邪龍を蹴散らしながら学校の眼前まで移動した俺たち。俺の視界にはみんなの奮闘ぶりが飛び込んでくる。
俺とサイラオーグ、小猫はそれを確認すると、龍帝丸から飛び降りる。
落下中にも邪龍を倒していき、無事着地する。俺はふらつくいてしまうが、とっさにサイラオーグが支えてくれた。ち、血が足りねぇ……。
そんな俺たちに気づいたリアスが声をかけてくる。
「サイラオーグ!来てくれたのね!」
「アグレアスではこちらが優勢になったのでな」
「リアス……グレンデルは倒した。復活は多分しない」
「お兄様、本当ですか!」
「嘘ついてどうするよっ!」
俺はそこまで言うと片膝をついてしまう。
「だ、大丈夫ですか!?」
「気にすんな……戦闘に集中しろ」
リアスは頷き、敵に攻撃していった。
俺も……やなねぇとなっ!
俺はブレードを展開し、撃ち出していく。
足が動かないなら砲台として機能するしかないっ!
それから十数分、決死の攻防戦を繰り広げる俺たちの視界に、転移の光が映る。
その光は少しずつ大きくなっていき、学校を包み込んだ。
これで、少なくとも、子供たちは助けられる。
安心する俺たちだが、一向に転移が始まらない。
「下で何かあったのか?」
俺が確認のために連絡用魔方陣を展開すると、転移の光が怪しいものに変わり、一筋の光となってアグレアスのほうに放たれた。
転移の光がアグレアスに……まさか!
俺が嫌な予測を立てたところで、俺たちの耳に高笑いが聞こえてきた。
俺たちが見上げるとそこにはヴァルブルガの姿があり、遅れてギャスパーも駆けつけた。
ヴァルブルガは口元に手をやり笑った。
「おほほほ、残念でしたわねぇ。アグレアスとここを攻めるというのは建前ですのん」
俺の予測は当たっているようだ。
「つまり狙いは………アグレアスそのものか。俺たちだと手に余るが、作り出した前魔王の息子、リゼヴィムなら何かに使えそうだ」
「そのとーりですのん。リゼヴィムおじさまはどうやら空に浮かぶあの島自体に興味がおありのご様子でしてねん。今回のような方法でいただくことにしましたのよん。魔法使いの中にも私たちの仲間がおりますのよん。作戦は成功みたいですわねん」
「つまり、全部テメェらの手のひらの上ってわけだったのか」
「そうですわん。出来ればシドウ様も連れてと言われてましたが、それは無理っぽいですわん」
アグレアスを奪うためだけにこの町を、魔法使いを利用した。
ソーナが生徒会メンバーに目配せをして、それを受けた
走り出そうとした二人に声をかける。
「待て、内通者は学校から離れさせろ!別々の場所に分けるのも忘れんなよ!」
「どうしてですか?」
「戦争を経験してるとわかるんだよ。この手の奴は最後……自爆する」
『……っ!」
俺の発言に全員が驚いているが俺は確認する。
「わかったな!」
『は、はい!』
返事をして、花戒さんと草下さんは走り出した。
「三時間の猶予は術式完成までの時間稼ぎ、戦闘は俺たちを消耗させるためか。おかげさまで俺はフラフラだがな。それで……あの島で何をするつもりだ?あそこに何があるんだ?」
ヴァルブルガは俺の言葉を無視して、アグレアスのほうに視線を向けた。
その視線の先では、アグレアスが転移の光に包まれて、ついには消えてしまった。
「転移完了。あの島で何をするかでしたわねん。それは……」
ヴァルブルガが何かを言おうとした瞬間、連絡用の魔方陣が彼女の耳元に展開される。それに聞き入っていたヴァルブルガから笑みが消え、上を見上げた。
「まさかっ!」
俺たちも上を見上げると、白い空にヒビが入っていた。誰かが外から叩いているのか、誰だ?デュリオか?それとも初代?
