最近倒れてばっかりだな。
俺、シドウはそう思いながら回りを確認する。
見覚えがない設備ばかりの場所だ。俺は重い体を無理やり動かしてベッドを降り、窓を覗く。ぼやける目を凝らし、外を見た瞬間に理解する。ここは冥界ではなく、天界だと。
白一色の町並みと強烈な光が病室から確認できた。
まさか気を失っているうちに天界に担ぎ込まれていたとは……。
俺はベッドに腰をかけ、なぜこうなったかを思い出す。
ゼクラム様から話を聞いて、退出したまでは覚えてる。そこからが何も思い出せないから、そこで気絶したんだろう。
俺がそこまで考えると、病室の扉が開き、誰かが入ってくる。
視界のぼやけはマシになってきたが、まだよくわからないな、オーラの感知はどうにかできそうだ。
「シドウさん!よかった!」
今の声とうっすらとわかる銀髪とオーラから察するに
「………ロスヴァイセか?」
「はい!……あの、どうして疑問形なんですか?」
「いや、どうも視界がぼやけてな」
「だったら横になっていてください。まだ解呪も完璧ではないんです」
ロスヴァイセはそう言うと俺の体を支えベッドに寝かせてくれる。
俺はベッドに入ってから訊く。
「完璧ではないってことは、ある程度はできてると?」
「トウジさんを優先しているそうで、今シドウさんは薬で発作を抑えているそうです」
イリナのお父さんを優先か。向こうはただの人間だし、当たり前か。
俺はロスヴァイセに訊く。
「それで、ここには何をしに?」
「ああ、忘れるところでした。アザゼル先生から義手が届きました。『あったほうが多少は動きやすいだろう』とのことです」
ロスヴァイセがベッドに寝る俺の足の上に義手を置いたのか、重さが伝わってくる。でもどっちがひじ側で、どっちが拳側なのかがわからん。
「…………つけるの手伝ってくんない?」
「え?あ、はい。え~っと、ここをこうして、こうかな?」
ロスヴァイセがぶつぶつと言いながら義手をつけてくれた。
拳を握ったり、開いたり、回したりして動きを確認する。
「どうだ?ちゃんと動いてるか?」
「はい。大丈夫そうです」
良しっと。後はトウジさんの解呪が終わって、俺の番が来るのを待つだけだ。…………義手つけるのそれからでよかったかもな。
俺はそう考えながら、ロスヴァイセに訊く。
「リアスたちはどうだ?」
「シドウさんの心配はしていましたが、みんな口を揃えて、『シドウ先生なら大丈夫』と言っていましたよ」
「……実際その通りなんだよな」
オカ研のみんなからも、タフガイ認定されてしまった。
「あと、クリスマスプレゼント計画の方は?」
「そちらも問題なしです。シドウさんとトウジさんが怪我をした以外は、ですが」
ロスヴァイセの言葉に若干の刺を感じるのだが、反論出来ないな……。
「まぁ、クリスマス当日までには治るだろ」
「そうだといいんですが……」
ポジティブに捉える俺とは逆に、ロスヴァイセは不安そうな声音だ。
俺は若干無理をしながら体を捻り、微笑みながらロスヴァイセの頭を右手で撫でる。
「大丈夫だって。知ってのとうり、俺は頑丈なんだから」
「し、心配したんですよっ!」
震えた声から、彼女は泣いているのか、またはそれを我慢しているのか……。
俺は真剣な顔でロスヴァイセに言う。
「ロスヴァイセ、心配するなって。説得力がないかもしれないが、俺は大丈夫だ」
俺の言葉でロスヴァイセは黙ってしまった。
ドゴオォォォォォンっ!
「「ッ!?」」
俺とロスヴァイセの耳に突然爆発音が響いた!
「近かったな」
「敵……ですよね」
「だろうな」
俺がベッドから出ようとすると、ロスヴァイセに押さえつけられる。
「シドウさん!あなたは怪我人なんです!今回はここで……」
「休んでたら殺されちまうよ。だったらロスヴァイセと一緒にいたほうが行動しやすい」
「そうかもしれませんがっ!」
俺がロスヴァイセの説得をしていると、魔方陣が展開される。
「リアスさんからの連絡のようです」
ロスヴァイセが説明してくれる。よかった、敵の転移とかだったらマジでヤバイ。
『ロスヴァイセ、聞こえる?』
「はい、リアスさん。シドウさんも目を覚ましましたよ」
「聞こえてるぞ」
『よかった!ロスヴァイセ、とにかくお兄様を移動させられる?今そっちに、八重垣が向かっているの』
「わ、わかりました」
ロスヴァイセも動揺しているが、八重垣の狙いは俺じゃなくて、トウジさんのほうだろう。
「リアス、トウジさんがどこにいるか、わかるか」
『聞いてどうなさるおつもりですか!今、お兄様は……』
「いや、トウジさんも一緒に動かしたほうがいいなかってな?」
『でしたら、お兄様のいる病棟の隣の棟です』
この部屋からは見えないから、廊下側か
「わかった。移動する。救援はできるだけ早めに頼むぜ?」
『わかっています。それでは、これで』
リアスの言葉で魔方陣が消える。
「そんなわけだから、行きますか」
「狙ってやりましたねっ!」
ロスヴァイセが問いただしてくるが、俺はまっすぐ彼女の目を見て、言う。
「当たり前だろ」
ペシッ
「あたっ」
「~っ!」
俺を小突いたロスヴァイセは声になっていない声を出していた。よくわからないが、きっと怒っているのだろう。
俺は今度こそベッドを出る。
足は動く、手も動く、ブレードも出せるが少し脆いか。
視界はだいぶ回復して、前は見える。ブレードの展開がしにくいが、投げたり飛ばしたりしなければ大丈夫。
俺はそれを確認すると、魔力で患者服から普通のものに服を変える。これも問題な……
「きゃっ!」
ロスヴァイセが急に声を出した。
「どうした?」
「し、シドウさんっ!」
「だからなんだっ!」
「どうして上半身裸になるんですかっ!」
俺はそれを聞いて体を見る。確かに上半身裸だ。黒いズボンと、同じく黒いメンズのロングブーツを履いてある。
あれ?俺はライトアーマーとかにしようと思ったんだが、もしかして、毒の影響か?
それにしても、上半身裸の理由か……
「気持ちがいいからだ」
ペシッ
「あたっ」
「~っ!」
ロスヴァイセは俺を小突いて、顔を真っ赤にしていた。
「とりあえず、これを着てくださいっ!」
ロスヴァイセはそう言うと魔力で作ったと思われる、黒いロングコートを投げ渡してきた。
俺はそれを素直に羽織る。
「これでいいか?」
「~っ!なんでそうなるんですかっ!」
俺はロングコートを羽織ってはいる。前は全開だかな。
「何か不満か?ロスヴァイセが渡したって事は、こうして欲しかったわけじゃないのか?」
「もういいですっ!」
俺の言葉でロスヴァイセは反論を諦め、一瞬で鎧を纏い扉のほうに歩き出した。
「って、置いてくなよ」
俺もロスヴァイセを追って、扉のほうに歩き出したのだった。
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