では一話目、どうぞ!
俺一人でユーグリットを追うこと数分、大分進んだところで奴が待ち構えていた。
ユーグリットはロスヴァイセを抱えたまま、下を指さした。
下に降りろってことか。ふざけた野郎だ。
俺は奴と共に高度を下げていき、周りを確認する。
荒れた土肌の土地、ここなら無理できるな。まぁ、今も無理してるわけだが……。
俺とユーグリットは同時に着地し、対峙する。
「それで……何で今頃現れた?兄さんたちへの……現政府への反逆のためか?」
俺はユーグリットの意志を確認しておきたかった。甘いと言われるのも百も承知だが、俺はあいつの"
俺の質問にユーグリットは語り出す。
「諸々ありますよ。現政府への不満、姉への問い、膨大な時間をかけて自問し続けました。
「悪魔とは……か。悪魔は悪魔だ。人間同様、正義を志す者もいれば、悪を志す者もいる。それだけだ」
「義兄さん、あなたは甘すぎる」
「甘くて結構だ。それでおまえはどう考えてるんだよ?」
「リゼヴィム様と同じですよ。どの生物よりも、どの存在よりも邪悪であるべきだと思います。しかし、ここからは私だけの答えです」
ユーグリットは両手を広げる。
「……私はリゼヴィムという男を通して全勢力に悪魔を見せます。知らしめます。悪魔がどれだけ凶悪か、どれだけ危険かを全勢力に知らせたいのです。支配や政治はこの際どうでもいいのですよ、私にとっても、リゼヴィム様にとっても。………最終的には悪魔を人間界にも見せたいところですね」
こいつがやりたいこと、それはあの学校にいる子供たちの、これから先、生まれてくる子供たちの未来を奪うもの……。
俺はユーグリットを怒りの表情で睨みつける。
「悪魔そのものを、世界から孤立させたいのか」
俺が静かな怒りをたぎらせている中で、ユーグリットは遠い目をしていた。
「姉は……私にとって憧れでした。女性でありながら、誰よりも強く、誰よりも勇敢だった。私にとっては、誇りそのものでした。姉を支えることこそが私の生きる道だと信じていたのです。その姉が、ルシファーに尽くすルキフグスの定めに反して、悪魔ともいえない異形に心を許した。これが、私にどれだけの衝撃をあたえたか、あなたには想像できますか?」
俺はグレイフィア義姉さんの亡命作戦を思い出していた。あの時、兄さんに会えたとき、義姉さんはホントに嬉しそうだった。
だが、あの任務がこの状況を作り出してしまった。
ユーグリットは空を見上げた。
「私は長らく心の均衡を崩し、精神的にも肉体的にも屍と変わらぬ状態でしたが、好き勝手に振る舞い、冥界に新しい風を吹き込む彼に……兵藤一誠を知って思い至ったのです」
ユーグリットの表情はどこか晴れやかなものになった。
「ああ、そうか。自分も好きに生きればいいんだ……と」
「イッセーを見て、ここまでの事をしようとしたのかよっ!」
俺は声を荒げたが、ユーグリットは特に気にする様子を見せなかった。
「単純な思いでした。悪魔が英雄を持つ。その英雄を子供たちが見て、影響を受ける。それは悪魔らしくない。だったら私は子供たちに悪魔を見せないとね」
「その悪魔がリゼヴィムか……イカれてるな。だったら、俺はおまえを止める。未来を生きる子供たちのためにも……」
俺はブレードを出現させ、剣先をユーグリットに向ける。
ユーグリットは薄く笑った。
「シドウ義兄さん。あなたはそちら側ではないと言われたはずです。なぜ戦うのですか?」
俺はブレードを一度降ろし、笑みを浮かべてユーグリットを見る。
「正直、未来を守るとかはついでだ。俺は義兄として、おまえを止めたい」
「………義兄として、ですか」
ユーグリットの表情が何となく陰ったように見える。
「それは置いといて、ロスヴァイセを狙った本当の理由、彼女が似ていたからだろ?グレイフィアさんに……」
「………………」
俺の発言にユーグリットは答えないが、少し動揺しているように見えた。
「それじゃ、やろうぜ?俺とおまえの最初で最後の……兄弟喧嘩ってやつを」
俺はブレードの剣先を改めてユーグリットに向ける。ユーグリットもロスヴァイセに魔力の縄をかけてから、手を離した。
俺とユーグリット、これが最初で最後の戦いになるだろう。
相手はレプリカとはいえ赤龍帝、勝てるかどうかはわからない。こっちは消耗してるから負ける確率のほうが高いかもしれない。
俺はロスヴァイセに目を向け、彼女に言う。
「ロスヴァイセ、すぐに終わらせる。一緒に帰るぞ」
俺はそれだけ言うとユーグリットを見る。
「では、行きますよ!」
ユーグリットはそう言うとオーラを一気に高めていったっ!地面が抉れるほどのオーラ……だが、今の会話のせいかな、見せかけに見えちまうよ。
『boost!boost!boost!boost!boost!boost!boost!boost!』
レプリカから増大を意味する音声が鳴り響き、ユーグリットのオーラがさらに大きくなっていく。
それが最大まで溜まった瞬間、奴はそれを撃ち出してきたっ!
