では、一話目、どうぞ。
life01 冷静な判断を…だぜ
ライザーとレイヴェルの一見は冥界のニュースでも大々的に報じられ、イッセーたちもどこか暗い表情になっていた。
アザゼルや兄さんが動くと言っていたので、心配はないと思うが、俺はその事とは別の考え事をしていた。
アジュカ様は俺の真実を知っても、兄さんやセラたちは何も変わらないと言っていたが、果たしてそうなのか。俺は数百年間、俺に関わった全てのヒトに嘘をついてきた。そんな俺を許してくれるだろうか。
「……ウさん?シドウさん!」
机に向かい、何もしていなかった俺に、ロスヴァイセが話しかけてきていた。
「すまん。考え事をしてた」
「何か悩み事があるのなら、私が相談に乗りますよ?」
彼女の声音は本当に心配しているものだ。
俺はロスヴァイセにも嘘を付いているんだよな……。
「いや、大丈夫だ」
「なら、いいんですが……」
シャキッとしないとな、俺にはあまり関係ないが、今日からしばらく三者面談だ。
イッセーが、『これほど嫌なものはない』、と言っていたな。
俺はそんな事を考えながら、仕事に戻ったのであった。
イッセーの三者面談が終わった日の夕食の席。
イッセーの父親がすごく上機嫌になっていた。
なんでも、『今まで何も言ってこなかった息子が、しっかり将来を見据えていたから』、だそうだ。
そのイッセーは、はしゃぐ父親を見て、顔を赤くしている。
ロスヴァイセがイッセーに言う。
「ダメですよ?将来のことはご家族ときちんと話すべきです。ちゃんと話し合わないと理解を得られない場合があったとき、大変なことになりますよ?二年生のこの時期に……」
それから長々と語るロスヴァイセだが、彼女が言った、『理解を得られない場合がある』、その言葉が、俺の心にも突き刺さった。
隠し続けた自分のせいではあるが、今になって言うのも……だが、それで、拒絶されたら………。
「シドウさん、どうかしましたか?」
またロスヴァイセに心配されてしまった。
「いや、ちょっと疲れてるだけだ」
俺はそう言って立ち上がる。
「すまんが、先に寝る」
「は、はい。お休みなさい」
「ああ、お休み」
俺は一人、部屋に戻った。
だが、その日はあまり寝つけなかった。話すにしても、どう切り出すか。話したとしても、俺を受け入れてくれるのか。そんな疑問がずっと頭の中を渦巻いていたからだ。
次の日の昼、アジュカ様からライザーとレイヴェルの受け渡しを行うむねをアザゼルから説明された。やはり、あのヒトが見つけていたのだ。俺が会った時には既に見つけていたのかもしれない。
さらに二日が経ち、ライザーとレイヴェルの身柄受け渡しを行う日となった。
と言っても俺は行かない。できればアジュカ様に会いたくない。会ったら、自分からぼろを出してしまう。そんな気がするからだ。
そんなわけで俺は兵藤夫妻と共に、穴場と有名らしい釣りポイントに来ていた。
釣竿を振り、釣糸を海に垂らし、後はひたすら待つだけ。悩みだらけの俺にはちょうどいい、何も考えないでできることだ。
「いやー、シドウさんも釣りをするんですね。意外でしたよ」
イッセーの父親が言ってくる。確かに、俺が釣りをするなんて、いつぶりだろうか。
「気分転換にはちょうどいい、そんな気がしまして」
「確かに、シドウさんは最近になって、ずっと何かを考えてるような顔になってましたから。誘って正解でしたかね」
イッセーのお母さんはそう続けるが、それに気がついたのは、母親の勘なのか、それとも俺が馬鹿正直に顔に出していたのか、その両方なのかもしれない。
それから数十分、俺と兵藤夫妻は、並んでのんびりと釣りにしていた。
だが、平穏は長くは続かない。
俺たちの護衛として来ていた、堕天使側のエージェントの気配が急に途絶えた。
俺は近くの茂みに目を向ける。何かが俺たちを見ている、人間ではない。
兵藤夫妻は、そんな俺を見て首を傾げていた。
その茂みからヒトが現れる。ダークカラーが強い銀色の髪に、派手な衣装、そして邪悪な笑みを浮かべている中年男性。リゼヴィムだ。
俺はひとつ、大事なことを忘れてしまっていた。リゼヴィムは俺を狙っていた。そんな俺が仲間と離れ、民間人といる。ここを狙わないほど、あいつもバカではないだろう。
俺は立ち上がり、兵藤夫妻の前に立つ。
「あ、あの~。シドウさん?」
イッセーの父親が訊いてくるが、俺は振り向かずに言う。
「お二人は先に帰っていてください。あのヒトは俺の知り合いです」
「え?でも……」
「いいから行け!」
「「!?」」
突然、声を荒げた俺に、二人は驚き、体を強張らせてしまった。
何を焦っているんだよ、俺はっ!
俺は心の中で愚痴をこぼしながら、前にいる男性、リゼヴィムを睨んだ。
「クリスマス以来だな。シドウ・グレモリー」
「俺としては会いたくなかったんだがな」
リゼヴィムはそれを聞くと「フッ」と小さく笑い、口を開く。
「最後通告と言うやつだ。どうする?」
最後通告、これを断れば、俺は殺されるのか。
俺は構えを作り、リゼヴィムを見据える。
「答えは変わらん。俺はおまえが、大っ嫌いなんでな」
「そうか、まぁ、目的はキミだけではない」
リゼヴィムはそう言うと、俺の後ろに目を向け、再び小さく笑った。その瞬間、ドサッ、という何かが倒れる音が背後から聞こえた。
振り向くと、兵藤夫妻が倒れていた。俺はリゼヴィムに殺気を向け、睨み付ける。
「安心してくれ、二人には眠ってもらっただけだ。それにしても、今のにも気がつかないとは、腕が落ちたのではないか?」
「ほざくなっ!」
俺はオーラを解放し、身に纏う。それを見たリゼヴィムは笑みながら構えを作った。
「それでは、
『おまえを殺して、全て終わらせるっ!』
俺はリゼヴィムに向かい、飛び出した。
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