あの教会クーデター組との一戦から数日。
無事生徒会選挙も終わり、新会長はゼノヴィアとなった。
今頃みんなはお祝いパーティーをやっているものだと思うが、俺は一人、魔王領に来ていた。
何でもセラから話があるとのことなのだ。
セラが待つという部屋に到着、ノックし、「失礼します」と一言告げてから入室する。
「それで、セラ。話ってのは」
俺が単刀直入に言うと、セラが口を開く。
「レイヴェルちゃんが、ライザー・フェニックスのゲームに参加したのは知ってるわね?」
「ああ、そう言えば言ってたな。何だっけ、『皇帝べリアル十番勝負』だったか?リアスが録らなきゃって念仏のように言ってたな。それで、何かあったのか?」
セラが珍しく険しい表情になっていた。呼ばれた時点で何となく察していたが、ただ事ではないようだ。
「そのゲームに出たライザー、レイヴェル、そしてディハウザー・べリアルの三名が行方不明になったの」
「ちょい待ち、ゲームで行方不明ってどういうことだ。転移をミスったとか、そんなのか」
「いいえ、ゲームの途中でカメラの死角に入ってそれっきり。ただひとつ言えることが、緊急用のプログラムが働いたってことだけ」
「何か不正が?ライザーは違うとして、ディハウザーが?」
俺が問うとセラも困ったような表情になった。それすらもわかっていないということだろう。
すると、セラの耳元に連絡用魔方陣が展開される。
セラは二言ほど話すと、俺に向かっていう。
「シドウ。アジュカちゃんから少し話があるそうよ」
アジュカ様が、俺に……。
「俺個人に……か」
「ええ、場所は…………」
セラとの話を終え、俺は指定された場所、駒王町から八駅ほど離れているという町に来ていた。
転移で直接きたんだが、俺の回りを携帯のようなものをいじる人間が複数人いる……。
そいつらもそいつらで「何だこの『ランク』は」とか何とか言ってくる始末だ。
「シドウ・グレモリー様、こちらです」
俺は転移魔方陣の前にいた女性の言葉でエレベーターに乗り込む。
エレベーターで屋上庭園に移動、案内人と別れ、アジュカ様がいるという庭園の奥に進む。
その奥に到着すると、アジュカ様が来客用と思われるスペースで優雅に紅茶を飲んでいた。
アジュカ様はティーカップをテーブルに置き、俺を視界に捉える。
「やぁ、久しぶりだね」
「お久しぶりです」
それだけのやり取りをすると、アジュカ様は椅子に座り、俺もアジュカ様に対面する形で座る。
「それで、お話と言うのは」
俺は単刀直入に訊く。
「キミは疑問に感じたことはないかね?」
「疑問……ですか?一体何にです?」
するとアジュカ様はひとつのチェスの駒を取り出した。
見た感じだと、
「これは
「……旧魔王派にいたときにそんな噂が流れたことがありましたが、レーティングゲームの不正だどうとか……あれは現魔王派への不信感を募らせるためのエサとばかり」
「ある意味それは正解ではあるんだがね。これの存在が知れれば、大変なことになる。これを使えば力が異常なまでに高まる。ゲームのトップランカーのほとんどが使用しているほどだ」
アジュカ様は
「なぜそのような大事なことを俺に。そもそもセラや兄さんはこのことを知っているんですか!」
俺は声を荒げて言う。もしかしたら今まで必死に教えないでくれていたものを、このヒトは二人に背いて教えてしまっているのではないか。そう思ったのだ。
「今日キミに話すことは二人には言ってある。キミに秘密を背負わせることも。今言ったのは、この事実をディハウザー・べリアルが知ったからだ。今の彼なら、何をするかわからない」
俺のことをまっすぐ見てくるアジュカ様。
「俺にどうしろと?この事を俺からリアスやソーナに話せと?ディハウザー・べリアルが何かするつもりなら俺は止めますが」
「いや、彼女らには俺から話す。ディハウザーの件も含めてね。それで、本題はここからだ。キミの口から聞きたいことがあってね」
「聞きたいこと……ですか?」
俺が聞き返すとアジュカ様はゆっくりと口を開いた。
「キミは……異世界について、いつから知っていた?」
その一言で今まで会話を一瞬忘れ、頭の中が真っ白になった。このヒト、一体何を!?
「それはどういう……」
「奪われる前のアグレアスを調べていたら、数百年前に異世界から何かが、何かの情報が来ていた、ということもわかったんだ。詳しくはこれからだというときに奪われてしまった。それで、もしかしたらと思ってね」
「それをなぜ俺に?」
「キミの事を調べたんだ。幼い頃から教えられてもいない体術、剣術を使えた。それをサーゼクスから聞かされていてね、不思議に思ったんだ。そして異世界から何かの情報が来ていた。もしかしたら、その情報と言うのはヒトの記憶か何かではないか……とね」
このヒト、もはや確信してるだろ。
「もし、『生まれた時から』、と答えたらどうします?」
俺の言葉にアジュカ様は少し考えるようにあごに手をやった。
「いや、何かするというわけではない。ただの知的好奇心さ」
アジュカ様はそう言って笑んだ。
「しかし、そうか。キミは」
「俺がなぜこっちに記憶を持って生まれたのか、それはわからないまま、むしろ知ろうとも思いませんでしたから。俺はその異世界の記憶は持っています。ですが……俺の親はあの二人ですよ」
「ふふ、わかっているとも。それでキミがいたという世界はどんな世界だったんだい?」
アジュカ様が興味津々の様子で訊いてくるが、どんな世界ってもな……。
「この世界と対して変わりませんよ。悪魔や天使がここまで大きく動いていない以外は」
「そうか……」
若干ショック気味にアジュカ様は言うが、そこまで期待してたのか?
「リゼヴィムが目指す世界でないのは確かです。異世界もひとつではないってことですかね。もしかしたら、こことほとんど同じで少し違う世界が複数あるのかもしれません」
「それは面白いな。そうか、異世界もひとつではない…か」
アジュカ様はどこか嬉しそうな顔になっていた。
「お話は終わりですか?」
「ああ、手間をとらせたね。もう大丈夫だ」
「問題ありません。
「こちらも、キミのことは他言無用でいよう。もっとも、知ったところでサーゼクスたちが何かするとは思えないがね」
俺はそれを聞くと立ち上がり、エレベーターに向かい、歩いていく。何か忘れているような……そうだ。俺の話題で忘れてた。
俺は振り返り、アジュカ様に訊く。
「アジュカ様、ライザーとレイヴェルについては」
「それも時が来たら、ではダメかい?」
このヒト、もう見つけてるのでは?
「わかりました」
今それを問いただしても仕方ない。俺はそう考え、家に戻ることにしたのだった。
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