直撃したら、痛みを感じる前に消し飛びそうだが……
俺はブレードの刃の部分にのみに魔力を集中させる。
それが最大まで溜まり、ユーグリットの魔力弾が当たる瞬間に、ブレードを振り下ろし、縦に一刀両断するっ!
魔力弾は二つに分かれながら俺の後方に飛んでいき、山を吹き飛ばしたっ!
その影響で発生した砂ぼこりで視界が無くなるが、俺は目を閉じ、集中する。
奴は……後ろかっ!
俺はすぐさま跳躍し、奴の拳を避ける。
俺は目を開け、着地する。
「なぜです。今の一撃は完全に死角からの不意討ちだったはず」
ユーグリットは疑問を口にするが、答えは簡単だ。
「ある男の言葉を借りるなら……鎧装着型の
俺の脳裏には聖槍使いの男がよぎった。
「なるほど、でしたら反応できない速度で撃ち込むまでですっ!」
ユーグリットは正面から肉薄し、俺にラッシュをかけてくるが、今言った方法で全て避けていく。
曹操も言ってたが、こっわっ!何だこれ!一つミスしたら即お陀仏じゃないかよっ!
俺はユーグリットの攻撃を全て避け、隙を見つけてブレードで斬りかかる!
奴の拳と、俺のブレードがぶつかり、周囲の風景を破壊していった。
俺が空振ったブレードの斬撃で山が斬れ、ユーグリットが外した拳の余波で地面が抉れる。
一撃もらえば終わりの戦い……曹操じゃないが……ヤバイ、楽しいっ!
今の俺の表情は嬉々としているものだろう。
ユーグリットは一度距離を取る。
「なかなかやりますね……お互い決め手に欠けると言ったところでしょうか?」
「だな、いやはや……俺も
俺は言い切ると同時にユーグリットに向かって飛び出し、ジグザグの動きで奴を翻弄する。
だが、ユーグリットは俺を目で追い、魔力弾で攻撃してくる。
避けたものがそのまま進路を変え、俺を追尾してくる。
だぁぁぁっ!しつこいっ!
俺は動きながらブレードを飛ばし、魔力弾を相殺する。
「その隙は見逃しませんよ?」
俺が魔力弾相殺のために一瞬ユーグリットから目を離した隙に奴は俺の眼前に来ていた。
今から回避はどう考えても無理……だったら!
奴が右ストレートを撃ってくるのを確認した俺は、左手にオーラを込め、ストレートを放つ!
クロスカウンターのようにお互いの顔面目掛けて拳が飛んでくるが、俺はユーグリットの拳をギリギリで首を傾けることで直撃だけは避け、逆にユーグリットの顔面に俺の拳をぶち当てるっ!
俺の拳は兜を粉砕し、ユーグリットの顔面を確実に捉えていた。
殴られた勢いでユーグリットは山に突っ込んでいき、背中から激突、そして地面に落ちた。
まずは一発、この程度じゃ倒れないんだろうがな……。
ユーグリットは立ち上がり、口元の血を拭っていた。
「技術だけならあなたが上のようですね」
さて、次はどうしたもんか。
考える俺を嫌な悪寒が襲った!
俺はすぐさまそこを飛び退くと、ちょうど背後から飛んできていた魔力弾が通り過ぎていった。
あ、危なかった………。
「油断大敵ですよ?」
俺の背後には右足を後ろに回したユーグリットの姿が!
俺が盾を展開しようとするが、時すでに遅く、俺の腹部をユーグリットの回し蹴りが捉えた。
「くはっ!」
俺は蹴り飛ばされ、地面に激突する!
