その日の深夜、俺は男子寮の男子風呂で独り風呂を楽しんでいた。
今日一日ほとんどのんびりしていたが、あの後ゲンドゥルさんの講義の助手をロスヴァイセと共にやることになり、色々と疲れた。妖精があそこまですばしっこいとは……。
明日も基本的に自由だが、ちょっとした助手程度ならやっても平気だろう。
一度死んでそのとき何かが起こって、この時代に、この世界に生まれ変わったわけだが……グレモリー家の次男として生まれた俺は恵まれたもんだな。血を重んじるものいいが、そのせいで可能性溢れる芽を潰してしまっているわけで……。
その可能性の芽を一つでも多く花にするために、ソーナはがんばっているし、優秀な眷属はステータスにもなるため、一部の上級悪魔からは支持を受けている。悪魔も一枚岩ではないわけだ。
だからこそ、この学校には意味がある。需要が生まれる。上級に昇格した転生悪魔はその手のものにこだわらないから、強ければいい、優秀なら問題なし。ここで育ち、才能を開花させた生徒をゲームの世界に送り込める余地は十分ある。………ソーナとサイラオーグが確信に満ちた表情で先ほど語っていた。
ゲームに参加できなくても、何かの形で冥界に貢献できる人材を育てる意味でもそうだ。
夢をつかむための学校………。
なら、俺はそれを守るために、手を汚すことも、また体のどこかを失うことも躊躇わない。俺の力で子供たちの未来が守れるのなら……それで……。
俺がそんなことを考えていると、浴場の扉が開かれる音が聞こえた。
イッセーたちか?それともルガール?もしかしてサイラオーグかも。俺が確認しようと首だけ振り向くとそこには……
「シ、シドウさん、ですか?」
ロスヴァイセだった………。
何で男子風呂のはずのここに!?女子寮にもしっかり女子風呂があったはずだろ!
そんなことを考えながらロスヴァイセの肢体に目がいっちまう!いつもスーツかジャージ姿だからよくわからなかったが彼女も結構いい体をしてるな!って興奮してる場合じゃねぇ!
俺はすぐさま視線を外し、言う。
「こ、こっちは男子風呂だ!女子風呂はそっちの寮にあるだろ!何でこっちに?」
「そ、そのはずだったのですが……女子寮のお風呂が故障してしまったとのことで、一時的に男子寮のお風呂に行ってくれと言われまして……。今なら誰も入っていないと聞いていたのですが……」
女子風呂が故障したから、誰もいないはずの男子風呂に行ってくれと………。いや、入ってます!ガッツリ入ってます!報、連、相はどこでもいつでも大事だぞ!
ロスヴァイセの事だ、すぐに出ていってくれるはず……。
と思っていたらシャワーの音が聞こえてきた。ちらりと見てみると、ロスヴァイセは体を洗い出していた。
いや、だから俺がいるんだが……。
「……時間もありませんから、素早く入ってしまおうと思います。あまり、じろじろ見ないでくださいね」
ロスヴァイセは恥ずかしそうにそう言いながら、体を洗っていた!
俺はしばらく前しか見ることができず、固まっていたが、行儀が悪いのは仕方ないとしてタオルを腰に巻いておく。すると何かがお湯に入る音が聞こえてきた………。
ちらりと見てみると、ロスヴァイセが少し離れたところにいた。
「め、冥界のお風呂も悪くないですね」
「あ、ああ………そう…だな」
突然のことすぎて変なところで言葉を切ってしまった。
「魔法の授業、大盛況だったな」
「そ、そうですね。人手が足りないかと思いましたが、シドウさんのおかげで助かりました」
「……一人だけ、初歩の魔法が発現できない子がいたが……まぁ、明日もあるんだ。ゆっくり教えてやろう」
「は、はい」
「………………………」
「………………………」
沈黙が痛いです。普通の時なら何か話題を振るところだが、今は不意打ちの混浴状態……状況把握だけで精一杯だよ!
こうなったら、ハッキリと訊いてやる!
「なぁ、なんで
俺の問いにロスヴァイセは、しばらく黙ってから口を開いた。
「シドウさんもご存じでしょうけれど、
ロスヴァイセの言うとおり、
ロスヴァイセは苦笑する。
「……答えなんて出なかったんですけどね。……ですが、解答できなかったあの計算、術式の組み方に彼らの欲する答えが隠されていたのかもしれません」
ロスヴァイセはそこまで言うと、ポツリと呟いた。
「シドウさん。もし、私が彼らに利用されそうになったら………私を殺してくれますか?」
俺はその告白を聞いて、ショックと共に怒りを感じ、こう思った。…ふざけんな……。
「ふざけんな。おまえが死ぬ必要はないだろ」
俺はそう言いながらロスヴァイセを見るが、彼女の目には決して引く気がない強い覚悟の色が映っていた。それとは逆に表情は悲哀に満ちたものだった。
「私があのユーグリット・ルキフグスに捕らえられたら、きっと利用されて………」
「渡さねぇ……」
俺はお湯の中でロスヴァイセの手を握り、言葉を続ける。
「あの野郎には渡さねぇ。あいつがまた出てきたら、その時は………俺が
「………っ」
ロスヴァイセは顔を赤くして驚いているが………俺は恥ずかしくなってきた。何が「俺がおまえを守ってやる」だよ!告白じゃねぇかよ!俺にはセラがいるのにぃぃぃぃ!
ロスヴァイセは少しだけ表情を和らげていた。
「ありがとうございます。シドウさん。でも、私は……」
ロスヴァイセが何かを言いかけたところで、勢いよく浴場の扉が開かれた。
「シ、シドウさん!かくまってください!」
イッセーだ。おそらく、イリナやゼノヴィアに追われているんだろう。そのイッセーは俺とロスヴァイセの状況(男と女が風呂場で全裸で手を握っている)を見て、顔を赤くしてから言った。
「ご、ごゆっくりぃぃぃ!」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!」
走っていってしまったイッセーを追いかけようにもロスヴァイセの前で急に動いたら、腰のタオルがとれる可能性があるために追いかけられない!そのロスヴァイセも顔を真っ赤にしてるし!くそ!イッセーめ、後で覚えてろよ!
「と、とりあえず……上がってくれないか?俺は向こうむいてるから」
「は、はい。服を着たら声をかけます………」
こうして体験入学一日目は、無事(?)終了したのだった。
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「………………………………」
「ん?セラフォルー。どうかしたかい?」
「いえ、今度こそシドウに………」
「ま、待て!今抜けられるのも困る!待ってくれ!」
「離して!今度という今度はぁぁぁぁ!」
「ファルビウム!アジュカ!手伝ってくれ!」
「えー、めんどくさい」
「やれやれ、悪魔は一夫多妻制なんだ。そこまで気にしなくてもいいだろう」
「それはそれ!これはこれよぉぉぉぉ!」
「だから落ち着いてくれぇぇぇぇ!」
魔王四人がこんなやり取りをしていることをシドウは知らない。
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