
俺、シドウは海底に沈んでいく中で、そんな事を考えていた。
きっとロスヴァイセが術式を使用したはず、それでトライヘキサを停止出来たはずだ。
俺は消えそうな意識でも、異常なまでのオーラを感じることが出来た。
……神様やセラたちが頑張っているようだな……。
攻撃のオーラが止んでも、トライヘキサから感じる嫌なオーラが消えていない。
まだ、終わってないな………。
次に感じたのはリアスたちのオーラだ。
また、アザゼルが無茶言ってるのか……だが、今回は……仕方ないか……。
霞む視界に何かが映った。それはお守りだった。ロスヴァイセがくれたものだ。
懐に入れておいたのだが、飛び出してしまったようだ。
セラ……ロスヴァイセ………スマン……俺、やっぱりバカ野郎だ。
俺は瞑目し、俺の中にいるものに言う。
グレンデル………くれてやるよ……俺の体、俺の全てを!
〔その言葉、待ってたぜぇぇ!〕
俺はグレンデルの歓喜に満ちた声を聞いた途端、体の底から力が湧いてくる。
俺は目を開く。視界が広がり、見えなくなっていた範囲まで見渡せるようになっていた。
俺はそれを確認して、海面を、トライヘキサを目指して、飛び出した。
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俺、アザゼルはトライヘキサが束縛術式を破壊してことを確認し、最終手段に移ろうとしていた。それに合わせて、サーゼクスが俺の横に来る。サーゼクスと頷き合い、他の協力者にも合図を送ろうとする。
だが、その矢先に海中から何かが飛び出してきたのだ。
左目から銀色の眼光を放ち、体の一部を黒い鱗で覆われた紅髪の誰か。シドウだ。あいつはグレンデルに肉体を対価として渡したのかもしれん。だが、何のために?今のあいつではトライヘキサを倒しきれないことはわかっているはずだ。
俺が疑問を持っていると、シドウはトライヘキサに飛びかかった。それを避けようとするトライヘキサ、だが動きが鈍く、すぐに捕まえられてしまう。そしてシドウはそのままトライヘキサを羽交い締めにし、動けないようにした。
ま、まさか………あいつ!
俺、セラフォルー、サーゼクス、そしてリアスたちが驚いていると、シドウはこちらを見た。まるで『撃て』と言わんばかりに……。
そうか……それでいいんだな。
俺は確認するようにシドウを見つめ返す。
シドウはゆっくりと、確かに頷いた。
俺は手を上げて合図を送ろうとする。
「待ってアザゼル!まだシドウが!」
「アザゼル先生、待ってください!」
「シドウお兄様がまだ!」
セラフォルー、ロスヴァイセ、リアスが俺を説得しようとする。
「男が覚悟決めたんだ。何も言えねぇよ」
「シドウがやりたいことなんだ、『最後』ぐらい、わがままを聞いてやろう」
俺とサーゼクスの言葉を聞いたセラフォルーは、再び、シドウの方に目を向けた。
シドウは目を逸らすことなく、先程よりも強い覚悟を感じる目でこちらを見ていた。
セラフォルーは俯いた。
「本当に……バカなんだから………」
セラフォルーは消え入りそうな声で言うと、改めてオーラを溜めた。
「アザゼル先生、私も撃ちます」
ロスヴァイセが魔方陣を展開し、砲撃の準備に入る。
シドウ、おまえが惚れた女は、本当におまえをよくわかってるぞ……。
俺は上げた腕をゆっくり下ろした。
「………撃て」
俺の合図で、一斉砲火が始まり、トライヘキサを、シドウを包み込んでいった。
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私、セラフォルーは、全力で攻撃した。それはある意味で八つ当たりのような、それでいて、余計に切なくなるもの。私たちの攻撃の光に包まれるシドウは、一瞬、微笑んだような気がした。
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私、ロスヴァイセはトライヘキサに、シドウさんに攻撃した。それは世界を救うため?違う、それがシドウさんの最後のお願いだったから。天界では私がわがままを言ったのだから、次はシドウさんのわがままを聞く番だと思ったから………。 シドウさんは光に包まれる瞬間、笑ったように見えた。
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三度目の集中砲火が止んだ。煙が晴れるとそこには、何もなかった。今までそこにいた者たちは、完全に消し飛んでいた。
しばらく待ってもトライヘキサは復活しない。トライヘキサのオーラも感じることも出来ない。
それを確認した連合軍は
勝利を祝い、近くの者と抱き合う者、力が抜け誰かに支えられる者、天に吼えるモノ、様々な行動を取った。
だが、D×Dは、彼らだけは、誰一人として何もせず、ただ、トライヘキサが、
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