くそが………。
フラフラと立ち上がる俺をユーグリットは冷たい瞳で見下ろしていた。
「義兄さん。あなたも連れてくるようにリゼヴィム様に言われています。なので殺しはしませんが……右腕も落としておきましょうか」
ユーグリットはそう言うと右手で手刀を作り、オーラを込めていた。
「シドウさんっ!」
ロスヴァイセが俺を心配するように見つめてくる。
「大丈夫だ。心配すんなってっ!」
「この状況からの逆転はいくらあなたでも……」
ユーグリットが何かを言おうとするが、それを遮り俺は言う。
「ユーグリット、覚えとけ。切り札ってのは…………最後まで取っておくもんだぜっ!」
俺は左腕をユーグリットに向け、右手を左肘の内側に当てる。すると「ガコンッ!」という音とともに、左手首が下に折れ曲がり、そこから砲口のようなものが現れる。
「いくぜ?……ファイヤッ!」
ドゴォォォンッ!
俺の一言と共に、そこから砲弾が放たれるっ!そして外れる左肩っ!
「その程度のもの……」
ユーグリットはそのまま砲弾を撃ち落とそうと魔力弾を放つが、砲弾は意志を持つようなグニャグニャと不規則な軌道で飛び、魔力弾を避け、ユーグリットに迫っていく。
「撃ち落としは不可能ですか……でしたら!」
ユーグリットはオーラを高め防御の態勢に入る。
防御態勢を作り出したユーグリットに、砲弾が直撃するっ!
ドォォォォォンッ!
爆音が響き渡り、爆煙がユーグリットを包み込んだ。
すると、その爆煙の中から何かが落下するように出てきて、そのまま地面に激突する。
「な、なぜ……?」
ユーグリットは今の一撃で動けなくなるほどのダメージを負っていた。
「ユーグリット……テメェの敗因は簡単だ。レプリカとはいえ赤龍帝になった。今の砲弾はアザゼル特製の、
「必中の砲弾に
「アザゼルの奴はタスラムがクロウ・クルワッハに効かなかったのがかなり不満だったみたいだ」
俺はそう言いながら左肩を戻す。
ユーグリットは手を空に伸ばしていた。
「姉上、そんなに"赤"が好きですか?私も……"赤"になったのですよ?」
ユーグリットの額から流れ出た血が、右目に入り、瞳を赤く染めあげていた。今、彼の視界は赤色に染まっているのだろう。
俺は残った魔力でユーグリットを拘束し、連絡用魔方陣を展開、それを兄さんに繋げる。残りの魔力の関係上、声だけになっちまうが、結界が壊れた今なら使えるはずだ。
「兄さん、聞こえるか?」
『シドウ、無事だったか!』
「なんとか………ユーグリットをそっちに送る。後は任せるぞ。俺は疲れた………」
『……っ!そうか、わかった』
一旦連絡用魔方陣を解き、しばらくの待機、その間ユーグリットは嫌な笑みを浮かべていたが、突然口を開いた。
「義兄さん」
「あん?」
「殺さないのですか?」
「はぁ……殺すわけないだろ」
「なぜ……?」
「言ったろ、道を間違えたとはいえ、おまえが俺の
「……あなたは本当に甘すぎる……」
「それで結構だ……」
それを聞いたユーグリットは先ほどとは違う、いい笑みを浮かべているような気がした。
すると、俺の目の前に転移型魔方陣が展開される。
先ほどの連絡用魔方陣で場所を逆探知したんだろう。
「ユーグリット、じゃあな」
俺はユーグリットを魔方陣に置き、こちらから魔力を送り、転移させる。
転移の光に包まれ、ユーグリットは消えていった。
「さて、ロスヴァイセ。帰るぞ」
「は、はい!」
ロスヴァイセは笑顔で返事をしてくれるが……
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
何か腰が抜けたようにガクガクして立ち上がれてないんだが………。ユーグリットに捕まれたときに何かされたか?
「やれやれ……」
俺はロスヴァイセに近づき、抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこってやつだ。
「し、ししし、シドウさん!?」
ロスヴァイセは顔を真っ赤にしながら俺に抗議の眼差しを送ってくるが、無視だ無視。
「あんま動くなよ?これでも無理してんだから」
「わ、わかりました……」
ロスヴァイセは観念したように抵抗を止めるが、逆に俺の首に手を回してきた。
「これで少しは楽ですか?」
「あ、ああ。それじゃ、行くぜっ!」
俺はロスヴァイセを抱えたまま飛び上がり、アウロス学園に向け出発するのだった。
誤字脱字、アドバイス、感想などよろしくお願いします。
ちなみにシドウの左手の大砲の元ネタは、ベル○ルクとコ○ラです。