ゲンドゥルさんの訪問の次の日、俺はセラに連絡を取っていた。だが………
「あの~……セラさん?」
『……………………』
「聞いてます?」
『……………………』
無視決め込まれてます。理由?わかりきってるだろ?
「俺がロスヴァイセとデートに行くのそんなに嫌か?」
俺が直球でセラに訊いてみる。
『別に………あれを許可した時点でこうなるとは思ってたわよ……』
明らかに機嫌が悪くなっている……こうなったら
「それじゃ、今度デートしようぜ。休日があれば……だけどな」
『本当に!』
やっぱりか~、分かりやすいなホント。
「ホントだ。だから一つ聞かせてくれ」
『なになに?』
「何で俺も学校を見に行くことに?」
『あっ、言ってなかったっけ?』
「言われてない」
『理由は簡単よ。もしかしたら魔法使いの集会がクリフォトに狙われてるかもしれないから、それを迎え撃つための戦力が必要だったのよ。おじさま方にも言ったの。魔法使いの集会が襲撃されて何かあったら悪魔の名誉にも関わるって、そしたら納得してくれたわ』
「りょーかい。また随分無理矢理と………まぁやるだけやるさ」
『お願いね』
俺はそれを聞くと通信を切った。
正午頃、俺は玄関で靴を履いていた。
ロスヴァイセとデートに行くためだ。
玄関にはリアスや朱乃のものとは違うロングブーツが置いてあった。
ロスヴァイセもこんなの履くんだな。
俺がそんなことを考えていると二階からロスヴァイセが降りてくる。
ロスヴァイセの服装は、タッチコートに短いフレアスカートという出で立ちだ。
俺は黒のパーカーに黒のズボンという、何か黒ずくめの動きやすい服装になっていた。
にしても、ロスヴァイセもこんな格好するんだな。
「あ、あの……」
「ああ、スマン。似合ってるじゃないか」
ロスヴァイセはそれを聞いてまた顔を赤くしてしまった。
「あー、とりあえず。行くか?」
「は、はい」
出発しようとする俺たちをリアスが呼び止めた。
「お兄様、ロスヴァイセ。夜までには帰ってきてください。冥界に行く前のミーティングがありますから」
「わかった。それじゃ、いってきます!」
「い、いってきます」
俺たちはリアスにそう言うと家を出た。
俺とロスヴァイセは二人で電車に乗っていた。
ロスヴァイセが東京に用があると言ってきたからだ。
駒王町を離れるのはどうかと思ったが、東京は日本の首都だ。駒王町並の結界が張られているから大丈夫だと思う。あと俺の監視はロスヴァイセってことにしてあるからそこんところも問題ない。
それにしても…………
「……モデルさんかな?」
「ホントだ、スゴい……俳優さんかもよ?」
車内では俺とロスヴァイセに視線が集中していた。
まぁ、俺たちが並んで座っているためか俺たちに話しかけるような輩はいなかった。
「ジャージやスーツなら目立たなかったのでしょうか……」
ぼそりとロスヴァイセは呟いていた。
「どうだろな。こういうのはどんな格好でもなると思うが……ロスヴァイセ、おまえは自分で思っている以上に美人だぜ?」
俺が返すとロスヴァイセは頬を赤くしてしまった。
これ何回目だ?いい加減慣れて欲しい。
それ以降会話は無かったが、ようやく目的地に到着した。
ロスヴァイセは到着早々歓喜の表情を浮かべ、震えていた。
「……こ、ここが夢にまで見た、女性向け百円均一の大型店………ベラ!」
「ベラ?確かイタリア語で美しいとか、美女って意味だったな」
「はい!そのとうりです!このブランドはまさに女性向けのオシャレなアイテムばかりをラインナップしているんです!百円とは思えない高機能で実用性の高い商品ばかりと有名なんです!……ああ、ほら!あのお皿なんてとってもオシャレ!ああ、そっちの………」
俺を置いて一人で商品を見始めてしまった。女性はこうなると長いからなぁ~。
「シドウさん、見てください!あれもこれも全部百円です!」
興奮状態のロスヴァイセ………元気そうで何よりです。
「ついつい一万円分も買ってしまいました。さすがは東京。さすがはベラです。恐るべし……」
お財布の中身を確認しながら唸るロスヴァイセ。
今俺たちはカフェのテラス席で休憩中だ。
百均で一万円を使う………単純計算で百商品か?税込とかになったら知らないが……どちらにしても買いすぎだな。先ほど配送業者に荷物を頼んできた。きっと明日には届くだろう。約百商品が………どこに置くつもりだ?
