『おまえを殺して、全て終わらせるっ!』
シドウはリゼヴィムに向かい飛び出した。
彼はその勢いのまま、リゼヴィムに右ストレートを放つが、あっさり避けられてしまう。
シドウはその後も拳を、蹴りを撃ち込んでいくが、全て避けられる。
すると、リゼヴィムは一度距離を取り、一度溜め息を吐いて、シドウに言った。
「キミは本当にシドウ・グレモリーか?感じたことがないほど、オーラが乱れ、キミの本来の実力を出せていない」
『……っ!……黙れっ!』
シドウは狼狽しながらも返し、再び距離を詰めた。
シドウが右拳を引き、リゼヴィムは左拳を引いた。
二人は肉薄すると、同時に拳を撃ち放った!
ドゴンッ!
『……っ!?』
シドウの拳は空を撃ち、リゼヴィムの拳はシドウの顔面を捉えていた。
シドウは後ろに下がり、息を整える。
今の一撃、彼は確実に当てられる自信があった。だが、自分の拳は外れ、リゼヴィムの拳だけが当たった。滅びという鎧を纏っている自分に、軽く魔力を込めただけの拳が通用した。リゼヴィムの拳にはダメージがない。本来であれば、滅びを纏った自分を殴れば少なからずダメージは負うものだ。だが、それがない。その事実にシドウは動揺していた。
ならばと、シドウはブレードを五本展開し、リゼヴィムに飛ばす。だが、五本全てがリゼヴィムに当たる気配もなく、明々後日の方向に飛んで行き、消失した。
リゼヴィムは肩を落とし、わざとらしく大きく息を吐いた。
シドウは自分の両手を見て、動けなくなってしまった。
彼の手は震えていた。彼は無意識のうちに、なぜ自分がこうなっているのか、その答えを出てしまっているからだ。
アジュカ・ベルゼブブはシドウの真実を、『アグレアスを調べていたらわかった』、と言った。そのアグレアスはリゼヴィムの元にあり、彼なら全てを調べられても不思議ではない。
リゼヴィムは自分のことを知っているのではないか?
シドウはその答えに行き着き、動揺していた。その表情は滅びを纏っている以上、リゼヴィムに見える事はないが、リゼヴィムにはそれさえも見抜かれているのではないか。シドウはそう思えてならなかった。
シドウは一度首を横に振り、いらない考えを排除しようとする。
今は戦闘中だ。集中しなければ殺されるっ!
自分にそう言い聞かせ、再び構えを作る。
だが、その構えはいつものような力強さを感じない、形だけのように見える。
リゼヴィムはそれを見て、残念そうな表情になり、口を開いた。
「シドウ・グレモリー。キミは何を迷っている?やはり、あの情報は本当だったのか」
『な、なに……!』
「アグレアスを調べてわかったことがある。それは数百年前、この世界にある情報が流れ着き、それをある悪魔の胎児に移した、というものだ。やはり、それはキミか。そうなんだろう?」
シドウはそれを聞き、構えを解いた。解いてしまった。
それが、答えになることも知らずに。
「そうか、キミが……では、実験台にされたのは、ヴェネラナ・グレモリーか。彼女も知らさせていなかったのか、それとも……」
リゼヴィムはあごに手をやり、独り言を言っていた。シドウは動かずに、ただ、黙っていた。
「まぁ、キミを調べれば全てわかることか。では、少々強引ではあるが、来てもらおうか」
リゼヴィムはそう言うと、消えた。正確には高速でシドウの正面に移動しただけなのだが、シドウはそれに反応できず、リゼヴィムの一撃を腹部に受け、吹き飛ばされてしまう。
地面に三回バウンドし、ようやく止まるが、シドウは立ち上がらない。それどころか身に纏っていた滅びを解除してしまった。
彼の心は戦闘どころではなかった。自らの秘密を、隠し通そうとしていたことを、あっさり暴かれた。それで、頭の中が一杯になっていた。
リゼヴィムはそんなシドウに近づいていく。
「キミがそうなるのもわかるよ。自分の秘密を暴かれると誰だって動揺はするものだからな。それが、今までの全てを壊しかねないものなら、なおさらだ」
シドウは答えず、倒れているだけだ。
「さて、では、行こうか」
リゼヴィムがシドウに手を伸ばすが、咄嗟にシドウは立ち上がり、その手を避ける。そして、再び構えを取った。
その目には覚悟の色が映っていた。
リゼヴィムはそれを見て、ニヤリと口を歪めた。
「ほぉ、あそこまで動揺していたのに、立ち直ったか?」
「いや、簡単なことに気がついた。テメェをここで殺せば、後でじっくりと調べられるってことにな」
「なるほど、それもいい。だが、私が死ねば、アグレアスを調べるのに時間がかかるぞ?」
「だから、後でじっくりって言ったんだ」
「なるほど」
リゼヴィムも構え、二人は対峙する。
フッと二人が消え、周囲に打撃音が響いた。
二人は生身で殴りあっている。シドウは得意のブレードを使っていない。理由は簡単だ、今の自分がブレードを作っても、リゼヴィムを斬れない。ブレードを出したところで、全て折られるのが目に見えているからだ。それほどまでに彼は冷静ではあるが、動揺もしているのだ。
二人の戦闘はすぐに終わった。
先に倒れたのはシドウだった。
先ほど喰らった二発の打撃、それはシドウに想像以上のダメージを与えていたのだ。
リゼヴィムは息を整えながらも、ようやく倒れたシドウに向かい、笑みを浮かべながら手を伸ばし、そのまま肩に担ぐ。そして今の戦闘でも起きることがなかった、兵藤夫妻の元に歩みより、二人はある場所に送った。そしてリゼヴィムはシドウを担いだまま、転移の光に包まれ、消えていった。
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