では、どうぞ。
『balance……break……』
シドウの籠手から静かに発せられた音声。それと同時に彼を赤い光が包み込んだ。
赤を基調とした鋭角が目立つ鎧。それはまさしく
シドウが鎧を纏ったことを確認し、よりいっそう警戒を強めるリアスたち、するとシドウが音もなく視界から消えた。
全員が回りを見渡しシドウを探すが、どこにもいない。
すると、上空から数百本のブレードが雨のように降り注いだ。それに対して咄嗟に避ける者、防御に徹する者が出るが、防御に徹したロスヴァイセが、殴り飛ばされた。
勢いそのままに建物に突っ込んだロスヴァイセ、先ほどまで彼女がいた場所にはシドウがいた。
彼はブレードの雨に紛れて降下、防御のために足を止めたロスヴァイセを強襲したのである。シドウはロスヴァイセを殴った右拳を引き、再びリアスたちを睨んだ。
撃墜の際、わざとブレードを爆発させ、小猫の視界を一瞬奪う。その隙にシドウは小猫の背後を取り、踵落としを放つ。彼女は咄嗟に振り返り、腕を頭の上でクロスしてガードするが、勢いを殺しきれず、地面に叩きつけられた。シドウは後ろに飛び退き、次の獲物を選ぶように一人一人の顔を見ていた。
『ロスヴァイセ!小猫!』
リアスが攻撃された二人に叫ぶと、ロスヴァイセは建物からふらつきながらも出てきて、小猫も立ち上がった。二人の瞳には悲しみの色が強かった。
「イリナ!行くぞ!」
「わかってるわよ!」
ゼノヴィアとイリナが左右から同時にシドウに飛び込み、聖剣を振り下ろすが、シドウが両手の籠手の手甲部分から、滅びの刃を出現させ、二人の攻撃を防ぐ。
『二人ともそのまま抑えて!』
リアスの言葉を受け、二人は聖剣を握る手に力を込める。
同時に飛び出したリアスは、右手にオーラを込める。そして、ノーガードの腹部に拳を撃ち込んだ!
その一撃でシドウは吹き飛ばされ、地面を転がる。
『どう!』
リアスは心の中では終わらないことはわかっている。それでも言ってしまうのは、『自分の兄を殴る』、出来ればそれを今の一撃で最後にしたいからに他ならない。
彼女の心を知るよしもないシドウは、何事もなく立ち上がった。
再び構えるシドウだが、そんな彼を闇が拘束した。
『シドウ先生!もう止めてください!』
ギャスパーが闇の獣となり、シドウを拘束したのだ。
すると、ギャスパーはシドウの首に噛みつき、血を吸い出す。
血を大量に失えば動けなくなる。それを狙っての行動だが、シドウはそんなギャスパーの顔面を裏拳で攻撃、離れた隙に首を掴み、力を込めていく。
『boost……boost……boost……boost……boost……boost……boost……』
力を増大させ、いっそう強くギャスパーの首を締めるシドウ。ギャスパーも暴れ、腕を叩き、胴に蹴りを撃つが、シドウは怯む様子もなく、首を締め上げていく。
「ギャスパーくん!」
ギャスパーを助けようと朱乃が雷光龍を放つ、だが、シドウはギャスパーを盾にすることでその一撃を防ぎ、雷光龍が止むと、無造作にギャスパーを投げ飛ばした。
そこに肉薄した木場が聖魔剣で斬りかかる。だが左手でキャッチされてしまう。シドウはそのまま、木場に空いている右拳を撃ち込むが、木場は咄嗟に聖魔剣から手を離し、それを避け、距離を取る。
シドウは残された聖魔剣を握力だけで砕き、リアスたちを見据える。
全員がどうすればいいか、それを考えていた。下手に聖剣で傷をつけてしまうと、シドウは消滅してしまう。だからといって加減していたら、勝てない。
残された手段はリゼヴィムを倒すことだが、それを彼はさせてはくれないだろう。
するとシドウに氷の槍が上空から飛ばされてくる。
シドウはそれを避け、氷の槍を飛ばした者を睨んだ。
金色の翼を生やした、ブロンド髪の青年。ジョーカー・デュリオだ。
「みんな、大丈夫?」
デュリオはそう言いながら着地する。
『デュリオ!?ソーナの方は?』
リアスが訊くとデュリオはサムズアップした。
「向こうは大丈夫。あらかた片付いたから。それで……あいつは?さっき紅い雨が降ってたけど……」
デュリオが指さしながら訊くが、リアスたちは黙りこんでしまう。そして、意を決めてたようにリアスが言った。
『……お兄様よ。リゼヴィムに操られて、あんな姿になっているけれど……』
それを聞いたデュリオは怒気を持った目になった。
「……リゼヴィム、兄妹を戦わせるって、いい趣味とは言えないな」
デュリオはシドウに対して手で丸を作るような構えを取った。これは攻撃のためではない、彼を助けるために構えたのだ。
シドウは何か来ると判断したのか、デュリオにブレードを放つ。だがそれを木場、ゼノヴィアが弾き、ロスヴァイセがデュリオの前で防御障壁を張り、防ぐ。
「行くよ、シドウさん。