そんな心配をしている俺にロスヴァイセが話しかけてくる。
「つ、つまらなかったですか?す、すいません、一人だけハイテンションになってしまって……」
申し訳ないなさそうにロスヴァイセは漏らした。
「別に。見てて面白かったし、いい気分転換になった」
「だったら、いいんですけど……」
ロスヴァイセはカップコーヒーに口をつけたあとに言う。
「…………思えば、男性とのデートなんてこれが初めてです」
「俺なんかでよかったのか?」
まぁ、イッセーにはリアスやアーシアたちがいるから無理だろうし、木場は断りそうだし、アザゼルは忙しいだろうから難しいか。……俺にはセラがいるんですが。
そんなことを考える俺をよそにロスヴァイセは照れくさそうに続けた。
「も、もし、誰かとデートに行くなら、私はシドウさんがよかったんです。もしです!もしもの話ですよ!」
ロスヴァイセは顔を赤くしながらコーヒーを口にした。
だが突然息を吐いて表情を曇らせた。
「………私は故郷でずっと勉強ばかりしていましたから……。周囲のヴァルキリー候補生たちは、ヴァルハラの英霊たちの話で盛り上がっていましたが……。私はその間にも机に向かっていました」
想像に難しくないな。ロスヴァイセだったらマジでそうなってそうだ。
「青春を勉強に費やしたおかげでヴァルキリーになることはできましたが……今思えば、もう少し遊んでおけばよかったかななんて振り返ることもあります」
「何言ってんだ。まだまだ若いじゃないか。リアスたちと一つか二つしか違わないし、今から青春を謳歌してもいいと思うぜ?」
実際こいつは教師やってるけど、生徒でも通るぐらいに若いからな。
「置いてかれたとはいえオーディンの爺さんの付き人やってたんだからよ。自信持てって!」
そんなことを言ってロスヴァイセを励まそうとするが、逆に憂いのある表情になってしまった。
「私は……シドウさんたちが思っているほど、大した者でもありません」
ロスヴァイセはそう言うと懐からワッペンを取り出した。
複雑な紋様が刻まれ、ルーン文字を円形に列ねた独特の形をしている。この紋様は昨日ゲンドゥルさんが転移してくるときに展開した魔方陣に似てるな。
ロスヴァイセは続ける。
「これは、私の家に伝わる固有の……家紋みたいなものです。家の長子たる者は、これを代々受け継ぎ心と体に刻んで後世に繋げていきます。……私は、長子……長女でしたが、この紋様を……」
ロスヴァイセはそこで言葉を止め、トーンをさらに落としてぼそりと漏らす。
「………受け継げなかったんです」
北欧に住まう半神の一族はそれぞれの家で独自の魔法を作り、それを継承していっていると前に聞いた覚えがあるが……ロスヴァイセはそれを……。
「……私には兄弟がいませんでしたから、結局、紋章は遠縁の子が引き継ぐことになりました。その子にはすんなりと継承できて、周囲も私もなんとも言えない空気になってしまったことは今でも覚えてます。……相性が悪かったんでしょうかね?今でも降霊術のセイズ式がいまだに馴染めないんですよね。自分でも驚くぐらい攻撃魔法は習得できてしまって………ルーン、ガンドル、セイズをバランスよく使いこなしてきた私の家系では、私は異端児なんです。一族が使っていなかったものとばかり相性があってしまって………幸いヴァルキリーにはなれたのですが……成績は現役時代の祖母と比べて散々なものでした……」
落ち込み気味にロスヴァイセは告白してくれた。
ある意味俺たち、グレモリー三兄妹とサイラオーグみたいなもんなのかもな。
「ある意味で俺はお前がうらやましいよ」
「シドウさん?」
「俺は確かに母さんから滅びを受け継げた……だが兄さんみたいにコントロールできるわけじゃないし、リアスみたいな火力もない。何もかも中途半端なんだよ、俺は……出来ることは滅びをブレード状にして斬るだけ……ホントにそれだけだ。だか俺はそれでいいとも思ってる。ロスヴァイセ」
「は、はい!」
俺に急に呼ばれたロスヴァイセは驚きながらも返事をした。
「誰だって出来ること、出来ないことがしっかりと別れてる。よく言うだろ?
