では一話目、どうぞ。
ストラーダとの全力勝負を終え、俺は後ろに下がりリアスたちの戦いっぷりを見させてもらっていた。
ただ、ストラーダ強すぎるだろ……。
あの後、イッセーは真紅の鎧となったのだが、それでもパワー不足のようで防御を崩せない。朱乃とロスヴァイセの魔法攻撃も防がれ、効果なし。ゼノヴィアも挑んでいったが、それも全て防がれてしまう。ただ、その攻防の最中にゼノヴィアがストラーダに何かを言われ、距離を取ってから何かを考えている様子だ。
そこにリアスの
もうあいつ一人でいいんじゃないかな?
それを見て、今まで俺の横で静観していたアーサーがストラーダの方に歩き始める。
背広にメガネと、どことなく紳士を思わせる格好だが、アーサーの持つ聖剣、聖剣の王と言われる聖剣……コールブランド。
静かにストラーダに歩み寄っていくアーサー。ストラーダもそれに応じて前進し始めた。
距離が縮まっても構えない両者だが、眼前まで距離を詰めてようやく足を止めた。
紳士と老戦士から放たれるプレッシャーは凄まじく、両者の間の空間が歪み始めていた。
そして、二人が同時に上に跳躍し、空中で落下しながら戦闘していた。
落下しながらの戦闘という極めて短い時間ではあるが、その内容は剣を扱うものとして、見逃してはいけない、そう思わせるには十分なものだった。
二人は落下しながら戦闘をし続け、ついに地面に降り立つ。それでも二人の攻防は激しさを増していき、地面を裂き、道を破壊していっていた。少しずつ二人の体には小さいながらも傷ができていた。その二人の表情は狂喜に彩られた、今この瞬間を心の底から楽しんでいるようだ。
俺もあそこまでできたら楽しいんだろうがな~。
その後も二人の戦闘は続き、お互いが大きく斬撃を打ち合い、火花を散らしたと同時に後方に飛び退いた。構え直す二人だがアーサーが剣を下ろした。メガネを直し、笑顔で言う。
「……素晴らしい。……が、止めましょう。これ以上は、私がショックで立ち直れなくなる」
ストラーダはそれを聞いて剣を下ろした。
「すまないな、若い剣士よ」
ストラーダは苦笑していた。
アーサーはそれを聞いてその場を後にする。
最高の相手がいても、その相手が年老いて戦えなくなる。その事実を知ることは一番ショックだろうな。俺は悪魔だし、最高の相手がコカビエル、つまり堕天使だったわけだからそんなことはなかったが、アーサーもストラーダも人間だ……限界はすぐに来る。
アーサーがどっかに行き、残されたイッセーたち。イッセーは宝玉から
そんなイッセーの横を通りすぎ、ストラーダと対峙する人物が一人。……ゼノヴィアだ。彼女はエクス・デュランダルをエクスカリバーとデュランダルに分離させ、右手にデュランダル、左手にエクスカリバーという構えを取った。
エクスカリバーという抑えを失ったデュランダルはオーラを迸らせていた。
それを見たストラーダは、戦闘高揚したかのように全身を震わせていた。
「そうだ。それでいいっ!デュランダルの元使い手の私からしてみれば、エクス・デュランダルは疑問の塊だった。デュランダルとエクスカリバー、完成したもの同士を組み合わせる必要がどこにある?それは貴殿がデュランダルに翻弄されて、補助などという愚行をエクスカリバーに課せたからに他ならない。貴殿は……一刀でも二刀戦える戦闘の申し子だ。否定するな。パワーを信じてこそ、力は本物になるっ!」
なるほど……ゼノヴィアが何か考えていたと思ったのはそこに行き着くためか。
そう言えば、ゼノヴィアはエクス・デュランダルが完成するまでは二刀流を好んでいたらしい。そして今、またそのスタイルに戻したわけだ。
分かれた二本の聖剣から濃密でいて純粋な、圧倒的な聖なるオーラが迸しっていた。
ストラーダは目を潤ませていた。
「……ようやく、再開できたな、デュランダルよ。そう、それこそ本当の姿だ。さぁ、戦士ゼノヴィアよ。何も考えず、ただ来るがいい。デュランダルの真実は破壊のなかにしかないのだ」
「……はい!」
パワーの体現者の二人が、ゆっくりではあるが、力強さを感じる歩みで距離を詰めていく。
まさにぶつかるという距離で初めて剣が交錯した!
二人の剣が火花を散らしながらぶつかり合う!
「おおおおおおおおおおおおっ!」
「はあああああああああああっ!」
二人の戦闘の余波でフィールドが震えだし、二人の周囲はすでに崩壊を始めていた。
建物が崩れ、地面が裂け、フィールドの天井も割れ始め、次元の狭間特有の万華鏡を思わせる模様が見え始めていた。
俺たちは冷静に二人の戦いを見ているが、戦闘の余波だけで軽くダメージを受けている。
そんなことを知らない二人の攻撃は激しさを増していき、フィールドの崩壊をさらに進めていく!
