動力室に入った俺たちの目に巨大な獣が映った。
七つの首と十本の角を持った怪物。軽く百メートルはあり、グレートレッドよりもデカイ。
これが、
圧倒的なオーラを周囲に放つそれは、眠るように目を閉じていた。
アグレアスの動力を使って封印解除を速めていたのか……いかんせん、うろ覚えだったから、こいつがどうなっていたかはわからなかったんだよな。
「復活前でよかったな。ロスヴァイセの研究、明らかに間に合わなかったろ」
「ああ、この速度は異常としか言えない」
「これは、今の俺の手に負えるものではないな」
俺、アザゼル、ヴァーリが順番に言うが、本当に間に合ってよかった。
リリスが壁を指さし、俺の顔をそちらに向ける。
「ドライグ、ドライグ」
壁にべっしりと繭のようなものが張り付き、その繭から
「リゼヴィムの野郎、こんなものも作ってたのかよ」
俺が愚痴るが、この数はヤバイ。このバカデカイ動力室の壁一面にあるのだ。数は軽く千を超えている。
俺のレプリカの発展、量産型か。
だが、これを起動前に停められるのはラッキーだ。
「さっそく停めちまおう。ここに長時間いるだけで病気になりそうだ」
アザゼルが動力の操作装置の前に足を進め、作業を始める。
すると、突然、俺たちを振動が襲った!
な、何だ!地震か!
俺たちは周囲を確認していると、突然音声が鳴り響いた。
《さすがはD×Dと言ったところか》
聞き覚えのない声がその後も続く。
『ただでは倒れない!』
『さすがっ!』
『でもウゼェッ!』
突如響いた声、放送か何かか?
「この声、アポプスとアジ・ダハーカか!?」
アザゼルが作業を続けながら叫んだ。伝説の邪龍二体か。
《肯定だ、元総督殿。声のみで失礼する。作業中のところ申し訳ないが、我々の宣言を聞いてもらいたい》
アジ・ダハーカとアポプスが、宣戦布告を始める。
『俺たちはこのトライヘキサと偽赤龍帝どもをいただく』
『もらっちゃうよ!』
『使っちゃうよ!』
《我らは邪龍だけの世界を作り出す。そのためにトライヘキサと偽赤龍帝を利用させてもらう》
二体の宣言を聞きながら、俺は叫ぶ。
「トライヘキサの封印は解けてない!どう利用するって言うんだ!」
するとアポプスと思われる声が言う。
《確かに、肉体の封印はどうしようもない。だが、
な、なんだ。コアって。
アポプスは続ける。
《コアだけの摘出で肉体はダメになるかもしれないが、この世界の蹂躙だけなら十分だ》
「異世界への侵略は諦めるってことか……」
俺の呟きにアポプスが返す。
《そういうことだ。異世界から来た者よ》
「「ッ!?」」
それを聞いてアザゼルとヴァーリが驚愕しながらも俺を見る。邪龍も知ってやがるのか……。
「詳しくは全部終わってから教える。だが、今は……」
トライヘキサの体が朽ちるように崩れ始めていた。同時に偽赤龍帝軍団も繭を破り始める。
「これは……ヤバイな。リリス、トライヘキサを殴ってくれないか?」
俺は背中のリリスに出来るだけやさしく声をかけるが、リリスはトライヘキサから隠れるように、首を引っ込めた。
「こわい……」
本能から来る恐怖か。だったら、
「じゃあ、偽赤龍帝を頼む」
リリスはそれを聞くと、俺の背中から降りてトタトタと走りだし、偽赤龍帝を倒し始めた。
ゆっくりすぎるが、これ以上無理言っても聞いてくれなさそうだしな。
そんな事をしている間にもトライヘキサの崩壊は進み、ついに激しい閃光を放ち始めた!
突然の光に、俺たちは視界を奪われるが、その光が止み、視力が回復すると、トライヘキサがいた場所に十本の角を生やした青年を思わせる何かがいた。
アザゼルは操作装置から離れ、俺とヴァーリの横につく。
アポプスがそれを確認したのか、口を開く。
《成功だ。さて、D×Dと我々の最後の戦いを始めよう》
『ヴァーリ・ルシファー、もう一度勝負といこうぜ。トライヘキサの破壊を眺めながらの一戦だ。燃えるだろう?戦いを生きがいにするのなら、この状況で戦わないドラゴンは嘘だ!』
『天龍対邪龍!』
『本物の赤龍帝も連れてくるのだ!』
それはともかく、トライヘキサのコアが俺たちを睨んできているのだが……。
《これも余興だ。コアと一戦交えてみたらどうだ?》
「言われなくてもやってやるよ!」
俺はレプリカのブーステッド・ギアを出現させ、ゆっくり右腕を伸ばし、胸の高さまで持ち上げる。
『balance……break……』
俺は赤い波動を身に纏い、構える。破損していた兜の修復が出来てないな。まぁ、修復をしてくれるドラゴンが宿っていないのでは仕方ないか……。
ヴァーリも拳を握り、アザゼルも光の槍を作り構えた。
コアは構えずに俺たちを睨み続けていた。
「アザゼル、構えたところ悪いが、ここは退いてくれないか?」
「なっ!シドウ!何を言い出すんだよ!」
二人はそう言って構えを解かない。
「この事態を各勢力のトップに伝えてくれ。俺とヴァーリでやるだけやってみる」
「だがな……」
渋るアザゼルにヴァーリが言う。
「彼がここまで言っているんだ。聞いてやればいいだろう」
アザゼルは大きく息を吐き、構えを解いた。
「死ぬんじゃねぇぞっ!」
アザゼルはそう言って、扉の方に向かった。
同時にコアが右手を天井に向け、オーラを溜めていっていた。
「リリス!こっちに来い!」
偽赤龍帝を倒してくれていたリリスをこちらに呼ぶ。
リリスが俺の横に到着したと同時にオーラを増大させていく。
『boost……boost……boost……boost……boost……boost……boost……boost……boost……boost……』
俺は溜めれるだけ溜めて、防御障壁を作りだし備える。
ヴァーリも横で防御障壁を張り、俺とヴァーリのもので二重の障壁が張られた。
その瞬間、コアからの一撃が放たれた!
天井をぶち抜いたその一撃の余波は、俺とヴァーリの障壁にヒビを入れた!
俺とヴァーリの全力だぞ!?それに余波だけでヒビを!?
余波が止んだところで障壁を解除、コアを確認する。
コアは崩れた天井からの光を、両手を広げ全身で浴びていた。
「ヴァーリ、偽物で悪いが、赤龍帝とタッグだ。異論は?」
「ないさ。あいつを一人では無理だ」
「よっしゃ、リリスは隠れてろ。わかったな?」
リリスは頷いて、落下してきた天井の残骸に隠れた。
俺とヴァーリが構える。するとコアも俺たちと同じ構えを取った。
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