俺が考えている中でも少しずつヒビが大きくなっていき、ついに結界を壊し、紫色の空が確認できるようになった。
すると神々しいまでの光を放つ槍が校庭に突き刺さった。
あれは、あの槍は忘れるはずもない、
この場にいる全員が言葉を失い、立ち尽くしていた。
だが聖槍は転移の光に包まれどこかに消えてしまった。
ヴァルブルガは嘆息する。
「ここでこんなことになろうとは。けれど、もう遅いですわん」
ヴァルブルガが指を鳴らすと邪龍が集結し、学校を囲んだ。
「わたくし、殲滅するのが大好きですのん。もう少し遊んでくださいましねーん♪」
ヴァルブルガは傘を振り下ろす。それが合図となり、一斉に邪龍が俺たちのほうに向かってきた。
俺は体にむち打って立ち上がる。
「やるぞおまえら!ここで止めねぇと末代までの恥だっ!」
『はいっ!』
リアス、ソーナ、サイラオーグが返事をし、構えた。
俺は真っ先にヴァルブルガにブレードを飛ばしていく。
ヴァルブルガはそれを避け、時には邪龍で防いでいく。
するとヴァルブルガは学校の方に手を向けた。
その瞬間、校庭に紫炎が広がり一部施設を吹き飛ばした!
「学校がっ!ダメェェェェッ!」
ソーナが悲鳴のような声をあげ、校庭のほうに走っていった。ソーナは冷静さを失っていた。
俺は追いかけようにも足に力が入らなくなってきた……。
「私が行きます!」
ロスヴァイセが飛び出し、ソーナにすぐさま追い付き防御用の魔方陣を展開した。
ソーナとロスヴァイセが防御の態勢を整えた瞬間、紫炎が襲来した!
二人が展開した防御型魔方陣でなんとか防いでいるが、炎の勢いに押されしだいに魔方陣が崩れ始めていた。あのままじゃ、燃やされちまう!
「あの魔女を狙いなさい!」
リアスの指示でヴァルブルガに標的を変え、飛びかかっていくが、魔女は自分を囲むように紫炎を展開し、防いで見せた!
「その炎、触れただけでも、悪魔は致命傷ですわん!」
ならばとイッセーとゼノヴィアは砲撃の準備に入るが、邪龍が邪魔をしてオーラを溜められないでいた。
「残ったオーラも少ないが……やるしかないな」
俺は再びオーラを解放して、身に纏う。
よし、行くしかないっ!
俺は飛び出し邪龍を斬り裂きながら肉薄する。
『はぁっ!』
俺の横凪ぎの一閃で紫炎を吹き飛ばす。その奥でヴァルブルガが驚愕の表情になっていた。
俺はもう一撃いれようとブレードの刃を返し、斬ろうとするが、邪龍が俺の右腕に食らいついてくる!消耗しすぎて、滅びが弱いっ!
そのまま俺は邪龍ごと地面に叩きつけられる!
「かはっ!」
肺の空気を一気に吐き出したような感覚を俺が襲う。
俺はオーラを抑え元の姿に戻り、邪龍の首を落とす。
俺が立ち上がると、紫炎に焼かれる匙の姿が見えた。
あいつが何を言っているかはわからないが、彼から凄まじいオーラを感じとることはできた。
あれは……まさかっ!
すると匙の体を黒いオーラが包んでいき、そのオーラが弾けるとそこには、暗黒の鎧を身につける匙の姿があった。
『
匙の声はヴリトラと混ざったものとなっているが、今まで感じたことがないほどの、迫力と自信に満ちた声音だ。
匙はそのままヴァルブルガとの戦闘に突入していった。
俺はフラフラになりながらもリアスたちと合流する。
「お兄様っ!大丈夫ですかっ!」
「大丈夫じゃないかも……これはヤバイ」
俺がフラフラになりながらリアスと話しているとアーシアが声を出す。
「ファーブニルさんのオーラを関知しました!」
「それは好都合、ファーブニルを呼んでくれ、ついでに俺も回復してくれ」
「わかりました!」
するとアーシアは俺に回復のオーラを当て、傷を治してくれる。
オーラがカツカツだが、やれないこともないな。
俺が回復したことを確認すると、アーシアは
「我が呼び声に応えたまえ、黄金の王よ。地を這い、我が褒美を受けよ!お出でください!
召喚の光が弾け、そこに現れたのは……クッキング帽を被ったファーブニル……。嫌な予感しかしないが……今のうちに休ませてもらおう。
すると、俺たちの耳に軽快なBGMが届いた。どこぞの三分クッキングで流れていそうな曲だ。
ファーブニルが口を開いた。
『こんにちは、ファーブニル三分クッキングにようこそ』
ダメだこりゃ。
『今日のお料理は、ディアボラ風アーシアたんのおパンティー揚げ、です』
何だろう、今までの俺がバカに思えてきたっ!