デュリオはそう言うと、手で作った丸の中心にやさしく息を吹き掛ける。するとそこから、虹色のシャボン玉が出現した。それは一つや二つではなく、数十個にもなっていった。
シドウはブレードを振りシャボン玉を割っていくが、いくつかのシャボン玉はシドウに当たっていった。
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俺は何をしているんだ?俺は……誰だ?……真っ暗で何も感じない。
暗闇を漂う、それが気持ちいいと感じてしまう。だが、ここは俺の居場所ではない。そんな気もする……。
俺の視界に虹色の何かが映った。キレイなそれに手を触れてみる。すると俺の周辺が真っ白に変わり、次々と何かの映像のようなものが流れ始めた。
『みんな仲良く、それが一番……』
見覚えのない誰かが、真剣な顔でこちらを見ていた。
『兄として、弟を守らないとね』
見覚えのない誰かが、俺を助けてくれた。
『あのヒトのために、他の誰かのために……』
見覚えない誰かが、子供たちに何か言っていた。
『最後まであなたと戦いますっ!』
見覚えのない誰かが、俺を支えてくれていた。
『おかえりなさい……』
見覚えのない二人が、俺に言っていた。
誰かの声、誰かの笑顔………それを見てるとたまらなく嬉しくなる。
『殴るっていうことは、相手以上に自分が傷つくものよ。だから、相手を殴るのは止めなさい。でも……大切な人を守りたいなら、その時は………』
見覚えのない誰かが、やさしく俺を包み込んだ。
そうだ……俺は……俺はっ!
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私、ロスヴァイセは、デュリオさんが放ったシャボン玉、その効果を固唾を飲んで見守っていた。それはリアスさんたちも同じで全員が結果を待っていた。シドウさんはシャボン玉が当たってから急に動かなくなったけれど、それが良い方向のものか、悪い方向のものか、それはまだわからない。
こうしている間にも、上空でイッセーくんがリゼヴィムと戦っており、その余波がビリビリと肌に感じられる。
『ぐおおぉぉおおおおお!』
『ッ!』
突然叫びを上げたシドウさんに、みんながまた構えを取り、デュリオさんもシャボン玉を再び放とうとしていた。
『ぐっぐおぉ………おおおおおおっ!』
シドウさんは苦しそうに頭を押さえ、自らの手で兜を破壊、額から血を流しながらフラフラとなっていた。
その表情は苦痛にまみれたものだった。
もしかしたら、シドウさんは戦っているのでは?
私はそう思うと、ただ見ているだけなのが我慢できなくなった。
私はシドウさんに近づいていく。
「ロスヴァイセ!何を、戻りなさい!」
そんな私をリアスさんは呼び止める、けれど、
「私に考えがあります。信じてください」
私はそれだけを告げると歩み寄る。
「シドウさん?私です。ロスヴァイセです。わかりますか?」
私は出来るだけやさしく声をかける。
「ぐおおぉぉっ!」
シドウさんは苦しそうに右手でブレードを振り回し、私に飛びかかってくる。
私はそれを避けず、両手を広げ受け入れようとする。
「ロスヴァイセ!避けなさい!」
リアスさんの叫びを聞かず、私はその一撃を受け入れようとする。
けれど、そのブレードが私には当たらなかった。ブレードが私に当たる瞬間、シドウさんは腕をずらし、私に当たらないようにしたのだ。シドウさんの瞳に少しだけ光が戻っている。そんな気がする。
やっぱり、シドウさんは……。
私はシドウさんを抱き締める。
「あなたは一人ではありません。あなたの近くには仲間が、家族が、私がいます。………だから戻ってきてください」
私はそう言うと、シドウさんの唇にキスをした。
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俺に何か暖かいものが触れた。とても懐かしくも思えるそれは、暗闇にいる俺を引っ張り上げるには十分なほど、やさしさを感じるものだった。
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唇を離し、顔を俯けながら言う。
「シドウさん。聞こえますか?」
「……ああ、聞こえたよ。ロスヴァイセ……」
私はそれを聞いて顔を上げた。
シドウさんは微笑み、私のことを……突き飛ばしたっ!
「シドウさん!?」
私が確認しようとすると、シドウさんは転移の光に消えていった。
気がつくと、イッセーくんの方も終わったようで、アグレアスは先ほどと比べ、少しだけ静かになった。そんな気がした。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。