「そうですね………
ロスヴァイセはそう言うと表情が若干やわらいだ。
「先生やってて楽しいだろ?」
「え?は、はい。誰かにモノを教えることがあんなにも楽しいとは思ってもいなくて」
実際生徒からの人気も高いからな、分かりやすいと評判だ。俺はスパルタだと評判だ……。
「ソーナからのオファー……決めたのか?」
「まだ考え中です。とりあえず、今度学校に行きますし、それから考えようかなと……」
百聞一見にしかずっていうしな、そのほうが考えやすいだろう。
「悪魔の生は長いんだ。ゆっくり考えればいいさ」
「ええ、そうさせてもらいます」
ロスヴァイセはそう言うと微笑んだ。やっぱりセラもロスヴァイセも笑ってるほうがいいな。
「相談なら乗るぜ?アザゼルへの愚痴でもいいし、また買い物でもいいし」
「では、また買い物に……祖母への言い訳にもなりますし」
また買い物か………映画とかそういうのは考えなれないのだろうか。まぁ本人が楽しければいいか……。
「…………………」
「あのシドウさん?」
ロスヴァイセが黙りこんだ俺に話しかける。おそらく俺はかなり険しい顔をしているはずだ。
俺は振り向かずに後ろの席の男性に話しかける。
「盗み聞きとは………いい趣味だな。なぁ?ユーグリット」
「おや、バレてましたか」
俺の発言に俺たちの後ろの席にいた男性………ユーグリット・ルキフグスが返した。
お互い振り向かずに話を続ける。
「今日は義兄さんに会いに来たのではありませんよ。リゼヴィム様からはよろしく伝えてくれと言われていますが、今回はロスヴァイセに用があるのです」
「残念ながら……彼女はやらんぞ。今は俺の彼女なんでな」
「私の目的が?」
「あんたらの目的は
「………っ!あれは破棄したはずです」
ロスヴァイセは思い出したように言うが……書いたのか……。
「破棄されていようが見つける……おまえらがやりそうなことだ……」
「あの論文を少しだけルームメイトに話しました。まさか!」
「ええ、少し記憶を探らせていただきました。断片しか拾えませんでしたが………」
ロスヴァイセはそれを聞いて立ち上がり左手をユーグリットに向けた。
「この外道!ここであなたを……!」
俺はロスヴァイセがユーグリッドに向けた左手を右手で掴む。
「ロスヴァイセ……落ち着け……回りを見ろ」
ロスヴァイセはそれを聞いてハッとしたように周囲を見渡した。
ここは普通の店のテラス席、回りからは奇異の視線が送られていた。
俺はロスヴァイセの右手を離し、立ち上がる。
「お騒がせて申し訳ない。もう行きますので……」
俺とロスヴァイセは店から出ようと歩き出した、ユーグリッドの横を通りすぎる、俺たちとユーグリッドがすれ違った瞬間、奴は言う。
「彼女は無事です。人質にもしていませんよ。ただ……」
ユーグリットはそう言うとロスヴァイセに、正確にはロスヴァイセの髪に手を伸ばすが、俺が左手でユーグリットの手を掴み力を込める。
「言ったはずだ。彼女はやらん」
「怖いですね……そんな機械の手で何を守るのです?」
「機械の手だからこそ、触りたくもないおまえに触れてるんだよ」
ユーグリットはそれを聞くと俺の左手を振り払い、続ける。
「私はロスヴァイセ……あなたの能力が欲しい。あなたは優秀ですよ。あなた自身が思っているよりも。………それにその銀の髪は美しい。まるで…………」
「まるで義姉さんみたいってか?ほざくな、義姉さんは義姉さん、ロスヴァイセはロスヴァイセだ」
ユーグリッドは俺の言葉を聞いてしばし黙りこみ、再び口を開いた。
「………ごきげんよう。義兄さん、ロスヴァイセ。お二人とも次に会うときには答えを出しておいてください」
ユーグリットはそう言うと人混みの中に消えていった。
俺はすぐさまリアスに連絡を取った。
誤字脱字、アドバイス、感想などよろしくお願いします