では、一話目、どうぞ。
俺、アザゼルは一人、アグレアスの内部に侵入、動力室を目指していた。今はその道中にいたリリスをお菓子で説得していたんだが、その途中でボロボロのリゼヴィム、そしてヴァーリが現れた。ヴァーリは動けなくなったリゼヴィムに、トドメを刺そうとするとそこに満身創痍のファーブニルが現れた。ファーブニルは天界でアーシアを守るために重症を負い、治療中のはずだった。だがファーブニルは相当な無理をしてここに来たのだろう。ただリゼヴィムを殺すために。奴はファーブニルの逆鱗に触れた。それだけで万死に値する。
リリスはお菓子に夢中、アジ・ダハーカとアポプスにも見限られ、聖杯を奪われた。奴を守るものは誰もいない。リゼヴィムが死ぬのは時間の問題だった。
「ここで、使う気はなかったんだか、しゃーねぇ!」
リゼヴィムは自分の目の前に転移型魔方陣を展開した。俺たちは逃げる気かと思ったが、転移するのではなく、転移させていることに気がついた。
転移の光が弾け、そこに現れたのは、赤い鎧を纏った紅髪の青年。シドウだ。
「ありゃ、意外とやられてるみたい?まぁ、いい!シドウ!俺を守れ!」
シドウはそれを聞くと、俺たちに構える。
こいつ、操られているのか……。
だが、シドウは構えただけで、俺たちに何かしようとするわけでない。俺たちが不信に思っていると、シドウは背後にいるリゼヴィムに見えないように、ウィンクした。
こいつ、操られているふりをしているのか。
「シドウ、何やってる!早くこいつらを殺せ!」
「………断る!」
シドウはそう言うと振り向き、倒れるリゼヴィムを見下ろした。
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俺、シドウは、リゼヴィムを見下ろした。
リゼヴィムの顔は驚愕に包まれている。
「あ、ありえねぇ……なんで、自我を保ってられるんだよ!」
俺は不敵に笑み、リゼヴィムに言う。
「自我を保ったんじゃない。みんなが戻してくれたんだよ。テメェが信じない、仲間の想いってやつだ」
リゼヴィムは心底悔しそうな表情になった。
それはともかくとして、
「ファーブニル、ストップだ」
俺はファーブニルに声をかける。ボロボロなのによくやるよ。俺もあいつのこと言えないかもだけど。
ファーブニルは怒気を孕んだ声音で言った。
『どうして、そいつはアーシアたんを泣かしたっ!』
「それは知ってる。だが、こいつが死ねば、またアーシアが泣く……」
『……!』
「ちょっと待て、どういうことだ?」
俺の発言にファーブニルは驚き、アザゼルが訊いてきた。
「若干だが、この奥の部屋がどうなってるか覚えてるんでな。なぁ、リゼヴィム」
「ちっ……」
リゼヴィムは舌打ちをして、目をそらした。
「この奥の部屋に
「なっ!?」
アザゼルが驚いているが、俺も驚いてるよ。
「俺に自我がなかったからって、中を案内するのはどうかと思うぞ?」
リゼヴィムに言うと、奴は黙りこんでしまった。
「それで、封印を解いているんだが、まだ完璧じゃない。リゼヴィム……おまえが死んだら、段階無視で封印解除をする。そういう手筈だろ?」
「な、何を根拠に!」
リゼヴィムが言い返してくるが、理由は簡単だ。
「俺だったらそうする。それだけだ」
リゼヴィムは目を見開き、目元をひきつらせていた。
「そんなわけで、下手にリゼヴィムを殺すとこの世界がヤバくなる。……可能性が高い」
「なるほど、リリン。おまえが考えそうな事だな」
アザゼルは納得してくれたが、後は……。
「いいか、ヴァーリ、ファーブニル」
ヴァーリは何も言わず瞑目、ファーブニルは不満顔だが、先ほどの『アーシアが泣く』という発言から納得してくれたようだ。
「ありがとう」
ある意味、これは俺の自分勝手なわがままのようなものだ。リゼヴィムを殺しても、封印が解けないかもしれない。だが、万が一という事もある。そんな曖昧なもので、俺は殺したい相手が目の前にいるのに手を出すなと言ったんだ。二人はそれを飲んでくれた。
「そういうわけだ、リゼヴィム。生きて、罪を償え」
「ちくしょう………っ!」
リゼヴィムは観念したように呟いた。
あ、そうだ。念のためだやっておこう。
俺はリゼヴィムに近づき、あごを外す。
「がっ!?」
「舌を噛まれても困るんでね」
よし、それじゃ、送りますか。
「アザゼル、こいつを送り飛ばすぞ。手を貸してくれ」
「あいよ」
俺はレプリカのブーステッド・ギアをつけられてるからな。
アザゼルに拘束用の魔法をかけられ、転移の光に消えていくリゼヴィム。
「殺すなら、全てが終わってから、か……」
ヴァーリがぼそりと漏らすが、少し悲しみを感じる声音だった。
そんなわけで、リゼヴィムを兄さんの元に送り飛ばした、俺、アザゼル、ヴァーリ、リリス(俺の背中に張りついてきた)は、アグレアスの奥地を目指していた。ファーブニルは不満顔のまま、
さて、俺も来るのは初めてなんだが、確か
俺がそんな事を思い出していると、アザゼルが俺の右手を指さしながら言ってくる。
「そのレプリカ、どうするつもりだ?」
今、俺は鎧を解き、元に戻っている。レプリカのブーステッド・ギア、さてどうしたもんか。
「まぁ、何かあるってわけでもないし……今度こっちからグリゴリの施設に行くから、その時に外してくれ。赤龍帝はイッセーだけで十分……だろ?ヴァーリ」
「ああ、リゼヴィムの討伐は出来なかったのでね。ライバル対決だけは邪魔しないでくれ」
そう言いながら、ヴァーリは俺を睨む。
「怖いねぇ~」
俺はそう言って肩をすくめる。
「赤龍帝……赤龍帝
「まぁ、そう言うことだな」
リリスが俺の右肩からひょこっと顔を出してきた。
かわいい顔してんな。
それはともかく、もうすぐアザゼルの言う動力室のはずだ。
すると、俺たちの前にデカイ扉が現れた。
これが、動力室への扉か……。
「それじゃ、行くぞ」
アザゼルはそう言うと、扉を開いた。
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