ファーブニルはフリップを俺たちに見せてくる。
『材料はこちら』
・アーシアたんのおパンティー 適量
・たまねぎ一個 みじん切り
・ニンニク一個 みじん切り
・オリーブオイル
・赤唐辛子一本 みじん切り
・塩コショウ 少々
・唐揚げ粉
『?』
疑問符だらけの俺たちと、邪龍軍団。
おかげで攻撃が止まったわけだし、ゆっくり休めそうだ。
『それではスタート~』
その後、ファーブニルの料理が進んでいき、最後にファーブニルから一言。
『ありのままのキミでいてほしい』
結論だけ言うと、これはヒドイ。
ファーブニルの行動で何体かの邪龍が拍手したり、泣いたりしていたが、もうなんなんだよっ!
俺たちがファーブニルに集中していると俺たちの横を赤い閃光が通り過ぎていった。
「きゃっ!」
赤い閃光の正体を確認しようと俺たちは振り向く。
ソーナを吹き飛ばし、赤い閃光はロスヴァイセを包み込んでいた。
光が止んだ先にいた者を俺は憎々しげに睨みつけた。
俺を見ながら奴は言う。
「お久しぶりです。シドウ義兄さん」
「ユーグリットッ!」
そのユーグリットはロスヴァイセを抱き寄せていた。ロスヴァイセは抵抗しているが、逃れることは叶わないでいた。
奴はロスヴァイセを抱き寄せたまま、口を開く。
「ロスヴァイセとあの島は我らクリフォトが活用させてもらいます。さて、アグレアスの転移も済みましたし、そろそろ冥界の軍が来る頃合いでしょう。とっととおいとまさせてもらいたいところですが、そうはさせてくれないでしょうね」
俺たちはユーグリットを囲むように陣取った。
「テメェにロスヴァイセは渡さねぇし、グレイフィア義姉さんのところ突き出さないといけねぇからなっ!」
それを聞いたユーグリットはクスリと笑うだけだった。
「それは怖い。では、ささやかな抵抗はしましょうかね」
ユーグリットが指を鳴らす。するとファーブニル効果で固まっていた邪龍たちがハッとして俺たちに殺到してきた。
みんなが邪龍を相手していくなかで、俺は動かずユーグリットを睨みつける。
「おや?あなたは戦わないんですか?」
「俺はテメェの相手をしなきゃならないんでね。リアスたちにも言ってある」
「私の相手を?消耗仕切っているその体で、ですか?」
俺とユーグリットが話していると、どこからか放たれた魔法の矢がユーグリットのほうに飛んでいった。
放った先を見ると、疲弊しきった様子のゲンドゥルさんが手を突き出していた。
「孫を……返してもらいます!」
ゲンドゥルさんは強い意志を感じる瞳でユーグリットを睨んでいた。
そのゲンドゥルさんとフラフラの俺にロスヴァイセが叫ぶ。
「ばあちゃんっ!シドウさんっ!やめてっ!二人とももうっ!」
「黙ってろっ!」
「黙っていなさい。おまえを救うぐらいはできます!」
強がる俺とゲンドゥルさんを見て、ユーグリットは呆れたように息を吐いた。
「残念ですが、あなた方の状態で私の相手は無理です」
ユーグリットはそう言うと転移型の魔方陣を展開し始めた!
それを見たゲンドゥルさんは渾身の力で作った魔法の矢をユーグリットの魔方陣にぶつけた!
瞬間、ユーグリットの魔法陣が形を崩していき、消失した。
「……転移封じ。こざかしいことをしてくれますね」
ユーグリットは忌々しそうに呟くと、ドラゴンの翼を広げて飛んでいった!
「逃がすかっ!」
飛び出そうとする俺に、ゲンドゥルさんは崩れ落ちながら言った。
「シドウさん。……どうか、どうか、私の孫を、ロスヴァイセを……」
俺は笑みを浮かべゲンドゥルさんに告げる。
「当たり前ですよ。ロスヴァイセは俺の……」
俺はそれだけ言うとユーグリットを追って、飛び出した。
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