ゼノヴィアがエクスカリバーとデュランダルをクロスして、振り下ろし、ストラーダはそれを真っ正面からから受ける形になった!
「がああああああああああっ!」
ストラーダがゼノヴィアの攻撃を押し退けた!……だが、レプリカのデュランダルの刀身にヒビが生まれ、ストラーダも息を荒くしていた。もう限界が近い、もしくは越えているのだろう。それが見てとれる。
その場でひざをついたストラーダ。このままいったらゼノヴィアの勝ちになるだろう。
ゼノヴィアは勝負を決めるために近づいていくが、ストラーダとゼノヴィアの間に入る人影が……。見た目十二歳ぐらいの凛々しさを感じさせる顔の黒髪をした少年。特徴からして、話しに聞くテオドロだろう。
その少年は涙で顔をくしゃくしゃにしながらも、ストラーダを守るようにゼノヴィアの前に立った。さすがのゼノヴィアも困惑を隠せないでいる。
少年は涙しながら訴える。
「……ストラーダ倪下を許してやってくれ。全ては私が悪いのだ」
「テオドロ倪下……お下がりください。この老骨が全てをきめますゆえ」
そう言って立ち上がろうとするストラーダを少年が止める。
「もういい!もういいのだ!もう、十分だ!ストラーダ倪下までいなくなってしまったら、私は……私はどうしたらいいというのだ!」
少年は振り返り、背中に純白の翼を、『奇跡の子』の証拠である天使の翼を生やした。少年は消え入りそうな声で言う。
「私の……父と母は……悪魔に殺されたのだ」
俺たちを見る目は悲しみに満ちたものだった。
「……悪魔は許さない!悪魔を許すわけにはいかないのだ!」
彼の言葉に返せる者はいない。俺たちはその悪魔だ。返せるわけがない。
ストラーダは悲哀に満ちた表情で少年を抱き寄せ、語り出した。
「……同盟もいい。それもひとつの平和の形だ。だがね。……それで救われない者、憤りを感じる者もいるのだよ。テオドロ倪下も、今日立ち向かった戦士たちも生き方を魔なる存在に歪められて剣を取ったのだ」
……平和はヒトによって違う。俺たちの平和が、誰かにとっての苦痛にもなる。それはわかりきっていた。
だが、俺たちは……
「俺たちは……」
俺が言おうとすると、それを遮る者が一人。
「僕たちはっ!」
木場だ。
「僕たちは、ただ平穏に暮らしたいだけだ。あなたたちにもあなたたちの正義があり、あなたたちだけの価値観があるんだろう。けれど、我が主リアス・グレモリーもイッセーくんも、朱乃さん、小猫ちゃんも、アーシアさんも、ギャスパーくんも、イリナさんも、ロスヴァイセさんも、レイヴェルさんも、シトリー眷属も、シドウさんも、この町に住む多くの仲間たちは修羅場をくぐり抜けてきた仲間だ」
木場の表情は憑き物が取れたようなものになっていた。
ゼノヴィアも同調する。
「その通りだ。お互いに支え合ってきて命がけで戦い抜いてきた大切な仲間だ。たとえ、あなた方がそれをお認めにならなくても私たちにはここまで戦ってきた誇りがある!それに不満を覚える者たちが出たとしても、私たちを信じた者たちのためにこれからも戦う!」
ストラーダは二人の訴えに満足そうな笑みを浮かべた。
「なるほど、いい目だ。リアス・グレモリー姫よ。良い
「ええ、自慢の
リアスも誇らしげにしていた。
その
「私も、悪い悪魔はいると思います。けれど……」
イリナがイッセーに視線を送る。
「いい悪魔もいます。それは人間も一緒で、他の神話体系では、善神も悪神もいます」
ストラーダはそれを聞いて豪快に笑った。
「はっーはっはっはっ!いやはや、なるほどなるほど。しかし、天使である貴殿が異教の神を語るとは……。これが、新たな時代の幕開けを意味するのだろうか」
ストラーダは考えこんでいるが、どこかで楽しげだ。だが、ストラーダは剣を手にした。
いや、わかってはいたさ……振り上げたものはしっかり下ろさないといけない。あいつはここで死ぬ気なんだろう。
「罰を全部、自分とクリスタルディだけで受けて死ぬ気だろ。おまえ」
「ええ、私とクリスタルディの首を以て、天に許しを請おう。テオドロ倪下も戦士たちもまだ若い。これは私が蜂起させたものだから……。この戦場で吐き出したものと、私の屍わを越えて、戦士たちは新たな生き方に転じることもできるだろう」
やっぱりか、こいつは最初から自分の命を捨てるつもりで……。
ストラーダの告白に戦士たちからも悲鳴が上がる。
「倪下っ!」
「そのようなことをおっしゃらないでください!」
「倪下、我らの命であれば、喜んで差し出しましょうぞ!」
「煉獄に行く覚悟はできておりまする!」
戦士たちは涙を流し、ストラーダを止めようとしていた。
俺たちも動くに動けない状況になってしまった。
「私がころころしてあげるわよーん♪」
突如、第三者の声が響き渡った。
誤字脱字、アドバイス、感想などよろしくお願いします